魔法少女リリカル未婚の母(シングルマザー)   作:那智ブラック

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 ラブコメ書く時はね、脇ヒロインに邪魔されず自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ
 ヒロイン一人でハーレム無く静かで一人に描写豊かで……

 そんな訳で多分ハーレム無しのラブコメです。なお作者がサウンドステージを知らないのでその内容をすっ飛ばして代わりにオリ主がいるパラレル世界としてお読みください


皆の事情
高町さん家の事情・前


 高町なのはという女性がいる。

 というか、目の前に居た。物凄く安っぽい木のテーブルを挟んで対角でジョッキを呷っている。凄まじい飲みっぷりである。確か20になったばかりだというのになんなんだろう、これは。

 

「……高町、大丈夫?」

 

「ふぇっ?」

 

 ジョッキを置いて首を傾げる彼女は愛らしい。愛らしいのだが、泡の髭がついている。パーティーならHAHAHAと笑いが巻き起こるところだが、残念ながらこのテーブルについているのは俺と彼女だけだ。周りのテーブルにも人はいるが、皆思い思いに飲んでいる。

 居酒屋である。時空管理局本局にほど近い場所にあるうらぶれた路地裏の先、そこに居酒屋『のむらや』はあった。彼女と同じ次元世界『地球』から来た夫婦が営んでいるお店だ。彼女の故郷の料理も再現されているようで、地球出身者やマニアックな方々の客足は途絶える事がない。

 

「呑み過ぎ、じゃないの? あの子もいるんでしょ?」

 

 だがしかし、だ。呑みっぷりのいい子は嫌いではないがそれでも眉をひそめてしまう。

 そう、何を隠そう彼女には子どもがいる。そこらへんの事情は複雑らしくまだ詳しい事は聞いていない。聞いてないのだが、いる事はいる訳で。

 

「ん、教会の人たちに任せてるから……あ、ゲソのからあげひとつー」

 

 そんな風に聞き流す彼女を年長者として叱らなければいけないのだけど……やっぱり可愛いなぁと思ってしまうのだった。

 

 俺の名前はタロー・メリアーゼ。タローとは俺の故郷の言葉で『聖霊の加護』という超ありがたい名前なのだが、それ含めて地球出身者の人に話すと大爆笑される。聴衆を選ぶ俺の持ちネタだ。まぁ色々と事件があったりロマンスがあったりして魔法的に未開だった世界から次元管理局に就職したクチで、今は次元境界捜査という部署で働いている。『海』とも『陸』とも独立した部署で、故に滅茶苦茶振り回されるのだが……まぁそれは置いておいて。

 そして改めて、対面でゲソをもそもそやってるのは高町なのは。JS(ジェイル・スカリエッティ)事件の功労者であり、同事件を追っていた機動六課部隊長八神はやての友人。天才、英雄、エース・オブ・エース。多少持ち上げすぎかもしれないがそういう人物だ。

 同じ管理局員とはいえ住む世界が違う俺と彼女、なんで知り合ったのかと言うとまぁそのJS事件のおかげである。仕事柄色んな部署を走り回る事が多い俺が悉く機動六課とかち合い、その結果なんとなく顔見知りになったのだ。あと、機動六課には個人的な知り合いもいたし。

 そして六課への出向を終え本局での教導という本職に戻った彼女と、拠点が本局である俺、なんとはなしにたまに話をする仲になってしまったのだ。

 

 とはいえ、流石に二人でここに来るのは初めてだ。何故俺なのかと聞いてみれば、誘えるのが俺しかいなかったからだと言う。まぁ彼女の同僚もこんな若い女の子の扱いには困っているのだろう、エース・オブ・エースも陸に上がればしがらみだらけだ。

 そんな彼女は今、幼さの残る顔を朱に染めて四杯目の酒を呷っていた。果実酒で口当たりは優しくなっているが、度数はむしろ増している。大丈夫なのだろうか。いや、大丈夫じゃねぇ。

 

「タローさん、呑まないの?」

 

「君が潰れたら送ってくのは俺の役目だろ」

 

「あー……じゃあ、お願いします」

 

 にへらと笑う。本来であればここまで明け透けな子ではないのだが、やはり酒のせいだろうか。それとも、酒でも飲みたくなる原因のせいだろうか。

 彼女は一人で呑みながら話し続ける。はやてちゃんは地上で頑張ってるんだよとか、ティアナは執務官試験大丈夫かなとか、そういう仲間たちの話。愚痴でも明るい話題でもないただの雑談みたいな話を、ノンアルコール飲料を傾けながら聞く。正直、それはそれで興味深い話ではあったし他人の話に頷いているのは好きな方ではあるのだけど、それだけならいつでも聞ける話な訳で。

 別に出歯亀のつもりはないが、ここですっきりしておくのも彼女のためだろうと言葉を差し挟む。

 

「それで、皆に比べて自分は何をやってるんだ、みたいな話?」

 

 これはただの推測で、外れていると失礼極まりないんだけど。でも俺の予想通り正解だったらしく、彼女は黙り込んだ。涙腺が緩んでいたのか瞳が潤み出し、そのまま俯く。

 

「別に君はよくやってるっていうか……やり過ぎだと思うけど。君の友人達が忙しすぎるだけで……」

 

 そこまで言った所でふるふると横に首が振られる。つられてサイドテールも左右に揺れた。きちんと手入れされている艶のある髪がしなびて見える。

 

「仕事は……自分で言うのもなんだけど、満足してるの。天職だと思ってる。でも、そうじゃなくて……」

 

 そこで一拍空けて、息を呑んで。顔を上げた彼女の唇は震えていた。

 

「お母さんとして、ヴィヴィオにとって、私は、その……上手くできてるのかな、って」

 

 高町ヴィヴィオ――彼女の子どもの事の名が唇から零れた。

 所謂『家庭の事情』という奴ではあるが、あの子は少々複雑だ。機動六課に関わっていた俺は知っている話なのだが、ヴィヴィオは機動六課で保護された子だったはず。それがどういう紆余曲折を経て彼女の子どもになったのか、そもそも何故ロストロギア管理部が子どもなど保護したのか。その辺りは言われない限り聞くつもりはないが、この世にはやたらと他人に敏感な奴っていうのがいる。

 きっと彼女は母として何度も自信を無くすようなことを経験して、誰かから何度も心無い言葉を投げかけられ、それでも母として頑張り続けて、途切れかけてしまっているのだろう。

 もう何杯酒を飲んでいるのかもわからない。加減を知らない呑み方だ。家に子どもがいる彼女は、そういう事を学ぶ機会もなかったのだろう。

 

「昨日、喧嘩……して。いいお母さんってなんなんだろ……あの子が、普通に育った子とは違うのも分かってるはずなのに押し付けて……ダメだって、分かってるのに……」

 

 安っぽいテーブルに彼女の涙が吸い込まれていく。支離滅裂な言葉、それを恐らくは自覚しながらもぽつりぽつりと吐き出していく。

 その言葉を聞いて俺は――滅茶苦茶焦っていた。重すぎる。気休めの言葉すら口に出来ない。硬直する。

 

「あの子にもし『本当のお母さん』がいたら……私みたいな事には、ならなかったのかなぁ」

 

 でも、そんな自嘲の言葉に金縛りも解ける。余りに沈んだ彼女を前に、逆にこちらが冷静になってきた。

 

「あのな高町、そういう事は言っちゃダメだろ。俺は事情は知らないけど、お互いに折り合い付けて家族やってるんだろ? そういうのは、ダメだ。自分を腐らせちゃう」

 

 知っている。自分も親を亡くして引き取られた口だから知っている。「お母さんは僕を愛していないのかな」の言葉は、親の愛情が見えなくなる一種の呪いだ。多分それは母から子に対しても同じだろう。

 本当のお母さんがいたらなんて言ったら、子どもがそう思ってなくてもそう見えちゃうだろう。それは子どもが可哀想だ。

 

「でも……」

 

「でもじゃない、謝ろう。まずは自分に謝って、それで明日は子どもに謝るんだ。そうした方が気分いいよ……って、明日は二日酔いかな」

 

「そ、そんなに酔ってないの!」

 

 勢いよく叫んで立ち上がる。その動きがいけなかったのか、彼女は頭まで真っ赤になってからぶっ倒れた。

 

 

 

 タクシーを呼んだが彼女の家を知らない。そう気付いたのは乗り込む寸前だった。仕方がないので俺の家(しがないマンションの一室だ)に回してもらい彼女に布団を提供し俺は夜の街へ。ベッドカバーとか変えておきたかったがないものは仕方ない、年頃の娘さんには辛いだろうが文句は甘んじて受けよう。

 コンビニで雑誌を読んだり時間を潰し、日が出た辺りに自分の家へ。ここでお風呂に入ろうとした彼女と鉢合わせ、うれしはずかしドッキリハプニングとくれば嬉しかったのだが、残念ながらまだベッドの上でうなされていた。

 ので、買ってきた水を頬に当ててみる。

 

「高町、水」

 

「う……ごぅあ゛ぁ゛あ゛あ゛……」

 

 女の子が上げちゃいけない地獄の亡者のような呻き声だが優しくスルー。ついでに顰められた渋面からも物理的に目を逸らす。一般人の方々にも大人気な高町なのはさんのこんな姿は誰にも見せられないし、俺も見たくない。

 

「返事しなくていいから聞いて。シャワーとかは自由に使っていいし、冷蔵庫にあるものも全部食べていいやつだから。大したものはないから回復したら自分で買いに行って。俺は教会に事情を説明してくるよ」

 

 枕元に水を置いて、もぞもぞっていうかわさわさっていうかそういう不気味な動きをする彼女に背を向けた。立ち上がろうとしているのだろうが、あの様子だと少なくとも午前中はダウンだろう。

 確か彼女は教会に子供を預けていると言っていた。話ぐらい通しておかなければいけないだろう。彼女を一人残すのは心配ではあるが、なぁにエース・オブ・エースだもの。うまくやるさ。

 自室の扉を開けてマンションの廊下へ。徹夜明けに朝日が眩しい、世界が鬱陶しい。が、グチグチ言ってる訳にもいかないので駐車場に停めてある二輪を目指す。一人暮らしな訳で、車は持っていない。税金高いしね。

 

「なのはちゃん、大丈夫かなぁ」

 

 思わず、ぼそっと。自分の口から言葉が漏れて、思わず手で押さえた。辺りを見渡す――人影なし。ほっとする。

 なのはちゃん、だ。そう、心の中でというか、自分の中では密かに彼女の事をそう呼んでいる。高町、でも高町一等空尉でもなく、なのはちゃん。勿論本人の前でそういった事を口にはしていない。

 気持ち悪いことは重々承知、御年23の男が……というか、そうでなくとも気持ち悪い。女性同士で友人同士が許されるラインだ。なのはちゃんの友達の方々みたいに。

 まぁ彼女の事をこういう風に呼んでしまうのは、俺の劣情ゆえだろう。初めは顔が好みなだけであって……少しずつ会う内にその人柄にも惚れていって。同じ中央勤務になった時は密かに喜んで、自然に近づいたりして。子どもがいるとかそういうのも関係ないというか、子どもがいるならなおさら優しくしなくちゃと思うぐらいで。出掛けたのだって、同じ部屋で一晩いると、自分がなのはちゃんに何かしてしまわないかと不安だった訳で。

 そういう、気持ち悪い男心なのだ。

 

「うあぁ……」

 

 二輪に跨り呻く。せめて風に吹かれて忘れようと、管理局の人間だというのに法定速度を超えてアクセルを噴かせてしまった。

 飛行魔法なんて体得していない俺にとっては、陸で感じるこの風が一番キツい。こういうのを趣味にしている友人もいるが、俺自身は何が楽しいのかと言った所だ。ただ、吹き付ける風の圧力はきちんと頭を冷ましてくれた。

 そう、別に大それた事を考えている訳じゃないのだ。なのはちゃんの顔を見れて、話が出来て、友人としていられれば。俺の恋心っていつかは冷めるだろうし、なのはちゃんが誰かとくっついたとしてもそれを妨害するつもりなんてない。ただ、今だけは色恋に惚けているだけだ。今だけは。

 だから今はとりあえず、あの子の娘を迎えに行こう。そういえばちゃんと顔を合わせた事はなかったし。

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