息吹の叙事   作:黒兎可

5 / 22
【厄災と魔物の影響について】
 本作においては厄災がまだ復活していないため、その影響を特に受ける魔物もまた弱体化されているとして取り扱う。具体的に言うと以下の変更がある。
・スタル系魔物なし
・基本的な魔物は赤~青まで。黒以上はボス級で白銀はなし(※退魔の試練除く)
・ウィズローブは1段階
 ただ復活の兆候はあるため、徐々に徐々に魔物のレベルが上がったり、スタル魔物が誕生したりといった変化が発生しつつあるという状態。マッコレ島において発生していたのは、たぶんBotW2で地下ダンジョンに何かしら仕込みがあるだろうと期待してのものなかったらすまんかった


インパ、彼の者の生態に置き去りとなる

 

 

 

 

 

「なんとか躱せたか。酷い目に遭った……、み、見るな破廉恥なっ」

「――――?」

 

 マッコレ湖に沈んだ二人はそのまま水流により、無難に大地へと漂着した。

 雨中、がけ上りに何度か失敗しそうになりながらも、かろうじて脱出できた二人。

 直進すればアルダー台地へつき、目を凝らせばククジャ谷が見えそうでもある。本心でいえばそのあたりでオルドラ――――巨大な火をまとう龍を見たいという衝動にかられるインパだが、そうは問屋が卸してくれない。本日の行軍は間違いなくそこまで暇ではなく、またこの少年を同伴してというのもどうなのか、という謎の違和感もあったためである。

 なお水中から上がり、水が張り付いた己の体を抱くようにして彼に背を向けるインパである。視線から逃れはしているだろうが、いかんせんコログのお面越しに相手の視線はよくわからなかった。

 そしてさらに言うと、上った先で少年は彼女の腕をつかみしゃがむ。

 

「な、何を――――!?」

「――――、ヒノックス」

「は?」

 

 少年の視線の先、まぁ仮面越しゆえおそらく視線の向いてるだろう先になるが、ラミーン平原にかけてヒノックスが眠っていた。巨体、一つ目の巨人たる魔物はその大きさに違わぬ強力を持つ。兵士訓練所の最終試験でヒノックスとは戦うのだが、それにしたって武器を潤沢に与えられてであり、普段はスリーマンセル以上で戦闘に当たるのが普通だ。

 どう考えても現在の装備、状況で戦うべきではない。

 

「――――わかった、静かに、慎重に行こう」

 

 おおむね彼の言いたいことを察して、インパも息をひそめた。

 方角を確認し、エルム丘陵にそってしゃがみながら進む二人。

 ヒノックスからある程度離れた時点までいくと、ちょうど雨が止む。

 ハイラル城裏面、外堀の架け橋を道中通過する道中。狼やらキースやらを森人の剣で切るインパは、意外なその性能の良さに驚いた。

 

「これは……、見た目以上には使えるのだな」

「――――、もともとヒト用に作られたと聞いた」

「まぁ確かにそうなのだろうが……」

「――――、リンゴ」

「ん? あ、おい、ちょっと待て――――」

 

 道中、リンゴの木を発見するとインパの動きなど無視して寄り道する少年という一幕もあったりなかったり。仮面越しではあったが、ちょっとほくほくしているような印象を受ける、両手いっぱいにリンゴを持った少年。ポーチにしまい込む彼を前に、なんと無軌道な、とインパは姉とはまた別方向の頭の痛みを覚えた。

 

「――――、ホタル」

「――――、ツルギダケ」

「――――、バッタ」

 

 なおリンゴの木に限らず、少年はとにかく無軌道に寄り道を強行し、インパは振り回された。ちょっとした小さい子供が、祭りの出店に目移りし迷子になるさまを連想する。しかも何が頭痛の種かといえば、それで時間を長時間食うわけでもなく、高速で取得しポーチに仕舞うからである。下手に文句を言うわけにもいかないというべきか、しかしそれでも極力減らしてくれとは苦言を呈するインパ。少年がそれをどれくらい真面目に受け取っているかは、仮面をとる気配もなくわからない。

 一瞬、強引にそれをはがしてやろうかと思いはしたものの、そうすると同い年くらいかの異性の顔形に手を触れることになるわけで、そういったことに恥ずかしさを覚えてインパは実行しなかった。免疫なさすぎである。

 そして夜半より前、ラウル丘陵に差し掛かるころ。見下ろしで確認できる演習場がにわかに殺気立っている様子なのをインパは目撃した。

 沼地の周辺、くぼんだ地形を這うように組まれた木の足場と、その下方、チロリの森側にあるベースキャンプを見れば。夜間の演習が中止されており、キャンプの方は兵士たちが集まって部隊を鼓舞している。

 

「何があった?」

 

 疑問を抱きながら少年を伴い移動するインパ。

 と、隊列を組んだ兵士たちの前にインパが現れた瞬間、全体からどよめきが走った。従者の騎士が駆け寄ってくる。

 

「い、インパ様!? よくぞご無事で……!」

「何だその、戦死者でも探しに行くような雰囲気の物言いは……。何があった?」

「あったとおっしゃられましても……」

 

 しばらく兵士たちと会話をしてみも、何か要領を得ない。致命的な齟齬があるような、そんな会話である。

 と、そんなタイミングでお面の少年が気づいたように。

 

「――――、時間が合わないのでは?」

「時間……?」

 

 そこで、はっと我に返るインパ。脳裏に少年が語った時間のずれの話が走る。

 

「……すまないが今日の日付を教えてくれ」

「は? はい、かしこまりましたが……」

 

 そして語られた日付と、インパの認識していた日付に8日のズレがあったことが、決定打であった。

 よくよく問いただせば、つまりここに集まった兵士たちは調査部隊、迷いの森で失踪したインパの痕跡を(おそらく死んでいるものと仮定して)調査に向かうため編成された部隊だったとのことだ。

 

「…………ああ、一週間も放置してしまったことになるか、結果的に。姉上たちが一体何をしでかしているだろうか」

 

 まず自分の進退よりも、ハイラル城の安寧を憂うインパはまさに執政補佐官の鏡であろう。別名、姉のしりぬぐいとも言う。

 事情を話しているインパの隣で、少年は兵士たちに歩み寄る。手を挙げてどこか親しそうな雰囲気だ。が、兵士たちが何かを察したように「ひィ!?」と悲鳴を上げて数歩下がる。まるで彼の姿に、何かを察したように恐れおののいているようだ。決してコログのお面をつけている変人に対してというだけの扱いではあるまい。

 

「――――、鍋はどこに」

「あ、あっちだ。早く行ってしまえっ」

 

 しっし、と追い払うような動きをする壮年の兵士。3部隊の隊長各であるらしい。

 そんな彼らに頭を下げることもなく、少年は森より手前の鍋に走る。

 

「――――とにかく、そういうことだ。事実だが証明ができないのが厄介だな」

「いえ、しかし我々一同、信じましょう貴女様の言葉を」

「感謝する。これも日ごろの行いか……、っと。ひょっとして夕食はすでに終えているか?」

「はい。さきほど保存食を全員で軽く」

 

 と、事情説明を終えたインパがその背中を視線で追う。部隊全体の統括隊長たる兵士も頭を抱える事態であったが、ことはそれ以前の問題だ。鍋周辺に居た兵士たちに何かを話しかける少年だが、得られなかったのか、ポーチから何やら取り出す。

 

「……って、おい、ちょっと待てっ」

 

 声をかけて階段を飛び降りるインパ。ちらり、と彼女の側を向く少年だが、その手に持っているものが問題だった。

 

「その薪は一体、何に使うというのだ。気のせいでなければ鍋に放り込みかけていたようだったが……」

 

 インパの言葉通り、少年の手には巻の束が一つ。

 一体何を試みようとしていたのかこの男。まさか、食うのか? 薪を食うつもりなのかこの男?

 冷や汗を流すインパであったが、その恐怖感は周辺の兵士も同様である。当たり前だがハイリア人は薪を食うようには出来ていない。そりゃ無理に食べれば食べれなくはないが、消化不良は起こすし、それ以前の問題として薪は食べ物ではない。

 しかし少年は首肯し「大丈夫」と続ける。

 

「――――、火を入れれば」

「いやその理屈はおかしい」

 

 ごもっともである。しかし少年は薪をしまおうとはしない。どうも彼の中では、薪は食べられるものとして分類されているらしいようだ。一体どんな過酷な食糧事情に至ればそんな極端な発想に至るのだろうか。というかそもそも食べられるのか? 想像をして全く食指が動かないインパは、頬が引きつるほかなかった。

 

「――――、やぎのバターときび砂糖」

「何?」

「――――、欲しかった」

「まぁ兵糧には無駄を作るなと口酸っぱく普段から言ってはいるが……」

 

 ちらりと鍋周辺の兵士たちを見る。びくり、と三人ほど気まずそうに、居心地が悪そうにしているのはどういうわけか。あくまで上司からの指示に従ったという立場であろうに、そういう振る舞いということは、要するに少年に対して意地の悪い態度をとった結果ということでもあるだろう。

 

「……仕方ない、私の私財から後で補填するから、出してやれ」

 

 かしこまりました、とその3人が足早に、逃げるように移動する。ようやく薪をしまう少年だが、お面越しの視線から何故か「意外とイケるのに」みたいな雰囲気を感じとり、インパは冷や汗が止まらない。少なくとも、薪を食べて飢えをしのげる、などという慣例をハイラル軍には作っていけないだろうと、財務補佐も受けもつ彼女は固く心に誓った。

 やがて持ってこられた材料を前に、少年は手早く料理を始める。

 ざっときび砂糖を絞り、水分を多量に含んだ砂糖汁を絞る少年。それをざっと火にかけながらリンゴの芯をくりぬき(驚くことに素手である)、バターを切り詰める。また少量バターを砂糖汁に落とし、ざっと加熱。手際が素早く、実際の料理時間よりも明らかに早く感じるそこから漂う香りは、周囲に大層な食事によるテロリズムをしかけていた。

 木皿にそれらを手早く盛り付け、「おぉ!」と楽し気に声を上げる少年。

 意外なほどの器用さで、上手に料理する様はインパをして唖然とさせるものがあった。

 

 リンゴバターである。

 あからさまに美味しそうである。

 

「――――、食べたい?」

 

 周囲に視線にふるも、しかし兵士たちはなぜか少年の好意(?)にあやかろうと思わない。いらん、と物欲しそうにしながらも叫ぶ兵士たち。

 そしてそれは、インパも同様だ。いかんせん、彼女とて乙女。甘いものは別腹である。おまけに時刻は夕食も過ぎている。やや遅めの昼食(彼女の認識では昼食)後のインターバルに、これはなかなか厳しいものがあった。

 だがここで彼からリンゴバターを奪うということは、つまり彼が薪を使って料理するということに他ならない。そのままリンゴを素直に焼かなかったあたりからも、そのあとの行動が読める。つまるところ食べたいものを食べたいから作ったわけで、なければ薪を食べるのだろう。正気ではあるまい、一体あの迷いの森は彼にどれほど酷な食生活を強いてきたのだろうか。しかしその上で逞しく食事をとるこの少年は一体何なのだろうか。様々な葛藤がインパの脳裏をよぎる。

 

「くぅ……、い、いらない……」

「――――、」

 

 と、出来立てのそれを何らためらいなく一瞬で平らげる少年である。ハイラルバスの時とは大違いで、全く惜しむ様子はなかった。むしろ一瞬で飾り付けまでされたリンゴバターが消失したことに、周囲の方ががっかりしてるくらいである。

 そんなことを思っていた彼女の前に、少年はリンゴをさっと取り出してじゅうじゅうと焼き始めた。さきほどのきび砂糖の汁がほんのり残っているそれで焼かれるリンゴは、これまたそれなりに良い匂いである。

 それをさっと、インパに差し向ける。

 

「わ、私にか……?」

「――――どうぞ」

 

 半ば彼の妙な雰囲気に置いてきぼりにされていたインパであったが、これには素直に感謝し。

 同時に何故か釈然としない感覚があった。

 

 

 

 

 

 




【独自設定補完】
インパの役職について
・メインは古代遺物、伝承など厄災に対応するための研究局全般の管理権限を有していた、として取り扱う。つまりは最高権利者であり最終責任者。内容は総務統括、人事、経理(財務)がベースである
・ただしゼルダと親しかったという事情を含めて考えれば、それ相応の役職でないとやっかみも存在した前提があるので、執政補佐官として他の業務にもそれなりに対応、顔を広げていたものと取り扱う(特に財務)
 
【解釈元ネタ】
・マスターワーク、プルアのセリフ、およびカカリコ村の運営状況、本人の発言より
・もともとお目付け役としてインパを上司に置いていた旨の発言がプルアよりあり、またゼルダとそれなりに親しかった以上は関係各所に顔が広かったと類推。のちに村の運営やらプルア、ロベリーたちへの補佐派遣の具合を考えると、1局というレベルでなく業務は多岐にわたっていたと考えられる。つまり、それなりに有能であったが故に各所別業務のサポートに回ることも多くあったと仮定できる
・財務系に強いという扱いについては、もとより研究職を締め上げられる立場で一番打撃が強いのが予算関係の取り仕切りであるという筆者の素人判断に由来
・近衛兵装関係は本編に出てからまた別途記載
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。