魔法少女リリカル未婚の母(シングルマザー) 作:那智ブラック
やがて君は僕の事を忘れてしまう
ていの良いだけの
かんけいはすぐ途切れてしまうね
わるいとは思っているんだ、だから
いま更新するね
いぬかわいい
かっこいいポエムを考えたので今年最後にして二回目の投稿です
「彼氏にね、浮気されたんですよ」
「うん?」
訓練終了後、更衣室から出てすぐの休憩スペースでそう話しかけてきたのは生徒の一人だった。フェイトとのデート()を実況中継していた、最年長の女の子だ。
俺がなのはちゃんを好きな事は広まっているし、どこから漏れたか俺がそれまでに女の子と付き合った事がないのも広まっている……いや、どこからとか考えるまでもない八神だろ。飲み会という名の糾弾会で俺にそれを吐かせた八神だろう。
ともあれ、そんな恋愛経験のない俺を前にしてそんな事を言うのだ。慰めればいいのか、笑い飛ばせばいいのか。彼女の表情は淡々としていていまいち掴めない。
「まぁ、今回は長続きしないかなーとは思ってたんですけどね。前カノが私の友達だったんですけど、まぁ結構だらしない話は聞いてたんで」
「最近の若い子は爛れておる……」
反応に困るわ。
元不良ではあるが、俺は真面目な不良(?)だったのだ。周りにいる奴らも硬派気取りばっかりで、女をとっかえひっかえなんて奴はいなかった。
まぁつまり、反応に困るわ。
「あ、ちなみに元カレの浮気が分かった経緯が凄く面白いんですけど、聞きたいですか?」
「君への見方が変わるの怖いから聞かないでおく」
でっすよねー、とかいうこいつは明らかに俺を舐めている。訓練はある程度真面目にしてくれるようになったが、相変わらずプライベートでは生徒に舐められっぱなしだ。
まぁ、気にしてなさそうで何よりだ。訓練終了後という事で勿論周りに他の奴らもいるのだが、明け透けに話をしているし。こっちはとても気になるんだが、多少迂闊な事を言っても大丈夫だろう。こっちはとても気になるんだが。
「ま、そういう訳で。元カレて言った通り別れたんですけどね。あ、ここも面白い話なんですけど、そいつミュージシャン目指してて私の部屋に転がり込んでたんですよ」
「ベタだなぁ……」
周りの女の子たちは既に聞いた話なのか、むしろ俺の反応に興味津々だ。無難な事しか言えねぇ。
男連中は興味なさげに帰ってしまう奴もいれば、つい耳を傾けてしまう奴もいたりと色々。分かるよ、聞きたい話ではないけど逆に気になるよなこういうの。
「同棲していたんで、つまり二人の荷物ってのは私の部屋にある訳でして……本題は、これです!」
そう言って、彼女は後ろ手に隠していたそれを、見せつけるように俺の前に広げた。
チケットだ。もっと言えば映画――そう、大作であると話題になっている封切り前の映画のチケット。申し込んだ事はないので見た事はないのだが、試写会があると朝のニュースで言っていたのでそれのものだろうか。
「二人で行く約束してたんですけどね、まぁこの有様で。と、なーるーとー?」
「別に俺を誘わなくても、他に友達いるだろ?」
「ちっがーう!」
ぐい、と。
チケットを胸元に押し付けられる。思わず受け取ってしまったが、はて。
「ペアなんですよ、二人組! 何が悲しくて私と行くんですか、教官!」
「自分で言うなよ、女の子なんだからさ」
「あーもー! そうじゃなくてー!」
周りの女子の視線が険しくなる。ま、また何かやらかしてしまっているのか、俺は。
髪を振り乱す部下に指をびしぃと差されながら、ちょっとどうする事も出来ない。
「元カレと行くって言ってたヤクいものなんか行きたかないから、教官に全面的に譲るつってるんです! ほら、となると、私が誰かを誘う話じゃなく教官が、って話なんですよ!」
ここまで言われると流石に分かった。つまり、まぁ、ついでではあるが俺の恋路の応援という事か。
急に降ってわいたその機会に脳の処理が追いつかない。が、とりあえず受け取らないという選択肢はないのだろう。自分の鞄の中にそれを入れる。
「あ、ありがとう?」
「はい、最初から素直にそうやってればいいんですよ! ちなみに知ってると思いますが動物とのハートフルな奴でラブロマンスじゃないんで、教官のようなヘタレでも大丈夫です!」
「ひ、ひでぇ」
が、既に否定できる領域じゃない事は理解している。どうやら恋愛事において、俺は結構奥手な方らしいからな。自覚はないが。
いや、でも、違うんやで? いきなり告白とかして関係性が激変してなのはちゃんに負担をかけるのが嫌なだけなんやで? その気になれば俺だって、好きだとかそれぐらいの言葉は言えるんやで? あんまり大人の男舐めんなよ?
とかそういう顔をしてみるが生徒達からは物凄い心配そうな表情だけが返ってくる。くそう。
「本当に大丈夫ですか教官? それともライトをつけましょうか?」
なんでライトだよ。
これ絶対どういう事があったか後で聞き出したいって言う出歯亀根性だよね、自分が行って変に巻き込まれるのが嫌なだけだよね。生贄だよね。
「えっ、なんで僕」
本人めっちゃ意外そうじゃねぇか。
「で、でも……! 僕なんかで教官のお役に立てるのならば……!」
フェイトとは何でもないと証明した後のライトはめっちゃ素直ないい子だった。
だが、ばかだ。
「大丈夫、それぐらいの事は一人だって出来るさ……ありがとうな、心配してくれて」
「教官……!」
意訳するとお前が居ても何の役にも立たないから気持ちだけ貰っておくわという事なのだが、「ありがとう」ぐらいしか聞いていないのだと思う。子どもはばかなぐらいの方が可愛いなぁ。
「チッ! では一人で頑張ってくださいね教官!」
ほら、子どもはばかなぐらいの方が可愛いんだよ!
とりあえず魔法的盗聴を仕掛けようとしたこいつや、物理的に盗聴器を仕込もうとする他の生徒に教育的体罰・拳骨を落としておいて、今日の業務は終了だ。
さて、家に帰ったらなのはちゃんに電話してみようか。
車までの道すがら、端末でこの映画について調べてみる。
とある犬と人間の少女のノンフィクション映画だ。次元世界を越えた所で拾われた犬の、波乱万丈の物語。笑いあり涙あり、アクションありの大作だ。次元世界を越えたりしちゃうとやっぱお金のかかる大作になっちゃうよな……。
確か昔ニュースでやっていたな。当時の管理局の法では複雑な経緯があってこの犬を受け入れる事は出来なくて、少女の署名でクラナガンで暮らせるようになったんだった。モデルになった少女と犬とはすれ違った事ぐらいあるのかもしれない。
とまぁ、そういうわけだが。
「タローさん、私、犬が好きなんだ」
「……へぇ」
「犬が、好きなんだ」
笑顔のフェイト・T・ハラオウン執務官殿が目の前にいた。
愛らしい笑顔の裏にあるその意図は読め……いやめっちゃ読める。めっちゃにこにこしてる。
「共感する所がね、とってもあるの。タローさんは知ってたっけ、昔アルフっていう子と暮らしてて今はちょっと離れてはいるんだけど、やっぱり仲良しでね。だから」
「うぇいうぇいうぇい」
言葉を差し止める。空気を持っていかれたら負けだ……!
にこにこ笑顔なフェイトを前に、言葉を選ぶ。なんかこういい感じに断りにくい空気を出されたらあかんでこれは……!
「誰から聞いた……?」
結局俺の口から滑り出たのは、かなり真正面な言葉だった。フェイトの表情は揺らがない。
「ライトからだよ。さっきこういう事があったって早速報告してくれたんだ。あの子、頑張ってるみたいだね」
「あぁ、あいつは根性は人一倍だよ。他の誰より上手いって訳じゃないけど、他の誰より力を入れてる」
気の抜き方を知らない、とも言うが。あいつの「ばか」とはそういう意味でもある……いやまぁ普通に頭もよろしくない訳だが。
しかし、ストレートな言葉を軽いスウェーでかわされてしまった。こんな開き直った態度を糾弾は出来ない。
俺が次の言葉を迷っている内に、フェイトは笑顔のまま反撃する。
「ねぇ、タローさんが自分で申し込んだって言うのなら私も無理にとは言わないよ? でも人から譲ってもらったものだし……私も、お願いするだけならと思って、ね? どうかな」
確かにどうしても行きたいとかそういうものではない……この女、その心理を突いてきているッ!
フェイトには確かに昔から世話になっているし、最近もライトの事で迷惑をかけたばかりだ。一応細々と埋め合わせはしているつもりだが、そんな彼女の「お願い」とあらば聞くのもやぶさかではない。
だが、頭によぎるのは心配そうな生徒たちの視線――分かる、ここで失敗すると俺は、生徒達に余計に軽んじられてしまう。「あー、タロー先生はやっぱ奥手ヘタレの童貞野郎だなー」とか思われてしまう……それは、駄目だ。
あくまで、業務上の問題としてね! 俺のプライドとかではなく! 俺のプライドとかではなく!
「……でも、フェイトが知らない人から譲ってもらったものだし、ここで渡したら横流しみたいになるからな。うん、俺も全然見たくない訳じゃないし、うん」
「あー、あの子の事なら知ってるよ。なのはと仲良くなってるから、私も話すんだ。タローさんの人脈だね」
「そ、そっか。でもまぁ、やっぱり俺も見たいし」
「ペアだよね? 二人でいこうよ」
隙がねぇ!
言い訳を潰されるたびにどんどん自分が委縮していくのが分かる。釈然としない気持ちがありながらも、まぁ別にフェイトに恩を返すならありかなと思っている自分がいる。
ぐ、ぐぬぬ……だが、今の俺には生徒の後押しがあるのだ。物凄くネガティブなパワーを持った後押しだが。普段ならここで折れてそれはそれで楽しい友人とのお出かけになっていた所だが、まだ心に燃料はある。
なのはちゃんに、これを渡すのだ。その為には、多少の恥は曝そう。
「フェイト」
「うん」
「俺は、なのはちゃんに、見てもらいたいです……!」
すごく恥ずかしいが、言葉と共に頭を下げる。色々迷惑かけ通しなのに、ごめんねフェイト……!
そして、しばらく。沈黙が怖いが、そろそろと頭を上げる。
そこには笑顔のフェイトが居た。先ほどとは違う、面白そうな笑顔。こちらを笑うみたいな、そんな顔。
「……ぷっ、あはは。うん、いいよ。素直でよろしい」
どうやらからかわれていたようだ。胸のつっかえが取れたようで、一気に息を吐く。
溶けた緊張が泥みたいに流れ落ちる。こっちはどっと疲れたというのにフェイトは笑顔のままだ。
「ひでーなぁ……」
「ごめんごめん。でも、もしOKしたら嫉妬しちゃうな……公開されたら私がなのはと行くつもりだったんだから」
安定のなのはちゃん大好き。
「それじゃ、頑張ってねタローさん……なのはから、どんな風だったかまた聞くからね」
「勘弁してくれ」
まったく、恋路が知れ渡っているというのは大変だ。
こうして一つの憂いを絶った俺は、なのはちゃんに電話をする為に帰りを急ぐのだった。
「タロちゃん、私、犬が好きやねん」
「それさっきやったんでもういいです」
「えっ、何、ちょいちょいちょちょちょ!」
帰りを急ぐのだった!
こうして、俺は家に帰ってその後また悩んだり言い訳を探したりしながらしばらく過ごし、そしてようやく意を決した。
告げる事が出来たのだ。
だから俺は今、胸を張って生徒たちの前に居る。そう、目的は達成したのだからな。
「皆! ヴィヴィオと見て来てってなのはちゃんにチケットを渡す事に成功したぞ!」
あー、タロー先生はやっぱ奥手ヘタレの童貞野郎だなーって目で見られた。
あ、あっるぇ。
「教官、私、多分このオチ分かってたよ……プレゼント、したかったんだよね。家族水入らず。うん、そう、教官にしては頑張ったよ」
生徒に頭を撫でられた。やばい、俺には致命的なミスがあったようだ。
だって、プレゼントじゃん! フェイトを相手に自分で見るみたいな方便は言ったけど! なのはちゃんに見てもらうって事は、なのはちゃんにあげるという事だろう? そうなるとまぁ相手はフェイトかもしれないけど、まぁここはヴィヴィオと言っておくのが安パイだ……俺は、何か間違った事をしたのか……? 先にフェイトが見に行けない流れにしてしまったのがいけないのか……?
分からない。人の心は複雑怪奇だ。
「まったく、教官は……あ、通信来てますよ」
おっと、悩んでいて気づかなかったようだ。
着替えに向かった生徒達を見送り、通話をする。相手はヴィヴィオだった。
「はーい、ちょっと立て込んでてごめんね。何か用かな」
『あ、はい。忙しいところごめんなさい……あの、私、映画行きませんから』
「あ、そうなんだ」
聞けば学校の友人達と見に行きたいので、一人だけ先に見るのは気が引けるらしい。まぁ、こういう所個人の感覚によるよな。先に見て話して期待感煽るとかそういう人もいるし。
まぁ、ならそれでいいんじゃないかと思う。なのはちゃんも誘いたい人ぐらい
『フェイトママもはやてさんも行きませんから』
「ん、あれ、行きたいって」
『あと、はやてさんだけじゃなくて八神のおうちの人達はいかないしナカジマのおうちの人達もだめで、ティアナさんも予定が合わなくて! あ、フェイトママのお兄さんも家族サービスでいけなくて、ユーノさんなんか仕事続きで! 教会の人は、えーと、映画に興味なくて、他の人も全員無理なんです!』
「無理なんだ」
『そうなんです!』
なんだかとても無理に理由を作っているようだが、ここで嘘を吐く意味もない。多分本当なんだろう。
でも、はて。そうなると。
『タローさんは休みだって聞きました。おやすみ、なんですよね?』
「あー、うん。そうだね」
『……そういう事ですから! なのはママにも言ってあるけれど、そういう事ですから!』
そうして通話は切れた。
……
…………
……………………
えっ。
はるかなる虚無
やがて神なる者生まれ
てずから大地を創世する
かいきする世の理
わが腕の中で果て逝く光
いま未来を紡ぎ出せ
いぬかわいい
かっこいい詠唱考えたので、次回の予定は未定です。ゆっくらゆっくら、忘れそうになった時に不意打ち。
あ、感想返信は「もしかしたら二度と更新しないかも」って状態でやるのは不誠実だと勝手に思っているので放置していましたが、今更ながら、少しずつお返事させてもらいます。感想書いてくれた人まだ読んでるのかな……。