息吹の叙事   作:黒兎可

19 / 22
※兵士と騎士周りについて描写を再整理しました。抜けはあると思いますが、多少一貫性のあるものになったのではと・・・



彼の者、「片鱗」と相対す

 

 

 

 

 

 

 闘技場の建物自体は、いわゆる円筒状の地上五階建てのそれである。一階は戦士と魔物とが戦闘をし、また時に戦士同士の戦闘もありうる。

 観客席は警備の戦士たちが守る1階周辺からとなっており、階段を上ったおおよそ3階程度までとなっていた。理由は単純で、そこから奥は見えないのだ。

 なので基本的に、交易所周辺にある販売所で入場券の販売、および賭けの券売が行われており、おおよそ月に二階ほどの興行で周辺住民、あるいは旅人、あるいは旅の戦士たちを賑わせていた。

 これについては、なにもハイリア人のみに限定された話ではない。

 ゴロン族もいればリト族もおり、またゾーラ族とて普通に存在している。

 それぞれの戦闘に関してはいくつかルールなども設けられるが、決して一種族のみに秀でた闘技場という訳でもなかった。

 

 そしてこの闘技場、ハイラル軍の何かしらお披露目に使われることも多い。

 例えば新兵たちの演舞や実際の戦闘、例えば当年で退役する軍人とその弟子との一騎打ちなど。

 当然、命のやり取りをするようなものではないのだが、それでも王城に召し抱えられる兵士たちの戦闘というものは、その人々というものがあまり広く知り渡っていないからこそ、こういった場で喧伝されることで「認識される」。また、そういった催し事を行うことで、その戦果を瓦版などで広めることで、ハイラル軍の力を示すことにもつながっていた。

 

 だからこそ、近衛騎士たちが一同そろっているという状況もまた、全くないという訳ではない。

 新人の近衛騎士が先輩近衛騎士たちに揉まれるそれは、しかし同時に騎士と兵士との違いを如実に表す其れでもある。

 そもそも騎士になるためには、大型魔物をスリーマンセルであれ倒す必要があるのだが、それとて万全にこなせるという兵士がどれほどいるか、という話でもある。

 もちろん、中には兵士として隔絶し、ヒノックスを単独で倒せるようなものが居ないわけではない――――これについてリンクが特殊なのは、それをなせる年齢があまりに若いこと、かなり余裕をもって行えることに起因した。少なからず試験においてなす兵は、極々稀であったが、さておき。

 その中でとりわけ、近衛に推薦される者というのはまた事情が異なるのだ。

 

 だからこそ、リンクの経歴はおおよそ通常の理解の範疇を超えているといって良い。

 

 兵士から一足飛ばして騎士を超え、近衛騎士へという流れは異常極まりない。いくら近衛兵長の推薦であれ、普通は認められない――いくら退魔の剣を持っているからといえど、である。

 ならばそこには、多かれ少なかれ王の承認があってこそのそれであろう。少なくとも大半の民衆はそう解釈する。

 しかも相手は、衆目美麗な少年と来ているのだからまた話題に事欠かない。今回の対戦カードについては、すでに先週の時点で告知がされていたこともあり(当然のように最終試験を突破するものとみられていた)、その少年を人目見てみようと多くの人間が押しかけていた。

 

 その割合、見物客に町民や城下町の人々よりも、戦士が多かったことがある意味、今回の戦いがどう見られているかという一例にもなるだろう。

 

「――――つまりリンリンってば、嘗められてるんだおね~」

 

 選手控室で、腕を組んで待機しているリンク。服装は例によってハイリア兵の鎧だが、今回に関しては真面目に鎧をまとっている。それでも腕を組んで目を閉じたままであり、起きているのか眠っているのか。

 同じく控室に入っているのはインパとプルアであるが、これに関してはプルアにインパが引っ張られ無理やり、というのが正秋だろう。

 そして会場の沸き立ちに関し、プルアがやや冷めた目でそれらを見ていた。

 

「……嘗められてるとは?」

「んー? だから、リンリンの実力を見て詰まらなかったら自分が切り伏せてやろうかー、みたいなこと考えてるんじゃない? 闘技場ってば、基本そういう横殴りもないわけじゃないし」

「それは……、なんとも浅い」

 

 当然、闘技場である以上は血の気の多い輩も多く、そういった乱闘めいたこともままある。

 そして場外乱闘であれど、それが騎士たちの目に留まり召し抱えられることも、ないわけではないのだ。

 すべての戦士がそういったことを夢想しているわけではあるまい。単純に腕試し、どれどれ実際どの程度なのか拝んでやろうではないか、といった上からの目線を振りかざしているだけではあるのかもしれない。

 このあたり、流石にインパでも嫌な顔をした。

 

 もっともプルアとしては大した話ではないのか、くるりとリンクの方を見て話題を変えた。

 

「それよりもリンリン聞いて~? インパってば、今日全然こっちに来るつもりじゃなかったんだって~。私が今朝むりやり馬車で運ばなかったらどうなっていたことか」

「――――、…………」

「姉上、別にリンク殿とてそれで気分を悪くする相手でもありますまい」

「でもでもだって、それって心ないんじゃな~い? チェッキー!」

「――――、チェッキ― ……」

 

 無表情ながらも、何故か一応は応じるリンク。

 止めぬか、とプルアにチョップを極める。

 

「はぁ……。一応午前中だけですし、終わったら私は帰りますよ。仕事が残っております」

「えぇ~」

「そういわないでください。昨日までの分の資料を提出してからの後処理なんですから」

「ああー、なるほど。だったら言えないや」

「まぁ、なんだ。無茶しない程度にな」

「――――、…………」

 

 軽く首肯すると腕を組み、再び目を閉じるリンク。

 プルアとインパが退出してから、呼ばれるまでずっとその体勢のままであった。

 

 

 

 そして、入場するリンクと近衛騎士たち。対する騎士たちは上下ともに「近衛兵の服」で固めている。深い色合いの十数人の騎士たちは、とみに王族警護の任を受けていることもありエリート中のエリートでもある。だからこその人数の少なさでもあり、同時にそれぞれがハイリア兵の中でも特段強いということでもあった。

 見た目においてはリンクの方が重武装に見えるが、実質的な防具の強度はそう変わりないと言える。むしろ近衛兵の方が見た目に金属が使われているように見えない分、そう「気を遣って」作られていると考えて、両者の装備にかけられている予算感が違った。

 

「……っ」

 

 そこには当然のようにアッシュもいる。本来ならば推薦時期との兼ね合いもみてリンクの側に居るべきだろうが、これについては近衛兵長の判断でこちらとなった。つまるところ、それだけ戦力に差があるという判断である。

 今回、リンクの方はマスターソードを抜かない。背には刃引きされている騎士の剣や弓、大剣。

 アッシュたちもそれぞれ同様の装備であるが、騎士たちは当然のように彼を前に油断はしない。信頼する近衛兵長の言葉もそうだが、実際問題としてエリートである以前に「単独でヒノックスを倒せる」相手であるというのは、十分警戒に値するのだ。

 当然、この配置の前提として、まさかリンク相手に全滅させられるとは誰しも思ってはいない。

 普通はそれを予想できるはずもなく、アッシュの懸念も彼らの大半には笑い飛ばされて終わりだった。

 

「……」

 

 一瞬、背負った「真っ黒な」剣のことを意識するも、アッシュは切り替えてリンクに集中する。

 審判のゲルド族の女性が両者を見やり、オーディエンスをはやし立てる。

 

「――――さぁさぁ、本日一番目にして大勝負! 

 ハイリアの歴史を受け継ぐ数々の近衛騎士たち!

 誰一人として名もなき兵ではありませんが、なんと今回、それら全てと相対するは、異例の昇進を果たした最年少の近衛騎士、天才剣士リンク!

 なんでも『退魔の剣』を抜いたとか噂されているこの彼ですが、果たしてその真価やいかに!」

 

「ああ、いきなり話は広めないのだな」

「だねー。まずは噂話レベルから浸透させようってことだね。いきなり全部話すと混乱するから」

 

 1階の観客席、いわゆるVIP席にあたるが、そこでのプルアとインパである。腕を組み威風堂々と構えるリンクの姿は一見して若手騎士の風格にあらず。むしろ正装していないときの方が与えるプレッシャーが低かったとすら思わせるほど。

 背部から剣を抜刀し、盾を構えた。

 

 試合開始――――号令と共に、騎士たち数名がリンクに接近する。

 

「――――、……」

 

 リンクもリンクで目を細め、いきなり「集中」を使用した。

 切りかかる兵士一人を盾で弾き、剣を二連撃。そのまま遠方で弓を構える兵士一人に向かって同様に弓を射る。いくら矢が刃引きしてあっても、危険なのは当然なので狙うは胴体であり、当然のように不意を打つような猛烈な射撃で腕をやられる騎士。早々に降参ということなのか、その場に倒れ伏して転がり場外へ移動していった。

 前方の騎士へと再び意識を向けるリンク。一撃。盾で防御されたのを見て集中し距離を取る。

 

「せいっ――――」

「――――、ふっ」

 

 横なぎに大剣を、リンクの背後から振り回す兵士。それを見計らったわけでもなく、とっさに「集中」して向き直りバックステップするリンク。

 すかさず接近してラッシュを極めるも、今度は背後の空きになった背中に一撃。

 

「――――、ぐっ」

 

 しかしうめき声一つとともに距離を取り、再び猛烈な速度で弓を構え狙撃。

 その後に「指をしゃぶりながら」疾走し、場内を駆ける。相手の振り回しよりも早く、しかしぎりぎりで躱すさまは観客からすればそれこそ痛快なショーのようであるだろうが、しかし騎士たちからすれば冗談ではない話である。

 

「なんだあの奇行は……」「ふざけている割に強いぞ、アイツ!」「ひるむな、スリーマンセル!」

 

 本日も公務があるため国王はみにこれていないが。それこそ間近で見てしまえば、否応なくリンクの処遇について一言申すことがあるだろうレベルの有様である。

 なにせ一気に過半数を削り残り六人といったところか。弓を構えるアッシュでさえ、猛烈な速度で移動するリンクを狙う暇すらない。

 リンクの戦法は非情にわかりやすく、スリーマンセルの編成前の各個撃破である。また一度完成しても、その異常なまでの連撃を簡単に往なすことが難しい構成だ。

 言うなれば、それこそ何をやっても「猛烈な素早さで」襲い掛かってくるに等しい。

 どうやって勝てば良いというのだ、と、そういう世界の話である。

 

「――――、…………」

 

 当然、リンクがそういった戦法をとるのにも理由はあるのだが、多く語らず誤解を招いている状態の彼の意図がそうやすやすと察されることはない。

 故に、彼らは怒りをはらんでリンクを見ている。

 自らの力を見せつけ、圧倒するような戦い方をする彼の騎士に。

 そして、それに手も足も出ない自分たちというこの状況に。

 

 なんとか一矢報いねば――――。

 

「――――貴方はまた、そうやって戦うのだな」

 

 そしてそれは、騎士アッシュとて同様のそれだった。

 リンクとて意図してではなかったのだが、なんだかんだで狙撃がアッシュを狙うことは少なかった。そのことが、まるで自分をさらに馬鹿にされているよう感じたのだろう。

 しかし、現状のアッシュでは戦える術はない。2スリーマンセルにおいて狙撃の立ち位置である以上、彼女が近接武器を手に襲い掛かるのは最後の最後だ。そうなったら、もはやそうなった時点でおしまいである。

 だが、このまま何もせずに居れるわけはない。

 このままでは、今まで自分以前から続いてきた近衛騎士の歴史が「圧倒され」「崩されてしまう」――――そんな感覚さえ覚えるアッシュ。

 

(私は、負けるわけにはいかない……、私を拾ってくれた、父のためにも――――!)

 

「――――っ、こら、騎士アッシュ何を!」

 

 この時のアッシュは、感情に支配されるがまま剣を抜刀してリンクに斬りかかった。

 剣で受けてパリィするリンクだったが、一瞬その「真っ黒な」王家の剣めいた様相に驚く。だが特にやることが変わるわけでもなく、集中からのラッシュを当てる。

 

「――――」

 

 うめき声をあげて弾き飛ばされるアッシュ。転がり、剣を一度取り落とす。

 それで既に戦える状態でないと判断したのか、リンクは残りの五人へと再び視線を向け、武器を構える。

 

(終わってしまうのか? 私は――――)

 

 恐怖が、憤りが、怒りが――――勝てなかった自分への失望が。それらがアッシュの胸の内を焼き、そして一つの、強い情動へと転化し、支配される。

 

(力が、もっと力があれば――――)

 

 今すぐにでも、たとえどんな手段でもいい。彼の者を倒せるだけの力があれば――――。本人も自覚していなかった、勘違いと焦燥が重なった結果。彼女の内なる声は、強い渇望をした。

 それに善悪があるわけはない。

 だが、いかんせん状況が悪かったのだろう。

 あるいは前々からの「何物かの作為」と噛み合ったのか。 

 

『――――力が欲しいですか?』

「! ……私は、負ける、わけには」

 

 聞こえてくる声は「どこかで聞いたことのある声」の気がするものの「思い出せない」。

 困惑しながらも、アッシュは這うように剣へと進む。

 

『――――でしたら、その剣を手に取り叫びなさい。「惑え」と。それで、貴女はもっと強くなれます』

 

 その言葉の正体の不明さに、違和感を、危機感を抱くべきであった。

 だが、まるで冗談のようにアッシュは「何も感じない」。ただ「言葉に誘導されるように」「剣を手に取り、立ち上がった」。

 

「惑え――――」

 

 彼女の眼は、明らかに光がともっていない――――平静のそれではない。

 

「――――ファントム」

 

 そのまま剣を掲げると、闘技場に「赤い稲妻」が落ちた。

 

 一瞬の閃光が、その場の全員の視界を焼く。 

 

「うぅ、怖いよ~」

「っ」

 

 唐突なそれを前に、インパも目を塞ぎながらも周囲の手近な盾を「意念」で引き寄せ、避雷針替わりとした。

 光が晴れるも、状況は明らかに異常である。

 リンクはリンクで鉄製の武器をポーチに仕舞ったのか手持ちがなく、また周囲の兵士たちも同様にか武器を捨てていたので、傷は負っていない。このあたり、雷に打たれれば死ぬという危機感のなせる業か、それとも雷雨の際の専用訓練に従事していた結果のそれか。

  

 アッシュの周囲に「赤と黒の靄」のような何かが漏れ、そんな彼女を覆うように「灰と紫」の鎧が出現。彼女の全身を覆い装着されると、周囲に散っていた盾と大剣を回収し、それぞれ手に持ち背負う。そして回収された武器もまた黒く染まり、シルエットを変化させた。外見上は王家の武器のそれであるが、しかし色合いは黒と赤。こころなし、赤が不気味な風に光を放つ。

 そして靄のようなそれがさらに鎧にまとわりつき、色合いをより赤と黒に変化させ――――。

 

『――――』

 

 アッシュのうめき声のようなものを上げながら、鎧が驚くリンク達の方を見る。

 

 鎧は両目「黄色い」「獣のような」何かのそれを見開き、吠える。

 右手に剣、左手に大剣。

 

「……『ファントム』の鎧?」

 

 やはり呆然としようなプルアの呟きが、そのアッシュの変貌した様を正確に言い当てていた。

 

 

 

 

 




【独自設定補完】
「ファントムアッシュ」
・HP4500、取得アイテム「近衛の剣」
・アッシュが「呪いの剣」を使用し変化した姿
・身長はリンクよりやや大きく、剣、大剣を両手に装備し連続攻撃してくるのが特徴
・足が速く、また瞬間移動を仕掛けてくる
・ラッシュ中にジャストガードを掛けてくることがあるため、見極めが必要
・正面からの攻撃はほぼ受け付けず(マスターソードのみ1/2)、背部からの攻撃のみ有効
・弓矢無効
・スカイウォード(剣ビーム)数発のヘッドショットでダウンをとれる
・HPバーが2つ存在しており、アッシュのHPを先にゼロにすると負け
・通常攻撃はアッシュと「呪い」双方への攻撃として扱う
・ダウン中の攻撃は「呪い」のみへの攻撃となる
 
【元ネタ】
・言わずもがなファントム装備より。また作中で中ボス的なのを出したいという意向から設定。
・歴代ファントムからちょいちょいネタを入れてますが、戦闘は割と雷のカースガノンめいてる予定です;
・呪いの剣については、外見上はほぼ「近衛の剣」みたいな感じのイメージです
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。