魔法少女リリカル未婚の母(シングルマザー) 作:那智ブラック
朝起きたら八神さんの家だった。
頭痛い。
考えまとまらない。
「おっ、タロちゃん、朝ごはんできとるでー」
「あ゛ーい」
食べないと。
ぱくぱくぱくぱく。
八神さんの地球式の食事は美味しい。昨日は呑んでばかりでほとんど食べていない。すきっ腹に味噌汁が染みた。
「む、タロ、しょうゆを取ってくれ」
「あ゛ーい」
ザフィーラさんにしょうゆを渡す。一人暮らしをして久しい。から、なんか懐かしい気分。
「でさ、はやてもフェイトもなのはも未婚子持ちで大変だなとか言う話しててよ! あたしが誰の事だって割り込んだら、しまったって顔して逃げていくんだぜ!」
「はっはっは! だがそれはリインの事ではないか?」
「子どもじゃありませんよー」
和やかな団らんと言うには騒がしい。でもいい気持ち。
んー。
「なんで八神さん家にいるんだ……っ、つつ」
「ツッコミ遅いなーははは」
頭痛いので背中叩かないでほしい、八神さん。
そんな訳で魔法的に二日酔いを緩和してそれでも頭が痛いのだがまぁなんか我慢しつつ、八神さんの家である。
昨日、酔い潰れた俺がまったく自覚はないのだが「俺の新しい技を見せてやるぜ……!」と言いながら逆立ちで夜の街に繰り出した辺りで八神さんもこいつぁやべぇと思ったらしく、夜天の書アタックで俺を気絶させたとの事。それをされなかったらマジで修行の日々の中手に入れた物凄くどうでもいい技を披露している所だった。
さらにティアナがいない事に気付いたらしいが、連絡すれば「すいません、あまりに暇でコンビニで立ち読みしていたらスバルに呼び出されました!」と。おかげで俺を家まで送る人がいなくなった。
で、これである。
「やぁやわ、男の人をおうちに連れ帰ってしもた……ぽっ」
「クソ寒い芝居はいいですから」
なお、勿論であるが今日は俺も八神さんも休みである。次の日に仕事があるのに痛飲するほど俺達は自分をコントロール出来ない大人ではないのだ。
「では主はやて、私達は職場に」
「あ、さっき電話してもフェイトちゃん起きてへんみたいやったから寄ってあげて」
「ではそのように」
ダメな大人が一人いた……。お前の事尊敬してるんだぜ、とか一度は言ったが尊敬ポイントをまいなすいちしておこう。10ポイントで降格。八神さんと同じ位置までおちる。
ともかく、帰ろうとしたらまだいていいと言われた。確かに体調悪い状態で電車乗りたくないので助かる。
「あぁ、家で男と二人っきりになってもうた……ぽっ」
「だからそういうのいいって」
「リインもいますよー!」
ザフィーラさんはすぐ近くにいるとはいえ近くで子ども達に稽古、ヴィータさんやシャマルさん、シグナムさんは仕事である。アギトはシグナムさんについていったので、家主と俺以外でただ一人家に居るリイン。彼女はテーブルの端でだるだるとしていた。
まぁ、俺も妙な事はしないと信頼されているのだろう。やる気はないが、この距離なら八神さんが魔法撃つ前に肉薄出来る訳だし。物凄い情けない話だが、身近な女性で俺が戦って勝てるのは八神さんぐらいである。
「割と落ち込む……」
「はい、なんで落ち込んでるかは知らんけど、ここで昨日出来なかった、恋愛相談ターイム!」
ぱちぱちぱちー、と自分一人で拍手してる八神さん。この人、俺より呑んでたのに元気だなぁ。
まぁ落ち着いて、と用意してた紅茶を注いでくれる。お茶菓子の用意もバッチリだ。酒の席ではなく穏やかな午前の休みも遊ばれそうである。
「へいっ、リイン!」
「はいなのですー」
パチィン、と無駄にかっこつけて指を鳴らして合図をすれば、あらかじめ打ち合わせしていたのだろう、リインが机の下から自分の身体より大きなそれを引っ張り出す。ユニゾンデバイスすげぇ。
ことり、と机に置かれたのは薄桃色の文庫本だった。タイトルは「二人歩む道」。爽やかな街路樹沿いの道を歩く男女の表紙。パッと見、恋愛小説である。
「なのはちゃんに借りた」
「えっ、マジで!?」
読むんだ! こういうの読むんだ!
さらにパチィンと無駄パッチンによりリインが机の下から本を運んでくる。今度は漫画本だった。確か有名な少女漫画雑誌の奴だ。
「なのはちゃんに貸したのが、ちょっと前に返ってきた」
「おぉ……」
自信満々に鼻が高くなる八神さん。だが、もう無粋なツッコミなどしない。そのピノキオフェイスは根拠ある自信ッ! 今の彼女は、俺にとっての……師匠ッ!
「で、何か言う事は?」
「恋愛相談させてください、師匠!」
師匠が言うには、なのはちゃんは明確な男の好みと言うものがないらしい。というのもだ、ある日師匠はなのはちゃんにそういう会話を振ってみたらしいんだが
『ところでなのはちゃん、こういう恋愛、自分もしてみたいとか思わへん?』
『んー、なんでー?』
特に興味もないようなガンスルーだったらしい。
「なんでや! 普通そこは流すにしてもちょっと恥ずかしそうに流すか、のってくる所やろ! 振りやろ! せめて拒否れや!」
師匠もご乱心である。
ともかく、なのはちゃんにとって恋愛はあくまでつくりものの娯楽。自分に関係するとは思っていないようだ、と。
「多分な、環境が悪いねん。ほら、なんか……私ら、ずっと女所帯やし。男が周りに少なかったねん。そんで今までがむしゃらに頑張ってきたから……」
なるほど。男がいてもザフィーラさんやクロノ提督、それにあの人は紳士だからな……自分とどうのとは結びつかなかった訳か。さらに言うなら、少し遠くからなのはちゃんに憧れているような男はフェイトにシャットアウトされる。俺は結構例外的存在なのだ。多分。
「ちなみに八神さんは?」
「二人で食事までは行った事あるで!」
ドヤァと胸を張る。あぁうん、師匠もやはり恋愛経験は皆無に等しいようだ。
「はっ、誘導尋問された……」と落ち込む師匠をよそに考える。なのはちゃんの周りにそれらしき男の影がないという事は俺のチャンスが即座に失われる事はないのだろう。しかし逆に俺が恋愛関係になるという事もないのではないだろうか。
そもそも、なのはちゃんはヴィヴィオの母親として忙しいし。人生充実してるじゃないか。
俺、それに恋愛関係になりたいだとか言いに行くのはとても自分勝手じゃないだろうか。
あぁ、そういう関係ってバランス崩すと色々大変らしいし。これ、やっぱり、俺、迷惑な人……?
「ちょっぷ」
「いて」
八神さんにチョップを食らった。
「タロちゃん、あんた最大のダメな所は……その、劣等感や!」
「なんと」
だが確かに、言われてみれば。
俺がこの二年修行に励んだのは自分に自信を付けるためだ。だがどうだ、その切っ掛けはと言えばフェイトに背中を押されたからだし、そうして戻ってきた俺はまたうじうじと悩んでいる。
腕っぷしは強くなった。人にそれを伝えられる技術の下地も出来た。しかし、心の方はまだまだ未熟だ。
「確かに、タロちゃんはダメな男や。グレたりひねくれたりショボくれたり忙しい奴やで。しかも魔法は使えないし、単純な腕力があるだけで事務処理能力がある訳でもない。まぁ凡人や」
「ぐ、うぅ……」
「しかぁし! 世の全ての人間が、自分より優れた奴にへこへこして生きてる思うか? 日常で、自分より仕事出来る奴だからって頭下げるか? 過去がよろしくないからってお天道様に目ェ背けるんか?」
師匠の言葉は胸に刺さる。
俺はきっと自分がダメだと思い過ぎていた。いや、確かにダメな奴かもしれない。しかしそれを気にし過ぎて何も出来なければ、もっとダメな奴になってしまう。自分に出来る事を最大限にやる奴こそがかっこいいんじゃないか。
でも、それが恋愛となると、どうなんだろう。
「八神さん、ためにはなったけどこれ恋愛相談じゃ……」
「大丈夫やで、タロちゃん――女は、ちょっと強引な男の方が惚れる」
パチコーンとイイ女ウインク付きの台詞だった。
すげぇぜ、八神さん師匠……あんた今最高に輝いてるよ……尊敬ポイントぷらすじゅうでフェイトに並んだよ……かっこいいよ……。
「手始めに! 前から気になってたんやけど、私の方が年下なんやからタメ口にしてみな? さぁ、景気づけや」
「俺の昔の写真のデータ消せよ八神ィ!」
「ひぃっ、覚えてた!? 直ちに!」
でもしっかりする所はしておこう。
そんな訳で、お昼も頂いてから帰宅した。流石八神、家事スキルはやたら高い。美味しかった。そしてタメ口は定着した。
気分が軽い。俺は今まで、昔の粗暴な自分を封じ込めておけばいいと思っていたんだ。優しい自分、誰かに優しさをあげられる自分。そういう理想を目指して。
それだけじゃいけない。他人に本当に近づきたいと思うのなら、他人の心に踏み込む強さを持たなければいけない。故に
「俺は、なのはちゃんに電話する!」
部屋で一人決意する。正直まだ覚悟が足りていない感じはあるが、こういうのは先延ばしにしてしまうと余計鈍ってしまうものだろう。鉄は熱いうちに打て、地球のことわざである。
深呼吸をして空間にモニターを投影する。そしてコール。
少し待てばなのはちゃんが出た。
「……えっと、こんな時間にごめん」
『……いいよ。今、お仕事終わった所だから』
お互いに少し言葉に間が空く。なのはちゃんの表情は硬い。
硬いというか、目が俺から彷徨って伏し目がちで、眉尻が下がっていて。落ち込んでいるというか、避けられているというか。
俺にああいってしまった事でなのはちゃんも罪悪感がある、という事なのだろうか。
「また、話がしたいんだ。ゆっくりと」
『……今話をしたって』
「駄目なんだ。ちゃんと直接顔を合わせて話をしたい」
自分の中の勇気を振り絞る。
なのはちゃんが何故怒ったのか、俺には分からない。だからちゃんとそれを、建前無しの本音で聞かなければならない。
我を押し通す。今は恋愛がどうのというのはどうでもよかった。ただ、一番自分が憧れる友達と不和があるままじゃ自分が納得できないという、そういう我侭だ。
「いつでもいい。都合のいい日を、高町が選んでくれたら。場所も、ゆっくり話せる所ならどこでもいいし」
なのはちゃんは迷っているようだった。目を合わせてくれない。沈黙が続く。
やがて声が聞こえた。よく聞こえないがヴィータさんの声だ。早く帰ろうだとかそういう事だろう。
『ちょっと考えさせて。日にちとか決まったら、こっちから連絡するから』
それで通信は終わった。
少しの事なのにどっと疲れて、思わず溜め息が出てしまった。
「二人で食事までは行った事あるで!」(仲の良い人らと食事にいった時に色々と都合がつかずにヴェロッサと二人で食事をした事があるはやてちゃん渾身の見栄)
今回はまごう事なきラブコメですね八神ィ! どうでもいいですが前話のタイトルは「フェイト達とのみ」にしておけばよかったと今更ながら思ってます八神ィ! 実は今回でシャマルメインで恋愛相談しようと思ったけどこれはやての方が面白いんじゃないかとか思った俺のミスです八神ィ!