息吹の叙事   作:黒兎可

16 / 22
※誰がとはいいませんが、要はケポラ・ゲポラです
そして待望の、何故加熱した薪を食べてハートが回復するかの説明回・・・?


女騎士、惑う

 

 

 

 

 

 

「それで、一体どうしてあんな騒ぎになっているのだ……」

「――――軽い賭けの対象になっていたのだろう」

 

 インパの言葉に、騎士団長が答える。その静かな佇まいと死んだ表情に、一瞬「おや?」と不思議そうな目をするインパ。もっともそれもすぐさま普段通りの鋭い目に戻った。

 ともあれ戻ってきたリンクに、騎士団長は「ご苦労」と一言のみでねぎらう。リンクもリンクで「――――、……」と普段通り無言のままに首肯するのみ。この二人、ともに口数が少ないのも手伝ってかこれでコミュニケーションがとれているらしい。

 

「来週の頭に、近衛隊との模擬試合が行われる。場所は闘技場。詳細は追って通達する。励め」

「――――、はい」

 

 本当に最低限、それ以上はないリンクと騎士団長だった。

 と、インパに会釈して損場を去ろうとしたリンクであったが、彼女ががしりと腕をつかむ。まあ待ってくれと話を続けた。

 

「姉上から、一緒に来てくれとのことだ。例のコアについて話を聞きたいらしい」

「――――、思い付き?」

「まぁ、思いついたような発言はいつものことだな。そのあたりは私も謝る。……私が謝ったところで何も解決しないのが問題だが、まぁ、すまぬ」

「――――、…………」

「ん? 何か用事でもあるのか」

「――――、……」

 

 一瞬主準するも、リンクは彼女の言葉に従った。

 終焉の谷を回るように移動する二人。時刻はおやつ時を回るころ。道中で焼きリンゴを食べながら、二人は王立古代研究所まで到着した。

 入り口に入れば、シーカー族やらゾーラ族、リト族の研究者が多くリンクたちを見る。そして彼の背中の剣に目を見開き、言う数人が駆け寄ってきた。

 

「お、おいお前たち――――」

「そ! それは噂に聞く『退魔の剣』!?」「マジカルソードではないのか?」「いえあっしは聖なる剣かとジャブ」「宝石、この内に『女神の精霊』が眠っているのか……!」「薪を食べて飢えしのいで経って本当ですか! 頭おかしいですね!」「消化器官がやはり我々一般ハイリア人とは異なるのか……? 木材から栄養を摂取したなど……」「魔物食に興味はあるゾラか?」

 

 ここで詰め寄ってくるのは、大なり小なりプルアやロベリーと共通する面々である。もちろん全員ではなく、全体の4割ほどか。

 無表情のままだったリンクであったが、退魔の剣や己の衣服をつかみとられた瞬間、目を細め「集中」。

 

「――――、ふっ」

 

 振り払い、瞬間的に抜刀して、軽く振り回すリンク。危ない。

 危ないが気持ちはわからないでもないインパである。軽く身の危険を感じたのだろう、身ぐるみをはがされかねない勢いだった。「うわっ」などと言って一歩引いてる研究者たちである。

 なお、剣は珍しく? 輝いてはいない。

 

「――――、…………」

「とりあえず落ち着け。回転斬りの構えは流石に可愛そうだ」

 

 もっとも距離をとりながら、構え力を溜めているあたり、彼も彼で大いに錯乱はしているらしかった。

 インパとて初めて来たときはこの調子に近く、思わず「意念」で散らしたくらいである。

 と、一歩引いた一から興味津々に見つめる、リンクに詰め寄ろうとしていた面々。

 彼らを停止させたのは、もちろんというべきか上司であった。

 むろん、妙なポーズと変な挨拶を伴って。

 

「チェッキー! インパもリンリンも。お疲れ~」

「姉上……」

「もー、みんなリンリン来るのは初めてじゃないんだから、そんなはしゃがないの~」

 

 階段を降りながら声をかけるプルア。額には、普段は頭の上にのせているゴーグルがつけられている。

 なお彼女の降りてくるさ中でも、ヒートアップした面々の熱は冷めない。「主任!」「でも退魔の剣を伴っては初めてです!」とか「ぜひ血液サンプルを……!」とか「魔物栄養剤の試作品を是非ゾラ……」など、若干危なげな発言もちらほら。

 

「どっちにしても今日は私の用事なんだから、しっし。仕事に戻った戻った~。あと胃袋はともかく、木材でも体力は回復するヒトはするよ」

「うそぉん?」「何故!?」「ええ!?」

「一応、『ハートの器』は『いのちの器』であると同時に『心の器』とも代替え表現される文献もあるくらいだからね~。ハイラルの女神からハートの器を与えられてる私たち生命体は、心の満足でもいのち、体力の補填にはなるってところかな~。

 まぁ暫定の解釈なんだけど」

 

 逆説的に、薪を食べる文化がない(あってたまるか)一般ハイリア人は普通回復しないということである。改めて少年の食糧事情が悲しくなる話でもあった。

 ともあれリンクを伴い、プルアとインパは奥の階段を上り上の階へ。道中で「ワッザ!? 固形化した光線が流動化ナッシング!?」と聞き覚えのある声やら、妙な機械音が聞こえたりもするが、ともあれ最上階の「所長室」についた。

 

「所長、にっちゅ~! ぐべっ」

 

 ノックもなしに蹴破るプルアである。

 大変失礼。姉の蛮行に思わず「意念」で引き寄せ地面に倒した。

 

「姉上、マナーを」

「ひ、人前で実の姉を折檻の対象にするのも十分マナー違反だと思うけどな~、な~」

「ホゥホゥホゥ……、まぁ、いつものことじゃ。二人そろって」

 

 奥の机で好々爺然として笑い声をあげる、茶褐色の毛の「フクロウ頭」の男。年はハイラル王より召していることが分かる。リトの羽毛服、ズボンの上から白衣を羽織っており、翼の手で顎元、髭でもいじるようにしていた。

 リンクやインパたちが室内に入ると、席から立ちのそのそと彼らに近寄った。

 

「――――、所長?」

「ホゥホゥ、そうとも。ワタシが所長なのじゃ。勇者殿は初のお目見えか」

 

 すなわち、ケペリア・プルクア。フクロウ系のリト族であり、この研究所の所長であった。

 そしてインパやロベリーの自由奔放さをぎりぎり制御し得ている人物でもある。制御したところでやらかしはするものの、最低限周囲の被害を考える頭を教えたのがこの老人だった。

 と、ちらり、と目を細め微笑む所長。

 

「これでも元は大聖堂の方で、女神ハイリアの教えを広めていた立場だ。まぁ、よしなに頼むのぉ」

「――――、よろしく」

「さて、二人には少し見てもらいたい物があるのじゃが……」

 

 言いながら背を向け、慌ただしく部屋中に散らばっている「宝箱」を捜索する所長。やがて見つかったのか、入り口手前のそれを開いてリンクとインパに見せた。

 

「所長殿、これは一体……?」

 

 インパの疑問はもっともと言える。骸骨のような形状をした、頭部の兜だろうか。巨大な角が二本。そして後頭部には赤毛のようなものが取り付けられている。

 見た目からして何かまがまがしさを感じさせる装備であるが……。

 

「これ一応、宝物殿から借りてきてるものだから、丁重に扱ってもらえると助かる。……ん、これが何かって話か。これは、歴史的な史料価値が高い物品じゃ。いわく『悪霊の鎧』、その兜」

「悪霊……」

 

 ケペリア・プルクアの言葉を受けて、一瞬、脳裏にガーディアンから漏れ出た靄のようなものを思い出すインパ。

 

「君たち二人が見たという、例の靄。その正体が本当に厄災にまつわるものであるのなら、これで判別がつくのではないかとね。何かしら共通する部分があったのではと――――む?」

 

 さ、とリンクが老人の前に立ち、背中からマスターソードを抜き放つ。

 

「――――、起きろ、×××」

 

 今度は、輝きを乗せて。

 何をするのか、と一瞬訝し気なプルア。わくわくしてるのはプルアくらいで、手に持っている老人は「壊さぬようにな」とだけ。

 

 リンクは何をするでもなく、構えた剣の宝石を、その兜に近づけ―――――。

 

 

 

「――――っ!」

「わぉ!」

「ホゥ?」

「――――、……」

 

 

 

 剣が独特の音を鳴らし、脈動。

 それと同時に、兜から嗚呼なんということか、赤と、黒の煙のような靄のような、オーラのような何かが――――!

 

 すぐさま雲散霧消するも、リンクは剣を仕舞い老人に尋ねる。

 

「――――、説明を」

「ホゥ? 物品についてかの」

「――――、謂れについて」

「んん、といっても色々と矛盾するものも多くてな。一つそれらしいのならば、かつてこれが『時の勇者』の伝承、それを大聖堂で舞台として演じる際に用いられていた時の話じゃ。

 その面を最後につけた演者、自らを魔王ガノンドロフと名乗り、本物の剣を振り回して発狂したそうじゃ」

「うわぉ、いわくつき……」

 

 中々物騒な謂れの装備品であるようだ。

 もっともリンクはじっとその兜を見つめるばかり。

 

「――――、…………」

「まぁ、さっきのようなものだったかな? 例のガーディアンから出たものは」

「あ、はい。もっと色が薄かったと思いますが……」

「そうか。ふむ……」

「ええ、まじっかー。……こりゃ早急に、ロベリーと装備品について本腰入れないとなー」

 

 何やらぶつぶつと思案するプルアであったが、「ま、それは後でいいか!」と手をたたいて気分を入れ替える。

 

「まぁ、一応要件はこれだけだったんだけど、リンリン、明日ひま?」

「――――、非番ですが」

「そ。じゃ、ちょっと付き合ってくれる?」

 

 突然のプルアの提案に、リンクは無表情のまま。

 インパは何故か少しむっと(ヽヽヽ)して――――しかし、何かを察したように半眼で呆れたような表情になった。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

 夕を過ぎて日が陰る頃、騎士アッシュは闘技場にいた。

 日中に逃げるように王城から去った彼女は、闘技場でひたすらに魔物と斬りあっていた。

 見世物として使われているボコブリンやリザルフォスであるが、これについては時折、騎士や兵士たちが訓練をしにと戦いに来る。その前提で各地の魔物を集めているので、別段彼女が訓練として戦い、殺すのもおかしなことではない。

 振るわれる剣も当然のように、安定した強さを誇る。

 だが、表情はどこか晴れない。

 普段もインパ以上に三白眼めいた目をしているのだが、それに輪をかけて今日は気落ちしているようであった。

 

「…………演舞か」

 

 近衛騎士として召し上げられることになったリンク。そのお披露目もかねてと、週明けに全員近衛騎士と彼とのデモンストレーションが行われることになっていた。

 自分の父からそれを聞き、参加を義務づけられた彼女である。当然それが必要なことだと言われれば、否応なく従う。それが当然の騎士としての振る舞いであり、そこにわずかに父から認めてもらいたいという子供心もあった。

 だからこそ、かのリンクの戦いぶりが、彼女の精神を揺さぶる。

 

「――――ふっ」

 

 槍に持ち替えリザルフォスの頭部を突き、その場に転がしながらも彼女は浮かない表情のまま。

 

 自らがいままで研鑽してきたものが、決して間違っているとも無駄だったとも考えてはいない。

 事実彼女の同期の中でも、親のひいきなしで出世をする立ち位置というのは当然それ相応の努力と実力を認められてのことだ。

 

 だからこそ、相対したリンクの異常性が際立つ――――。

 自らを見る、その「見下すような」無表情が、彼女の精神に突き刺さる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 あの圧倒的な実力を伴うかの騎士が、一体何を考えているのか。自分たちのように劣る誰かを見るあの目が、怖い。あの無表情から繰り出される、プレッシャーが恐ろしい。

 そこにいくらかの勘違いによる杞憂、見当はずれな印象が含まれるとはいえ。彼女が抱くその感覚は、おおむねリンクが孤立した時期に抱かれていたものと同様のそれであった。

 

 そして何より――――。

 

「はぁ、はぁ、…………うっ」

 

 そんな彼と相対することが、あの退魔の剣を向けられることが、何よりもアッシュは恐ろしかった。

 

 あの日から毎晩のように夢に見る――――もしあの手合わせの際、彼が剣を持っていたのなら。

 なまじ才能も決して低い訳ではなく、努力の積み重ねも多かったが故に。彼女はリンクについて、勘違いしながらも「正確に理解している部分もあった」。

 

 すなわちあの時、たとえ木剣であれ武器を彼が手に取っていたのなら――――。

 

 自らの騎士生命は無かったかもしれないと、それほどまでの戦力差と恐怖心を刻み付けられてしまっていた。

 膝を突き、嗚咽を漏らす。おそらくここまで彼我の差について、思いつめた騎士はおるまい。それは彼女が生真面目であるということに加え、ある意味で思い違いをしている部分があるからでもあった。

 

 そもそもその恐怖心というのは、自らが抱いていた敵愾心に由来するものであるということに、気づいていないという思い違いに。

 

「私たちは、勝てるのか? 『あんなもの』に、あれを前に……」

 

 最初は、ほんのわずかな嫉妬心だった。

 一年の失踪をしていた騎士を近衛に推薦すると、父から事前に聞いた彼女は耳を疑った。

 当然、そんな素行不良な何者かを、誉れ高き騎士の位、それも自らと共に戦う場所に推薦などと。

 だが話を聞けば、どうもその失踪していた期間で「退魔の剣」に選ばれ、埒外の力をもて扱う戦士となっていたと。

 

 自らがハイラル城近隣から離れざるを得なかったことを踏まえ、そんな物語劇のような経歴で成り上がろうとしている彼の者であったのだ。言葉を返せなかった胸中、嫉妬心と敵愾心が生まれる。

 アッシュとて幼いころは、騎士物語よりも英雄譚の方がお気に入りだったクチだ。そこに嫉妬心が生まれぬわけはなく。そして「剣を手に入れたから強くなった」という勘違いも、多少なりともあったからこそ敵愾心が生まれた。

 私ならば、私が選ばれていたならもっと強くなれるのに――――。

 

 そしてそれを、真正面からすべて打ち砕かれた。

 

 騎士としての振る舞い、にじみ出る精神性。

 退魔の剣を掲げる、あの神々しいまでの姿。

 なにより、猛烈と一言で片づけられないほど異常極まりない戦闘力。

 

 どれをとっても、自らの上を行くその様――――無力感、脱力感。そして「自らの向けていた敵意」を切って捨てた、その相手から「自らが抱かれているだろう」「敵愾心」について。

 

 実際問題、このあたりが大きく勘違いである。リンクはリンクで理由がわからないまでも、落ち込ませてしまったことに何らか謝罪しなければという意思がある。

 そもそも彼は、そういった大半の事柄を本当の意味で「切って捨ててる」ため、いら立ちをその系統のもので抱くことはほぼない。 

 故にアッシュのことも単なる同僚程度にしか見ていないのだが、彼女の側にそれは伝わっていない。

 

 自らの手元の砕けた剣を握り、涙をぬぐい、彼女は立ち上がる。

 たとえ恐怖心に心折られども、立ち上がるのが彼女の強みだ。

 ……なお全くの余談として、

 

「もっと、強くならねば――――む、」

 

 気合を入れて立ち上がる彼女の目の前に、片手剣が一つ振ってきた。

 周囲を見回すも、誰かが落としたという様子でもない。

 

「どこかに引っ掛かりでもしていたのか? これは……。大方、どこかの騎士の忘れ物だろう」

 

 その思考の浅さが、明らかに普段の彼女と違う――――何かしらの「異常が」発生していることに、彼女は気づいていない。普通、上空から突然武器が落下してきたとしたら、そこまで楽観的には捉えない。彼女ならば当然、誰かしらの襲撃を疑うはずだ。

 だがこの時に限り、彼女の精神はそれを「異常とはとらえられない」。

 間近で見れば、それは軍団長や近衛兵長が愛用する「王家の剣」のようでもある。だが決定的に異なる点として、見た目が真っ黒であること、赤い文様が刻まれていることが挙げられる。

 

「誰だ、こんな悪趣味な色にした者は……。まぁ、武器も足りないからな。私が使わせてもらおう」

 

 その剣を手に取るアッシュ――――。これも当然、明らかに普段よりも浅い思考に基づく行いであった。

 

 一瞬、その剣から「赤と黒の靄のようなもの」があふれ出したのだが、彼女はそれに気づかず、背中の鞘に納刀する。

 そのまま闘技場の入り口へと向かい、管理人と話して城へと馬を走らせ――――。

 

 

 

 そんな去り行く彼女の背中を闘技場の最上階から、「菱形の宝石が埋め込まれた書物」を持つローブ姿の誰かが見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 




【ラムダの秘宝について】
・この時点ではまだ盗まれていない扱いとしています(そのうち盗まれます)。一応アッシュ編? が終わるまでには、おおむね理由についてご納得いただけるかと...
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。