『『『―――!』』』
うなり声をあげるとともに、変貌した大ファントムの左腕、大剣が振り下ろされる。
衝撃波が地面を伝わり、ぐらりとリンクの足が止まる。
そこ目掛けて槍が静止したリンクめがけて降ろされた。
とっさのそれに、回避できなかったリンクは、転がらざるを得ない。
中空で焼きリンゴを貪りはしたが。それとて限界を迎えたのか、ポカポカ草の実を食べ始めている。
「――――、っ」
起き上がるリンク。と、大剣が地面に刺さったらしく、大ファントムも抜こうと動きが止まっている。
それを見逃すわけもなく、起き上がり早々に「集中」して氷の矢を狙撃。狙うは剣を持つ左腕。
『『『――――』』』
しかしそれらは、左側の他の腕が持っていた「盾」に防がれ、弾かれた。
数発狙撃。それも同様にはじかれ、リンクは距離を取る。さすがに大ファントムも剣を地面から抜き終わったためだ。
「気をつけろ、さっきより手数が多い。その分戦法も増えてるはずだ――――!」
叫ぶアッシュは、既にその上半身が鎧より露出させられている。腕と下半身とを拘束された見てくれは、何もできないという哀愁すら誘う。だが特に何も言わず、リンクは彼女の言葉通りに警戒するばかり。
現状のポーチを確認するリンク。兵士の剣、槍のみが無傷。盾は既になくジャストガードで相手の弓をはじくのも難しいだろう。
視線をアッシュに振るリンク。全身に黒い靄のようなものがまとわりついている様は、明らかにそこが弱点だと言われているようでもあり、しかし同時にその攻撃は、先ほどより直接的にアッシュを傷つけることを明白にしていた。
視線を相手の全身に振れば、実際彼女が囚われている中央部から全身にエネルギーが走っているのだろう。そして中継点たる関節部には、ファントムの頭部にある二つの「目」を大型化させたような、獣のような目が存在s知恵板。
「――――、関節に実態がないとみた」
導き出された結論は、かなり手短なものだった。
今度は槍と片手剣の連撃がリンクを襲うが、それに対して横跳びで回避すると、そのままの流れで「集中」し弓矢を右側、槍を持つ腕めがけて放つ。
炸裂する氷属性により、その腕から走り全身が「凍る」。
「――――、やっ」
そのまま槍を溜め、連続で突く――――狙うは大ファントムの腕、その関節部の「目」。
攻撃が数発当たるまでもなく氷が砕け散るが、リンクのその判断は正解だったのか、一撃を食らった目玉は一瞬大きく見開かれ、震え、そして「腕全体から」「煙を伴って」消えた。
がしゃり、と右腕の鎧一つが落下する。
「――――、ヒノックスと同じか」
そして落ちた槍を手に取り、武器を持ち換える。
振りかぶった大ファントムにバク宙をして、大剣の振り下ろしを回避。
再び埋まり、抜けない大剣――――リンクは持ち換えた黒い槍で、その腕を狙い穿つ。
もっともそれとて黒い盾によって阻まれるが、先ほどのそれとは違い、これは「相殺」になった。槍と同時に相手の盾も砕け、ぐらり、と大ファントムが揺らぐ。
「――――、全部、落とそう」
その隙に再び氷の矢を撃ちこみ、盾を持っていた腕の破壊にかかるリンク。
再び目玉を槍で突き、腕を破壊。
「――――、っ」
「逃げてくれ!」
起き上がり早々、近距離で狙撃される弓矢は三連射。
盾のないリンクは、鎧で直にそれを受ける。
「――――、」
しかし動きは変わりない。氷の矢を構え、狙撃。
今度は左半身側であったが、盾が砕けているせいか問題なく凍る。
そして弓矢の腕を落とし、強奪。
構える弓矢は、明らかに黒々としたオーラをまとっていた。
「――――、っ」
狙撃。
先ほどまでの単なる弓矢は明らかに無効だったはずだが、この一撃は正確に大ガーディアンの上腕の関節の目を破壊した。
落下する腕から大剣を奪い取り、しかしリンクは当然のように胴体に斬りかからない。
そのままもう一度、反対側の腕を狙撃し、片手剣側を破壊。
剣を手に取るリンク。もはや大ファントムの武器は矢を持っていた腕のみ。
その腕がこぶしを握り振りかぶる――――移動はアッシュを覆っていたときよりも緩慢で、瞬間移動というレベルの速度ではない。
「――――、はっ」
瞬間、自分目掛けてくる拳を「集中」して横跳びで回避、そのまま片手剣で目玉を切る。
『『『――――!』』』
腕がすべて破壊された状態で、大ファントムは吠え、そして膝をつく。
と、アッシュにまとわりついていた靄のようなものが集まり、先ほどのように漏れ出て塊のように表出した。
「っ、いまだ!」
アッシュの叫び声を受け、リンクは武装を黒い大剣に持ち替えた。
構え直し、溜め、振り回すように回転しながらぐるぐるとその靄の周りをまわり、叩きつける。
その大回転斬りを2回――――砕け散る大剣。
一方、大ファントムはダウンから回復する。
立ち上がると衝撃波を放ち、リンクを弾き飛ばす。
「しっかりしろ、リンク!」
インパが再び「意念」を用いて場内に引き戻す。そのまま転がりながらも立ち上がり、黒い弓矢を構える。
対する大ファントム、アッシュに舞い戻った靄が再び砕けた鎧を回収し、関節に目玉を形成。
そして周囲に落ちた「騎士の武器」を奪い取り、黒々と変質させた。
武装のみでいえば、相手は振り出しに戻っている。
『『『――――!』』』
「気をつけろ! 何か力を溜めている――――」
吠える大ファントムは、全身から赤紫の光を迸らせる。
アッシュの警告の通りか、大ファントムは一歩一歩接近しながらも、両腕を自由自在に使って振り回す。大剣、片手剣を振り回すのと同時に槍で隙間をつくモーションをかけ、かつ盾を構えながら弓矢を放つ。
さすがにこれにはたまらず横転するリンク――――剣についてはぎりぎり避けられても、弓矢で足を取られればそれとて限界がある。
ふたたびポカポカ草の実を貪れど、数には限界があった。
「リンク、受け取れ!」
再び投げ入れられる矢、今度は炎属性のもの。
受け取るリンクめがけて、再び赤紫の光を迸らせ大ファントムが力をためている。
「――――、っ」
もはや猶予は残されていないとばかりに、リンクは「集中」して盾を持つ腕を狙撃――――砕ける弓。
もっとも百発百中は当然と言わんばかり、見事なほどにその一撃で左第二の腕を落とした。
そしてそのままラッシュを一瞬だけかける――――。
『『『――――!』』』「きゃっ」
一撃を受けるアッシュであったが、一撃のみであった。
リンクはそのまま接近した距離を生かし、落ちていた黒々とした盾を拾う。
「――――、いける」
怯んだ大ファントムから走って距離を取り、両手に盾と剣とを構えた。
ある意味で見慣れた騎士の構えであり、しかし武装の禍々しさがその見た目をたいそう悪くしていた。
『『『――――!』』』
「頼む、気を付けてくれ――――」
アッシュの言葉も早々に、再び赤紫の光をチャージする大ファントム。
だが今度は動こうとせず、リンクは武装を構えていた。
初撃――――弓矢が撃たれる。
それを当然のように、リンクは黒々とした盾で「はじいた」。
続いて襲い掛かってくる大剣を横跳びで躱し「集中」、目の前まで下りてきている関節めがけて片手剣で切り込む。
再び落ちる上腕、瞬間の怯みに対して、何かしらの薬を飲料したリンク。そのまま再び強引に「集中」して、左側の残りの腕を斬り落とした。
『『『――――!』』』
うなり声をあげる大ファントム。
当然のように武器を回収し、距離を取るリンク。今度は先ほど投げられた炎の矢を黒い弓に番えて――。
「――――、ぐぁはっ」
しかし流石にそう甘くはない。
残る右半身の腕を総動員して、そしてバランスが悪くなったせいかつんのめるように、あるいは高速で動き、リンクめがけて片手剣、槍、拳が振るわれた。
もっとも相手の動きも余裕があるものではなく、終局が近づいていることを予感させる。
再び弾き飛ばされたリンクを、インパの「意念」は受け止めきれなかった。
そもそもインパ自身、リンクの大きさを加護で受け止めるのは無理がある。
そのまま彼女とプルアの元に、投げ込まれるよう倒れるリンク。
「ちょ! リンリンこっち来たら私たちまでしんじゃうから! 怖いよ~!」
「言ってる場合ですか姉上!
しっかりしろリンク――――」
抱き起されるリンクは、さすがに無表情とはいかない。顔をしかめ、苦悶にゆがめている。
それでも無理にでも無表情に、冷静な様子に保とうとする様はある種、呪いのようでもあった。
「――――、馬でもいいから、欲しい」
もっとも、流石に弱音まではカバーリング出来るほどのものではなかったようだが。インパもインパで混乱しているのか、その様子に何か言うこともなく質問を繋げた。
「馬? なんで馬だ?」
「――――、少しでも高く飛べれば、狙撃しやすいから。飛びたい」
「そうか、じゃあ、姉上に後で何か考えてもらうから、な?」
「ええー!? なんか無茶ぶりされてる気がする!」
この後ロベリーに泣きつくことになるのはともかく、弱音を吐けどそれでも立ち上がり武器を構えるリンク。
インパたちにその後は一瞥もくれず、再び指をしゃぶりながら再エントリー。
『『『――――!』』』
「今だ騎士リンク! この鎧、弱っているぞ!」
再びリンクの入場を前に、赤紫のオーラを放ち始める大ファントム。
相手も余裕はないのだろうが、リンクとてそこまで余裕があるわけでもない。
この時、リンクは初めて矢を外す――――。
「――――、っ」
しかしそこは意地があるのか、ふたたび「集中」して振り下ろされる剣や槍を回避。
そのままラッシュを叩き込み、腕二つの武器を落とす。
その場で槍を手に取り、ゆらゆらしている無手の右手に「投擲した」。
砕ける槍、そして腕全てが再びなくなり、再形成される靄の塊――――。
「――――」
靄の中心には、今度は目玉が存在していた。
先ほどまで落としてきていた腕の関節同様のそれであり、さらに言えばより大きなもの。
それが睨みつけるようリンクを見ている。
「――――、せいっ」
駆け抜け、ラッシュを叩き込み、そしてトドメとばかりに回転斬り――――。
瞬間、黒々としていた剣からも靄が噴出し、霧散する。
闘技場を覆っていた嵐は砕け散り、空は夕焼けが見え。
鎧が砕け散り、アッシュが投げ出されるように崩れ落ち――――。
「――――、大丈夫です?」
「……、嗚呼」
その身を抱きとめるリンクに、精一杯アッシュにはそれだけしか返せなかったが。
それでも、彼女の表情は安堵に包まれて――――。
「――――、食べます?」
「……焼きリンゴの方が」
「――――、残念ながら」
「そうか……」
そして平然と焼いた肉を進めてくるリンクに、苦笑いを浮かべた。
流石にもたれるという判断だ。
ちなみに観客はそんなやり取りが見えず、ただひたすらにリンクの勝利に沸くが、インパなどは端から「えぇ……」といった表情で引いていた。
※ ※ ※
後日、アッシュは近衛騎士の推薦を解かれることはなかった。
もっともすんなりと近衛騎士として復帰できるという訳でもなかったが。
「リンリンとかインパの見た厄災の怨念っぽいやつ? ちゃんと目撃者多数になったから、めでたく承認されました! ということで、今後の研究に費用が降りて、万々歳! うるさいゴーマン大臣とかの魔の手から逃れて、
麗しきこの女研究者も、美人さんな近衛騎士ちゃんも自由の身! ま、とはいえアッシュちゃんの今後の経過はウチで診ることになるから、実質インパの補佐だね~。という辞令だよ~」
「き、恐縮です……。午前中、インパ殿にも伺いました」
「ありゃ、入れ違いだったか……、まいっか」
ベッドで上体を起こすアッシュに、テンションが高いのかプルアは「チェキチェキチェッキー!」とどこか楽しげである。そして手元の装置を動かしながら、何やら「かしゃ」「かしゃ」と音を鳴らしている。
彼女が語った通り、アッシュの処遇は王立研究所の管轄に入った。
以前に報告され切って捨てられていた「厄災の怨念」について、今回の闘技場のファントム騒ぎから明らかな嘘と断じることが出来なくなったのが大きい。
実際に被害が出ており、また証拠品としての「黒々とした王家の剣」が残っているのだ。
なにかしら厄災の呪いが封印されていたのか、その剣自体も既に劣化して、本来の王家の剣ほどの耐久こそないものの。しかしそもそも何かしらのエネルギーにより洗練された武装は、明らかに通常の武器とは強さが違う。
「暫定的に『呪いの剣』ってしておくけど、これに厄災の力が働いてたっぽいってロベリーが報告書挙げたし、今回については国王サマもかーなーり信じてくれたみたいだからね」
「何故なのでしょう……? いえ、証拠品が残っているというのは確かなのですが……」
「そりゃ、アッシュちゃんの普段の勤務態度が功を奏したんでしょ~? お義父さんの擁護がなくても、勤務態度から普通にああいう武器に手を出さないだろうって話もあったし。アッシュちゃんも『いつの間にか持っていた』んでしょ? もうその段階から、なんか操られてる感バリバリじゃ~ん」
「ば、ばりば……?」
プルアの言葉に一部不明慮な形容詞があったものの、それでも自らの行いが評価されていたという事実は、わずかにアッシュの心を軽くするものがあった。
とにもかくにも、その流れでアッシュに過失はほぼないという判定であるものの。一度でも厄災の力に翻弄されたということならば、その影響があるかもしれない。例の暴走したガーディアンのコアよりはまともな扱いであるが、ちょっとした研究対象ということに変わりはなかった。
もっとも近衛からの出向という扱いで、それと同時に騎士としての仕事もすることになる。
少なからずこの処遇に、アッシュは異を唱えなかった。
「実際、私が騎士リンクに武器を振るったことは事実ですからね」
「あ、そういえばリンリンは?」
「先ほど来て、謝罪されました」
「ほえぇ? なんでまた」
「以前、やりすぎたと」
苦笑いを浮かべるアッシュだが、それもそのはずインパ共々来訪したリンク(恰好は上が緑色のハイリア装備一式)であったが。来訪早々、アッシュとリンクで謝罪合戦めいたことが行われた。
リンクはリンクで例によって「――――、……」と無口であり、アッシュはアッシュですまないとか申し訳ないとか謝罪の言葉のみを連呼して頭を下げ続ける状態。インパが取りなし、両者を通訳してようやくまともにコミュニケーションがとれたというところだった。
そのあたりで一通り、アッシュの解釈違いだった部分などの誤解も解けたのだが、総じて意外と朴訥というか、子供な相手だという認識が彼女の中に沸いて出ていた。
そのあたりの勘違いも含めて、いろいろ可笑しかったのだろう。
「何はともあれ、今後とも彼とも顔を合わせるでしょうから。よろしくお願いします。
それはそうとして……、それは?」
「あ、これ? ふふ~ん、ついに動かし方のわかった、小型のシーカー技術端末! 名称は現在募集中のやつだけど、ほらほら! こうして……」
向けられた端末の「画面」に、アッシュは驚く。
そこには今さっきまでの、苦笑いを浮かべていた自分の姿が映っていた――――「描かれていた」。
まるで空間を切り取ったようなその一枚の絵に、その精巧さに言葉を失う。
「何かしら記録をとるのに便利だと思うんだけど、まだまだ未開放の機能とかもありそうで、中々これはこれで謎があったりなかったり」
「それは一体……」
「古の時代、勇者のためにつくられた道具ってとこまではわかってるんだけど――――」
病み上がりとはいえ興味を持ったアッシュ相手に、プルアは饒舌に話を続ける。
一方、ハイラル城に戻ってきたリンクとインパ。リンクが執務室までインパを送る途中、廊下で一人の男とすれ違う。
片目が隠れている紫がかった赤毛と、白っぽい肌。
目は赤く、帽子とマント姿。下はハイリア装備。服は青く、ズボンは赤く染めているようである。
特に何もなくすれ違った、リンクとその青年。
「――――、」
「? どうした」
一瞬、リンクが足を止める。
退魔の剣が、一瞬光り輝き、何か音を鳴らす――――まるで何かと「共鳴」でもしているように。
それは一方の青年も同様であるのか、足を止め、振り返るリンクの方を見た。リンクは無表情であるが、彼は泥いたような顔。そして何か得心したように破顔し、彼に向き直った。
「おや? これはこれは。『退魔の剣』、今代の勇者様ではありませんか。本日はいかなるご用命で?」
「――――、送り届け」
「いや、言葉が足りないからなリンクは……」
「嗚呼、いえ、大体察しました。研究所からのお帰りですかね。お疲れ様です」
喜色満面といった風に、彼は手を差し伸べる。
「私はフグリ――――『星詠み』、占い師の一人です。以後、お見知りおきを」
「――――、リンクです」
握り返すリンクの手を、もう反対側の手で包み込むように握り、何度も手を振る。
「――――我々は、貴方を待ち望んでいました。ぜひとも、このハイラルを滅亡よりお救いくださいませ」
「――――、?」
その言葉には、しかしどこか表情とは違う「重い実感」がこもったよな言葉であったが。リンクは流石に、その意図までは理解しきれない。それでも、占い師は願うように頭を下げ、手を握り、そして離した。
頭を下げて去るフグリ。両三者、それぞれが背を向けて離れ。
やがてリンクとインパの姿見えなくなるころ。
「――――フフフフフ。
貴方も少しは落ち着いてくださいよ。気持ちは、分からなくもないですがね」
どこか苦笑いを浮かべながら、フグリは懐のポーチから一冊の本を取り出す。
土のように玄く、表紙の中央に「赤いひし形の宝石」が埋め込まれていたそれには「黒いトライフォース」の文様が刻まれており。
それはまるで「退魔の剣」に呼応していたかのように、鈍く、赤く、暗く、輝きを放っていた。
×××『――ラヒ――――――マス――――』
リンク「――――、……?」