装甲悪鬼伝 Fullmetal demons saga 作:物数寄のほね
「では皆、"武帝"のお言葉に従うものは残り、従えぬものは去る、ということでいいな?」
傭兵組織"武帝"が拠点、その応接間にして玉座の広間。
居並ぶ"武帝"の武者達を前に、決を取るのは渉外担当を預かる女、オーリガ。
彼女としては己の仕事は外の人間との"商談"を纏めることであって、このように有事に際して内部の取りまとめをするのはお門違いではあると内心では思いつつ、文官に過ぎない己がこの場を仕切ることへの戸惑いを消せぬまま、集まった武帝の武者達を見渡す。
組織と呼ばれながら"武帝"一極集中の組織構造故に、代理として皆を纏める役職というものが定まっていなかった以上、数少ない文官の中から、武帝に最も近かった……仕事上接する機会が少しばかり多かっただけなのだが……オーリガが仕切り役として担ぎ上げられたのはある種自然な流れであった。
そしてそれは"武帝"という組織にとって重畳であると言えるだろう。仕切り役として収まったのがオーリガという女だから、ではない。
大多数の武官たちの仕切り役に、適材適所とはいえ文官が収まり、それに対し誰として大きく異を唱えず、意見の取り纏めが成ったという点がである。
太古より、文武両官というものは仲が悪いものと相場が決まってる。"武帝"という強烈なカリスマで纏まっていた組織であるが故に、鎹たる"武帝"が不在の今、最悪文官風情に指図される覚えはない等と切り捨てられる、或いは武者達が己の武力を頼りに内部紛争を起こした末、"武帝"という集団が内部分裂する恐れがもあったのだから。
故にオーリガは、血気に逸った武者達による血みどろの戦場に放り込まれるくらいならば、据わりの悪さ位飲み込んで、精々仕切り役を務めてやろうと思ったのだった。
そうして、"武帝"に残された者たちの方針が決まった。
未だ冷めやらぬ熱に浮かされ、夢現な"武帝"が属員達の、濃密な夜に端を発する新たな動きが。
― ・ ― ・ ―
始まりは何処で、因するは何時であったか。
藁をも掴む一心で、紅き妖甲と契りを交わした事か。
逼迫する日々に駆られ、焦心のままに山賊の元へ談判を迫った事か。
産まれ出た娘から、母の手により父を奪わせてしまった事か。
戦災により身寄りをなくし、湊斗の家に引き取られた事か。
己が産まれ出でてしまった事か。
一つだけ確かな事は、責任の所在は此処にあると、湊斗景明は常に思う。
湊斗光という生命は、如何に取り繕おうとも己の胤である。
そして銀星号と言う妄執は、己が光に蒔いた種でもある。
眼を逸らすことはできない、全てを投げ出し、逃げ出すなどは言語道断。
光と己の因縁に巻き込まれた武者達、善悪相殺の贄と消えた人々、そして敬愛する養母の命を喰らった罪の数々もまた理由となる。
けれど、それだけではいけないとも、彼は知った。
贖罪や責務などという言葉のみで、殺人などと言う行為を行うことの醜さを。
他人を理由に他人を弑するなどという行いの歪さを、彼は知り、そしてその事実を受け止めてしまった。
故に止まらぬ、真っ当な道ではない。王道などもってのほかで、闘争を礼賛する修羅を冠する道でもない。譲れぬ道理を抱くそれは外道ですらない。
けれど、湊斗景明は進むのだ。義務でも責務でもなく在るべき形、在るべき帰結と信じて。
そうして湊斗景明は眼を醒ました。視界に映る見覚えの無い景色に対し、戸惑いは無い。
思考は明瞭に、記憶は明確に。己の置かれている現状と、己が置かれていた状況を結ぶ仮定の線は、彼の現在を支えるに足る杖として出来上がっていた。
直前の記憶は手負いの銀星号を取り逃がし、敵陣といえよう只中にて前後不覚に陥ったところまで。
孤立無援である筈の己が置かれているのは、ならば未だに武帝の敷地、施設内であると考えるのが自然。
戦闘のダメージは拭いきれてはいないが、人並みに動き回るには十分であると判断する。幸い拘束の類はされてはいない、横たえられている寝台の上で頭部を動かし彼は己の半身を探す。
果たして深紅の妖甲は部屋の隅、景明の視界に収まる範囲内に静かに鎮座していた。恐らくは彼自身が横になる必要があったのと同じで、彼女もまた機体の修復の為一種の
「起きろ村正」
《ん…御堂、良かった起きたのね》
「状況は判るか」
重たそうに甲鉄の体を持ち上げる相棒に問いながら、景明は自身の状態を確かめていく。
(負傷の類いは残ってはいない。だが如何せん熱量が足りないか)
有事に際し、服に忍ばせる事のできる程度の携帯食料……かつての忍が用いていたとされる丸薬のようなもの……は、幸い取り上げられたり先の戦闘の影響で紛失するようなこともなく、景明の手元に残っていた。
さりとてそれを口にしたところで、劔冑を纏っての満足な戦闘を行うには程遠いものである。
(可及的速やかに、熱量を補給する必要がある)
己の手足が動き、頭が回る内が勝負と、景明は判断した。
脳や心臓の欠損すら埋める、今の景明を生に縛り付ける命綱とも呼べる善悪相殺の理ではあるが、あくまで金神の力を根源とする劔冑に備わった超能に過ぎない。
時の跳躍すら可能とする超常の力はしかして、人の身が扱うに際して熱量の消費という限界が存在する。
生命維持に必要な熱量まで絞り尽くされても尚、理が自身の命を繋いでいられるか、景明には自信がなかった。
最悪、生きるための熱量を得るため、生理機能が筋肉を分解し取り出した熱量を、理が戦闘力を維持させる為に分解された筋肉を補修するべく消費する、等という自縄自縛に陥る可能性すらある。
「行くぞ村正。野太刀を出せ」
《行くって、何処によ?》
「厨房、ないしは食料の貯蔵場所だ。早急に見つけ出して熱量を補給せねば
装甲は出来ない。どういった意図で襲撃を行ったばかりの自分達が生かされているのか、景明には不明であるのだが、いま二人が居るのは敵地のど真ん中である。
装甲なぞしようものなら瞬く間に反応を捉えられ囲まれてしまうだろうし、そもそも装甲を維持したまま満足な活動を行える程の熱量の持ち合わせが、今の景明には存在しない。
故に生身のままの景明と、自律形態の村正による穏行がこの場における最適解である筈であった。
とはいえ装甲さえせねば身を隠し通せるというのも、些か楽観が過ぎた考えでもある。
意識を失い、劔冑での戦闘の後熱量の補給を欠いているとはいえ、単騎で本拠地に襲撃を仕掛けた真打武者である。
今のところ景明が知覚できる監視の目はみてとれないが、仮にも真打を纏うことの許された武者の集団である武帝の側が、誰一人として虜囚となった景明達に監視の一人もつけず、警戒も怠っている等という無様を許す筈がない。
今となっては迂闊にも程があるが、声をだしてのこの短いやり取りすら聞かれている可能性もある。
それでも今の景明には動くしか選択肢は無かった。
孤立無援なまま敵陣に身を置き、補給も儘ならない状態で、白旗を揚げるわけでもなく待ちの選択を取るというのは自殺行為に他ならない。
《それなんだけど……》
視線で虎徹の現界を要求し、手を伸ばしてくる己の御堂に対し、村正は申し訳なさそうな色を含ませた金打声を上げて、紅い蜘蛛足の一本でその背後を指し示した。
村正の指示に景明が後ろを振り返れば、部屋の出入り口を塞ぐように立ち、銀色に光るトレイを手にした
「いやあ、丁度いいタイミングのようで何よりだ。食事を持ってまいりましたよ、御客人」
そう告げるだけ告げ景明の前でテーブルに料理を置くと、あっさりと女は踵を返し部屋を出ていった。
但し、そのまま立ち去る訳でもなく、部屋の前で護衛とおぼしき武者と共に、食べ終わるのを待つ気であろう。
部屋の前に佇んだままの気配を読んだ景明は、銀の食器乗せられた食事を毒の類いを盛るような真似はしていないという、相手方の意思表示であると見て、渋々と食事に手を付けた。
― ・ ― ・ ―
食器の立てる音にでも聞き耳を立ていたのであろう、食事を終えるや否や話があると景明達は部屋から連れ出された。
胃の腑に落ちた食事が、凄まじい勢いで消化され、身体中に滋味が行き渡っていく感覚を味わいながら景明は、村正を連れてオーリガと名乗った女の先導の下、背後から付いて歩く武者の監視を受けながら"武帝"の居城を進んでゆく。
「……自分達にお話があるとの事ですが、如何様な御用件でありましょうか御伺いしても?」
「勿論正式な武帝の引き継ぎに関してのお話を。何せ貴方は武帝直々のご指名だ」
《……ちょっと待って、あの世迷言本気なの?》
今の今まで、なぜ自分と村正が虜囚のままに生かされていたのか、まるで見当がつかなかった景明であるが、食事を摂取したことにより活動を再開させた脳が、景明に気絶する寸前に耳にした、銀星号が言い放った妄言の詳細を思い起こさせた。
景明にしてみれば、漸く追い詰めた銀星号に寸での所で逃げられ、再戦を誓われたというのが要点である。
武帝なる称号かはたまた役職なのかは知らぬことであるが、武装集団の首魁等という役割を引き受けるつもりは、もしも
今、この瞬間までは。
景明達が連れてこられたのは、空位になった武帝の席を仰ぐ広間であった。
そこには玉座への道を阻むかのように、
「先の一戦以来、皆一様に貴方の剣腕に惚れ込んだものだ。
劔冑の性能もさることながらそれを使いこなす力量、武に懸ける覚悟がありありと見て取れる」
武帝に属する真打劔冑とその仕手達が居並ぶ中、口火を切ったのは他でもないオーリガであった。
広間へと着くや彼女は、武帝の武者達の傍へ寄り添い、景明達へと向き直りながら、語り始める。
身構える景明達、その視界の端では監視についてた武者が装甲を解いていた。頬宛を付けた禿頭の男が姿を露わとなり、そのまま武者達の一群へと混じる。
景明達を前に武帝の武者達は最早、不自然なほどに敵意というものを失っていた。
「率直に申し上げて、武帝がいらっしゃらなくとも、当面の運営自体には問題はないのだ。
このご時勢お客様は向こうからやって来るし、経営はワタシが、本業である戦闘に至っては、それこそここにいるのは皆戦闘のエキスパートばかり、部隊運用は前から各部隊長に一任されてきてたという」
「お話を伺う限り、何も問題は見当たられないように思われますが」
「旗印が必要なのだ。
ここで燻っているのは、どれも刃を交える機会を奪われたまま、無用無能の烙印を押され、己の居場所が奪われる事を恐れながら打つ手もなく腐って行くばかりだった連中でね。
武帝に見出だされなければ今頃骨董品の謗りを拭えなかったのだよ。そこを真打武者が今世でその武威を示す道を示して下さった」
嘗て、等と言うほど昔の話ではない。ほんの数年ほど以前まで、真打劔冑とは戦場の華であり支配者であった。
単機にて戦の趨勢をも決定付ける、戦略兵器にして決戦兵器。
それを纏うことを許される。
それ自体が権威であり、権力であり、誉であり、戦場での活躍を期待され、そして約束された英雄の証であった。
けれど、それも今や
徹甲弾は甲鉄を貫き、発振砲は中身を焼く。
そしてそれら長距離兵装群は、軒並み刃を直に交えることなく戦果を示す。
そこに人生の全てを懸けるがごとき鍛練の果て、限られた極僅かな者にしか許されなかった真打武者という価値は、最早戦場に必要無かった。
真打武者には扱えず、数打武者には扱えて、真打武者すら労せずして墜とすことのかなう武器。
戦場から限られた英雄の存在を奪い、戦の趨勢を決める新たな戦争の支配者。
それでも、そうやって戦場で散れるのならばまだ浮かぶ世もある。
彼等は、その機会すらも奪われたまま腐ってゆく、朽ちてゆく。
「そこへ来ての貴方だ。"武帝"と渡り合う程の力量を持ち、
そこがミソだと、オーリガは景明たちに念を押して、言葉を続ける。
「実を申せば、我々は善悪相殺なるものの正体を知らないのだ。
武帝曰く武の真を顕す教えであると、ただそれだけしか、あの方は我々に教えてはくれなかった。
故に我々は、我等に課された掟よりその内容を推し量ることしかできなかった」
詳らかには語られぬ、けれど武帝程の武人が武の真実として掲げる理。
武帝の武者達はそれを、己ずから理解せねばならぬ類の事と判断し、そして一つの推論を打ち立てた。
「即ち善悪相殺とは、
或いは縁あるものの命を費やしたからには武器を手に執り勝利で還せ、と、この様なモノだと」
(……なに、を。こいつは、なにを、なにを言っている……ッ)
《何よ、なんなのそれ!?そんな、そんなものがっ……》
「善悪相殺、善悪相殺だと、貴様等はそう云うのか?
そのような、正義を肯定するような、復讐を許容するような解釈が、善悪相殺?」
戦争の歴史における
そこに生き、武帝にまで流れ着いた武者達は、皆大なり小なり
あるものは憧れた戦場を統べる誇り高き姿を後にも繋ぐべく。
あるものは己を燃やし尽くす程の野心が為に全てを捧げた。
あるものは連綿と受け継がれてきた歴史を背負わされた。
あるものは殺戮の限りを尽くす暴威に焦がれ手に入れんと。
そして、他ならぬ劔冑達もまた、その心魂を甲鉄に打ち込めて。
真打武者という王者の座を、皆人生を懸けて求めたのだ。
それが、ガラクタと成り果てた。
誇りは失われ、野望は露と消え、犠牲は無駄となり、爪牙は圧し折られた。
寄る辺を奪われ喪った彼等は、差し伸べられた武帝という救いの手に縋るほかなく。
そして、縋りついた先にあるものが蜘蛛の糸のように儚く、何時自分達の期待を裏切るか判らぬようなものではあって欲しくは無かった。
自分達が全てを捧げた武道に、全てを否定される訳にはいかなかったのだ。
だから、武帝が武を顕す理として掲げる、善悪相殺なるものは、
不安の、裏返しとして。
彼等が
それは善悪相殺があたかも、闘争を生み出すきっかけであるかの如き代物であった。
「やれやれ、お二方のご様子を窺うに、どうやら随分と的外れな事を言ってしまったようだ」
《っ!?貴女ねえ!》
努めて、常よりも軽薄な声音でオーリガは、景明と村正へと、そう囀った。
戦慄く両者が彼女の思惑通りに、忘我の境より帰った事を確認して女は、表情を改めて。
「――では、貴方の言う"善悪相殺"とは《武》とは、一体何なのです?」
それを、それを聞いた。このオーリガなる女は。
伝説の妖甲村正が三世と、その仕手たる悪鬼に。
装甲悪鬼村正に。
「――武道とは何か……そんな事を俺に聞くのか?」
顔を伏せたまま、景明の口からそう言葉が絞り出された瞬間。
その場に居た武帝の人間達は皆、目の前の男が武帝と相対していた時と同じ様に、空気が変わった事を感じ取った。
「……どう答えてほしいのだ。
正義を翳し、悪を討つ刃か。
力なき者を守る盾か。天下泰平を導く道か」
言いながら、ゆるりと、湊斗景明は真っ直ぐに歩き出す。
仕手の変化を読み取って、紅い蜘蛛もまた後ろに続く。
「く、クククッ、カッカッカ……武道が何か知りたければ剣でも槍でも好きな道具を持って来るがいい。
武道を云々する位なら、何か使える得物があるだろう?
それを自分でも、他人でも、好きな奴に叩き込んでみることだ。
……どうなる、何が起こる?たった一つの結果しか残らないだろうそうだ、それが答えだそれが総てだそれが武道だッ!!」
どこまでが、光の読み筋だったのだろう。
口舌を動かし、歩みを進めながら、湊斗景明はふと考える。
武帝の武者達に善悪相殺の理、その真意を伝えずこうも致命的な誤解へと辿り着かせたのは果たして、偶然だろうか。
飛び抜けたところのある娘であるから、言わずとも判る筈と鷹を括った結果であると考える方が自然だった。
けれど、天稟溢れるあの怪物であるならば或いは、この結末も企図した通りのものなのだろうか。
だとするならば、見事な
最早、景明達はこの武帝なる傭兵組織を捨て置く事は出来なかった。
善悪相殺を、寄りにもよってかくも正反対に解釈してしまっている集団を啓蒙せねばならない。
例えそれが、
いや寧ろ、その
『カゲ』は『光』の下で、その姿を『明』らかとするものなり。
故に、景明。
湊斗光の手により、その生来にして真性の邪悪を発現させるに至った悪鬼。
故に、奪うのだ。
光(ヒカリ)が強く輝く事を望むほど、カゲがその姿を大きく、濃くしてゆくように。
湊斗光から父を奪い、その妄念にも似た夢をも奪ったのも、意図せぬ偶然などではなく必然であったのだ。
故に奪う、湊斗光が『天下布武』を掲げるならばその大望を奪う。
湊斗光が万物との闘争を望むのならば、この世から闘争を奪う。
それが湊斗景明。
「……そんなものを振りかざして、正義?守る?平和!?
フ、フフ、アッハッハッハ……ハァッーッハッハッハ!!
この世を平和にしたいならッ、『武道』が消えて無くなればいい!!
あらゆる武器あらゆる武人が剣も槍も銃砲火器も、貴様も俺もッ!!」
湊斗景明の内に潜むモノが、併せ人知れず咆哮を上げる。
――そうだ、改めて認めよう!
己は生まれながらに誰かから、何かを奪わざる負えぬ悪鬼なのだ!
忌まれ、憎まれ、畏れられ、義憤と裁きの刃の下に、何時か切り捨てられるべき邪悪!即ち武道の体現!
猛る感情はそのまま景明の表情へと表れる。
深く、大きく、醜く歪んだ
その景明を前に武帝の武者達は、自然と道を開けてゆく。
新たな帝の登極を望むように。
「俺はその真実を世に暴き立てる、我等が武となる!
元より万人に受け入れられるものなどではないのだ。
畏怖され、唾棄され、忌憚される、結構な事ではないか!
命の脅かされる事のない、恐怖の薄れた代物が武だと?
死したる者はそのままに、生者のみが民草に賞賛されるような代物が武だと?
違うだろう、其れを思い知らすのだ!
恐怖すべきもの、忌避すべきもの、遍く万人が乗り越えられるようなものではないと。
それらを乗り越え、それらを振りまく我等こそが武そのものだと、武の代名詞へと座るのだ!」
居並ぶ武者達に見送られ、遂に景明は玉座へと辿り着く。
身を翻し自分達を見つめる武者達に向き直り、玉座へと腰を落とす。
瞬間、景明の傍で深紅の蜘蛛が独りでに弾けて解れる。
解れ舞い飛ぶ甲鉄はしかし仕手を覆うことは無く、光を放ち寄り集まって新たな像を成す。
真打武者達の前で、深紅の妖甲は麗しい蝦夷の女へと姿を変じた。
「武が滅びる時が武者の滅ぶとき、その価値観を覆す!
我等の終るときこそを、武の終焉だと言わしめる!
我等が、唯一にして最後の武となる!」
居並ぶ劔冑が、立ち並ぶ仕手が、立ち尽くす女が、武帝の全てが呑まれた。
新たな武帝の発する檄に。劔冑から人へと変じてみせた神秘に。
「武道を我等とする、全ての武を屈服させ、武は武帝の事だと、憎むべき、恐るべき、失われるべき、武帝の下にしか在り得ないのだと、天下に知らしめるのだ!
俺は為す、貴様らはどうする。
武を貶めるなと斬って掛かるか?
武に居場所は無いとこのまま腐るか?
それとも、俺と共に征くか、選べ!」
――この日、武帝は新たな主に平伏した。
新たな"武帝"が説き、掲げ直した
これより、戦火蔓延る時代にあって、武帝の新たなる戦いの幕が上がる。
これは英雄の物語ではない、装甲悪鬼の物語である。