魔法少女リリカル未婚の母(シングルマザー) 作:那智ブラック
「男女の友情というモノは成立すると思うか?」
クラナガンのうらぶれた路地裏にある居酒屋「のむらや」。そう口を開いたのは次元航行艦「クラウディア」の艦長を務めるクロノ・ハラオウン提督だった。
何を隠そう、俺の兄は彼の部下。クラウディアのブリッジに詰める身だ。それほど親しくないとはいえ、顔は覚えてもらっている。
「と、言うと?」
八神家に報告に出向いてから数日が過ぎた。あれから捜査体制が整ったらしく、様々な部署から必要な人員が集められ正式な対策チームが再編されたのだ。そしてその『前例』である機動六課のメンバーが中心に集められた。何故か俺も呼ばれたのだが、返事は保留している――戦闘力がない俺が荒事に放り出されるとも思わないけど、あまりにも大それているしね。
そんな訳で、今日彼と呑んでいるのは彼の妹であるフェイトと俺が一緒に働くからかもしれないからだ。兄に呼ばれてクラウディアの皆さんにご一緒させてもらっている。ちなみにその兄は呑み過ぎて外で汚いナイアガラになっている。
クロノさんは安っぽいグラスに注がれた度数の低い酒を煽る。流石地球で暮らしている事もあってか、そういうのにも慣れている。提督の給料ならもっといい店があるだろうにと思うが、彼もこの店の雰囲気が好きなのだ。
「いやね、君とフェイトの事だ。あの子も……なんというか、少々引っ込み思案な所があるだろう? 仕事には真面目だがね、真面目過ぎてどうにかなってしまわないかと……」
「で、出た~艦長のシスコンだ~」
隣からクロノさんの部下が茶化す。言われた当の彼は照れるでもなく、「俺は真面目な話をしている」と渋面を作った。
クロノさんは間を持たせるように、またグラスを傾けた。
「とにかく。フェイトは最近働き詰めなんだ。今回の件にしたってそうだ、機動六課の実績によってフットワークが軽くなったのはいいが、その実績を作った者ばかりに任せてどうする。それこそ新人とは言わないが機動六課に倣い育成を並行する事で……」
俺に向けていた言葉は、途中から口の中でぶつぶつと呟くだけの愚痴へと変わる。彼も彼で、ストレスが溜まっているようだ。
なお、なのはちゃんがいる訳ではないので俺も麦酒を頂いている。あまり好きではないが、これも大人の付き合いだ。
「それで、どうなんだよ? タロー君は、我らが上司の言葉をどのように受け止めてる?」
部下の人も酔っているらしい。こちらに絡んできた。
男女の友情は成立するかどうか、か。結構デリケートな話ではある、酒の席が盛り上がりそうなぐらいには。つまりは、どちらにせよ俺は弄られるさだめなのだ。
「まぁ……どっちかで言えば、俺は成立する派ですけど。でも、こんな事言ってもしかしたら俺、フェイトを狙ってるかもしれませんよ」
「いや、それはないだろ。君、高町なのはの事好きなんだろ」
「ちょっと待ってどこまで広まってるんすかそれ」
時空航行戦艦にまで俺の恋路情報が拡散されている……悪事じゃないのに千里を走り過ぎだ。
ドン、と喧騒を抜けて響き渡る硬質の音。見れば、赤ら顔のクロノさんが空になったグラスをテーブルに乱雑に置いた所だった。やんややんやと追加注文する部下の方々。
「何……ウチのフェイトに女性としての魅力がないだと?」
「う、うわぁ……」
酔っている。表面上は平静を保っているが、かなりきてる。目が据わっている。
「女性らしい体つき、気立てもいい。子どもに優しく、私生活にも乱れはない。収入もある。一体何が不満なのだ……何が不満なのだろうな、世の男は」
部下に手渡された麦酒をぐいっと一飲み、口を拭いながらクロノさん。
そう――フェイト・T・ハラオウンが彼氏いない歴=年齢というのは何故か有名な話である。恐らく同じぐらい忙しくてまだ誰とも付き合った事がないであろう友人二人を差し置いて、ザンネンな噂が先行しているのだ。
ちなみに俺はもしなのはちゃんが過去に誰と付き合ってようが好きなのは変わらないけどねっ。
「そんなに言うなら、艦長が娶ってやりゃ良かったじゃないですか」
「馬鹿言え、妹だ。それにだなお前、ウチの嫁はだな……」
クロノさんの嫁自慢が部下の方へと向かった。解放されてほっとしてしまう。まぁ呑んでも家族自慢って言う辺りすごくいい人なのだが、それを聞きたいとは思わない。
しかし、フェイト……か。確かにいい人だが、嫁にしたいと思う人は少ないだろうな。なにせ彼女は――
その日、またもやプライベートだというのに俺は女の子と一緒にいた。こんな事は普段珍しいのだが……そういう時期もあるらしい。
そう、俺の隣にいるのはフェイト・T・ハラオウン。クロノ提督の妹が運転する車の助手席に俺は居た。
「やっぱ、子どもがいると車の方がいいみたいだなぁ」
「うん、そうだね。ヴィヴィオもたまに乗せるよ」
「へぇ、やっぱもう一人のママって事だな」
「もう、からかわないでよ」
フェイトは俺が最も自然に話せる女性だ。同性の友人と同じように、まったく気負わずに言葉を交わせる。
彼女と出会ったのは機動六課設立後で、きちんと話したのに至ってはティアナが彼女の下についてからだが、それでもすぐに意気投合して友人となった。接点が多かったからね。
「ヴィヴィオと言えば、タローさん最近あの子に魔法を教えてるんだよね? どうかな、その辺り私は全然見てないから……」
「んー。才能はあると思う……というか、ありすぎ。あと身体動かす時に気付いたんだけど、そっちの筋もいい。特に動体視力とか……いやぁ、嫉妬しちゃうねぇ」
「空戦適正はある訳だ」
「優秀だと思うよ、実際。熱意もある。本人がもっと勉強したいなら俺なんかに頼らずランク高い学校行ってもいいとは思うけど、あの時期の子は友達とか大事だろうしなぁ」
「あぁ、離れると連絡取りにくいもんね。子どもの頃は」
平日故に渋滞もなく、車は滑らかに目的地へと進む。そう、ビル街を抜けてその先、病院へと。
「麻薬《コンセントレイト》対策班の方も、ようやくって感じだな。クロノさんは元機動六課頼りにするなーって荒れてたけど」
「あはは……でも、一部バックアップの人達がメインだからタローさんが会った事のある人は少ないよ。はやては参加するけど、八神家の他の人達は多分そのままかな」
「絶対、色々無茶に動かしても大丈夫だと思われてるよな、君ら」
「それだけ信頼されてるって事でもあると思うよ。JS事件の事もあったし、纏めて素早く動かせるって言うと私達になるんだろうし」
JS事件か。俺みたいな末端が全貌を把握している訳ではないが、単なる大規模テロ以上に内部でゴタゴタしていたようだ。スカリエッティの使うルートを割り出すために同僚や俺も駆り出されていたが手がかりすら見つからなかった辺り、内通者がいるどころではないかなり根の深い問題だったんだろう。
俺に関係する所ではまぁ、一般にも広く知れ渡っているレジアス中将の件だ。彼の手腕は治安維持に大きく貢献していた。しかし犯罪者である彼の方針をまるっとそのまま使うって訳にもいかない。使うにしたって最低限新体制の下見直しはしましたというポーズが必要なのだ。
今、俺含む一部管理局員の扱いがあわただしいのはそれが原因だろう。新体制の確立のため、どこもかしこもてんやわんやで実験的ではっきりしない。それを見越して俺個人に資料を要求する辺り、八神さんは流石である。
「っと、そこ右」
「え、直進した方が早いんじゃないの?」
「いや、信号多いから。あんま迂回せずに抜けられるところあるぞ、こっち」
俺の指し示した通りにフェイトは車を走らせ、そして目的地である病院へと到着する。
さて、俺はプライベートではあるがフェイトはそうではない。純然たる執務官の――いや、対策班の仕事である。車から降りると共にきりっと表情を切り替え確かな足取りで進む。その後ろをついていく俺。
受付で話を通して向かった病室。そこには俺にとって懐かしく、そして印象深い顔があった。
「あっ、タローさん! お久しぶりでございます、その節は非常にご迷惑を……」
「いやいや、いいんだ。あんまりかしこまらなくてもいいぜ――ジョージ」
そう、下着泥棒のジョージである。
執行猶予を下された彼は今、この病院で麻薬の影響による身体の不自由を何とかするため、リハビリを続けている。元々資産もあった方らしく、「犯罪者と一緒に居ていい気分ではないだろうから」と自分から進んでの個室での生活だ。捜査にも協力的であり、勿論なのはちゃんが大好きだ。
「それで、そちらは……フェイト・T・ハラオウンさんですね。噂はかねがね」
「はい、連絡していた通り調査に協力していただきます。よろしくおねがいしますね、ジョージさん」
フェイトが念話で『この人、ほんとになのはのパンツ取ったの……?』と聞いてくる。それぐらい今のジョージは毒気の抜けた菩薩のような顔をしていた。元々良い奴なのだろう、魔が差しただけだ。
フェイトに肩をすくめて答えながらジョージに近づく。本来なら威圧的に接するか相手を安心させるかとか色々考える訳だが、俺とジョージは既に熱い絆で結ばれているので関係ない。俺は更生する気のある奴は偏見の目で見ないよう心掛ける人間である……世の中には大した悪意もなく再犯してしまう奴もいるが、ジョージはそういうタイプでもないしな。
「それでジョージ、麻薬を手に入れた経緯は……大まかには聞いているんだが、前に調書を取った奴は理解しきれなかったらしくてな。もう一度教えてほしい」
「えぇ、それは構いませんが。そちらのハラオウンさんは……」
ちら、とフェイトを見るジョージ。それはそうだろう、調書にはファンクラブがどうのと書かれていた。なのはちゃんファン関連であり、それをなのはちゃんの友人であるフェイトに聞かせていいのか、という話だ。
だが、問題はない。だからこそ俺は連れてきたのだ。フェイトは胸を張って彼に応える。
「話してください、ジョージさん……いえ、会員No.155さん」
はっとジョージの顔色が変わる。まさか、と呟く彼に頷く俺。
「そうだ。この人がなの友(「高町なのはを見守る友の会」の略)会長、会員No.1の――フェイト・T・ハラオウンさんだ」
かつて、同じ時期に管理局で働き出した友達同士の三人の少女が居た。
実力がたしかで容姿可憐な事もあり、管理局としても市民への露出が多い場面では積極的に彼女らを起用し、結果彼女ら三人には非公式ながらファンクラブのようなものがいくつか出来ていた。全く問題がなかったわけではないが、その時には過激なファンが少なかった事もあり見過ごされていた。
問題となったのはその内の一人――なのはちゃんが大怪我を負った事件以降だ。この事件以降、「なのはちゃんが大変だ、お見舞いにいかないと」「なのはちゃんを金銭的に援助したい」などのプラスの発言、「怪我を負った今なら襲えるんじゃね?」「どうせ顔可愛いから実力に見合わない地位にいて落とされたんだろ。枕でもやってたんじゃね? ロリコン多いからなー」のようなマイナスの発言、どっちにせよ「遠くから見守る」っていう領分を超えたものが多くなったのだ。
実際、なのはちゃん本人が知らないだけでかなり近い所まで迫っていたファンや元ファンもいたらしい。公式ではないどころか、非公式としても纏まりのないファンクラブ。しかもアイドルなんかとは違いファンへのサービスなんかもほとんどないので鬱屈していく、と……まぁ人間の勝手さが分かる所だ。
それを問題視し纏めたのがフェイトだった。どういう手段を取ったのかはっきりとは知らないが、ファンクラブを一本化し自分が頂点となる事で纏め上げたのである。その際、いかがわしいものは自分のも含め全て潰し、公に語れるのは健全なファンのみという状況を作り上げた。「高町なのはを見守る友の会」、なの友の発足である。ちなみに八神さんはあんまりそういう必要なかったらしい、かわいそう(本人曰く「なんでや! 健気なはやてちゃん可愛いやろ!」)。
これで発生した問題と言えば、ちょっとアングラな所を探ればフェイトがなの友会長という事が分かり、いらぬ噂が立つようになったという事か。即ち、「フェイトはなのはの事が好きな同性愛者である」と。
実際に会った感じ、多分フェイトは純粋に友人としてなのはちゃんの事が好きである。多分。
「話してくれますね?」
「はい、会長!」
こうして俺達はジョージの口から直接経路を聞き、熱くなりすぎてなの友的なスラングを使いこなす彼の言葉を正確に把握して事件の糸口を掴んだのであった。
そして病室を後にして、またフェイトの車で来た道を戻る。
「対策班、参加してくれるよね、タローさん」
「まぁ……な。なの友の事正しく把握してる境界捜査の人間なんて俺ぐらいだろ。そっちの洗い出しは任せてもらうぜ」
「うぅん、頼りにはしてるけど任せはしないよ。私だって、なのはに悪い事が降りかからないようにしたいしね」
言うまでもないが――俺とフェイトがここまで意気投合した原因は、なのはちゃんが好きという点である。
はやては不人気なぐらいの方が可愛い。車椅子生活の影響で他人を着飾らせたりするのは好きでも自分のお洒落に無頓着とかだったら可愛い。学生時代、ムードメーカーに徹して三人の中で一番色気ないなって言われてその場では笑い話にするんだけど、家でちょっとシャマルに愚痴ってたりしたら可愛い。二人と違って前線に出ないからちょっとだけふくよかになって「む、胸の脂肪やから!」って言って見比べられて泣いて逃げたら可愛い。そのせいでお菓子とか我慢するんだけどどうしても出なきゃいけない集まりで誘惑に負けて食いまくって家で後悔してたら可愛い。そしてザフィーラの子ども達への指導の端っこに混じってダイエット企てるんだけど子どもよりも先にへばって子どもに遊ばれてたら可愛い。でもそんな日々も足が治ったからだってかつての日々を思い出してリィンⅡに首傾げられてたら可愛い。
そんな訳で誰か日常系ではやてヒロインの話書きませんか?(催促)