息吹の叙事   作:黒兎可

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【ハートの器、がんばりの器について】
・本作中において、一般ハイリア人の所持しているハートとがんばりは、復活直後のリンクの数値より、それぞれ3つと1周分とする。
・上記に装備や職業ごとの練度で加算されていく。例えば目安として、一般ハイリア兵でハート5つ、がんばり1周と1/4。上級ハイリア兵でハート6つ、がんばり1周と半といったようなイメージ


彼の者、剣の真価を示す

 

 

 

 

 

 

 退魔の剣、継承者現る。

 この情報はまずもって城、ハイラルの政権を大いに震わせた。

 良い意味でもあり、悪い意味でもあり。特に一部の大臣や官僚にとっては、その事実は眉唾にとどめておきたいものだった。

 

 まず第一に、退魔の剣そのものである。

 剣については時の神殿に封印こそされていたものの、これを本物だと断定する証言が存在しなかったこと、また誰一人として抜けなかったことからかつては「見せ掛けのレプリカのようなもの」であると考えられていた。つまり剣の刃の底が巨大な錘型となっており、床と一体化しているとするものである。

 この事実を解明することは、少なくとも当時のハイラルにおいてはできなかった。遺跡を修復当時以上に破壊することが宗教的にためらわれたことが大きいが、もう一つ。もし仮に「本物」であった場合、それに対して強硬的な振る舞いをすることがあまりにも恐れ多かったためである。

 一万年とは言わないまでも、それなりに時間が経過するさ中、しかし剣自体を本物の退魔の剣としてみる者は少なかったと言える。

 少なくともハイラルの公式記録では、退魔の剣は「行方不明」とされていたのだから――――。

 

 これがひっくり返ったのが一年前。抜けるはずのなかった剣が姿を消したこと、台座の底が文字通りただ剣を収めるほどの深さしかなかったことなど、剣が消えたことで発覚した事実により、かの剣の正体が本物の退魔の剣であったかという風に論ぜられるようになる。これも未だ議論がされており、つまるところ厄災の脅威云々とは別軸――――ハイラルにとって「ハイリアの盾」同様に論ぜられるべき、ある種国宝級の代物を偽物と扱っていたことについて――――として、責任問題などが発生するかしないかというところだ。そのあたりの議論は普及し、この事実をもってもなお偽物であるという主張もなされ、おそらく数年は決着が見込めないだろうという状況であった。

 

 そして時間を経過したのちに、剣を持て現れた訓練兵。

 兵士リンク。ナイト系の家系に連なり、父はかつて騎士団長を務めたこともある。ある意味で極めて優秀な血筋の元に生まれた剣士であり、なるほどその子であるならば剣に選ばれたのだとしても不思議はないだろうと。少なくともそう思われるだけの「納得できそうな」理由付けは存在した。

 だが、これに正面から反論をする一派も存在する。

 

「――――そもそも『退魔の剣』を盗んだのは、その騎士見習いなのではないのですか!?」

 

 反研究局派、ゴーマン大臣などを含めた者たちである。

 ハイラル城での大会議は、主に大広間を使用する――――各所方面へとつながるこの部屋の扉を締め切り、外部に声が漏れないように調整した上で、登城してきた大臣たちが議論を交わす。

 己のカイゼル髭をなでつけ、憤慨するようにいきり立つ大臣。ハイリア人貴族にしてはかなり痩せている方であり、同時にその神経質さをうかがわせる。

 インパは執政官の席の裏、連なる補佐官の席でため息をついた。

 なお「暇だし~」とか文句を垂れて、姉もまた隣に随伴してきている。道中、お付きの騎士たちから生暖かい笑みで送られたのが、ちょっと彼女の胸に傷を負わせていた。

 さておき。

 

「……あの御仁も決して悪人という訳ではないのだがなぁ」

 

 ゴーマン大臣が受け持っている範囲は、主にハイラル王国の畜産関係が主であり、付随して一部流通にもかかわっている。彼が取りまとめて提出された資料の細かさ、気配りの手の込みようは、予算の門番に足を突っ込みかけているインパとて何度も目にしており。それが単なる上官としての指示のみで成り立っているものでないことも、ありありと理解していた。

 つまるところハードワーカー、激務なのである。

 そしてそのパワーはひとえにハイラルの「飢え」を駆逐することへと向けられていた。

 現在でこそ全国的に食糧事情、流通において困ることはないといえるが、その一助にかっているのは間違いなく彼の陣頭指揮による市場調査、および畜産試験のたまものであった。

 だからこそ、彼のように「形を伴わなければいけない」ところから見れば、プルアたちのように「結果が分かりにくい」者たちは、予算を食いつぶしているようにしか見えない。

 

「ま、とはいえ仮想敵にされちゃたまったもんじゃないけどね~」

 

 小声ながらそんなことをつぶやくプルアは、インパの横であくびをしている。ゴーマンの食って掛かる勢いには、ほぼ興味がないらしい。インパはそんな姉に、半眼を向けた。

 

「…………大体姉上? そうはおっしゃられますが、研究局への当たりの強さは『やらかし』が多いことにも由来しますので」

「え? なんかしたっけな~」

「場内の備蓄分を古代兵装の爆発で、半年分蒸発させたのが決定打ではなかったかと」

「う゛っ、だ、だってあれは事故だしっ。もともと保存期間切れだって聞いてたしっ」

「だからと言って無許可で実施して良い訳はありませぬじゃ」

 

 結果的に補填が回って問題にならなかったからよかったものの、とインパはあきれ顔である。

 このあたりの話を追及しても、姉からこれ以上ロクな反応は得られまいとして彼女は視線を大臣へと戻す。

 

 先ほどから大臣が主張しているのは、退魔の剣に選ばれたリンクそのものについての懐疑だ。

 リンク自体への不信感が強く認められないと、そういう主張である。

 

 もちろん内外で考えていることは異なるだろうが、王へと訴えかけるその振る舞いは、其れは見事な家臣のそれだ。

 

 曰く、なぜそれほどの兵士が未だ騎士見習いの立場に甘んじているのか。

 曰く、それほどの力を持ちながら何故今の立場に甘んじているか。

 曰く、なぜ一年もの間剣士はその姿を消していたのか。

 曰く、そもそも所持している剣自体が本物であるか否か。

 曰く、曰く、曰く、等々。

 

 インパやロベリーあたりに言わせれば「何をいまさら」という話ではあるが、それでもざわざわと話し合いの声と、同意する意見とが聞こえてくるのも仕方ない。

 実際にリンクの戦いぶり、鬼神のごときそれを見たものが、この場に少ないのが原因であろう。

 また、マスターソードが光り輝いていたという報告も、どこかしらで握りつぶされていた(このあたり、本日インパが議論の際に見聞きしている)。

 

 少なからず国政から財源を持ち、成果を示し続ける立場にある以上。こういったパワーゲームにもある程度強くなる必要がある。

 なのでインパも、大臣自身みずからの主張を心の底から是としていないだろうことの予想はつく。

 

 この場合、大臣の目的は研究局から予算をむしりとり、あわゆくば発言力を削ぐことにある。

 

 本当に復活するか一部の大臣たちの間でも眉唾といわれている「厄災」に対抗するための研究――――彼らから見れば「道楽」に金銭を消費している、そういった金食い虫への牽制だ。

 ゴーマンの場合は、おそらくそれが主だろう。もちろん他の相手の思惑がそれと一致しているかは不明だが。あわよくば組織自体を取り潰す、あるいはインパの管理から外して私物化し予算をむさぼるなど考えている者もいるやもしれない。さすがにそのあたり、ここに集っている貴族一同のだれがどうこうというのを察せられるほど、インパもまだ政治に明るくはなかった。

 

 少なくともいえることは、存外、現代ハイラルがリベラルで、宗教的信仰にのみ囚われているわけではないということだった。

 

「まぁ、政教分離できてるのは国家としては正しいのかもしれないけどね~。おかげで私たちシーカー族も受け入れてもらえてるし。ただ同時に政治的な煩雑さが発生するってのは、仕方ないのかもだけど」

 

「いかがですかれレオーニドン執政官! 大体兵士リンクからの供述もまた怪しい。『試される』とは何ですか試されるとは! それを理由に、誰も退魔の剣を抜かせていないではありませぬかっ」

 

 ゴーマン大臣の発言を受けながら、執政官は重々しく頷く。話に是を示している、というわけではなく主張を聞いている、という頷きだ。ドレッドヘアの長髪をなでつけ、彼は口を開こうと――――。

 

「――――しばし待ってはくれぬか?」

「っ、王よっ!?」

 

 と、会議の途中。下方、展望台方面から扉を開けたのは、ハイラル王その人である。ローム・ボスフォレームス・ハイラル。ロイヤルカラーの水色を身にまとい、頭頂には大空伝鳥(ロフトバード)の紋を模した王冠が乗っている。体躯はそれなりに大きく、しかし年齢もあってかある程度はふくよかでもあった。もっとも表情もまた体のように温和かというとそういうことでもなく、研究者然とした鋭い視線は知性を強く帯びている。

 平服する会議場に「楽にしてくれ」と王は続けた。

 

「退魔の剣について、話をしていると聞いてきた。ことは我が娘、ゼルダにも関わる話であろう。飛び入りで申し訳ないが、私も話に加わらせてもらいたい」

 

 もったいなきお言葉、もちろんにございます、などなど同意の声が上がる中、彼は微笑み手で場を制した。

 

「この場に居る者も多くは、ことの真偽について懐疑的であることは重々承知している。私とて未だ、娘と彼の者を引き合わせてはいない。

 なので、この場にて示してもらおうかと、そう考えた」

 

 この場にて、という一言のニュアンスを、場内は理解しきれない。ざわめきは止んだものの、それがイコールで王の言葉への納得という訳ではない。むしろ疑問符が大量に浮かんでいるようなものだ。

 

「ラインゴール」

「――――はっ、王よ」

 

 本日、付き人として従うはラインゴール近衛騎士長。

 老齢に差し掛かりつつも、いまだ騎士としての実力は堅実。

 その彼の背後には付き人たる騎士が数人。

 そして――――渦中たる彼の者。

 

「あれ、リンリン? 今日もまともだー」

 

 緑に染められたハイリアの服と、黄色っぽい色合いのズボン。フードは室内ゆえかさすがに外しているらしい。

 そして、その背には退魔の剣。

 

「兵士リンクに曰く。退魔の剣は抜くものの資質を試すとある。一歩間違えればその命を落とすと。

 故に今まで誰も手渡さなかったと言っていた。……だが、この場において複数の目がある状態での確認であるのなら、事実の見逃しもあるまい。最悪の事態に備え、ラインゴールもいる」

 

 つまるところ、この場でリンク以外の第三者が抜剣を試すということだ。

 これには場内は大いにざわめく。まさか本当に? と、国王が出てくるだけのこの事物の重みについて話し合う様子。

 いうなれば、これは彼の主張を信じていない者たちにとって、公開処刑に等しいのである。

 もしリンクの語る話が嘘であるのなら、何事もなく剣が抜かれた時点で彼の処遇は厳しいものになるだろう。

 それをわざわざ圧してこの場にいるということは、つまり「抜けるわけがない」という考えに至っているということだろうか。そういう疑念が、ふつふつと湧いてくるわけだ。

 

 ラインゴールが、一人の騎士を押す。ヘルムのバイザーは落とされており、顔立ちは見えない。

 そんな騎士を前に、リンクは退魔の剣を鞘ごと手渡す。

 

「――――、無理はしないで」

「……、何だ?」

 

 ヘルムから響く、やや甲高い声。リンクは表情を変えずに続ける。

 

「――――、たぶん足りない」

「何がだ?」

「――――、ぎりぎりで止めます」

「何がだと聞いている」

「――――、無理だと思ったらすぐに手を放して」

「馬鹿にしているのか貴公はっ!」

 

 声を荒げた騎士は、リンクから剣を奪い取るように手に収める。と、その意外な軽さにややバランスを崩したらしい。覚えのある言動に、インパはわずかに彼との初対面の頃を思い出す。

 基本的に感情表現が薄いような、そんな彼が明確に「ダメ」だといった、その事実を――――。

 

「うむ。では」

「はっ。

 騎士アッシュ、抜剣を」

「かしこまりました――――」

 

 果たして、それは剣がその身を現し始めた時に、起こった。

 

「――――っ、く、う、……っ」

 

 抜き放たれようとする剣は、青く光を放ち――――同時に、抜剣しようとする対象者の体を、赤く、痛々しく発光させる。

 見れば騎士の頭の上に、嗚呼なんということだろう! 命のかたち、ハートの器の姿が見えるではないか!

 

 これには大臣をはじめ貴族も、執政官も、それこそインパやプルアすら困惑を露わにする。

 

 なにせ、少しずつ剣を抜こうとするたびに、そのハートが目減りしていくのが目に見えてわかるからだ。

 

 頭上、5つのハートは、かなり高速で目減りしていく。

 1段階、最初にわずかに身を見せる程度では全く減る余地はなかったが。

 しかしもう1段階抜き放つためには、5つの器などあっという間に吸い尽くされ――――。

 

「――――、ふっ」

 

 リンクがそれこそ猛烈な勢いで取り上げると、その場に騎士は倒れ伏した。

 頭上のハートが一瞬で戻り、再び姿を消す。

 

「――――、これ以上は」

「……、まだ、もう少しで」

「――――、ダメ」

「何故だ!」

「――――、絶対的に足りない」

 

 それはそうだろう。少なからず近衛騎士長が引見して連れてきた騎士なのだ、それなりに優秀な騎士であるに違いはあるまい。その者をして、いまだ剣の身は半分もその姿を現していなかったのだ。全容を現すためには、一体いくつの器が必要だという話だ。

 さすがの大臣たちも、国王でさえこれには黙らせられた。一体、これを扱えるという者が何者であるのかと、それを堂々と示されたに等しいからだ。

 

「よさぬか。お主、もう少しでおそらく死んでいたぞ」

「父上……っ」

 

 ヘルム越しであるが、睨むような視線がリンクへと向けられる。

 彼はそれを一瞥し、目を閉じて剣を抜く。

 

「――――、起きろ、×××」

 

 果たして、放たれた剣には大空のごとき輝きを帯びる。それはハイラルのロイヤルカラーのごとく、鮮やかに。

 それはまるで、彼自身の証言の正当性を、その振る舞いだけで示しているようにも見え――――。

 

「――――、…………」

 

 少年は何もいわず、剣を頭上に掲げた。

 あたかも、それは伝説に伝わる勇士のごとく。

 まるでそれは、騎士の理想とはかくあるべしと示すかのごとく。

 

 

 

 

 

 




【独自設定補完】
「マスターソードの取り扱いについて」
・本作においては、マスターソード自体はもともと時の神殿跡に設置されていたものとして取り扱う
・ただし剣自体の真偽不明ということで、公的記録上は「行方不明」扱いとする
 
【解釈元ネタ】
・ブレワイのマスターワークにおけるマスターソード関連の記述より。本来ならば所在不明→コログの森に安置してあったとして取り扱うべきであるが、さすがに存在を全く知覚されていない状況から出てきても、偽物扱いされるのがオチでは? という推測から、もともと何かしら剣自体は認知されていたのではという流れ
・また以前のコラム通り、時の勇者についての取り扱いを大きくしているための措置でもある
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