息吹の叙事   作:黒兎可

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※ロケに思ったより時間がかかりました;
※当初の予定からいろいろと変更しておりますゆえ、一部のモノやナニかの観測に関して、ゲーム中から若干の嘘を織り交ぜておりますが、そのあたりは100年前なので巡回ルートが違ったとご納得いただければ幸いです;


インパ、彼の者と共に知恵の龍を眺む

 

 

 

 

 

 

「チェッキー! リンリンのおうちって大きいんだね~。メモメモ……」

「――――、?」

 

 昼時になり外に出ると、家のすぐ手前にある鍋の前でプルアなど関係者がたむろしていた。どうやら食事の準備はできているらしく、全員がキノコミルクスープの器を手に持っている。

 なおこの鍋自体は、リンクの家のものであるからして、どうやら無断で調理したらしい。

 

「――――、…………」

 

 無表情に見つめるリンク。プルアは不思議そうに見つめ返しながら微笑む。凡百のハイリア人ならそのしぐさ一つでかわいらしさに何もかも許してしまいそうになる――例えば執政官のレオーニドンなど予算を融通してしまいそうになる――様であるが、リンクは当然のように何も言わず、じっと見つめ返した。

 ここで呆れ顔だったインパから助け舟が出される。

 

「……姉上、やはり起こしてから昼食準備するべきだったかと。勝手にやるのはマナー違反です。リンク殿もそれを嫌がってるかと」

「ええ? え、何、そういうこと?」

 

 ちらほら、とリンクとインパとに視線を行ったり来たりするプルア。

 無表情ながらリンクは頷くと、プルアは今度は別な意味で衝撃を受けた。

 

「……へ? 何、インパってばいつの間にツーカーになっちゃったの?」

「いえ、状況から考えてそうでしょう」

「そうでもないんじゃないかなー。あれれ? なんでリンリンの考えてそうなコトわかるの?」

「ですからその気になれば誰でもわかるかと」

 

 インパの側からすれば、あの幼馴染であるところのイリアなら更に彼の感情を理解できるのだろうが、そうでもない自分でさえある程度はわかるのだ。根にある性格と振舞い方さえ把握すれば、あとは「分かろうとする意志」の有無だけである。

 彼の友人を名乗る当たり、そのあたりの怠慢はインパにはなかった。

 ……もっともその意欲が出てくる「理由」についてが、プルアの衝撃を受けたところでもあるのだが。

 

「ま、まぁいいや。でもアレアレ、気持ちよさそうに眠ってるの起こすのもアレかなーって思って。せめて料理終わってからの方がよかったかなと思ったんだけど」

「――――、とりあえず食事を」

 

 リンクに促され「はいほーい!」と返事片手にスープを手渡したプルア。ともあれそのまま食事を終えると、五人は目的地へ移動を始める。

 小さい橋を渡り村に降りれば、店先でイリアが放棄片手に掃除している。

 

「天気いいですねー! うちの店、よろず屋『イースト・ウィンド』は今日も元気に営業中! ご入用の際はぜひごひいきに」

「はいほーい」

 

 プルアやインパに対する宣伝文句に対して、リンクにはウィンク一つというあたりが洒落が効いていた。

 

「うわー、すっげー! みせてみせて!」

「ツワブキくん、まってー!」

「――――、……」

 

 道中、小さい子供たちが「なにそれ!」「すごーい!」などと言いながら兵士やリンクたちの持つ武器に集まってきていた。そのあたりはリンクがうまく取りなす。兵士たちは慣れていない様子であったが、武器を少し見せびらかせてあげると満足するとわかると、とりあえずは事なきを得た。

 村の奥にある村長の家を横切り、その先の小坂、先の高台の岬への方へと向かう。

 

「ん?」

 

 ちらりとリンクを見て、違和感を抱くインパ。

 一瞬リンゴの木に視線を振るも、そのまま無言で視線を逸らすリンクである。このあたり、やはりお面をつけていた時と挙措が異なる。

 と、道中でプルアが両手を振って静止した。

 

「あ、ここ直進すると登っちゃうけど、そうじゃなくって横ねー。

 ほら、あそこに岩で何か組んであるの見える?」

「む……?」

 

 視線を細めるインパ。その先には、小さな祠のような何かが大型の岩をくみ上げて作られている。入り口のような部分も「閉ざされており」、中に侵入することは出来ないまでも、しかし内側から「青い光が噴いている」のが見える。

 

「あれあれ。なんか岩の奥にあってちゃんとは見えないんだけどあれが古代エネルギー。

 ガーディアンとか動かすときに使われてるのと…………、って、あ、雨だ」

 

 ざーざーと振り始める雨に、編み笠を被るインパやプルア。シーカー族らしい雨具装備である。一方兵士たちは鎧のヘルムを下げ、リンクはハイリアのフードを被った。

 道なりに進み坂を少し降りると、目的地の岩の祠に出る。「少し雨やまないとキツいかなー」と言いながら、プルアはポーチから定規やらメモやらいろいろと道具を取り出した。紙については祠の屋根部分で覆われるため、ぎりぎり濡れないような位置関係である。

 

「それで、姉上これは……」

「まー、この古代エネルギーの流れ方っていうか、収束のさせ方? みたいなのがわかれば、『石板』とかも動かせるようになるしねー。一挙両得というか、まぁそれがまずメインミッションみたいな? 

 ふむふむ、光源は岩場に挟まれてもそれなりに熱量があると。メモメモ……」

 

 そもそも古代エネルギーとは、現ハイラルの地下を流れる青い粘性の液体からとれるものである。古代シーカー族はこれらを利用して高度な技術体系を誇っていたと考えれらえており、古代研究では必須のものであった。

 ハイラル城の地下からもくみ上げることはできるものの、その労力は明らかに成果として発揮されるものに見合っておらず神獣などを動作させるにはかなり厳しいと言えるだろう。

 

「とはいえガーディアンだってそうなんだけど、エネルギーを挿入する口みたいなのが全然ないんだよねー。だから何らかの方法でエネルギーを吸い上げる機構が内蔵されてはいるんだと思うんだけど、肝心の起動方法というか。メカニズムがわからない。

 だからまずそのあたりについて調査をしておかないといけないかなーって、そういう流れ……」

「――――、石板?」

 

 リンクの疑問に、インパが先んじて答えた。。

 

「シーカー族の紋が刻まれた……、なんだろうな。小型の、こう、手持ち出来るほどの大きさの板のような何かだ」

「――――、板?」

「宝物殿にあって埃かぶってたのを、今絶賛研究中だよー。該当する文献とか今調べてもらってるけど、それがなくても、あからあさまにガーディアンとかみたいな遺物同様の文様が刻んであるし。

 ただ、なんだろうね、動かし方わかんないけど、声は出るんだよねーあれ。私みたいな可愛い声」

「姉上、それでは意味が分かりませぬ……。

 こう、起動するエネルギーが足りません、みたいな声が出るのだ。その石というか、板というかから」

「――――、それはもはや石でも板でもないのでは?」

「昔のシーカー族って、物体に声を込める技術があったっていうのはあるらしいんだけど、どうにもそれだけじゃないような気もしてるんだけど……。とりあえず絶賛、名前候補募集中だよ~」

 

 しばらくプルアが動いている間、暇が発生するインパやらリンク達である。

 もっともだからといって、自由奔放に動き回るリンクではないのだが。兵士たちも暇になってしまっているせいだろう、リンク含め三人で交代制に見張りを立て、暇になった二人で手合わせ、練習をしていた。

 

「――――、ふっ」

 

 ここにおいて、リンクは木剣を使用していた。当然と言えば当然のことであるだろうが、騎士アッシュなどが見たら意味が分からず困惑するものだろう。しかし実際問題として「集中」を使わず、盾で相手の剣を弾いて自らの剣で叩く一連の流れは、実際無駄がない。特異な戦闘力を発揮せずとも、十分騎士として出来上がっているリンクであった。

 そんな彼の動きを見ていて、インパは何かを納得したように頷いた。

 

「そうか。だとするとリンク殿に課された制限というのは……」

「どうしたの? インパ」

「あ、いえ、何でもありませぬ」

 

 と、リンクがちらりとインパやプルアの方を見て、目を細める――――。

 突然何をするのかと思えば、背後からマスターソードを抜刀し、彼女たちの方へ走り出してくるではないか。

 

「これ、止めるのじゃっ」

「うわぁ!」

 

 何を錯乱したか飛び掛かるようなリンクであったが、しかしその視点や動きは彼女たちになかった。思わず残心の小刀を構えていたインパだったが、彼が岩の祠の正面を「叩き始めた」のに違和感を覚えた。

 例によって退魔の剣特有の、金属が猛烈に反響するようなけたたましい音が響くも、その眼前の岩が、何か徐々に動いている、震えているような――――まるで何かの「力を蓄積しているような」、そんな妙な挙動をしている。

 やがて満足したのか剣を納刀して離れたリンクだったが。

 

「――――、……」

 

 次の瞬間の光景は、筆舌に尽くしがたい。

 猛烈な音を立てて、彼が殴っていた岩が「あらぬ方向に飛んでいき」、祠の全面を覆っていた岩が崩れ始めた。

 中から現れたのは、しめ縄模様のある黒グルとした何かの装置。手前に燭台のようなものがあり、そこから青い火が発生していた。

 

「……、古代炉?」 

「あー、やっぱりここもアッカレの方と同じ感じなんだ……」

 

 プルアの言葉通り、アッカレ地方にはこれと同様の「青い炎」を絶やさず燃やし続ける炉が存在する。外形からしてまさに古代炉、古代シーカー族が使っていたと思われる技術体系としての、古代エネルギーを吸い上げる技術のそれだ。

 岩場で封印されていたものの、エネルギーが集まってくる異常はそれに関連しているだろうと踏んでいたプルアであったが、今日びリンクが眼前でその封印を破壊したことによって、あからさまにそれを見せつけられた。

 メモ片手に、いろいろと検証を始めるプルア。

 

「ふむふむ、雨が当たっても消えないのはアッカレの古代炉と同様と……」

「それよりリンク殿、いきなり何故……?」

 

 インパの疑問に「なんとなく」とでも言いたげに頷き、両手を腰に当てるリンク。ちょうどそんな折に雨が上がる。

 

「おそらく加護を使ったのだろうが、危険だということを理解してもらいたいのだが」

「――――、大丈夫」

「実際に大丈夫でも、大丈夫じゃないように見えたらそれはダメだということだ。そのあたりに留意してもらいたい」

「――――、わかった」

 

 兵士たち、驚愕である。

 道中も存在はしたものの、ここまで明瞭にリンクとコミュニケーションを成立させている相手を見るのが初めてという様子だ。

 ちょうどそんなタイミングで、プルアが気の抜けた声をかけた。

 

「チェッキー!

 リンリンお手柄だよー、これ、結構助かったかも」

「姉上、なにが……?」

「少しヒントが見つかったっていうか。んー、正直このまま今日ずっと張り付きになると大変だろうから、誰かしら長く休憩させた方がいいと思うな~」

「長くとは?」

「今日の深夜まで食い込む形」

「何故そうスケジューリング能力がないのですか姉上は……」

「だって、しょーがないじゃん! 見つかったもんは見つかったもんなんだもん! 私の研究は何事においても優先されるんだから、時間とか曜日とかが私のスケジュールに合わせろって話だよ!」

 

 酷い言い草である。幼児のごとしと思えど、実際問題彼女の研究成果は馬鹿にできたものでもないので、インパは頭を押さえながらも話を促した。

 じゃんけんでチーム分け。インパとリンク、従者二名の四人でとなるはずだったが。ここでプルアがいつかの爆弾発言をかます。

 

「――――あ、そういえばリンリン。私かインパとのデート権残ってたよね」

「何?」「なんですと!?」

「は!? あ、姉上何を――――」

「はいほーい。

 というわけで、リンリンとインパで先に休憩よろしくねー。町ぶらついてきてもいいし、宿で寝てもいいし。ご自由に~」

 

 そんな流れで、半ば強制的に二人きりで追い出されたインパとリンクであった。

 インパの方は気が気でない様子でリンクの方をちらちらとみるのだが、リンクはリンクで特に何も言わずにぼんやりと雪山の方を見る。ラネール山はどの季節でも雪に覆われており、入山には防寒具が必須となる。

 

「……あ、姉上が言ったことは気にしないでくれ。どうせ戯言だ」

「――――、……?」

「へ? あ、いや、何でもない。…………といっても、時間が有り余ってしまうな」

 

 インパの言葉通り、ハテノ村はあまり発展している場所ではない。当然王城から離れている関係もあり、それこそ大事故でもそちらの方で起きない限りは、人や物流の流れが偏ることもないだろう。それゆえに農耕地が多く見せもイースト・ウィンドくらいしか存在しない事情がある。

 そのまま寝るのが一番妥当だという話でもあったが、しかしリンクの視線を追ううちに、ふとインパは思い付きを口にしていた。

 

 

 

「なぁ、できれば出良いのだが少し付き合ってもらっていいか?」

「――――、…………?」

 

 

 

 インパに促され、リンクは彼女の後に続く。先ほど折れた場所まで戻り、そのまま坂の上を上っていく。岬の端、おそらくハテノ村近隣で一番の高台だ。見下ろせばすぐ近くの牧場や、村、プルアなどが一望できる位置関係にある。

 そのさらに東の端、ラネールの山の側面が見えるか見えないかという位置で、インパは座り込んだ。

 編み笠を取る彼女と、フードを外すリンク。

 

「あそこだ」

 

 指をさすインパ。その先はラネールの山、そのすぐ斜面に沿うように空をなぞる指の軌跡。

 

「山のどこかしらに、龍が来る時がある――――いつ来るか分からないのだが、昔見た覚えがあった」

「――――、…………」

「馬鹿にはしないのだな」

 

 力なく笑うインパに、リンクは無表情ながらも頭を左右に振った。

 龍――――ハイラルには3っつの龍がいるとされている。それぞれディン、ネール、フロルの三つ、この世界を作り出した三女神にゆかりのものの名前を持っている。

 そのうちの一つを、このラネール山でインパは見たことがあった。

 だが――――。

 

「この話、私が加護持ちだとわかってからも、大人たちは戯言としてまともに聞き入れてくれなかったのだがな」

 

 自嘲げなその様子の通り、大半のハイリア人にはそういった存在は見えないらしい。それこそ幼いころから何度も何度も言っており、現在においてもまともに信じたのはプルアくらいであろう。ロベリーは「ミーもウォッチングできないのなら検討する必要はナッシング」と否定はしないものの興味のない様子。

 

「私自身、こうしていく先々で龍の伝承がある場所では、見れるのではないかと思って時折、こうして時間をとってるんだ。もちろん政務の邪魔にならない範囲でだぞ?」

 

 少しだけ楽し気なインパである。だからこそ、この話を他人にするというのは、彼女にとって少しだけ踏み込んだ話でもあった。もっとも、当人がそれを自覚してかどうかは定かではないのだが。

 

 時刻はハイラル時間で20時を回るか。ちょうどそんな時、山の裾野から立ち上る何かが見えた。それはまるで降りしきる雪の結晶のごとく、きらきらと光を放ちながら一つの長い線のような胴を引きつれる。角の光が怪しく明滅し、一見して距離もあり小さいが、ゆらめかす木々の太さとの比からしてその雄大さを物語っていた。

 

「――――、ネルドラ」

「ひょっとして、見えるのか?」

「――――、はい」

「そうか。……そうか」

 

 何故か少しうれしそうに、インパは隣に立つリンクに笑いかけた。

 

「――――、大きい」

「感想が朴訥すぎるな、お前は。……だが納得はする。ああいうのを目の当たりにすると、このハイラルで生きる我々とは違う節理がは足りていることを、ありありと思い知らされる」

 

 それが、インパにとっては楽しい。そして同時に、自分のかかえている小さないら立ちや葛藤を吹き飛ばす、そういった爽快感があった。

 それを察したのか否か、リンクは彼女を見て、一言。

 

「――――、いつか」

「ん?」

「――――、間近で見よう」

「…………見れるといいな、それ」

 

 思いもかけないリンクからの一言に、インパはどこか楽しそうに笑って、再び龍を見上げた。龍はそのまま山頂をつっきり、天の雲に上っていった。

 

 

 

 

 

 なおこれから一年は経とうかという時に、とある龍を間近で観測した結果ちょっとした災害に遭うことになるのだが、それはまた別な話である。

 

 

 

 

 




【ハテノ村の発展状況について】
・ハテノ村がゲーム時の状態まで発展するには、厄災による被害からの逃走があったからこそだという事情があるそうで、本作ではそのあたりから宿屋、よろず屋程度しか店はなかったとしています
・八百屋めいたお店はあるかもしれませんが、民家の軒先に構える程度のつもりです
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