魔法少女リリカル未婚の母(シングルマザー) 作:那智ブラック
\タイトルによる圧倒的ネタバレ/
ストラトスさんと喧嘩
長旅だった。
というか、本当に長かった。二年もこの世界から離れていたのだ。今更ながら筋肉がついて背が伸びたように思うし、異文化コミュニケーションのおかげで色々と自信もついた。中々稀有な体験だったと思う。
しかしジャングルで未開種族と共に狩猟をし謎の触手を食べたり、武闘大会で優勝して姫に求婚されたり、なのはちゃんの故郷の世界でものすげぇ人達に揉まれたり……色々あったなぁ。生傷が増えてしまったし、右腕を斬り落とされて断面が綺麗だったからと縫合してなんとかなったのも記憶に新しい。
まぁ、そんな訳で。タロー・メリアーゼはこの度ようやく管理局本局勤めに復帰したのだった。
とは言っても新しい職場に配属されるのは数日先だ。スケジュールを調整し、その世界にたまたま来ていた時空航行戦艦に同乗させてもらうよう上申して通ったので今日帰ってきたのだ。家族に頼んで新しいアパートの部屋を借りてもらっているが、やっぱり自分でないと整理やその他は出来ない訳だし、その時間が欲しかった。
まぁそれ以外にも、一番大きな理由があるんだけど。
「おばちゃん、適当にお願いできるかな。お祝いの花なんだ」
「あらま、タローちゃん。お久しぶりねぇ」
クラナガンは俺の庭、という言葉を撤回するつもりはないがやはり久しぶりだと街並みも変わる。夜道に灯る明かりも増えているように思えた。流石にクラナガンの街並みまでわざわざ異世界に送ってもらう訳にはいかないのでこの二年の発展は把握していないのだ、また非番の日に散歩をしなければいけない。
夜空を見上げる。流石と言うべきか、管理局のお膝元として魔力で発展したクラナガンは都会だというのに星が見える。
そうしている内、花屋のおばちゃんが花束を作ってくれた。詳しくないので種類は分からないが、この人に任せておけば間違いないという信頼がある。昔から頼らせてもらってるので。
「この時期となると、新しい人でも配属されたのかい?」
「いや、知り合いの子が進級したんだ。それで、しばらくクラナガンからも離れてたから再会の挨拶を兼ねようと思って」
そう、ヴィヴィオが今年で初等科の四年になるのだ。正直なのはちゃんの家に行きたいという下心がない訳でもないが、純粋にヴィヴィオとの再会を優先する気持ちもある。大人との付き合いと違って、子どもには分かりやすく接した方がいい、と思う。
なのはちゃんには既に電話を入れてある。普通にフェイトと一緒に三人で家に居るらしいので、遅くなり過ぎなければいつ来てくれても構わないとの事だ。というか、フェイトもこんな通い妻みたいな事してるからレズの噂が加速すると思うんだけど、まぁ本人が満足そうだから何も言わないでおく。あくまで友達、同じベッドで寝ても友達、そう主張してるから、うん。
おばちゃんに礼を言い、夜道を歩く。バスを利用しても良かったのだが、先ほど考えていた通り俺はこの街を把握しなければならない。そうなるとやはり自分の足で歩きたい。いざとなれば走ればいいしね。
「~♪」
久しぶりの街は変わっている所もあるとはいえ、やはり懐かしい。自然とリラックスしてしまう。
そうしてふらふらとしている内――この二年で無駄に鍛えられた聴覚が、夜の静寂を切り裂く異音を捉える。魔法の音だ、これは。そして打撃音。
急に冷や水をかけられた気分だ。これが夜の街で仲睦まじくストライクアーツの訓練をする二人ならばいいが、この近くに開けた場所なんてなかったはず。道端での酔っぱらいの喧嘩か、見世物試合でもやっているのか、はたまたもっと気分の悪い事か。なんにせよ、非番とはいえおまわりさんが見逃していい事じゃない。
勿論、そちらに向かう。近づくほどに打撃音が激しくなっていき、そして止まった。
「……決着がついたか?」
現場であろう場所に辿り着きひょこりと顔を出す。倒れているのは見覚えはないが、筋肉量から見て恐らく武道を嗜んでいるだろう男。
そしてその前で腰を落とし残心しているのは、まだ年若いだろう少女だった。二房に髪をくくった、豊満な肉体の少女。ティアナ達よりさらに少し若いか。
特に気配は隠していない。察したか、少女が振り向く。その顔の上部はバイザーに覆われ、口元しか窺えない。
ただの喧嘩ではないだろう。だが断ずる事は出来ない。とりあえずと、彼女の前に歩み寄る。
「えっと、喧嘩? あ、俺、一応管理局員なんでさ、もしこの人を殴り倒したのが君なら出頭してもらわないといけない。そうじゃないなら、身分を提示した上でこの人を病院に連れていくまで手当を手伝ってくれないか?」
勿論、この言葉を無警戒に言う俺ではない。言葉の途中で殴りかかられようが対処は出来るようにしてある。
しかし彼女は全くの静。俺の言葉が終わるのを構えを解きながら待ち、そして一言。
「見逃していただけませんか」
確定だ。
この少女は自白をした。通り魔だかストリートファイターだかにしては随分と紳士的だが、それだけで罪がなくなる訳ではない。殊勝な態度してそれでオッケーなら世界に次元管理局はいらんのだ。
「捕まるほど悪い事をしている、という自覚があるんなら自首するべきだ。大丈夫、多分君が思ってるほど悪いようにはされない。道端の喧嘩ぐらいなら注意だけで」
「あなたは」
次は強く、言葉が遮られる。これ以上説教を聞く必要はないと判断したか。
「あなたは、格闘術を知る者であるとお見受けします。それも腕利き」
「……。まぁ、人並み程度には」
さて、これは困った。俺は出来るだけ警戒させないように近づいた訳だし、外見もそう強そうじゃないと自覚している。つまりこの子は、そういう表面上の所を取っ払って相手の強さを感じ取れるだけのセンスがあるという事だ。そしてそういうセンスを持ってる奴は大抵強い。
この子は何歳なのだろうか。まだまったくの少女と言える歳で、どれだけの高みにいるのだろうか。
「お手合せ願います」
「やだよ、捕まえに来た方が喧嘩してどうするんだ」
「では、あなたが何もしないのであれば私は逃げます。どうしますか?」
結果は同じ、という事か。溜め息が出る、それと共に目の前の少女が構えた。腰を落とし、片手を引き片手を前に出す。なるほど、魔法格闘戦術(ストライクアーツ)使いである事は間違いないようだ。
だがそれは朗報。空を飛ばれてしまってはこちらも対処法が限られる、どれだけ強かろうが殴り合いの方がまだこちらに分がある。ナカジマさん家のウイングロードとかは別にして。
ヴィヴィオに渡すつもりだった花束を放り投げる。あぁ畜生、勿体ない――思いながら、身体は自然と構えを取った。
「ハイディ・E・S・イングヴァルト、参ります――」
名乗りを上げるとは律儀な事だ、と思っている内にも彼女は踏み込む。
魔法の無い世界で学んだ事だが。一般的に格闘と言うのは体格が大きく力が強い者が勝つのであり、ルール無用の戦いならばともかく正面からやりあうのであれば技の差など体格に比べれば小さな差であり、だからこそ年齢・性別・体格で試合の枠組みが決められるのだという。勿論、例外というものはあるが。
だが魔法世界ではその法則は当てはまらない、という事を彼女は鮮烈に思い出させてくれた。身体強化魔法はその技術次第で体格差を簡単にひっくり返すほどの身体能力を得る。
「――っ!」
一目で分かった、この少女の技は魔法格闘の観点から見て達人の域だ。踏み込み、突撃する――ただそれだけの行動、対するこちらの手は限られている。
以前、ザフィーラさんとの魔法無しでの手合せでは体格差で圧倒された。しかしこちらが体格で押せるかと言えばNOだ。彼女は小手先の動きで抑え込めるほど柔な攻撃はしてこない。
時間が引き伸ばされていたような感覚。しかし数m離れた彼女がこちらの懐に踏み込むのに一秒もかかっていない。俺の答えは、直前まで動かない事だった。
そうして最後の一歩、拳を突き込もうとする動きに合わせてこちらも一歩斜めに踏み込む。
少女の瞳、逡巡が見て取れる。しかしそれもやはり瞬にも満たない時間、引いた拳をそのままに踏み込むの為の一歩を軸足に再構築、蹴りが放たれた。小さな動き、あわよくば足を取ってやろうと思っていたがそこもきちんと考えている。
痺れる痛みを脇腹に受け、しかしこちらも一歩踏み込んだ。タイミングをずらした腕は拳として放つには威力不足、そしてもう一度踏み込むには時間がかかる。短い時間だがこちらのチャンス。
こちらのチャンス、という事は向こうのピンチ。少女はやはりそれを把握している。こちらの手が動くのをきちんと見ている。このまま引き倒す事も考えたが、隙の大きい動きでは手痛いカウンターを食らわせられそうだ。
結果、しばらくは向こうもこちらも小競り合いになる。お互いいなされる事は分かっているが、大きな隙もない拳の応酬。大の男が少女を前に何とも情けない事だ。
そしてしばらく。少女は大きく距離を取り、こちらもまたそれを追いはしない。肩で息する少女は息を整え、口を開く。
「どうして。手加減をするのですか」
「いや、そんな余裕ないけど」
「あなたは常に私の拘束を狙い、顔や腹など致命的な部位を狙いません。そして魔力強化もおざなり……これでは、こちらとしても小競り合いに終始するしかありません」
「正義の管理局員なんでね。俺は君を殴り倒す事じゃなく、無力化する事に全力だ」
そして身体強化の方についてはごめんなさい、俺の技術が追いつかないだけです。
しかしそれで小競り合いの終止するしかないとはつまり、『大技を放つと大怪我をさせてしまうかもしれないので使う訳にはいかない』という事だろう。なんというか、相変わらず律儀な通り魔だ。
俺は修行を重ねてきたが、それは結局魔法無しで魔導士を倒す奇跡の武術なんかじゃない。一人でも時間稼ぎする方法、集団で囲んで無力化する方法、油断した相手を一撃でノックアウトする方法、そういうのが主だ。空戦相手以外なら護身術の延長線上にあるようなものでしかない。
俺の作り上げてきた力は、一対一の喧嘩で真価を発揮するモノではない。
少女がバイザーを外す。知性的な瞳は紺と青の光彩異色、奇しくもこの少女に出会わなければ今頃再会していたであろうヴィヴィオと同じ特徴だ。
そして少女は俺を睨んだ。バイザー越しでは伝わらないとでも思ったのだろうか。その感情は恐らく苛立ち。
「私が少女だからですか? 遠慮は入りません、顔も腹もどうなろうが構わない覚悟で戦場にいるのですから。それで加減をされる方が私は侮辱されている気持ちになります」
戦場、侮辱。随分と時代錯誤な子だ。
これは危険だった。この子自身も、この子の相手をする事になる人も。憂さ晴らしやキレる十代青春のストリートファイトではなく、これを戦場での決闘と言い切るのなら。この子はいつか、取り返しのつかない大怪我をする事態を引き起こしてしまうだろう。
止めなければならない。若い奴の歪んだ考えは正すのが、一回道を踏み外した先人の役目だ。
「分かった、来いよ。俺の全力を見せてやる」
少女は頷き、そしてまた踏み込む。今度は直線的な突撃ではない、鋭く素早い歩法。
だが俺のやる事は変わらなかった。向かってくる拳を無視して、襟首を掴む。
「!?」
当然、腹部に衝撃。特有のずくずくした痛みと共に身体の中身が圧迫されるような奇妙な感覚を味わう。しかし手は離さない。
当然、少女はまだ拳を放つ。姿勢は自由にならないとはいえそれも十分な威力だ。肩に、胸に、時には蹴りも。
だが、手は離さない。
「なん、っで――!」
これが俺の全力だと、示すように。手は絶対に離さない。隙あらば腕や足をとって拘束したかったのだが、こんな状況でも彼女はやはり隙を見せない。感覚が鈍る。隙を見つけなければいけないのに。
こんな奴と殴り合いなんてしてやれない。だから捕まえてやらなくちゃいけないのに。
そうして、いつ気絶したのか。俺が気が付くとそこはベッドの上だった。
相変わらず書く話ごとにジャンルが違う気がしますがラブコメです。これはラブコメです。なのはさんとラブるための話です。これテストに出ますんで。
タイトル形態は「事情」をやめて色々つけます。ストラトスさんの話はちょっと間を空けてからやるので、前編後編みたいな形には出来ないし。
次の更新を気長にお待ちください。案外すぐかもしれないですけど