魔法少女リリカル未婚の母(シングルマザー) 作:那智ブラック
「――と言う訳で! な……っ、高町と仲直りしたいんだよ!」
柄にもなく、一気に飲み干したジョッキをテーブルに叩きつける。座敷が揺れ、席についている全員の呆れた瞳が俺を射抜いた。それで少し冷静になる。まだ酔ってはいないし。
居酒屋『のむらや』に、俺達は集まっていた。
「そんな無理しなくても、なのはの事なまえで呼んでもいいんだよ? 私達しかいないんだし」
隣に座すのはフェイトだった。苦笑しているが、余裕の表情だ。フェイトと一緒にここに来るのは初めてではないので手慣れたものだった。ハラオウンの皆さんが日本料理を気に入ってるおかげで、フェイトもここの料理は口に合うらしい。
「せやせや。ほら、お姉さんに相談してみ」
正面は八神さんだ。いやらしい笑みと共にぐいっと果実酒をあおる。お姉さんって俺の方が年上なんですけど、とか言えない雰囲気だ。彼女は普段から家事を割とこなす方らしいので(あの激務の片手間にだ、信じられない)、こういう所では余計にテンション上がるらしい。座ってるだけで料理出るのなら張り切って飲み食いするぞ、という感じで。
「相談はいいですけれど、あんまり呑み過ぎないでくださいね」
そして斜めに位置するはティアナ。運転手役としてフェイトに連れてこられたのだ。上司に付き合う部下の鑑である。ちなみに俺がいない間にめでたく執務官となったらしく、それに合わせてか髪を降ろして以前よりぐっと大人っぽい印象になっている。
遅ればせながら合格祝いとして香水とか送ってみたら、「こういうのって個人の趣味あるので、事前にそれとなく確認しておく方が……」と遠巻きに女心分かってないと言われた。ヴィヴィオとの件を思いだしてへこんだ。
この四人が「タロー・メリアーゼお帰りなさい会二次会」の面子の全てである。一次会の方はちょっとお高い所で元同僚達が開いてくれた。皆俺の出世を喜んでくれる気の良い人達だったからな。でもある程度時期を見計らったのに全体の1/3しか参加できなかった辺り、いかに残業の多い仕事か分かるな!
そんな訳で、この会には同僚達が勝手に俺の他の友人も招いてくれていた訳だが。学生時代のクレイジーな友達と再会したりして、まぁ色々とドラマがあった訳だが。
「なんで高町は来なかったんだろ……」
そう、なのはちゃんが来なかった。断りの返事だけで理由もなかったという。
時期的にあの件より後だ。あの後、新人育成の体制を整えるために色々と忙しかった俺はなのはちゃんに会えていなかった。会えていなかったがまさか、パーティにも来てくれないほど嫌われているなんて。
「そりゃ愛想つかされたんじゃないですか? さっきの話からすると」
ティアナの言葉がグサッと胸に刺さる。
先日の件は通り魔含めて、包み隠さず三人に話してある。つまりこれは詮索遠慮すべてなしの、まじりっ気なしの意見だ。へこむ。
「タローさん、自分で思ってるほど冷静な人じゃないですよ。変な所で意地を通そうとするって言うか」
グサッ。
フェイトがその裏で「あぁ、そういえばあの管理外世界でも……」とか余計な事を思いだそうとしていたり。
「しかも状況だけ見ると喧嘩に負けてるんですから。ほどほどの所で逃げて通報する、これが管理局員としての正しい姿なんじゃないですか」
グサッ。
はやてもまた「うわ、きっつぅ」と苦笑していた。苦笑せずに助けてほしい。
「……まぁ、それは全部終わった事ですし、多分直接なのはさんに関係ないと思いますし。これからの話をしますか」
そこまで俺をめった刺しにしてようやく満足したのか、ティアナはすました顔でソフトドリンクを口に運ぶ。ゲソのテンプラをもぐもぐしてご満悦だ。
「まぁでも、時間が経ったら全部解決するっていうのは、ちょっと甘い考えとちゃうかなぁ」
「うん。タローさん、ちょっと虫が良すぎるかも」
今気付いた、これアウェイだ。男一人で超アウェイだ。
一番辛辣なのはティアナだが、他の二人もやんわりとながら俺を非難する所がある。まぁ当たり前の話だが、三人は俺よりもなのはちゃんの味方なのだ。
まぁでも、なのはちゃんの味方だからこそこういう話に付き合ってくれるのだ。心が痛いのは、やらかした事への代償と思うしかない。ここ俺の奢りとか言われないかなぁ、男俺一人だけど給料は一番安いんだよなぁ。
「それで、なんで高町があそこまで怒ってるかって事なんだけど……」
友達がどうでもいい無茶をして怪我をした、それだけの話のはずなのに。俺ならばまぁ同性ならばちょっとした笑いの種にして、異性なら心配はする。でもそれだけだ。本当に、会いたくもないほどなのはちゃんが怒っている理由が分からない。
理由が知りたい。理由を知らなきゃ、謝る事も出来ない。
「それで私達に探り入れるとか、男らしくないですよね」
グサッ。
ティアナは容赦ないなぁ!
「よ、よし。分かった。直接は聞かない。なんで高町が怒ってるのか、は皆には聞かない。でも、一つ。フェイトも、ティアナも、八神さんも、別に今回の件で俺に怒ったりはしないよね?」
三人は一斉に頷く。うん、俺のやった事は馬鹿ではあるがそこまで怒る事じゃないはずなのだ。普通なら。
なのはちゃんだからこそ怒った。やっぱり、それはよく分からない。素直に言うしかないんだろうか。
素直に……素直に、言えるか?
「まぁ、うん――呑もか!」
八神さんが大声で追加注文を開始した。悩んでいる俺の態度を吹き飛ばすように。
「折角の二次会や。一人で悩まんと……面白い話、してくれやなな」
八神さんはほんと、空気を変えるのが上手いと思う。
とりあえず、運ばれてきた新しいグラスで、俺達は改めて乾杯した。
深夜。
さて、俺は酒を飲む際には身体がついていかないタイプである。酔う時には何かおかしな行動をしてしまうより前に頭が痛くなって視界がおぼつかなくなって、これ以上呑みたくないなとなるのだ。だからいつもお酒は美味しく酔える範囲までしか呑まない。だから気分が良くなる程度なのだ。
つまり俺は正気である。
「ほぉら、呑め呑め! この場で一人だけ素面て許されへんで! はい、呑め!」
「あっはっはっは! ちょっと、零れてる零れてる! だめ、だめだよ勿体ないって! あははっ」
絡み上戸八神さんと笑い上戸フェイトに挟まれ、どうしようもない俺である。しかもいつの間にか両脇を固められておる。
ティアナはちょっとお手洗い行ってきますねから三十分以上は帰ってきていない。ちくしょうあいつ逃げやがった。絶対これ酔い潰れそうになったころを見計らって帰ってくるつもりだ。上司が潰れるタイミングをきちんと把握している。
「ひょーめんちょーりょく! ひょーめんちょーりょく!」
「ちょっとやめてタローさん変顔やめてあははははもうやめて」
とりあえず、箸が転がっても面白い状態の二人の前で、零れそうなお酒を頂きながら考える。どうすんだこれ。
結論、どうしようもない。現実は非情である。酒飲みに対抗するにはじっと我慢して話を合わせるか同じ所まで堕ちるしかないのだ。
しばらくして。テーブルにあるものでぐだぐだ言うのに飽いたのか、八神さんがびしっと指を突きつけてきた。俺を玩具にする気満々だこれ。
「タロちゃん、はっきり言わせてもらうけどな。今のあんたに、なのはちゃんは渡せん!」
お父さんみたいな事言いだしたこの子!
「うん……確かに。なのはと仲良くなるなら、それだけちゃんと出来るかって所を見せてほしいよね」
姑みたいな事言いだしたこの子!
こんな事を言いつつも二人とも半笑いで酒を手放していない。友人すらダシにして遊んでいる……。
「まぁ、まずな。なのはちゃんへの愛を確かめさせてもらおか」
「あー、はいはい。どうぞ」
「タロちゃん、女の子と付き合うた事ある?」
……。シモな言い方をされないで良かったと思うと共に、凄く答えたくない。
「黙秘権を行使します」
「ほぉ、ええんか? ――知り合いの伝手で手に入れた、タロちゃんがグレてた時代の写真をなのはちゃんに送らせてもらうけども」
「話します!」
ぐおぉ……卑怯な。あんなもんもう誰にも見られたくないって言うか誰だよそんなもん未だに持っててしかも横流ししてる奴……。
「ね、ねぇはやて、それ今度見せてっくく」
「おぉ、今見たら腹筋大爆発するから落ち着いた時の方がええで」
「はいそこ! 不穏な話しない!」
フェイトにだって見せたくないよ。なのはちゃんだからとかじゃなくて誰にも見せたくないよ。
腹をくくる。酔っぱらい共相手にはこれしかねぇ。
「女の子と付き合った事は、一度もございません」
「え、そうなの? 不良だからゲヘヘおうそこのアマこっちこいや~……とか言っちゃって、もうとっかえひっかえしてるのかと」
「うん、へへへお前の彼女はもう俺のもんだぜ~……とかしてるんかと。意外やわ」
「俺をなんだと思ってるんですかねえ君ら」
俺は健全な不良だった。いや、健全な不良って言い方もおかしいが。
あの頃の俺は自分なんかが真っ当にやって真っ当に強く生きていけるとは思えずに捻くれていただけだ。パルクールや喧嘩など、ぶつけられる事があった。自分が強くなれる分野で粋がっていただけなので不健全な事は何もしていない。
喧嘩自体が不健全だって言われてしまうと何も言えないけれど。まぁ、取り返しのつかない事はしていない。
「二人の方はどうなんだよ」
「黙秘権を行使しまーす」
「しまーす」
酒呑みは無敵だった。
これで終わりかと息を吐いて落ち着こうとすれば、その隙を狙うようにぐいと八神さんが顔を近づけてくる。
「まぁ、タロちゃんがモテないんは分かった」
「いや、モテないっていうかそういう環境になかったっていうか」
「しかぁし! いくら一筋とはいえ、それだけでは分からん! 道が揺らぐこともあるやろう!」
聞けよ。
近づいた分だけ八神さんから離れるが、後ろにはフェイトがいる。「おりゃー、たちむかえー」とかわりと呂律の回っていない言葉を発しながら背中をぐいぐいと押してくる。なんだこれ。
「で、次はなんです?」
「うん、タロちゃんはじっとしといて。よし、フェイトちゃん、おっぱいを押し当てるんや!」
何言ってんだこの酔っ払い。
「タロちゃんみたいな女に免疫のない可哀想な子は色仕掛けに弱い……試してやるしかあるまいて」
何言ってんだこの酔っ払い。
溜め息を吐いて振り向く。フェイトも流石に酔ってるとはいえ、そういう事を軽々しくはしないだろう。
「えー、でもー、どうしようかなー」
頬に手を当ててやんやんと身体をくねらせていた。なんかめっちゃ楽しそうだった。
フェイトは酒を飲み過ぎちゃいけないなぁ、と。改めて思った。
「はやてがやればいいんじゃないの?」
「けっ、嫌味か! 嫌味か! いーやーみーかー!」
「ふえっ?」
「いいから、その普段活用する機会のないでっかいのを! 有効利用せぇってこっちゃ!」
「やだーもー、げひーん、あははははは」
この場は、なんていうか、もうダメだ。
頭痛がしてきた。こうなったらもうちょっとぐらい呑み過ぎたって関係ないだろう、うん、関係ない。酔った八神さんが頼み過ぎた酒類が目に入る。誰も口を付けてないし。勿体ないだろ。うん、勿体ない。仕方ないな。
ぐびぐびぐびぐびぐびぐび。
「よっしゃー! 乳でもなんでも揉んでやるぜー!」
「ぎゃー! 女の敵や、女の敵が襲来した!」
「揉ませるとか言ってないしー! タローさんアウト―! その発言アウトー!」
ハートブレイカーティアナ久方ぶりの出陣
【三人娘身体接触難易度】
高町なのは【中】:仲の良い家族に囲まれていた分、男性に触れられるという拒否感はそれほどないと思われるが、常識的な感性で仲良くない男の過剰な接触には不快感を示す。
フェイト・T・ハラオウン【低】:孤独な環境から温かい家族に迎えられた彼女は、日常における他人に対する危機感が欠如しているだろうと考えられる。また天然気味な所もあり、その優しさはどちらかと言うと強さによるなのはよりも献身的だ。パイタッチしてしまっても必死で謝れば事故だと思って苦笑してくれるぐらいチョロいだろう
八神はやて【高】:幼い頃から自立していたはやてちゃんは、元から大人びた所はあるもののその裏返しとしてドラマチックな恋愛に憧れているだろう。故に大人の駆け引きとしてのボディタッチや、いやらしい意味でのお触りは完全にお断り。ザフィーラ以外の男が相手では握手でも少し心の中で身構える気持ちがあるのかもしれない。後ろから肩を叩かれると親しい人が相手でも思わずどきっとしてしまうだろう。パーソナルスペースを大事にする子なのだ。しかしそれだけに、家族と認めた相手とは触れ合いも多いだろう。はやてちゃんは可愛い。
※なお妄想により個人差があります