息吹の叙事   作:黒兎可

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※実際に筆者がハイラル城から寄り道込みで移動すると、おおむね20ハイラル時間くらいかかりました;


インパ、彼の者の故郷を知る

 

 

 

 

 

 翌日早朝、リンクは馬上の人であった。

 リンクに限らず、インパやプルアも同様である。先頭はインパの従者二名、続いてインパ、プルアと馬が続き、殿をリンクが担当する形であった。

 東ハテールをさらに東に進みながら、ギナビーの森とドルミの森の間を抜ける。だんだんと日が昇り始めるころ、ようやっとのことで紋が見える。

 ハイラル王国東果ての地、農耕が基本となっている村が一つ。

 ハテノ村と呼ばれるそこは、民家が点々と並ぶ、どこにでもありそうな農村であった。

 

「にっちゅ~! とうちゃーく。いやー、結構かかったね~これ」

「かかったね、ではありませぬ姉上。昨晩一睡もせず強行する計画なぞ立てぬわ普通……」

 

 到着と同時に緊張感が薄れたのだろう、頭痛を覚えながらインパはふらふらとしていた。

 門番の夫婦に頭を下げて、身分を明かし村内へ。一応存在する宿屋に駆けこむインパである。従者の兵士たちも、シフト次第では深夜応対はありうるものの、わざわざハイラル城からハテノ村まで徹夜で移動するとは思っても居らず、それなりに疲弊していた。

 

「――――、…………」

「あ、リンリンは家にいったん帰っていいよ~。ぶっちゃけ『調査』は午後からするから……、わたしもちょっと眠いかも。はいほーい」

 

 手持無沙汰なリンクにそう声をかけると、プルアはひらひら手を振りながらあくび一つ。そのままインパの背中を追い、宿屋に入っていった。

 インパの従者二人も、片方は宿屋に入り、もう片方は入り口で待機する。おそらく見張りを兼ねてのことだろう。リンクもまた少しだけ会話を交わすと「貴殿も大変だな……」「こちらは任せてくれ」と、珍しく気を使われる始末であった。

 

 

 

 翌日の予定を確認したプルアは、すぐさまロベリーと相談し、その日すぐさまに「ハテノ村に行きたいんだけど! ど!」という話と相成っていた。その際の護衛を頼まれたリンクである。インパは当然意味不明というリアクションであり、リンクも無表情ながら、若干距離をとっていた。

 

『念のためってことで確認したあの兜から、同じのが出たんでしょ? ということは、ぶっちゃけリンリンが戦ったガーディアンにもああいうのが取りついていたってことだよね~。

 星詠みとか夢渡りとかの占い結果じゃ、まだ先の話みたいだけど、なんだか胸騒ぎがするから、開発に必要な資料はとっとと取りに行きたいの』

『姉上、結局何をしたいのかが……』

『だーかーら! 東ハテールとかキタッカレの方って、なんかわからないけど「古代エネルギー」が拭いているやつがあるじゃない? あれのデータをちょっと収集したいの』

『要件はわかりましたが、何もこのタイミングでそれを行わなくとも……』

『リンリンもリンリンでスケジュール大変かもしれないけど、私も私で来週、予定つまってるんだよね~。ロベリーはまだ例の調査をしなきゃだし、だったら私が調べに行った方が早いかなって』

 

 実際問題、第三者に調査に行かせるということをプルアとロベリーはあまり好まない。お互いがお互いに調査する場合はまた別であるが、彼女ら同志でしか気づけない何かや、調査音細かさ、あるいは何かしらの理屈やら何やらと、第三者に任せるには不足している知識、経験量が多いということだった。

 リンクもまた護衛としてそこに付随する形である。これが本来なら騎士十数人を伴うことになり「いろいろ面倒~」というプルアの意見からだった。

 その要望を所長に言えば「大臣決定がなくとも執政補佐官がついていけば、とりあえず書類上は大丈夫じゃ。ホゥホゥ」などと適当に言う始末(実際、制度上は問題ないのだが)。

 そんな流れで仕事のいくつかを投げ出し、夜半よりも前にインパはお付きの騎士数人を伴ってハテノ村へと向かう流れになったのだ。

 

 そして、手持無沙汰なリンクに戻る。

 

「――――、……」

 

 頭を下げると、リンクはそのまま道をいったん引き返した村の入り口付近から途中の道を折り返し、タルホ池沿いの橋へと向かう。道中、ちらりと「古代の祠」が見えるが、特に気にせず慣れたように足を進めるリンク。

 その奥には一等大きい住宅が、隠れるように存在していた。

 

「――――、……」

 

 家はことさら汚い訳ではなく、十分人の手が入っていることがわかる。

 リンクはそのまま馬小屋に所有馬を繋ぎ、ポーチからニンジンを取り出して食べさせた。

 

 そして入り口を開け、中にいた人物に少しだけ「顔が綻んだ」。

 

「……むにゃむにゃ」

 

 テーブルの上に上体を倒して寝ている女性。腕を重ね枕にし、どこか幸せそうに眠りこけている。

 髪はショートカットで、額には「妖精模様の」ハチマキ。

 寝ぼけながらもぶらぶらとしてる脚は、素足に直接くつを履いている。

 

「――――、…………」

 

 とりあえずと声をかけるリンク。

 寝ぼけながら起き上がると、彼女は彼の顔を見て「うひゃぁ!」と声を上げた。

 

「え? リンク? うっそー! 久しぶりっ」

「――――、……」

 

 声こそあげなかったものの、左手を上げて応じるリンク。顔も心なしか楽しそうだ。

 幾分、城にいるときよりも表情の変化が多い。

 

「――――、イリアは何をしてる?」

「あ、アハハ……。ちょっと掃除してたら、疲れて眠っちゃった。

 あれ、もしかしてもう朝?」

「――――、うん」

 

 やっちゃったー、と頭を抱える彼女である。

 そんな彼女の反応はスルーし、リンクは室内を見回す。半二階建ての建物内、上のベッドや机がある階のエリアもともかくとして、全体的に花柄模様の飾りが多い。

 

「――――、…………」

「え、調度品? あー、リンクがしばらく帰ってこないから、わたし、けっこう好き勝手にしちゃったんだけど。ダメだった?」

「――――、お気になさらず」

「あんまり興味ない? 嫌だったら、何か別なのにするから、リクエストしてね」

 

 両手を腰に当てて、胸を張る少女。少女といっても年齢はリンクより上だろう。

 

 と、ちょうどそんな会話を交わしている間に、リンクの家の扉が開かれる。向こうからは眠そうに頭を抱えつつ、インパが入ってきた。

 

「……ああ、ここで合ってたか。姉上から『昼食は全員で一緒に取りたいから、お昼よりちょっと前に集合』と伝言だ。なんで私が伝言薬など……」

 

 ぶつぶつ言いつつも、彼女の視線が少女、イリアへと向く。

 一方のイリアもまた、視線がインパに向く。

 インパはどこか訝し気な、イリアはきょとんとした風であった。

 

 修羅場というほどではないが、リンクを挟んだお互いがお互いに若干の警戒心を抱いている様子である。

 

「えっと、リンク、この子って誰?」

「――――、上司?」

「わたしに聞かれても困っちゃうんだけど……」

 

 返答の口数の少なさは相変わらずである。

 また、インパもインパでその質問には、確かに即答が難しいところではあった。役職としては最高位に近いものの、直接の指令系統を持っているわけではない。リンクもリンクで現在は正式に近衛付きにはなっていない扱いであるため、表現が難しいところであった。

 こういう場合、とりあえず先んじて名乗るあたりがインパである。

 

「インパという。城に勤めている。リンク殿とは……、あー、部署役職権限一通り大きく違うが、個人的には友人のつもりだ」

「――――、友人?」

「いや、お前がそこに疑問符をつけるな……」

 

 リンクもリンクで、インパの一言に驚いた表情をしていた。いや、確かに知り合ってから1月も経っておらず、顔合わせもまだ片手で事足りるだろう回数ではあるが。それでも堂々とこう言い切るあたり、彼女がリンクをそれなりに気にかけている証拠ではあった。

 そして、その微妙なニュアンスを、イリアもイリアでかぎ取っていた。

 

「おトモダチね……。ふぅん、なるほど。リンクがお世話になってます」

「ああ。で、こちらは――――」

「――――、幼馴染」

「はーい。下にあるハテノ村唯一のよろず屋『イースト・ウィンド』の看板娘でーす」

 

 ぶい、とピースを構えるイリア。

 不意に「チェッキー!」と奇声を叫ぶ姉の姿を幻視したのか、ふらりと一歩後退するインパ。

 

「リンクとはまぁ、昔から姉貴分やってます」

「それはそれは……。では、私はこれで――――」

「あ、宿屋の方ですね。でしたら送ってきますよ? 道中でリンクの話も聞きたいですし……」

 

 そうこう言いながら、二人はそろってリンクの家から出る。じゃあねーと手を振るイリアと、頭を眠そうに下げるインパであった。

 リンクはリンクで二階に上がると、唐突に服を脱ぎだす。上半身裸、下半身下着のみの姿になると。

 

「――――、…………ただいま。父さん、母さん」

 

 一瞬だけ壁にかけてあった「家族三人の」絵を見た後、そのままベッドの上で横になった。

 

 

 

 ※   ※   ※

 

 

 

 インパが自分の身分を正しく明かしていないことも手伝ってか、道中でのイリアの質問責めはかなりフレンドリーに行われていた。口調もそうであるが、年齢が自分よりも下だとわかったら、なおのこと親しみやすさのにじみ出る雰囲気である。

 そんな彼女が聞いてきてる話を統括すれば、次の一言に集約されるだろう。

 

『リンク、楽しそうにやってますか?』

 

 その質問には、インパは正面から回答するのが難しかった。

 

「…………中々答えづらいところですね」

「へ? えっと、いじめられてたりしますか?」

「そこまででは。ただ、その……。リンク殿は『誤解されやすい』方ですので」

「あー、なるほど、それは納得ですかねぇ」

 

 橋を渡りきり、坂を下る道中。インパの返答に、イリアは苦笑いを浮かべていた。

 なお、リンクの実力については、イリアもまた納得しているものだろうとインパは「勘違い」していたので、この時点での話題には上らない。

 

「そっかー。リンクってば、お城でも無口なのか。やれやれ先が思いやられるなぁ」

「リンク殿は昔から、ああだったのですか?」

「いいえ! そんなことないですよー。昔はもっと、子供っぽかったですもん。

 道行けば虫を発見したら捕まえますし、リンゴの木があったら上ってとって落ちて」

 

 インパとしても、そのあたりの自由奔放らしかったエピソードは納得できるところであった。

 

「でも、お父さん亡くなってからですかねー、あんなになっちゃったの」

「お母上は?」

「あー、それこそ小さいころにですね。で、まぁリンクのお父さんもなかなかお仕事で帰れなかったんで、うちで預かる形で。

 リンクがお城に行くようになってからは、一応合鍵もらって私がおうちの管理してるんです」

「なるほど……」

 

 一瞬その納得に、何故かほっとしたような息を吐きだすインパ。もっともその一息の意味が自分のことながらわからず、不可思議な表情になる。イリアはイリアでそのあたりにツッコミを入れるほど野暮天でもなく、宿屋の入り口で彼女の手を握る。

 

「まぁそんな感じなんで、インパちゃんはリンクの『お友達』、なんですよね?」

「ちゃん……! じゃと……!?」

 

 何気にそう呼ばれるのは久々すぎて、少し反応がおかしいインパである。

 そんな彼女に、イリアは楽しそうに笑みを浮かべた。

 

「仲良くしてあげてくださいね? ……あ、もちろん常識の範囲でですけど」

「常識の範囲?」

 

 それが小さな牽制であることに、いまだ気づけるほどインパの情緒は育ち得ていなかった。手をほどく彼女に、困惑した様子のインパである。

 それはそうととして、ふとした疑問を口にする。

 

「……その、イリア殿以外とは仲良くないのか?」

「…………あー、だから、浮いちゃってますね。昔はそれこそ、けんかもつよくって、好奇心旺盛で、なにより正義感あって可愛かったんですけど」

「正義感……」

「はい。4歳で、弓矢使ってでしたけど狼仕留めてましたから」

「そ、そうですか」

 

 騎士と渡り合ったと噂に聞くリンク4歳。完全に話半分以下に聞いていたインパであったが、イリアの口から語られたそれには有体に言って信じさせられてしまった。ひょっとして当時からあんなのだったのか、と若干引いている。

 

「でもやっぱり、大人の騎士とか相手だと負け越してたりしましたね。お父さん相手とか」

「そうですか。その、城での噂で、その頃からすでに大人の騎士を倒していたというものを聞いていまして。半信半疑だったのですが……」

「流石にそこまでじゃないと思いますよ。……って、あー、でも、一人か二人は倒してたかな?」

「え?」

「ちょっと素行が悪い人たちがいて、村の子供たちをいじめてた時ですかねー」

 

 遠い目をするイリアは、視線を山の向こうにある「何か」を見るように。

 

「村の、収穫祭だったかな? ハイラル米とかニンジンとかですけど。そういうのを時の神殿の方とやるときの相談だったんだと思います。私とか、リンクも含めて小さい子何人かついていって、表で遊んでいて。

 その時、ちょっと荒っぽい感じの騎士さんが何人かいて」

 

 およそ十年前ごろだろうか。そのあたりを担当しているプリカ執政補佐官の愚痴を思い出すインパ。

 現在のハイリア兵、騎士たちの民度は、当時に比べればまだ良い方ではある。とある事情から大量の兵士を募集していたさ中の時分であり、集まってくる兵士たちもそのすべてが身分、態度の落ち着いたものではなかったのだ。

 

「あんまり騎士さんの中だと、強くはなかったって、後でリンクのお父さんがこっそり教えてくれたんですけど……。でも、子供の遊びに混じっていじめて来て」

「……それは、どの程度の?」

「下手すると骨とか折っちゃいそうな感じで。それで、なんかすごく楽しそうにみんないじめられてて」

 

 流石に頭痛を覚えるインパである。が、そこから先を語るイリアの目は、ひどくきらきらとしたものだった。

 

「でも、その時だったんですよ。神殿の中でお父さんについていってたリンクが、もう、すごいスピードで走ってきたのって。そのまま背後から『ふいうち』して一人倒したら、『左手に握った』木剣で何度ももう一人の兵士さんを殴って」

 

 とても大事な思い出を語るように、それはそれは楽しそうな様子のイリア。

 それを見てわずかに胸の内にちくりとした何かを感じるインパであったが、しかしリンクの過去話自体には興味があるので、何も言わず話を聞いていた。

 おそらく彼もまた、その時分に「加護」に覚醒したのだろうと、おおよそあたりをつけるインパである。彼女とて自らと姉が襲われたタイミングにて、加護を発現するに至ったのだ。

 

(そう考えれば、私も奴も、どちらも「誰かを守りたい」からこそ加護が出たということかのぉ)

 

 だからこそ、後日また話をしに来ると約束をしてイリアと別れた後。不意にリンクが「森の賢者の詩」を弾いていた姿を思い出し。また、騎士アッシュを泣かせてしまった子を悔やんでいるリンクの姿がさらに重なり。

 

「…………外から見るよりも、もっと大きく落ち込んでいるのかもしれぬな」

 

 そのあたりをもう少し何とか出来ないものかと、眠気と頭痛と戦いながら、宿屋のベッドでインパは考え込んだ。

 

 

 

 

 




【リンクの家と家族について】
・リンクについてびっくりするほど家族関係の話題がないため、本作では死別したものという扱いにしています
・また同時に、100年経ってもあの家がある程度の強度を残していた点からして、誰かしらが継続的に手入れをしていたものであると推測。本作では知り合いが手入れしていたものとして、幼馴染にあの子を設定して管理者とします
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