息吹の叙事   作:黒兎可

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【武器の破損と修復について】
 ゲーム中では破損したらそれまでという扱いだが、流石にずっとそれをやるのは不可能と考えられる(資源には限りがある、またゴロンシティで鍛冶屋が存在する描写がある)ので、ゲーム中では「修理技能がない」ことと「余計な荷物は持たない」描写であると考える。
 ハイラル王国隆盛期であるなら、持ち帰れば当然修復作業がされるだろうという前提で本作では取り扱う。
 ただし近衛兵装などは別(理由は作中登場時に)
 



インパ、精霊に拐かされ彼の者と遭遇する

 

 

 

 

 

 迷いの森と通称されるそれは、常に名前の通り人を迷わしている訳ではない。

 実際、ハイラル王国の歴史を紐解けば、幾度か森の深部へと到達した記録も残っている。でなければコログの存在やデクの樹の存在が今日でも語られることはないだろう。ただここ数十年においては常に霧に覆われており、人が出入りできる気配はない。これを自然現象の一言で片づけるか、何らかの意図をもって行われていると考えるかはさておき。少なくとも時の勇者の伝説においては隔絶された場所であったことは間違いなく、現在においてもそれは同様であった。

 さて。単一色の馬にまたがり、インパと従者十数人は城横、大聖堂を抜けた先を目指した。城の北部を覆う外堀と川を抜け、道中にあるラウル集落を通過。その先、チロリの森のすぐ横が軍の演習場になっている。

 そしてそこから道を一本、ひねりもなく直進して進むことで件の森は見えてくる。

 

 一言で言えば、それは陸続きになった小島である。

 道一本以外、周辺一帯を湖に覆われた島。

 小島と形容するには広く大きく、森自体をまるで強引に外界から隔絶するための措置のようにも見えた。

 

 島の表面一帯に森が生い茂り、霧の向こうにわずかに桜の木が見えるような、見えないような。

 曖昧模糊としたその在りようは、実際はいる者の方向感覚などを惑わせるものであり、気が付けば何度奥に進めど入り口へと返されることもある。

 深部への侵入を拒むのは、他種族に対して傲慢に振舞ってきたハイリア人への歴史的経緯が関係しているのでは、という見方もあるが、そのあたりはインパ親類含む研究者トップ二人は懐疑的だった。

 

「拒みはするけど、一応何か攻略手段とかもありそうなんだよね~あそこ」

「向かうなら、これをユージング、使用すると良いだろう」

 

 そう言って手渡されたのは、小瓶に入った輝く何か。小さい光に羽のようなものが生えたそれは、妖精か何かだろうか。

 

「これは……、妖精ですか?」

「コログたちはスピリッツな精霊、フェアリーな妖精との親和性はソーグッズ! のはず。何かしら導いてくれはするだろうとシンキングだ」

 

 ロベリーの言わんとするあたり、つまるところ妖精が何かしら手助けしてくれるのではという期待に満ちた発言だった。

 なお、実際森に連れてきたところで妖精は特に何も様子変わらず瓶の中をはしゃぐように飛び回っており、この時点でインパは彼の見立てが間違っていることに気付いたりもした。

 

「インパ様、これは……」

「仕方なかろう。私たちで森の深部へと向かう道を探すのだ」

 

 数人の騎士と兵士たちは、なんとも生暖かい目でインパを見る。

 インパはそんな彼らに「すまぬ」と頭を下げながらも、森の方を見やった。

 

「ロベリー殿の見立てが誤っていたのも珍しくはないが、少々骨が折れそうだな……」

「何か秘策がおありで?」

「人海戦術あるのみだ」

 

 そしてインパの返答に、従者一同遠い目をする。彼女のこうして要所要所、必要に応じて他人の手を頼る姿勢は一貫しているが、駆り出される方もまたこのあたりに慣らされていた。人使いが荒いと一概に言えないのは、任せている当人もまたそれ相応、一緒になって右往左往しているからである。

 つまるところ、みんなで頑張ろうという、何一つ対策がない発言でもあるのだった。

 

「まぁ聞くのだ。迷いはすれど、この森にて遭難したという話はない。もとより侵入を拒むというものであっても、人を食い殺すような場所ではないのだろうこの森は」

「しかし、本日はもう日が暮れていますが……」

「何、月光を頼りにしろと言うほど私もライネルような魔物ではない。山岳手前は落石の危険もあるだろう……、森の入り口手前で本日は野営とする」

 

 なお野営地とした迷いの森入り口、何らかの遺跡跡のような周囲で狩りを試みるも、どの方向に出ても必ず入り口に戻されると言う事態には、流石にインパも困惑した。

 まるでなにがしかの意思に「正解以外の道筋は認めない」と突き付けられているような、そんな冷や汗をかく。

 

「インパ様、我々はどうしたら……」

 

 だが、打つ手が限られようとそのままにして良いという訳ではない。頭を抱えて時間を食えば食うほど、城に残してきた二人がサボったり何かやらかす可能性が右肩上がりに増えていくのだ。従者のうち数人をお目付け役に残してきたが、プレッシャーとして機能するのはせいぜい2、3日程度だろう。それまでに踏破、ないし調査を進める必要があるのだから、ある意味でインパの職場環境は無理難題が多かった。

 実際問題、時限爆弾を不発解体できる人員がインパくらいだろうから、嘆かわしい。

 

「……人海戦術以外にあるまいな。そうだな……、燭台を作ろう」

「燭台でございますか?」

「ああ。少なくとも自分たちがどのあたりまで進んだか、景色を変化させる要素が残っていれば識別に齟齬が起きにくいだろう。とりあえず内部に入って直進し――――」

 

 夜半、作戦をこうして立てた翌日の朝。当然のように霧に覆われた台地の前で、インパをはじめハイラルの兵士、騎士たちは、薪だの鉄の台だの、持ち寄って準備していた。

 かかれ、と自らも走り出し、燭台の設置に奔走するインパ。

 試行錯誤を繰り返し、日は既に朝から初めて夕の刻。

 すぐさまの直進は不能である場合が多く、また意図的に逆方向を目指してもダメな場合も多い。かと思えばある程度の時間、何もせず同じ場所にいただけで、気が付けば入り口に戻されているという始末。

 プルアがよく己のやらかしを「妖精か精霊にでも悪戯たずらされたかな~」と言い訳するが、実際問題これこそ妖精か精霊の悪戯であろう。

 

「ここから先か……」

 

 そして、ついにと言うべきか――――燭台を設置「できない」場所が出てきた。

 いや、設置自体は出来るのだが、気が付けば再びその場所で燭台ごと「戻されている」。

 いわゆる、中間地点のような場所というべきだろうか――――途中までは燭台の火を頼りに移動すれば迷うことはあるまいが、これが限界である。

 

「やむを得まい。ここに燭台を二つ立てるか……。後は人力だな」

 

 従者の騎士含め一同、インパ同様にひどく嫌そうな顔をする。

 しかし文句も言わずに捜索の相談を始めるあたり、彼らも彼らでインパ同様に慣れてしまっているのだろう。

 

 それぞれがそれぞれに、別方向。中間地点である個所から歩み始める。

 一人、また一人とその存在を視認できなくなっていく霧――――気が付けば霧が自身の周囲一帯を包み、入り口まで引き戻されていると言うのがここのところ連続しての定番であった。

 しかし、幸か不幸か――――この時のインパは、引き戻されることもなく進んでいた。

 

「これは……、私だけ正解を引いたと言うことか?」

 

 道中、よく見れば風のさざ波が草木をうねらせる。風の吹く方向、弱いものの、それになだれ込むよう、インパの進む先はその行き先であった。もっともその事実に気付けるほど、彼女は冷静ではなかったのだが。

 

「もし記録が正しければ、この先には『デクの樹』様がいるということか……。む――――」

 

 そして考えながら歩いていると。

 猛烈な速度で、インパに何か「巨大なもの」が激突した。

 転び、思わず小刀を抜刀し周囲を見回すインパ。しかしそこには、誰の姿も見当たらない。

 

『痛た……』

 

 否。インパの耳には、キュルルン、とでもいうべき声のような、名状しがたい何かが聞こえてきていた。

 姿は見えない、しかし、この場には何かがいる。

 

「――――」

 

 思わず念動力を発動し、実態のない何かを掴めないか探ったものの、何かを引っ張ったような感触はあったが、引き寄せることは出来なかった。大岩を寄せようとしたときの感覚に近い。

 

『ウワッ、何なに? キミちん! ボクちんが見えるのォ!?』

 

 インパの耳には、先ほどからキュルルンというような鳴き声めいたものしか聞こえない。

 

『キュルン? あ、違ったみたい。あれれ、でもこんなところにいるってことは、ひょっとして迷子ォ?』

 

 キュルルン、キュルルン、名状しがたい鳴き声は続く。

 思わず刀を振るうも、やはりキュルルン、というような声しか聞こえない。

 一体、自分は何を相手にしているのか。名状しがたい怖気が彼女の全身に走る。

 姿の見えない、正体のわからない何かに対する恐怖は、たとえ鳴き声が可愛らしくとも一定の気持ち悪さを彼女に与えた。

 

『どうしようかな。今、たしか「ゆうしゃ」様の試練がそろそろ終わるって言ってたから、お爺ちゃんが人を入れちゃいけないって言ってたしな~。でも、可哀そうだし~』

 

 キュルン、キュルルン、というその声の方向を探ろうにも、迷いの森の霧の効果かどこから聞こえてきているのか判断がつかない。

 

『よし! じゃあ少しだけ魔法を使って、いったんこの子を眠らせてから連れてこう!』

 

 ウィィイヤーハァ!!!

 独特の掛け声と共に、木琴楽器やマラカスを鳴らすような音が続く。リズミニカルに鳴り響くその場は、なんだか不思議とちょっと臭い。

 

 今、一体全体何に巻き込まれているのだろうか。インパの表情はとたん、困惑に包まれ。

 

 ――――ウゥゥッハァッ!!!

 

 ぱん、と何かが爆発するような音と共に、霧がインパの全身を包んだ――――。

 

 

 

 

 気が付くと、インパは小さい孤島で、チュチュに囲まれていた。

 

「……は?」

 

 全く訳が分からなかった。面食らったのも無理はない。

 空は夕暮れ。夜はまだそれなりに遠い。

 大きな枯れ木、その下には焚火があり、古びたズボンやシャツが無造作に置かれていた。

 否、他にも武器が数個転がっている。

 どれも木製で、それなりに強度はありそうだが実用に耐えうるかは怪しいように見える。

 インパはそんな場所で、木に寄り掛かって眠っていたように見える。

 

 

「ここは……」

 

 立ち上がり、背後を振り返れば、霧に包まれた島の姿。正面には崖がそびえたっており、すなわち迷いの森付近であることに違いはないだろうが、果たしてこんな島が地図にあっただろうかと自問する。

 

「いや、それよりも――――」

 

 自分に群がってこようとする、半透明な楕円系の魔物。目がぎらぎらとこちらを見据えているのを確認し、刀を抜き放つ。

 ハイラルの城下町郊外において、こういったチュチュ系の魔物はコウモリ型、キース系の魔物同様にそれなりに多い。

 よって当然のように、インパも対処を心得ている。

 しかし、状況が普段と違うことが二つ。

 一つはチュチュのサイズである。大きい。明らかに普段遭遇するチュチュのそれよりも、体躯は2倍か3倍はある。

 二つはその数。多くとも2体程度が同時に出てくるチュチュが、いきなり6体も出てきているのだ、違和感を抱かない方がどうかしている。

 

「くっ――――」

 

 斬りつけ二度三度、途中途中で体当たりを食らって転ぶインパ。

 しかしすぐさま体勢を立て直し、振り抜くも――――。

 

 金属が割れる音、破損した刃を前に舌打ちするインパ。今回に限っては戦闘はあるまいと、武器のメンテナンスを怠っていた。

 とっさに何か武器はないかと探し、その場に転がってる両手で持ち上げる程度の大きさの石を発見。

 すぐさま加護を用いて、念動力で手元に引き寄せ。

 

「ふっ――――」

 

 横一文字に薙ぎ払うよう、高速でスイング。

 結果で言えばハンマーのような、強力な一撃となってチュチュを葬り去った。

 転がるチュチュの破片、ゼリーと呼ばれるそれをついでに回収するインパ。

 途中、何故か転がっていた琥珀も拾い上げて、そのあたりではたと、違和感を抱く。

 

「私は一体、何故ここで眠っていたのだ?」

 

 迷いの森に来てからの2日間が幻想だと、流石にそこまで現実離れした妄想を抱いたりはしない。

 研究者たるプルアと同じ屋根の下で暮らしていたせいか、彼女もそれなりにリアリスト思考である。

 とするならば、「彼女の認識では」先ほど激突した、あの正体不明の何かが原因だろう。

 

「あれは、コログ……、アレがコログ?」

 

 自分と追突した相手について、視認こそできなかったものの。状況証拠からインパは、相手がそれなりに大きい相手であると推測している。

 故に、一般に言われるコログ精霊のイメージ、赤子ほどのサイズであるそれから大きく外れていることにより、なおのこと彼女の混乱が加速した。

 

「まぁ良い。少なくとも死んでいないのだから、やりようはあるか。早いところ入り口の方に戻って合流しないと――――」

 

 そして次の行動計画を立て口にしていると。ざばん、と下方向から、何かが水中から這い出るような音。

 瞬間、その気配、生物の気配にインパは警戒をする。

 ボコブリンやモリブリンではありえまい、奴らは水中で溺死する。

 であるならリザルフォスだろうか。少なくとも森付近で目撃されたという情報は聞き及んでいないが……。 

 

 果たして、インパが見たものは。

 

「――――――っ」

 

 崖から上がってきた何かに、インパは思わず絶句した。

 まず小島の果て、岩場から登ってきたのは、木の葉のお面であった。表情は半分しょぼけているような、どこか寂しそうなそれ。デフォルメされたそれを前に、一瞬、それこそよく言われるコログかと身構えた。コログがデクの樹の葉でお面を作っている、と記録されていることを思い出したのだ。

 だが、問題はそこから先、というか下。

 びしゃびしゃと水に濡れたその姿は、一言で言えば「ハイリア人・男性」であり、そして「裸」である。

 流石に局部の下着はつけていたが、それにしたってそれにしたってである。背負った剣とベルトはともかくとして、身長、身の丈や体躯の具合からいって少年であり、インパと同年齢くらいのように見えた。

 

 そしてそんな相手を前に、インパは左手で顔を覆い、もう片方の手で指をさした。

 

「き……、貴様! そ、そのような破廉恥な姿……! は、は、恥を知れっ」

「――――?」 

 

 インパの反応を前に、不可思議そうなお面の少年。

 なお彼女の視線はちらちらと、相手の体を見たり見なかったり。

 

 カカリコ村を出て二年、思春期における同年代の男性との接触が少なかった彼女である。免疫が致命的に足りないらしかった。

 

 

 

 

 

 




【独自設定補完】
時の神殿と地理関係について・・・
・BotWの制作裏話のインタビューにおいて、当初カカリコ村と迷いの森の位置関係が逆だったという話に由来。この設定を拾うため、時の勇者の伝説を強くフィーチャーしたかったため、本作では当初マスターソードは時の神殿に放置されていたとして扱う
・なお、この位置関係が変更されたことにより、BotW本編がどのルートの未来の話なのか、推測がさらに混乱することになるのは余談。地図で比較すれば現行は神トラ2の立地関係に近いのだが、当初設定を採用すると時オカに近くなる
 
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