魔法少女リリカル未婚の母(シングルマザー)   作:那智ブラック

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フェイトとデート・実行編

 タバコを吸う奴が羨ましい、と思うのはこの手持ち無沙汰な時間だ。とは言っても買ったばかりの新車、もし自分がタバコを吸う人間でも自重するし、他人に吸わせるつもりもないのだけど。

 ハンドルに身体全体を預けるようにして新車特有の臭いを肺一杯に取り込む。うん、くせぇ。

 

『教官、フェイトさんもうすぐだよね?』

 

「うん、勤務時間はもう終わってるし多分。ていうか、敬語使いなさい敬語」

 

『勤務外でーすっ』

 

 念話を通した弾む少女の声は20人いる生徒の一人、女の子の中で最年長のリーダー格である子のものだ。魔力は十分にあるが戦闘適性がないタイプで、そのままでも十分働く場所はあるだろうに俺の下についた変わり種。確か18歳だったか。

 今回は彼女を介して生徒ほとんどがデートの音声を聞く事になっている。なっているっていうか、彼女が遠隔地の音を伝える魔法を使えると申し出た時点でそういう事になった。相変わらずフェイトは苦笑するだけだし、俺としては若い女の子のパワーにゃ敵わない。

 

「ライトは?」

 

『宿舎のトイレ掃除とお風呂掃除と廊下拭きが終わったら私達に合流って感じで』

 

「俺が命じたのより増えてない?」

 

『女性陣相談の上、私刑を上乗せしておきました、教官殿っ。私がフェイトさんにいきなり抱き着くなんて許せない派で、他にも和を乱したのが許せない派や流石に教官に暴言はないだろ派、あとあと、大好きな教官に酷い事言うなんて!派もあるよ!』

 

「最後はプライバシー的に伏せとこうよ……」

 

『なのはさんが好きって聞いて諦めた子もいますけど、まだ教官の事諦めてない子もっていだだだだ! あうあう、あの、教官、誰だか聞きたいだぁー!』

 

「なんかそっち修羅場みたいなんでやめとく」

 

 騒がしい声と共に念話がいったん打ち切られた。舐められている、思いっきり舐められている。まぁでも、その分わりと皆仲良く出来ているのはいい事なのかもしれない。鉄の結束、連帯責任、ついてこれない奴は蹴っ飛ばすぞの鬼教官なんて俺の柄ではないし。

 ちなみになのはちゃんが好きとかいう以前に生徒からの恋心なんてNGだ。あいつの次に年齢高いので確か16歳だからちょっと射程範囲外です。

 

「お待たせ、タローさん」

 

 もうひとつあくびをしようとした所でフェイトが現れた。いつも通りのスーツ姿ではない、ラフな格好をしている。流石にお洒落とはいかないしナチュラルメイク程度のものだが、まぁ出掛けるのにまったく支障はない格好だろう。

 

「でもタローさん、免許なんて持ってたんだね。二輪しか今まで乗ってなかったし」

 

「あー、うん。別の世界で銃撃戦しながらカーチェイスする機会があったから。その国の法律曲げてまで三日で叩き込まれた」

 

「タローさんはこの二年一体何をしてたの……?」

 

 それほど変わった事はしてないと思うんだけど。

 

 

 

「ところでさ」

 

「うん」

 

「デートって何をすればいいんだろ」

 

「うん?」

 

 車を走らせてしばらく。ちょっとした雑談が途切れた隙に、疑問を口にする。

 お金は用意してきてある。デートコースも、まぁとりあえず遊園地と決めてある。夕方から遊園地に入るのもなんだか損した気分になるが、自主的にデートコースを組めと言われても俺には無理だ。

 というか、デートって何なんだ。何をもってデートとするんだ。哲学的だ。

 

「いや、なんかデートをするんならなにかこう、あるのかと思って。どうせ実戦じゃないんだし、女性の視点から」

 

「んー……」

 

 俺の言葉にフェイトは悩むそぶりを見せる。唇に手を当て、信号が変わるまでの時間たっぷりと沈黙。

 そうして何かを思いついたか、ぱっと顔をこちらに向ける。

 

「服を褒めるとか!」

 

「普段着じゃん!」

 

 中々褒めるのが難しい所であった。これを褒めるならば普段から褒めなくてはいけなくなってしまう。褒め殺しだ。

 

「そ、そこを褒めるのがほら、男の甲斐性、みたいな?」

 

 フェイトも目が泳いでいる。これは駄目だ、大いなるミスだ。

 沈黙が深くなる。フェイトはなおも考えているようだが、どうにもいい案が浮かばないようだ。遊園地が目前に迫るまでたっぷりと目を伏せる。

 そしてもう一度、自信たっぷりに顔を上げる。

 

「――手を繋げばデートだ」

 

「なるほど!」

 

 超分かりやすかった。そうか、周りから見て恋人っぽかったらデートか。

 ドヤ顔しているフェイトと目を合わせる。いける。

 

「園内に入ったら手を繋ごう」

 

「あぁ、そうしよう。これで今日の件はデートだ」

 

『あのー、教官? とぼけた風にイチャイチャするとライト押さえとくの大変だからほどほどにね?』

 

 

 

 遊園地に入る直前に問題は起きた。

 

「あ、タローさんこれ私の分」

 

「んっ?」

 

「えっ?」

 

 ワリカン問題である。しかも女の方がワリカンすると思っていた場合の。

 なるほど、デリケートな問題だ。確かに常にお金こっち持ちとかなるとしんどいのかもしれないが、今回は俺が払うと決めてここにいるのだ。ここに来ると決めたのも俺。つまり俺主導でなければこの出費はなかったはずであって、ホスト側が払うのが礼儀だろう。

 

「でも、お金出してもらうとそれが気になって楽しめない……かも」

 

「あー、そういう事もあるのか」

 

 結局、妥協点として四分の一を支払ってもらう事となった。待たせてしまった受付のお姉さんには申し訳ない事をしてしまった。

 実際のデートではどうするのが一番いいのだろうか。人によるんだろうけど。

 

『私は全部出してくれる人が好きだよ、教官!』

 

 まぁ生徒は無視するとして。

 遊園地はやはり都市近郊としての宿命か、平日だというのにそれなりに混んでいる。お金かけた施設とかもあって宣伝してるし、仕方ないね。

 フェイトはというと、早速パンフレットに没頭している。計画を立てるタイプらしい。

 

「観覧車、夜だとライトアップして綺麗なんだって。最後はこれでいいかな? あ、っと、いきなり最後まで決めちゃうのはやっぱダメかな?」

 

「いやいや、ご随意に。今日は俺がエスコート役だし」

 

「しっかりしないエスコート役だなぁ、もう」

 

 向き合い、笑う。あまり身構えない方が楽しく過ごせるだろう。

 なんにせよ入り口近くでパンフレットを広げていると通行の邪魔になる。ほどほどの所で俺とフェイトはベンチを見つけ座る。適当に飲み物や食べ物も買って、どちらかというとデートと言うより子どもに戻ったかのようだ。

 しかし時刻は夕暮れ時、あまり童心に帰ってあれもこれもと選んでいる暇はない。

 

「こういう時損だなぁって思うのはさ、普段空にいるから絶叫系が全然怖くない事なんだよね……」

 

 アトラクション一覧に目を落としながらフェイトは苦笑する。

 それは確かにそうなんだろう。航空魔導士の戦闘速度以上に過激なアトラクションなんてあったらキャーとかワーとか言わずに漏らしてしまう。

 

「子どもの頃とかは?」

 

「ん……そうだね。私、ちっちゃい頃から魔法を使っていたから。だから絶叫系を楽しんだ事はないかなぁ」

 

「へー、そうだったのか。大した魔法を使えない俺みたいな奴には、ああいうのって」

 

 と、そこまで言った所で。

 フェイトがにっこり笑っている事に気付いた。

 

 

 

「にぎゃあああああああぁあああ!」

 

 

 

「――はっ!」

 

 何故だか俺はベンチの上で目を覚ました。夕空で太陽が落ちかけている。時間が経過している、そんな気がするのだが。

 どうした事だろう、途中の記憶が一切ない。何故か心にあるのはフェイトを恨む気持ちだけだった。

 

「な、なんか足がくがくする……」

 

「おつかれタローさん。あの時のタローさんは確かに空戦(そら)に近づいていたよ」

 

 何故だか飲み物を手渡してくれるフェイトに対してとても恨めしい気持ちが湧いてくる。何故だろう、にっこりほほ笑むフェイトはこんなにも優しそうなのに。

 見渡せば周りには俺と同じようにベンチに倒れ込んでいる人達がいた。なんなんだろう。

 

「タローさん、一つ忠告しておくね。天地逆転光速スライダーには、なのはとは乗ってもいいけどヴィヴィオと乗っちゃダメだよ」

 

「え、あ、うん」

 

 ほんと、一体何なんだろう。

 

『教官、お労しや……』

 

 

 

 それから少し休んで、俺達はようやく園内を歩き始めた。フェイトが言うには少しアトラクションにも乗ったようなのだが俺には記憶がないので何とも言い難い。

 穏やかな日々は何事もなく過ぎていった。絶叫系でなければ楽しめるとフェイトは言ったのでコーヒーカップに

 

「はっ、なんやあいつら! 一人でも、一人でも楽しめるっちゅうねん! てか男捕まえるし! 余裕やし! 私の美貌にかかれば、向こうから声かけてくるし! あー、でもとりあえずなんか勿体ないしなんか乗っとかなあかんな――」

 

 向かおうとして、見覚えのある顔がぷんすかしていたので見つかる前に引き返したり。

 フェイトは怖いのは大丈夫なのかとお化け屋敷に向かい

 

『ぎゃ、ぎゃああああ! ちょ、ちょっと教官これうそまじまじでやばいって感じでやばいんでいったん切っていいすかいいですよねいいって言えよばか! 抜けたら電話して!』

 

「お前が怖がるんかい」

 

 結局大丈夫そうだったのでお化けのクオリティに付いて当たり障りなく語りながら歩いたり。

 フェイトが目星をつけていたものは大抵人が多くて時間ががかかりそうだったので、動物のショーを立ち見して

 

「わっ、凄い。自分の背より高く飛べるんだねあの子。可愛いなぁ、私も世話がちゃんと出来るなら動物飼ったりできるんだけどなぁ……あ、可愛い。ぴょこってした、ぴょこって」

 

 フェイトさん今日一番の盛り上がりだったり。

 そんな風にしている内に時間が過ぎていき夕日も沈む。世界が完全に暗闇に覆われる少し前、園内にも街にも明かりが灯った。実用的な街灯もあれば、賑わいに色鮮やかな輝きもある。

 昼間よりよほど賑やかだ。宴もたけなわ、という奴だろう。

 

「よし、最後に観覧車! 乗ろう!」

 

「おー」

 

 フェイトさん完全に盛り上がっていた。大人しい彼女らしからぬ仕草で腕を振り上げるので、俺も付き合っておいた。素に戻ったら恥ずかしいだろうが、まぁ夢の国では恥はかき捨てである。

 観覧車は混んでいるものかと思っていたが、案外と人が少ない。疑問に思っているとフェイトがパンフレットを見せてくれた。どうやら園内パレードがあるので遅くまで居られる人はそちらの場所取りに躍起になっているようだ。

 という訳で少し待てば順番はやってきた。

 

「顔窓に押し付けてわくわくってやったりしないの?」

 

「さ、流石にそこまで子どもじゃないよ」

 

 狭い空間に、フェイトと向かい合って二人。改めて見ると、やはり美人だと感じる。

 胸は大きいし、それに合わせて身体の均衡が取れている。今日一日彼女と並んで歩いた俺は、さぞ男達の嫉妬の視線を受けていただろう。

 でも

 

「やっぱり、皆と来た方が楽しかっただろうな」

 

「あ、タローさんもやっぱり?」

 

 思う事は一緒だ。二人だから楽しい、なんて事はなかった。むしろ少し寂しかったぐらいだ。

 フェイトは美人だし、まぁこういう直接的な言い方をするのはどうかと思うけどエロいし、性格も良いけれど。それだけではなんか違うんだろう。自分で自分の心がきちんと分からないけれど。

 ぐん、と重力の方向が変わる感覚。観覧車が回り、視界がようやく持ち上がる。

 

「そういえばさ、タローさん。手、繋ぐの忘れてたよね」

 

「あ、ほんとだ。忘れてた」

 

「うん、じゃあ今から繋ご。デートだよデート」

 

 なのはちゃんの手もそうではあるが、フェイトの手は綺麗なだけではない。何度も戦って、何度も何かを救い上げてきた手なのだ。白いけれど、少し節もあるその手が差し出された。綺麗なだけじゃない、強くて綺麗な手。

 手を握ろうとして、そういえば正面からだと握手の形になる事に気付く。顔を見合わせてまた苦笑し、俺がフェイトの隣に移った。

 こういう経験がないのでよく分からないが、内側に向けた手同士を絡ませる。

 

「んー、これでいいのか?」

 

「うん、なのはとはこんな感じで」

 

「ちょっと待て」

 

「あはは」

 

 こんな事だから男が寄り付かないんだろうに。なんて言葉は呑み込む。

 だって、そこから見えた景色は本当に綺麗で尊いと思えたから。街の明かりと、綺麗になるように並べられた遊園地の明かり。違いはあるが、どちらも美しい。

 この一つ一つに人の尽力があるのだと思うと、心にこみ上げるものがある。俺は弱いけれど、それでもこの景色を作るそれらを守るために生きているのだと思うと。

 

「ドキドキはしないね、手を繋いでもさ」

 

「うん、そーだな」

 

 女の子の手の感触。新鮮ではあるけれど、そしてちょっと照れ臭くはあるけれど、それだけでどうにかなってしまうほどじゃない。それはきっと、俺が恋している人が別にいるから。

 フェイトが絡めた手を解いた。そしてその手をまじまじと見る。

 

「私さ、色々あって忙しくて。タローさんも、大変な事があったりして。うん、と、なんかお互いさ、変な感じ、だよね」

 

「なんだよ、突然」

 

 照れ臭そうにフェイトは笑う。

 でも、分かる。俺は管理外世界の生まれで、ろくでもない状況から救われてここにいる。フェイトは、詳しくは聞きも調べもしないが特殊な事情で昔から戦っていたらしい。調べなくても耳に入ってくる範囲では、犯罪に近しい事をしていたとか。

 

「だから、なんて言うんだろう」

 

 夜景ばかりを見ていた俺の目が、彼女に吸い寄せられる。

 星空を背に、彼女は笑った。少しばつの悪そうに。

 

「もし、ね。何もなくて、例えば学校とかで青春して会ってたらさ。私とタローさん、好きな人同士になってたかもね」

 

 フェイトに他意はないのだろう。手を握ったからとそういう事もなかった訳ではあるし、これはきっと本当にそう思っただけという言葉。夜景に溶ける、しんみりとした今だからこそ口に出来るちょっとした話だ。

 だが、この場で言ってしまった今、その言葉は違う意味を持つ。

 

「フェイト……」

 

「わ、なに、タローさん。顔、なんか怖……」

 

 それは言ってはいけない言葉だった。言葉を聞く人間を考えるべきだった。

 この状況でそういう言葉を口にしてはいけなかったのだ。例え、手を握ってどきどきはしなかったとしても。

 

「いや、ね、その、もしもの話だから。タローさん」

 

 慌てるフェイトに、俺は言う。

 

 

 

 

 

「これ、声だけ生徒に聞かれてるから危ないぞ」

 

『うっひょおぅ! フェイトさんのスキャンダル頂きました!』

 

「……っあ! あ、ぁ、わああああああ!」

 

 フェイトさん(23)に黒歴史が出来ました。




るんるんるーん♪ るんるんるーん♪ るんるるんるんるーん♪

ジングルベル ジングルベル 鈴がぁーなるぅー

今日は♪ 楽しい♪ クリスマスッ!

へいっ!(吐血
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