魔法少女リリカル未婚の母(シングルマザー) 作:那智ブラック
フェイトとデート
さて、ようやく本格的に仕事の始まりである。書類作ったり挨拶回りしたり使う施設に訓練内容メニューとかそういう事務仕事はもう一旦おしまいだ。初めての試みって本当大変ね!
自分の仕事は、必要な魔力量の少ない戦闘法を広め、比較的難度の低い事件を担当出来る者を増やす事。危うく忘れそうなほどに時が経っているが忘れてはいけないのだ。差し迫った問題ではなく上からの期待もあまりないが、これはうまい事やれば管理局の慢性的な人手不足を少しばかり解消できる大事な仕事。
タイを締め直し、深呼吸。そうして扉に手を掛ける。この向こうには、今日から教官となる俺の生徒達が集まっているのだ。
息を吐くと共に、扉を押し開けた。さぁ、元気よく行こう。
「おはようございます!」
声を張り上げて、それから少し崩した敬礼をする。
五人組の列が四つで20人。これが一期生となる生徒達だ。全員が敬礼を返してくれた――当たり前ではあるが、プレッシャーが肩にのしかかる。
並ぶ顔ぶれは皆若い。体力のある人間を選別したというのもあるが、俺自身まだまだ若造なので舐められてはいけないと年が上の人間は選べなかったのだ。なにせ教官みたいなものをしてはいるが、俺は別にそちらの勉強をしたわけじゃない。経験のある人間がアシストしてくれるものの、まぁ拙い仕事になってしまうだろう。あんまりプライド高い人には教えられない。
つまり、ここにいるのは全員いい子なのだ!
「教官」
そんないい子の内の一人が、手を上げる。
目つきの悪い少年だった。この中でも恐らく一番若いんじゃないだろうか、見た所13,4か。恐らく見た目で誤解されるいい子なのだろう、仕方ない。
彼に頷いて答える。さて、何が聞きたいのやら。
「自分は教官の力をまだ見ていません。手合せ願います」
いい子じゃない……だと……!
少年の名はライトといった。確か、事件で両親を亡くして養護施設で育ったのだったか。魔力量の少なさ故に裏方業務をしているが、学生時代はストライクアーツもやっていたらしい。この道に入ってからは魔力資質に差が出てやめてしまったが、腕は確かだったと。うってつけの人材という奴だ。
そんなうってつけ君が、この日の為に作った訓練場で俺と向かい合っていた。あっるぇー。
「え、えーと。それじゃ、ライト君は俺の力に納得したいと……?」
「はい。聞けば教官は自分達と同じ、魔力に乏しい人間。それが一体どこまで戦えるのか、実際に見ないと納得出来ません」
困った。
確かに実力でこの子をねじ伏せる事は出来るだろう。だが、俺が教えるのは対魔法戦闘なのだ。魔法を使って戦う訳じゃない彼と正面から殴り合ったって俺の技術は分かってもらえない。
彼の発言は組織としては認められない上司への反発だ。理由もない、恐らく感情からの反発。だから俺はそんな生意気な生徒に対して出ていけと叫ぶ事も出来るし、正式な処罰を与える事も出来る。
だが、彼の目は真剣だった。自分が何をしているか分かった上で、それでもそうしようと思ったのだ。この目からは逃げたくない。
「分かった。ただ、俺の技術が発揮できる相手との模擬戦を見てもらう。それでも納得出来なければ君とも戦う。それでいいか?」
少し眉をしかめて、しかしライトは頷いた。初日から中々のトラブルだ。
会話の流れを見ていたのだろう。『協力者』は物陰からするりと現れる。本当は皆の前で現れてサプライズ……と行きたかったんだが仕方ない。登場して頂こう。
我らが執務官、フェイト・T・ハラオウンに。
「ど、どうもー……あはは」
曖昧に笑ってフェイトは手を振る。モニターの向こう側の生徒はどんな顔をしているだろうか。
対魔法戦闘を教える事になってはいるが、常に一人抱え込めるほどの余裕はなかったのでこうして伝手を頼る事にしたのだ。そして折角ならば初日はビッグネームをと、スケジュールに都合がついたフェイトを呼んでみた。
という訳で、片手を上げて挨拶――する前に、一陣の風。ライトが俺の脇を通り抜けてフェイトの方へと走って行った。風のように。
「フェイトさん!」
物凄い嬉しそうな声で、飛びついた。犬の尻尾が見えそうだ。目つき悪いのに。
あの年齢ではちょっとその行動はギリギリだと思うが、フェイトは彼を受け止めた。ていうか、抱き締めた。
「ライト! もう、仕事はちゃんとしなくちゃいけないでしょ! 今のあなたは、タローさんの言う事聞いて訓練するのが仕事なんだから」
フェイトはいつになく親しげで、上からで、諭すような口調だった。
それはもう、この光景だけで察する。彼もまたフェイトが助けて、時折面倒を見ていた子どもの一人なのだろう。経歴は簡単なものしか目を通していなかった、把握していなかったのは俺の落ち度だ。
しかし、なんだこれ。ほんともう、なんだこれ。
「で、でも、教官は」
「でも、とか、だって、とか。そう言う事は通用しないの、いい? 本当に納得出来ない時は仕方ないのかもしれないけど、こんな小さな事で上司のタローさんを」
そこで。
ライトは、フェイトを突き飛ばすように離れた。こちら側からではライトの顔は見えないが、肩をいからせているのが分かる。
フェイトは唖然と口を開けていた。
「タローさん、タローさんって! そんなにあの人が大事なのかよ!」
「え、いや、そんなつもりじゃ」
「僕がこの人の所に就くってなった時からいっつもそればっかり! なんなんだよ!」
いや、別にそれは話のタネになっただけだと思うんだけど。偶然そんな事になったらフェイト的にも面白いだろうし。
だが、ライトは少年らしく声を荒げてヒートアップする。愛想笑いするフェイトに指を突きつけて。
「僕は絶対、認めないからね! フェイトさんが、あんな奴のお嫁になるのなんか!」
「いや、それは絶対にないと」
「認めないからね!」
聞く耳持たねぇ。子ども恐い。
まぁ確かに、そんな嫉妬もする時期か。フェイトは美人だし、基本的には性格もいいし、そりゃ憧れのお姉さんにもなるわなぁ……なのはちゃんの防御壁にさえなっていなければとっくに男の一人や二人出来ていただろうに。いや二人出来るとダメだが。
フェイトは溜め息を吐いて、ライトの肩に手を置く。
「あのね、ライト、よく聞いて。タローさんは、なのはが好きなの!」
「おう公開処刑やめろや」
きりっとした顔でフェイトは告げる。モニターの向こう側の生徒はどんな顔をしているだろうか。
ライトは、肩を震わせて振り向く。元々目つきが悪い事もあってすっごい顔になっていた。
「……きょ、教官。本当ですか」
「こんな時でも敬語を崩さない君は立派だと思う。事実だ畜生」
マジで公開処刑じゃねえかこれ。こんな事だからハンコ貰いに行く先々で「君、高町なのはの事が好きなんだって?」とか言われるんだよ皆拡散すんなよ。恋心を秘めさせてくれよ。
目の前でぶるぶる震えるライト。やだこわい。
「この……この……二股野郎ぉー!」
「そう来たかー」
こいつの中で俺は一体どこまで酷い奴になっているんだろう。そんな悪そうな顔してるかな……してるのかもしれない、元ヤンだからな……うわぁ、やばい、俺の顔大丈夫だろうか。
ていうか、「昔はヤンチャしてましたけど」とか結構最悪じゃなかろうか。俺、他人から見るとどうなんだろう。
「ふぇ、フェイト……俺、まともな奴かな? 真っ当に生きてるかな?」
「また自信なくしてる……大丈夫大丈夫、タローさんは今はもう真面目な管理局員だよ」
「だ、だよな。よし、頑張ろう。頑張ってれば人生は明るいんだ」
「そう、頑張ろうタローさん!」
「頑張ろう!」
よし、元気出てきた。
「イチャイチャすんなー!」
と、落ち着いてきたのに耳元でライトが叫ぶ。
ていうか、冷静に考えるとこいつ、処罰するべきだよなぁ……皆への示しつかないしなぁ。減給ぐらいはやってやろうか。いや、私怨じゃなく。
ここまで言われても、あまり俺自身腹が立ってはいない。恋する男としての共感だろうか。
「分かった分かった。ライト、君の納得するようにしよう。どうしたら俺とフェイトがなんでもないって分かってくれる?」
苦笑するフェイトと顔を見合わせてから言う。ここまで来たら気が済むようにしてやろう。
ぐぬぬ、として考え始めるライト。しばらくして、思いついたのか顔を上げる。
「本当にフェイトさんを好きでないのならば! フェイトさんとデートしたって平気なはずですよね!」
お前は八神か、と言いたくなったが言っても分からないだろうと思うので黙っておく。どれだけ俺を試すのに使われるんだフェイト、ちょっと哀れになってきたぞ。
振り向けば、フェイトはやはり苦笑している。これは俺にお任せしますよという態度だ。おまかせされても困るのだが。
フェイトのスケジュールはここに呼んだ時に把握している。不可能ではない、と思う。
「ていうか、フェイトの事好きなのに俺とフェイトがデートしても平気ってどういうこと?」
「べべべべべ別に好きじゃない! 参考にしようとか思ってない! 敵情視察とか、思ってない!」
分かりやすい奴だった。
まぁそれで納得するんなら、それぐらいはやってやろうかと思う。フェイトと二人で遊びに行くのは苦じゃないし、間違っても妙な雰囲気にはならないだろうし。フェイトとなら裸で薄暗い部屋に一日閉じ込められても何も起こらないと確信できるわ。
「それじゃフェイト、二日後の仕事終わりにちょっと適当に寄っていく感じでいい?」
「わ、夜だね。……のむらや?」
「呑む事前提にすな。一応デートコースみたいにするから、遊園地とかそっち行こう」
「んー、分かった。そういえば、そういうのって久しぶりかも」
手際よく誘いやがって、とギリギリ歯ぎしりするライトがいたりするが、自業自得なので放っておく。俺とフェイトは仲良しなのだ、主になのはちゃんを間に挟む関係だから。
デートかぁ……まぁ、いつ誘えるかは分からないがなのはちゃんとのデートの予行演習だと思おう。二人きりは無理でも、いつかヴィヴィオと三人なら出かける機会もあるだろう。多分。
なお、生徒達にはなのはちゃん好きが知れ渡ってしまい、特に女の子にはめいっぱいからかわれた。早速威厳がなくなってしまった、勘弁してほしい。
ライトにはトイレ掃除一か月を命じておきました。
謎の都合の良さis主人公の特権