息吹の叙事   作:黒兎可

7 / 22
※今回は前書きコラムなしです。
※退魔の剣関連の記述をすっかり忘れていましたので、追記しました;


インパ、事後処理に追われつつ音色に耳を傾ける

 

 

 

 

 

 事の次第についてインパは火急速やかに整理をして報告をしたものの、その結果が芳しいものかどうかはまた別問題である。

 プルアやロベリーからの証言を照らし合わせるなら、まこと珍しいことに今回は二人のやらかしではなかったのだ。実際、二人は失踪していたインパに関する調査のため、時の勇者関連の情報を調査したり、あるいは退魔の剣についての調査だったりとを行っていたくらいである。それが解放されたのが当日朝方であり、基本的に小型ガーディアンの武装の解析作業にロベリーが戻っていたくらいだ。珍しくプルアは仕事を放置して(資料片付けにかこつけ更に趣味の調査をしていたとも言う)妹の帰りを待っていたくらいで、落ち度らしき落ち度は見当たらないだろう。

 だが実際問題、ガーディアンが通常ありえない挙動をした事実が残っている。基本的にその手のミスはしないロベリーたちではあるのだが、普段の心証が悪すぎることもあり、証言は信じられなかった。

 リンクの方はリンクの方でまた別の問題が出てきているのだが、それはともかくひとまずはインパをはじめ研究局の面々である。

 

「うがああああああああっ!」

「姉上、もう夜ですから声を抑えて」

「だってだって! もうちょっとで『無双の勇者』についてのとっかかりが出来そうだったのに!」

「何をお調べになられてるのですじゃ……。というか、無双の?」

「そ。現ハイラル史、および郷土資料的に外典的な扱いになってるやつっ! あぁんもう口惜しい! あのゴーマン大臣めっ」

 

 数日経った現在、ベッドでごろごろしながら絶叫を上げるプルアは、インパやロベリー共々、軍の駐屯地まで追いやられている。曰く場内の備品整備を大臣主導で執り行う、曰く関係者が内部に立ち入っていると細工をされかねない、曰く現在の両主任は信用がならない、などなど。なお研究局の人員を何人か引っ張っていくため、先方が全く知見のない状況での調査とはならない。

 ともあれ軽い軟禁状態である。室内で拘束されるわけではないが、駐屯地からせいぜい交易場程度までの範囲だろう。プルアとインパは同室、ロベリーは別な場所。とはいえ三人とも提供された場所は石造りの建造物、その最上階たる5階であるので、屋上に出ないこの見晴らしなどはそう悪いものではない。城下町から引き離されてもの寂しいという点を除けば。

 場所は離れたとしても仕事がなくなるわけではないので、インパはインパで各方面の手続き書類にサインしたりといった仕事や、今回の被害状況に対する対応などの残務処理を行っている。

 そんな彼女の背後で、仕事兼趣味を取り上げられたプルアは悲鳴に近い叫びをあげていた。

 

「あの大臣、口出ししてもセンスないのにさ~。前も嫌味言ってきたし、というかお姫様相手にすらあの調子だから、ちょっと嫌な感じっ」

「不敬に当たるのではないですか?」

「そういうことでいちいち首撥ねられる政治体制じゃないでしょ? 今って。公証ではトライフォースは『血筋にて結束』してるとされてるし、その分力が強いからこそ政治的な発言力を自ら沿いだってさ。

 あ゛~~~~、でもなんだか、『黄昏の勇者』の時みたいな感じになってない!? 今のハイラル軍だって十分平和ボケしてるし、ねぇ!」

「そう問い詰められましても……」

 

 プルアはプルアで、現状のハイラルの政治状況などからいら立ちを覚えているらしい。「危機感が足りないって、怖いよ~」といつかのように頭を抱えてベッドの上で震えていた。

 

「何かぁ、大事なことを見落としてるような気がするって言ったら良いかな……。失伝してる『石板の代行者』の時のとか、そりゃ1万年も放逐されててむしろこれだけ情報残ってる方が凄いのかもしれないけどさ? でもいかんともしがたいというのはあるのよ……。

 そんな感じで、今回のことだって絶対単なる整備不良とかじゃないからね、たぶん…………」

「大事なことですか……。そういえば」

 

 直近、思い出したことをプルアに語るインパ。ガーディアンが破損したとき、何かおどろおどろしい靄のようなものが這い出て霧散したと。それを聞いて、プルアは不思議そうに頭をかしげた。

 

「リンリンもそんなこと言ってたかなー。ロベリー情報だけど」

「リンクでしたか? 彼もですか……」

「調査段階で無理やり切り上げられたから情報不足だけど……、ひょっとして、厄災の怨念でもとりついていたのかしら」

 

 だとするとマズくね? とプルアは表情を引きつらせる。

 対策とか考えようがないじゃないと呟く彼女に、インパもつられて表情が凍る。

 

 もしかの厄災が現状、発掘されているガーディアン全部を乗っ取りでもしたら、それだけでハイラル軍の戦力は大幅に削られるのだ。

 

「――――――――最悪、乗っ取られてもいいように、ロベリーと相談だな~。攻撃兵器を作るべくか……。インパが提出した近衛兵装の抜本強化も案としちゃ悪くないんだけど、そっちだとリーチがまだまだ足りないし、もっと爆発的な威力が欲しいか。

 う~ん……、こういう風にシリアス続くのって嫌なんだよね、チェッキーできないよ~」

「しないで構わないのじゃ」

「テンション下がるなー。

 んー、でも、私たち見えなかったんだよねそれ。だからインパたちの証言だけだと弱いかも」

「私たちだけ……?」

 

 少なくとも今回の一件について、彼女たちの身を守るための証言としては弱いのは確かだ。客観的に観察できないと言われてしまった以上は仕方ないところである。

 

「案外、加護持ちだから見えたとか、そういうのがあるのかもね」

「加護ですか。私はともかく、リンク殿も?」

「うんうん。『アレ』を指して加護無しとはとうてい言えないっていうか、言いたくない」

 

 気持ちはインパとてわかる。あのまるで御伽噺か神話から出てきたような猛烈な戦いぶりは、筆舌に尽くしがたいものがあった。

 

「一番怪しいところで、時の神殿、光の賢者ラウルあたりが怪しいんじゃないかな~とにらんでるけど、さてどうかね」

「どうかねとおっしゃられましても……」

「ま、だからといって証言の弱さに変わりはないんだけど」

「いえ、証言の弱さは身内ですからね、私は……、っといっても、リンク殿は?」

「あー、リンリン浮いてるからねぇ大前提として……。そもそも話すら聞いてもらえないのかも」

 

 浮いてる、というところがいまいち理解できないインパ。

 

「同年代同志では戦えはしないでしょうが、いくらあれほどの戦力といえど、騎士見習い、訓練兵でしょう?

 それこそ他の兵や上官、騎士たちが相手をするのでは……」

「そのあたり、リンリンけっこうややっこしいんだよね。まぁ理由の一端を私が担ってしまってるのがアレだけど」

「姉上?」

「べ、別にリンリン本人に対してやらかしたってわけじゃないよ?」

「でしたら、お話をするのじゃ」

「最近妹が怖いよ~っ」

 

 いくら頭を抱えようと、逃がすインパではない。

 ともあれ、プルアが知る範囲、噂の範囲でのリンクの情報を彼女は知らされた。

 

「もともと騎士系の家系で生まれて、まぁその流れでまぁハイラル軍に入ってきたらしいんだけど、ずっと無表情であんまり自発的に動いたりしゃべったりしないじゃない? 当時からまぁ不気味だって言われてたみたい」

「……? まぁ、続けてください」

 

 インパの脳裏には、かなり自由奔放に振舞っていたリンクのお面姿が幻視されるため、プルアの言い分に違和感があった。とりあえずそれに言及はせず、話の続きを促す。

 

「まぁ顔がイケメンなのも、やっかみの理由だろうけどさ」

「イケメンて……」

「いやいや、言っちゃ悪いけど私もインパも顔形きれいだって自覚は持っとかないといけないわよ? 逆に変な軋轢生むから。そういうの気にしないで接してくれるのって、プリカのおばちゃんくらいだろうし」

 

 なおインパの同僚、執政補佐官のプリカ女史はかろうじて存命していた。現在集中治療中であるが、意識は戻っており回復の見込みはあった。

 

「その点、リンリンはずっとお澄ましさんだから、見下されてるような感じがするんじゃない? よくわかんないけど」

「少なくとも姉上を相手にした場合は、小ばかにされてると感じることもあります」

「ええ!? なんでなんで、こんなに可愛いのに! チェッキー!」

「やらぬ。あと声量落としてください……」

 

 若干、変な動揺があるのかテンションがおかしいのか、インパの口調も迷走していた。

 

「そんな風に思われる態度の上で、腕っぷしもすんごく強かったってことで、同年代とか訓練兵の間でも浮いてたんだろうね~元々」

「強いのはわかりますが、さすがに今ほどではないでしょう……」

 

 そしてインパ自身、そんな話を聞いたような聞いてないような、と何か思い出した感覚がある。真面目に取り合わなかったのは、話があまりに荒唐無稽だったからだろう。

 

「詳しくは知らないけど、なんでも、四歳だか六歳だかで近衛兵相手に一撃与えたーとか、ゾーラの里でライネル討伐のトドメに矢を射撃して命中させたーとか、小さいころから熊を刈るのが趣味だーとか。真偽は知らないけど、変な噂も多いし」

 

 一体そんな低俗な陰口を流すのは誰だと、ハイラル軍の民度に頭を抱えるインパ。

 そして、姉の言葉の微妙な言い回しに気づく。

 

「……もともと? ということは、何か決定打になる事情があったということでしょうか」

「あー、そだねー」

 

 ひたすらに視線を逸らすプルア。そんな姉の顔をつかみ正面を向かせるインパ。

 眼鏡を取り上げ、顔を近づけ。こうしてみれば、なるおhど確かに姉妹だろうということがわかる程度には、顔立ちが似通っている。似通っているが、浮かべてる表情が正反対すぎてもはやそんな次元ではない。

 

「話すのじゃ」

「その前に離して! 怖い怖い、その顔は姉に向けてよい顔じゃないよ!」

 

 日ごろの行いを省みないプルアである。インパもそれはそれは凄惨な笑みのまま、無言の圧力。やがて迫力に根負けしたのか、プルアはため息をついて話した。

 

「……インパが登城した日、覚えてる?」

「ええ。姉上がやらかしてました」

「そのときね? その、小型ガーディアンの頭使って、いろいろセンサーの検証してたんだけど……」

 

 そういえばそんな話もあったな、とインパは思い出す。確か王の前に「失敗した」だのそんなことを言いながら、姉が駆けてきたのだ。よくよく考えればなぜあのタイミングで駆けてきたのか、そもそも射撃音の直後にたどり着いたという点で、明らかにおかしいだろう。距離があまりに遠い。

 

「いや、それはまぁ、後でってことで……。ほら、その時のビーム照射なんだけどさ? 止めたの、リンリン」

「……つまり」

「撃ち返したのよ、あの子」

 

 その辺に落ちてた鍋の蓋で。

 プルアの言葉に、しばしインパは思考停止した。

 

「…………ふた?」

「うん。ふた。私はほら、光線が射出されるよりもだいぶ前にヤバいの感じて逃げ出したから、見たのはロベリーだったんだけど」

 

 ちょうど訓練兵たちが登城、行軍の隊列編成の訓練中だったらしい。

 時間は昼を過ぎていたが、彼らにとってはちょうど昼食時でもあり、全員がその手に食事を持っていた。

 三の丸近隣のあたりで、遠方、ゼルダ姫の私室からかなり下方向の位置で実験中の小型ガーディアンから照射されたそれ。

 威力で言えば大型ほどではないだろうが、当然それなりに危険性は保持している。

 直撃して打撲を負い跳ね飛ばされる兵士やら。 

 盾を構えて防御するも前進できず、数発砕かれる兵士やら。

 

 そんな中、リンクは食べ物を食べながら、ガーディアンの動作を観察。

 あるタイミングで、その場に落ちていた鍋の蓋――おそらく調理に使ったそれだろうが、それを手に最前線に立ち、打ち返したとのことだ。

 

「私もちょっと耳を疑ったけど、実際にやってみせてくれて、まぁ、やっべぇなこいつ! って感じ? 正直、退魔の剣に選ばれたとか言われても違和感ないって言えばないなーって」

「確かにそれは凄いのですが、それで……」

「あー、うん。だから、それが直接の原因。それをやっちゃったもんだから、リンクの評価は明らかに『頭角を現している訓練兵』から『バケモノじみた何か』になっちゃったわけ。もちろん全部の兵士とかがそれを知ってるわけでも、思ってるわけでもないだろうけどさ。でも同期とかはみんな、そんな風な扱いだったんじゃないかな」

「…………」

 

 一見して何を考えているかわからない、凛々しい少年。

 剣を握れば兵士どころか大半の騎士を打ち負かしかねない力を持つ。

 さらに言えば、現代人が太刀打ちできると思えないほどの、古代の守護兵装すら相手取り勝利しうる。

 

「それまで一応、上官とかが訓練をみていたらしいんだけどさ。それすらなくなったって。怖がられたって、あの調子で言ってきてさ。最終的に、近衛騎士隊長が、深夜にたまーに相手するくらいだったらしいよ」

「……」

「だから居なくなっても、誰も問い詰めなかったって言うか。辛いと言われれば、まぁ辛いだろうなってなるし。当然、心ない悪口も色々言われたみたいだけどさ。

 まぁ帰ってきた様子見る限り、本人、全然応えてなさそうだけど」

 

 コログのお面が壊れたのを見た時の、少年の言動を思い出すインパ。

 あの瞬間から、少年の表情はかなり無に近いそれになっていなかっただろうか。プルアはそれに気づいていないのだろうか、ひょっとしてそれは、迷いの森からずっと帰ってくる間、一緒だった自分だから気づけたことなのだろうか。

 それは、つまり――――。

 

「――――戻ってしまった、ということか」

 

 おそらく、道中のそれが元の性格で。

 兵士、あるいは騎士として振舞っていた頃が、その得体のしれない存在であって。

 

 とりあえず「失敗を確信して止めることもなくいの一番に逃げ出したプルア」に折檻をしはしたものの、心のうちはなぜか晴れない。疑問が解消したという類のそれではなく、このもやもやは何なのだろう。

 誰かに告げようもない、言葉として表現できないその感情。

 

 仕事を続けて気が付けば夜半を回り、姉はすやすやと寝息を立てている。窓から外を見れば見張りの兵士たちも、うとうととしているように見える。

 

「私も寝るべきだろうな……、ん?」

 

 ふと、机から立ち上がると、音が聞こえた。

 笛のような音色のそれは、ある一定の音階を続けて鳴り響いている。

 わずかに聞こえるそれは、どこかは分からないが上の方角から響いていた。

 

「見張り台だろうか――――」

 

 かくして、そこに居た。見張り塔の屋根の上、交代要員なのかリンクはなぜかそこに居て、月を見上げながら両手を合わせていた。指笛か? いや、それにしては音の反響が綺麗だ。まるでオカリナでも吹いているようなその様に、月光の下で遠い目をしている彼の姿に、なぜかインパはしばし囚われた。

 なぜだろうか、少年が奏でるそれは、聞いたことがないのにどこか懐かしいような。

 それこそ小さな子供の頃にでも聞かされたかのような、そんな錯覚が――――。

 

「――――っ、私は何をやってるんだ……」

 

 頭を振り、姉の隣に腰を下ろして寝ようとするインパ。何か見てはいけないものを見てしまったような、そんな気がした。だが依然、妙な脈動が彼女の意識を覚ましたまま、寝かせてはくれない。

 上半身を起こし、軽くこめかみを抑えたインパはしばし沈思黙考し――――。

 

 

 

 

 

「――――♪」

「……何の曲だ?」

「――――、!?」

 

 がばり、と。突如、塔を上ってきたインパを前に、リンクはなぜか驚いた様子だった。ハイリア兵の鎧に赤いバンダナ、雪道でも走るようなブーツをはいている。服装のセンスはあまりないなと、苦笑いしながらその隣に座った。

 

「無理に聞きたいわけじゃないが、なんだか、郷愁を誘われたのでな」

「――――、寂しくなったら、吹いて思い出して欲しいと言われた」

「誰に?」

「――――」

 

 少年の視線は、森の方を向いている。

 

「――――、トモダチ」

「………………そうか」

 

 彼を森へと導いた、マスターソードを運んだだろうコログのことだろうと、インパは当たりをつけ。

 そして、彼が明確に「寂しい」のだと、その言動から理解し。

 しかし、それ以上の言葉を重ねることはしなかった。

 

 只でさえ孤独。それ以上に――――退魔の剣に選ばれたこの少年の横顔は、無表情ながらどこか悲しげに見え。

 

「――――♪」

「…………」

 

 再びその曲を吹き始めるリンク。

 特に理由はないが、インパは少しだけ、彼との距離を詰めた。

 

 深い意味はない。深い意味はない、はずだ。

 

 

 

 

 

 




【リンクの装備(現時点)】
 服:クライムバンダナ、ハイリア兵の鎧・スノーブーツ
 武器:マスターソード、森人の剣、槍、弓、盾、コログのうちわ
 道具:リンゴ、薪、バター、ポカポカ草の実、火打石
 大事な物:壊れたコログのお面、スタルキッドのお面、賢者ラウルの集中
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。