息吹の叙事   作:黒兎可

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【各種族のハートとがんばりのデフォルト値について】
本作ではおおむね以下のイメージで取り扱う。また前回コラム通り、装備や練度で変化するものとする
・ハイリア人・・・ハート*3、がんばり*1
・シーカー族・・・ハート*3、がんばり*1.5
・ゴロン族・・・・ハート*8、がんばり*1
・リト族・・・・・ハート*5、がんばり*2
・ゾーラ族・・・・ハート*5、がんばり*1.5
・ゲルド族・・・・ハート*4、がんばり*1.5
・コログ族・・・・ハート*5(※1)、がんばり*3
・ゾナウ族(※2)・・・ハート*5、がんばり*2
 
※1:物理世界の攻撃は受け付けないため実質意味がない
※2:いわゆる蛮族。現代ではすでに滅んでいる一族で、蛮族の鎧の由来


彼の者、女騎士に絡まれる

 

 

 

 

 

 会議で威風堂々とマスターソードを掲げたリンク。

 その一連の言動は、正しく剣の正当性とリンク本人の特異性とを示すことに成功した。

 リンク本人の退場後、紛糾するかと思われた会議は否応なく認めざるを得なかった。

 

 実際に振るわれたわけではないにしても、かの退魔の剣の正当性を。 

 

 それほどに、あの時のリンクの振る舞いが様になっていた――――箔がついていたということでもあった。

 

「あの輝き、まさしく伝説に謳われる『スカイウォード』!」「ありえん、私は認めないぞ!」「しかし、であるならばあの使い手は――――!」「どちらにせよ盗んだことに変わりは――――!」「しかし盗んだのだとするのなら、そもそも剣はあの剣士を選ぶのだろうか――――!」「私は夢を見ているのか?」 

 

 総じて言えるのは、否定意見に対して大きな揺らぎを生み出したことである。

 ゴーマン大臣をして、剣を掲げるリンクの神々しさを前に言葉もなく着席させるだけの説得力があったのだ。生半可な反論が、あの姿を相手にしても通じるものではあるまい。

 

「――――発言の許可を願えれば」

「……許可します、インパ執政補佐官」

 

 背後から上がった声に、レオーニドン執政官は言葉を促す。

 立ち上がり、周囲の注目が集まったのを見た上で、インパはリンクの擁護意見を出した。

 

「まず私共の提出した資料の範囲と、彼の調書とに確認を。聴取がすぐ行われたことをベースに考えれば、口合わせをする時間がなかったのはご理解いただけると思われます。これについては、王立古代研究所所長のケペリア・プルクア殿の正印もありますので、一応の証明とさせていただきます」

 

 ちなみに自らが直接の上役の名前が出ても、特に眠そうな表情を変えることのないプルアである。ある意味でしりぬぐいをされた形であろうに、雑な扱いだ。神経が図太いのもあるだろうが、基本その程度のことで気を悪くする上司ではない、という信頼があるのだろう。

 まぁ、この程度で着火するような性格であれば、そもそも話プルアほどのトラブルメーカーをかかえはしないのだろうが。

 さておき。インパたちの提出した資料内において、厄災の怨念が憑依していたのでは? という説は載せていない。不確定情報については本来ならそれが真実であろうと、下手に上げ足をとられかねないためである。

 

「そのうえで、彼の者の戦闘力は、退魔の剣を込みで『なくとも』それ相応のものであり、所有の正当性如何については疑いの余地はないと考えております」

 

 反論がわずかに上がりかけるが「その上で」と続けたインパの言葉で一度沈黙が挟まる。

 

「むしろ我々の方が不可思議に思っております。何故、彼の者は未だ騎士見習いなのかと。聞けば、王城への勤続は5年を超えているはず。彼の者ほどの実力であるなら、それこそ12、3歳の時期で取り立てられてもおかしくはなかったはずでは?」

 

 インパの言葉に、ラインゴールが手を上げ返答の許可を願う。執政官から指され、ややばつが悪そうに応じた。

 

「あー、これについては騎士団長の方から謝罪文が届いておりますな。まぁ長いので色々、重要なところだけを取り上げても?」

「構いません」

「では。つまるところ、騎士見習いが騎士になるための必要条件といいますか、訓練があるのです。あの者はそれに参加していなかった――――否、参加を認められていなかったというのが実際のところだったようです」

 

 それはどういう意味か、と周囲から疑問が投げられる。ラインゴールは自分がやったことでもないだろうに、苦笑いを浮かべがら言葉をつづけた。

 

「彼の者は確かに優秀――――それこそ御幣なく、野外でのサバイバル演習、剣に限らず様々な武装の取り扱い、個人兵としての武勇、教導など。既存の成績と報告内容とを参照するに、確かにすでに兵士として取り立てて問題はないと判断しております」

「でしたら何故……」

「彼が取得していなかった訓練は、すなわち、集団戦です」

 

 その一言で、インパは概ね理由を悟った。

 ラインゴール近衛兵長は、一帯を見まわした上で「不作為の作為があった」と言葉を重ねた。

 

「私の立場から言わせてもらえれば、意図してそうなってしまった、という訳ではないでしょう。むろん、起こってしまう状況というのは宜しくはないですが、関係者一同ばかりを責めるのも可哀そうだと思いますか」

「……む? どういうことだ、ラインゴール」

「王よ。つまり、他の兵士をはじめ、騎士たちすら委縮してしまった――――かの騎士に恐怖してしまったということです」

 

 その言葉は、会議から発言という発言を刈り取った。静寂、息をのむ音。近衛兵長の語ったその一言は、文字通りそれだけの破壊力を誇っていた。

 現ハイラル軍において、王城に勤め上げる兵士たち、とりわけ騎士は当然のごとく一定以上の実力を誇る。一般ハイリア人で手も足も出ないだろうヒノックスやライネル、イワロックなどの巨大魔物を相手に敢然と立ち向かう姿は、庶民の間で騎士物語が英雄譚に並び人気であるのと同義であろう。

 ハイリア人は、他人種に比べ全体的にひ弱という印象が強い。リト族のように舞うわけでも寒さに強い訳でもなく、ゴロン族のように火に強く頑丈ということもない。だからこそ、一人一人の練度を上げて、さらに集団で立ち向かう――――その様は、ひろく一般のハイリア人にとって、理想的な戦い方であり憧れの対象でもある。

 

 だからこそ、そんな中に一人の「英雄」がごときナニカが放り込まれたという事態に、対応しきれなかった。

 恐れをなした大半のハイリア人は、彼を避け、彼を輪の中に入れず――結果として、集団での戦闘が必要になる経験を積む機会を奪っていた。

 

 これは、リンク本人とてまた悪い面もある。なにかしら不満を訴えるなりすれば、待遇も変わったかもしれない。少なからず軍を束ねる現兵士長も単独の戦力として目にかけていたのだから。

 だが、彼は何も語らず。与えられた何事かを黙々と、一人でこなし続けた。

 

「勘違いをされるのも少々厄介なので、ご説明しましょう。現ハイラル軍の戦闘というのは、最低スリーマンセル単位での行動を基本として兵士の組み合わせを構成します。間違っても単騎で一騎当千する活躍を想定しているものではない。恐怖もあったのでしょうが、実際の訓練での組み合わせもまた難しく、取り扱いに困ったことでしょう」

「はいほーい。イレギュラーすぎたんだね~リンリンてば。システムにあわなかったと。まぁだったら上司なり何なりが上告しとけってハナシな気もするけど」

「姉上っ」

 

 ひそひそ声でなく堂々と、王の前であろうに不遜な発言をするプルア。思わずたしなめるインパに、王は「よいよい」と穏やかな表情。ラインゴールはラインゴールで、やはり苦笑いを浮かべた。

 

「そのあたりにつきましては、また別な機会にお話しいただければ。

 さて、そこで私から兵士リンクへの処遇の提案でございます」

 

 次いで出た言葉は、また会議場是泰を大いに混乱させるものであり。

 しかし、反対意見が挙がることもなかった。

 

 

 

   ※

 

 

 

「――――っ、ここにいたのか」

「――――、……?」

 

 呼び出しを終えてすぐ、リンクは食堂の席に座ったまま茶を飲んでいた。

 未だ軟禁中の身であれど、一応は王城への招集であった。もっともすでに主たる要件は終えたせいだろう、城の中であれば好きにしてよいと話を聞いていた彼である。当然そこには、どこぞの博士二名などと違いやらかすなよ、というニュアンスがにじみ出てはいただろうが、解放されて早々にリンクは食堂に向かったわけである。昼にはまだ時間が早く、人の気はほぼない。一部、下級の文官たちが先んじて休憩に入っているばかりである。

 そんなところに「彼女」は現れた。

 ハイリア兵の鎧、すねあて姿は先ほどから変わりない。ただ兜は外して腕に抱えている。

 リンクにかける声は鋭く、どこか攻めるような声色である。

 その相手を、彼はゆったりと上下に観察した。

 こうして見れば、先ほどはそのヘルムに隠れて見えなかったのだろう深い緑の「おさげの髪」が左右に揺れる。視線は声に違わず鋭く、しかし肌は色白。体格こそリンクやインパより良いものの、なるほど未だ女性的な柔らかさの残る輪郭をしていた。

 

「アッシュだ。先ほどはどうも。

 相席、宜しいだろうか」

「――――、……」

 

 首肯だけ返すリンク。反応のうろんさに苦笑いを隠さず、対面に座る。

 と、ここで彼女は違和感に気づいた。

 

「…………、おや? 退魔の剣はどうしたのだ」

「――――、預けてきました」

「どこに……、それよりも何故?」

「――――、抜かなければ大丈夫と示したから」

「……申し訳ないが、もう少し言葉を重ねてはもらえないだろうか。先ほどの経験から、私と貴公との会話にはそれが必要と考える」

 

 さもありなんといったところである。

 もっとも、だからといってリンクの調子が変わるわけではない。

 

「――――、元々、正式に王家から所有権を認められていない」

「認められていないから、我が物のように持ち運びたくないのだと?」

「――――、はい」

「とはいえど、あれは貴公が抜いたものだろう? 先ほど『してやられた』私の言えた義理ではないが、もはやあれは貴公以外に扱える代物ではないだろう。わざわざそれを示したうえで預けるなど、嫌味ではないか?」

 

 わずかに棘のある物の言いようであった、リンクは特に表情が変わらない。つまり普段通り無表情のまま。

 ただ、それが当然かくあるべしとでも言うようにつづけた。

 

「――――、騎士の振る舞いとして正しいかと考えた」

「………………そうだな。そう言われれば、確かにそうだ」

 

 八つ当たりをして申し訳ないと、彼女は彼に頭を下げた。

 もともと退魔の剣自体、国が所有を主張したものではないが、神話の時代から王家、ひいては国を守り続けてきたそれであるのだ。たかが一人の兵士の一存でどうこうして良いか、というのを、宗教的な側面を除いて考えると確かに難しいところはあるのかもしれない。

 そのあたりを鑑みて動いていたと言われれば、確かにリンクの言動は一貫していた。

 

 危険であると示すまでは、周囲の人間を守る意味で所持をし。何が危険であるか示しどうすれば安全かわかったのなら、自らがその役割を課されていないので返却する。……もし彼が剣の言葉を「明瞭」に聞けたなら、不機嫌そうな小言で何度も責められていたことだろうが、それはさておき。

 

 もっともその実験台に使われた彼女として、一言二言物申したい側面もあったろう。

 だが、こうも当然のように返されては立つ瀬もない。

 

 もとより、アッシュ自身そういった後ろ向きな感情とは縁遠い性質でもあった。

 

「しかし分からぬな。父上からの伝聞で知ったのだが、貴公ほどの実力であるなら、それ相応に私と肩を並べていても良かったと思ったのだが……。いくら『田舎出身』とはいえ、そこはハイリア兵だ。実力主義だろうに」

「――――、知らなかった?」

「ぬ?」

「――――、……」

「いや、黙るのは止めてもらえないだろうか。えっと、何について聞いたのかがわからないんだ」

「――――、自分を」

「嗚呼、なぜ貴公のことを知らなかった、かということか。

 私自身、騎士に召し上げられてからアッカレ砦の方に勤めていたものでな。こちらに戻ってきたのは、父上からの招集があってのことだ。私を近衛隊に推薦しようと考えてると言われ」

「――――、父上?」

「ラインゴール近衛兵長だ。…… 一応言っておくが、コネではないぞ。単なる七光りではない。勤務態度や実力を加味してと言われた」

 

 勝手に言ってむっとする彼女であるが、リンクは当然無表情のまま。どちらかといえば彼女自身、親のひいきを受けてしまってるような感覚があるが故の反発であろう。無表情は時として鏡のごとく、つまり彼女自身の内面がそのままリンクを介して見えてしまったのだろう。

 

「――――、親子仲良く」

「む? いや、含意がいまいちわからないのだが……」

 

 と、ちょうどそんなタイミングで両者の間に皿が置かれる。料理人が運んできたのは、いまだ客が少なく人手に余裕があるからだろう。

 カボチャが煮立ったシチューを前に、両者はいったん手を合わせた。

 

「いただきます」

「――――、…………」

 

 食事をとりながら、アッシュは案外とリンクとしゃべった。

 彼女自身、そこまで自らをおしゃべりな方だとは思っていなかった。だが案外と、この騎士相手には口がするするすべっていた。

 否、彼女が積極的に話さなければコミュニケーションが成り立たない、ということでもあるのだろうが。

 もっとも、リンク本人も無表情、口数少ないといったことはあるが、迷惑そうにする様子もなかったのが理由の一つだろう。

 

「やっぱり火が入っている料理は助かるな」

「――――、生肉は食べれるけど普通はダメ」

「まぁ、いろいろと食あたりは心配だな。私も昔はよく寝込んだものだ……。虫下しの世話にも何度かなった」

 

 当然のごとく、一歩間違えれば死んでいる話である。良い子も悪い子も真似してはいけない。

 なお、目の前にいるこの男に至ってはそれすら発生しない異常な健啖家であるのだが(具体的に言うと鉱石を煮込んでもなんとなくで食べられてしまう程度)、流石に自らと一般ハイリア人との違いは理解しているのか、空気を読んで何も言わなかった。

 

「――――、火打石か火の矢は必需品」

「場所によるだろうが薪は現地調達だろうな。このあたりデスマウンテン方面がうらやましいと言えば羨ましいか……」

「――――、なお全身燃えるような」

「耐火装備は、軍事費で降りないんだったなそういえば……。基本はお古の流用だったか」

「――――、くさい」

「訓練用のやつでも、そうだなぁ。あれは、誰かまともに洗浄しないものだろうか…………」

 

 ともあれ、ちょっとしたハイリア兵あるあるトークというやつである。

 意外なことに、会話が盛り上がっている(?)二人であった。

 

 そして、ある程度意気投合したと判断したのだろう。皿を片付けた後、アッシュはリンクに向き直り。

 

「――――ところで、兵士リンク。一つ頼みがある」

「――――、?」

「何、食後の運動がてらだ。少し手合わせを願いたい――――退魔の剣に選ばれた剣士とやらの実力、この目で直に見てみたくなった」

 

 

 その言葉を受け、一見してリンクは無表情のままであったが。

 インパあたりがこの場に居れば、おそらく彼を「なんだか困っている」と断じるはずだった。

 

 

 

 

 

 




【独自設定補完】
「リンクの出自について」
・家柄はナイト系の血筋ではあるが、騎士としての継続性はなく、現在は一代のものとして取り扱う
・また本家はハテノ村にあるとする
 
【解釈元ネタ】
・マスターワークスの記述より。やっかみの発生源として、田舎出身の騎士であるという身分を使用(本作では最終的にそれどころではない扱いになっていたが)
・ただ、もとよりある程度の血筋がないとハイラル城勤めとは難しいだろうと推測できるため、血筋は最低限保証されてる形として取り扱う
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