魔法少女リリカル未婚の母(シングルマザー)   作:那智ブラック

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高町さん家の事情・後

 あれから。『これ私ひとりじゃ無理』みたいなおろおろした様子のティアナを放っておく事も出来ず一緒にいる事になった俺は、なんとも気まずい事にヴィヴィオを真ん中に三人でお手て繋いでいた。小さい子の手の平は暖かく、柔らかい。

 しかしその雰囲気は暖かくなかった。俺は気まずく目を逸らしているし、ヴィヴィオは沈み込んでいる。そんな状態の三人組が横並びに歩いているのだから人目も引く……物凄く、逃げたい。

 

『ティアナ執務官補佐、本官はちょっとお腹が痛くなったので逃げたいですサー』

 

『色々混じってますよ……が、頑張ってくださいよ、年長者じゃないですか!』

 

 ヴィヴィオの頭越しに念話が火花を散らす。犯罪者臭いと言った男に頼るとはこれ如何に。だがそう言われては仕方ない、ちょっと頑張ってみようか。

 

「ヴィヴィオちゃん、その……ママと一体何があったのかな?」

 

「私にはママなんていないですっ」

 

 ぷいっと顔を背けられてしまう。やばいなきそう、こんな小さい子相手にどうすればいいの。

 なのはちゃんに説教した手前、この子にも同じように「親がいらないなんて言っちゃいけない」と言いたい所なのだが、ちょっと俺には荷が重すぎる。理屈だけ説いて後は本人に任せればいい大人相手とは違い、子ども相手は理路整然と納得できるように凡例を示して話しながら悩みも聞いてやらなければならない。無理だ、無理。早くも親をやっているなのはちゃんを尊敬する。

 さてどうするものかと思っていると、見えたのはアイスクリームの屋台。流石聖王教会、敷地の一部を公園化している上に営業許可まで出すなんて懐が広いですなぁ!

 

「ヴィヴィオちゃん、あれ」

 

 とりあえず空いている側の手で指さすと、ぴくっと反応――くいついた! 女の子は皆甘い物好き!(偏見)

 とはいえ、よく躾けられているのだろう。知らないお兄さんにいきなりたかるほどではない。特に内気という訳でもないのにこの物わかりの良さ、凄いと思う。俺なんて同じ年の頃はなんか買ってもらえるとなると好感度MAXで尻尾ギャン回しわんこの姿勢だったというのに。

 

「俺はバニラにしようかな。ヴィヴィオちゃんは?」

 

 なのでこうやって先に自分が頼み話題を振る。退路を断ち行き止まりに追い詰めるかのような所業である。捜査官である俺をあまり舐めない方がいい。

 にこにこしていると、ヴィヴィオは幾度か迷うようにうーうー唸ってから

 

「お、同じので……」

 

 と、確かにそう言った。

 これだけで全てが解決するわけではないが、切っ掛けにはなるだろう。多少は気分が軽くなりながら、ティアナにヴィヴィオを任せて屋台に走る。

 

『あ、私はストロベリーでお願いします』

 

『お前もかい』

 

 女の子は皆甘い物好き!(事実)

 

 

 

 結局ティアナは自分でお金を払おうとしていた、流石にここで受け取るのはカッコ悪いので奢ったけれど。ティアナはいい子だなぁ!

 そして今。横並び三人なのは変わらないが、今はベンチに座ってアイスを食べている。本当はそんなに甘い物が好きって訳ではないので俺が一番ペースが遅い。

 

「美味しいね、ヴィヴィオ」

 

「はい!」

 

 女の子たちはアイスをきっかけに微笑ましく盛り上がっていた。アイスと一緒に気まずい雰囲気も解けて消えたようだ、と心の中だけで言ってみる。実際に言うとまたしらーっとした目で見られるので。

 さて、ここでまた直接的に「お母さんと何かあった?」なんて聞いたら同じ雰囲気に戻ってしまう。ふむ、どうするべきか……

 

「あの……ティアナさん」

 

 悩んでいる内に。ヴィヴィオは急に表情を引き締めてティアナに詰め寄っていた。

 ティアナはそんなヴィヴィオの様子に驚きながらも頷く。

 

「私に、魔法を教えてください。えと、学校で習うような基礎じゃなくて……本当に戦うための魔法を」

 

 戦うための魔法。小さな女の子から出るには物騒過ぎる言葉だ……が、ない訳ではない。家によってはもっと小さい頃から魔法訓練を始めている所もあるし、むしろこれぐらいから始めないとエリートコースとかには乗れないだろう。まぁいいんじゃないの、というのが俺の感想だ。

 だが、ティアナは違った。何か、酷く難しい顔をしている。俺には分からない何かがあるんだろうか。

 

「それ、なのはさんにも同じ事言ったの……?」

 

「なのはママも……私とおんなじぐらいの時に、戦ってたのに……」

 

 納得する。高町なのはの伝説はミッドチルダに居れば嫌でも聞くだろう。9歳、幼いと言ってもいい時期に当時魔法のない世界の一般人だったというのにとても大きな事件を解決したという、そんなヒロイックな話。ならば自分もと、ヴィヴィオがそう思うのは仕方のない事だろう。

 だから納得がいかないのは別の事だ。彼女が頑なだというなら危険の少ない訓練から始めればいいというのに、なのはちゃんもティアナも何をそんなに躊躇っているのか。それはいくらなんでも過保護すぎじゃないのか、と。

 

「タローさん……」

 

「ん、あぁ、ごめん。俺は戦う人じゃないんだ」

 

 実際やれたとしても、ヴィヴィオの背後で睨むティアナが怖くて頷けないが。冗談っぽくない本気の顔だ。教育方針……と言い切るには、少し真剣過ぎる。

 ヴィヴィオの背景に何かある事は分かっていた。でもそれは、俺が思うよりももっと深くて、凄まじい事情なのかもしれない。

 

「ヴィヴィオ、その……もう少ししたら、ね? なのはさんだって……」

 

 宥めようとするティアナの手を払うヴィヴィオ――彼女らしくもない拒絶の動き。よく見れば、真剣なその顔の中、瞳は潤んでいた。

 

「やっぱり……ママも、皆も……私が、“セイオウ”だから……」

 

 セイオウ。その言葉だけが聞こえて……俺が何か考える前に、ヴィヴィオは弾かれたように立ち上がって走り出した。それは俺達大人がちょっと本気で追いかければ追いついてしまうような、本当に子どもの歩みだったけれど。隣で呆けているティアナを見ていると、どうしたらいいのか分からなくなってしまった。

 

「ティアナ……あの、ヴィヴィオって」

 

 聞いていいのかどうか、逡巡する。これはきっととてもややこしく、プライバシーに踏み込む問題だ。聞いてしまったらどうなるのか分からない、そういう問題。

 それでも今この状況を何とか出来るのなら安いものだと思った。重苦しいのとか、誰かが泣いているのとか、そういうの嫌だし。

 ティアナは、重く溜め息を吐いた。

 

「ヴィヴィオは――」

 

 話し始めようとして、しかし。はっとしたように言葉を止める。

 

「うぅん、行ってあげてください。多分、何も知らない人の言葉の方が、あの子には響くと思う」

 

 よく分からないが、分からないなら言いなりになってもいいのだろう。ティアナはいい子だからな。

 

 

 

 言葉は決めていなかった。けれど、俺の胸には気持ちがあった。

 義理の親に育てられて、早く一人前になりたくて魔法を習いたがって――それは俺と一緒だから。解決策も何も分からないけど、話を聞いてあげることぐらいは出来るだろう。

 だからその背中を見つけた時も変に逸りはせず、ゆっくりと落ち着きながら近づく事が出来た。

 

「やぁ、ヴィヴィオちゃん。隣良い?」

 

 声も、誘拐犯とか言われない程度に優しい声が出たと思う。頷かれると同時、教会公園の一角、植物生い茂る雑木林の中、俺は腰を下ろした。こうしているとヴィヴィオと自然に目線が合う。吸い込まれそうなほどに綺麗な、紅と翠のオッドアイ。

 そんなまっすぐな光を放つはずの綺麗な瞳が、今は涙で揺れていた。理屈なく、この涙を止めてやりたいと思った。

 

「魔法を習いたいのは、早く一人前になりたいから?」

 

 頷くと同時、涙が零れ落ちた。

 

「一人前になりたいのは何のため?」

 

「私……昔、いっぱい、迷惑かけて……皆頑張ってるのに、私、もしかしたら、ずっとこのまま……なんにもやらせてもらえないかもって……だから……」

 

 彼女の言葉は半分も理解していないし、理解しなくてもいいものなのだと思う。今この場ですべきなのは、大きな事実を確認する事よりも彼女の中の小さな感情を知って、それを表に導き出してあげる事。

 ヴィヴィオが恐れているのは多分、『今』じゃなく『未来』だ。魔法を教えてもらう事をイコール信頼の大きさと解釈し、自分が受け入れられてないんじゃないかと悩んでいる。別に今習うのが大切じゃない、いつかに繋がるかが彼女の中で大切なのだ。 

 でも子どもらしくもなく母は9歳で戦っていたからと理屈をこねている。まずはそれを否定しなくちゃいけない。

 

「ヴィヴィオはお母さんみたいになりたい?」

 

 ふるふると、首が横に振られる。

 

「じゃあお母さんと同じ事をしてもダメだな。いや、お母さんみたいになりたくてもお母さんと同じ事をすればいいってもんじゃないし……まぁ、自分は自分らしくやるしかないんだよ」

 

「自分、らしく……」

 

「そう、無理をしても余計に迷惑かけるだけだし。そういう無理は、本当に通したいかどうかって考えて、どうしても自分が曲げられないって思った時だけしかやらないべきだ」

 

 俺には兄がいる。養子じゃない、俺を引き取ってくれた家族の本当の子ども。その兄が士官学校に通っているのを見て、俺は自分の実力も弁えずに親にねだったことがある。きっと本当の子どもが優秀なら俺なんていらないとか、そういう事を考えていたんだろう。大人になった今となっては馬鹿らしい事だが。

 結果、俺は士官学校の内容についていけずドロップアウト、通常の訓練課程を行う学校に再入学したが、あの期間は本当に辛く、実にもならない日々だった。人生に無駄なんてないとは言うが、あの時間だけは無駄だったと思っている。

 

「君のお母さんも、ティアナも、君の事を想わないで言ってる訳はない……俺は知ってるけど、二人とも本当にヴィヴィオちゃんを大事にしてるんだから」

 

 クサいセリフだけど、今だけはちゃんと口に出して言うべきだと思って。

 そして大きな涙をこぼして泣き喚き始めたヴィヴィオに、慌ててしまう俺なのだった。

 

 

 

 それから数日。

 俺は念話で作り出した空間モニターを介して、自室でヴィヴィオと会話していた。モニターの向こうの彼女は溌剌とした少女らしい表情を浮かべている。

 

『それでですね! この間、レイジングハートを貸してもらえたんです!』

 

「うん、良かったじゃないか。ちゃんと気をつけて、お母さんを心配させないようにするんだよ」

 

『はいっ』

 

 結局――なのはちゃんも頭痛に苦しみながら俺の言葉の意味を考えていたみたいで。母子の間でどういう紆余曲折があったのかは分からないが、ヴィヴィオはきちんと魔法を習う事になったみたいだ。勿論戦闘用に使う中でも危ないものは後回しで、慣らしのようなものらしいが。

 そうして俺はあれが切っ掛けかきちんとあの子に顔と名前を憶えられたらしく、今ではお話なんかしちゃう仲である。

 

『あの、でも……なのはママ、お休みの日ってそんなに多い訳じゃなくて……』

 

「まぁ、それは仕方ないと思うけど」

 

『そ、それでですね……もし、良かったらでいいんですけど……ティアナさんが、休みの日ならタローさんに頼めばいいって……』

 

「よろこんで」

 

 ティアナはいい子だなぁ!

 うん、まぁね? 俺だって砲撃とかそういうのが出来ないだけで、バインドとかそういうのはまぁ、時間かければ出来るしね? 基礎演算ぐらいは、まぁ知り合いのよしみとしてロハで、決して、決して下心なく教えられるしね? 別になのはちゃんに恩を売るとか、そういう事ではなくてね?

 

『良かった! それじゃあ放課後の時間はこの日が――』

 

 嬉しそうにはしゃぐヴィヴィオの姿を見て、自分のやった事は間違いじゃなかったと確信出来た。それと同時に、胸に暖かさが満ちる。うん、やっぱり子どもは元気そうにしているのが一番だ。なのはちゃんももう酒に溺れるような事もないだろうし……もしあったとしても、絶対俺が付き合おう。ヨコシマな考えを持つ男にあんな状態のなのはちゃんは任せられん。ふんぬっ。

 

『それじゃあ、よろしくお願いします、タロー先生!』

 

「ぐはぁっ」

 

 とりあえず、希望した時からかなり時間を空けた萌え殺し攻撃を受けて膝から崩れ落ちる俺なのだった。

 ところで“セイオウ”ってなんだろう?

 




スピード☆解決

続きはやる気が続けば書きます。多分一纏まりでどさっと落とします
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