携帯を整理してたら、
なんか大昔に書いたものが
出てきちゃって…
故に修正はあまりしませんし、
駄文で読みにくいと思いますが、
付き合って頂けると嬉しいです!
1 死神少女
廃墟。
かつて人が生活していた場所。
そして、未だに建物からは煙がたちこめ、死の匂いを運んでくる…。
その一角、地下室へ通じる岩の階段に、人が蜘蛛の巣を散らした後があった。
扉の向こうはとても湿っぽく、やや肌寒い外界とは違う空間が広がっている。
大小様々な樽に食糧を備蓄している地下倉庫のようだった。
「…ふぅ」
空になった小さい樽を投げ捨て、小さな影はため息をつく。
そのまま満足そうに頷くと、壁にもたれ掛かり、ゆっくりと体を落とした。
少しやつれた青白い顔に、光を反射するほどに綺麗な銀髪。腰の辺りまである髪はそのまま地面にとぐろを巻いていた。
焦点の合っていない赤い目は虚空を見つめ、だんだんと閉じていく…。
「レーベル・アルセンブラ。さようなら…また会う日まで」
少女はそう言って眠りに落ちた。
その目から涙がひとつ、こぼれ落ちた。
★
ミューゼ・イグシスはそれほど名門では無いが貴族の娘だった。若くして縁談を持ち込まれ、婚約者もいる。
両親は仕事で家を空けることが多かったが、婚約者のカストがよく遊びに連れていってくれるので寂しさは感じなかった。
「ミューゼ!こっちこっち!」
カストは笑いながらミューゼを呼ぶ。
「待ってよカスト〜!」
ミューゼも後を追った。
この日は珍しく両親が町から少し離れた森にハイキングに行こうと言って、カストも呼んで休日を楽しむつもりだったのだ。
「あまり遠くへ行かないようにしなさい!」ミューゼの父はそう叫んだ。
「そうね」ミューゼの母は何故かそれを悲しそうに見つめる「きっとあの子達は聞かないでしょうけれど…」
「我々も支度をするとしよう…行くぞ」
「えぇ…」
★
「随分遊んだなぁ」
カストは夕暮れの空を見上げて言った。
「そうね…早く戻らないと、父上と母上に怒られてしまうわ」
二人はそう言って手を繋いで来た道を戻っていく…。
自然と辺りが赤く染まり始めた。
…日が、落ちようとしている。
「あれ…ねぇカスト、父上と母上がいらっしゃらないわよ?」
キャンプで待っている筈のミューゼの両親は、もう既に居なかった。
「本当だ。キャンプもない…」カストは地面を調べた「ねぇミューゼ、君の父上と母上は勝手にキャンプの位置を変えたりしたりするのかい?」
「いいえ」ミューゼは首を振る「…!もしかして二人に何かがあったのかしら…」
「…いや、ミューゼの母上は剣を使えるし、父上は猟銃を持っていた筈だよ。何かがあれば音が聞こえてくる筈だ」
「…でもどうして急に…」
「考えるのは後にしよう」カストは護身用のサーベルを抜いた「夜はこの近郊にも魔物が出たって話があった…」
「カスト…」ミューゼはカストの青い瞳を覗き込んだ「私たち…帰れるのかな…」
「大丈夫」カストはミューゼの手を引く「たまに狩りでここまで来ることがあるんだ…道は分かるよ」
「そうね…ありがとう、カスト」
「いこう!」
二人は駆け出した。
★
「…!!」
銀髪の少女は飛び起きた。
…懐かしい夢を見ていた。
頭を振ってまで目覚めたのは、【その先】を知っているから…。
緑の草を染める赤。
落ちた婚約者のサーベル。
力の入らない体。虚ろな視線。
その身体を貫いていた…一本の大きな
「うああああああ!」少女は頭を振ってその光景を消そうと叫ぶ「やめろ!やめろ!私じゃない!やめろぉぉぉ…」
認めたくない。婚約者すら守れなかった自分を認めたくない。
そう、私はミューゼ・イグシス。
【死神勇者】ミューゼ・イグシス…。
私は死神。私に関わった者には全て等しく、【死が降りかかる】。
★
力なくとぼとぼと家に戻った頃には、カストがミューゼを庇って道を開いてから丸1日が経っていた。
「屋敷の電気が…」
ミューゼは呟いた。
屋敷の電気が全て消されている。
メイド達や図書室の電気は一晩中点いている筈である。
どういうことか分からないが、とても嫌な予感がした。
「おい!なんだこのガキは!」
背後から突然声をかけられ、その場に押し倒される。
「あうっ!痛い…痛いぃぃ…!」
「なんだよ血まみれじゃねぇか…」男は怪訝にミューゼを見つめた「あ…赤い瞳…てめぇまさか、魔族か…」
「放して!私の一族は代々ルビーの目をしていて、魔族のような光を反射しない目をしている訳じゃない!」
「…そうか」しかし男はミューゼを放さない「なら昨日に捨てられたっていう子供は、お前の事だったのか」
「…え?」
「まさか何も知らなかったのか?」男はナイフをミューゼの首筋に当てる「お前は捨てられたんだよ。あの日は魔王の軍が丁度通りかかる所だった。それを分かってて夜にあの森で取り残されるようにした訳だな。本人から聞いたんだ、間違いねぇ」
「…父上と…母上は?」
「殺したよ…俺が誰に見える?」
★
「そう、両親は借金があった」記憶を確かめるように【死神】は言う「カストの一族は名門で、そこに目を付けた両親は借金の件を伏せて私達を婚約させた…」
再び岩の床に腰を下ろすと、自分の禍々しい形をした得物が目に入る。
「私は住む場所を失った…」
★
突然男の体から力が抜けていった。
「全く。手配書通りの顔とはな」
さっきの男とは違う男の声がした。
「…?」ミューゼは声のする方を見上げる。青い自警団の服を着た若い男がこちらを見下ろしていた。
男はペンスと名乗った。
ペンスは両親を早くに亡くし、自警団になって生計を建てているそうだ。
「冒険者にならないかって誘われた事もあるんだが、全て断ってしまった」
「…どうして?」
ペンスに自警団の食堂で朝食をご馳走になりながらミューゼは首を傾げる。
「…実はな」内緒話をするようにペンスはミューゼの耳元で囁いた「…俺は【神託】を聞いたことがあるんだ」
「…!」神託とは、夢の中や現実に白い女神【人によって姿は様々だが】が現れ、魔王を討伐するに相応しい人に選ばれたと宣告される…つまり勇者になる資格そのものである。
「本人の意志の力が心器を作り出す…それこそが勇者の証…」ペンスは首から下げたペンダントを見せる「俺の心器だよ」
「すごい…!でも、どうして?」
「魔王を倒すのは簡単じゃない」ペンスはペンダントをしまう「犠牲も出るだろう。俺が旅に出るって知ったら、仲間たちはついてくるかもしれない。俺の勝手で仲間達を失う事に…耐えられなかったんだ」
「…」
「それにさ、魔王を倒したとして…そのあと自分はどうなるんだ?魔王が居なかった世界では、人と人が争いを続けていたって歴史があったんだ。だから俺は皆がひとつになってるこの時代が好きなんだ。…ちょっと君には理解出来ないかな?」
「…うん」
「そうか…そうだよなぁ」ペンスは少し考え込む「…あのさ、君、身寄りが無いんだよな?もしよかったらウチに来ないか?君が…良かったらだけど」
「…いいんですか?」
「いいさ。女の子一人食べさせる余裕はあるよ」ペンスは微笑んだ。
★
地下室を出ると、朝日が目にしみた。
「…」死神はドアを後ろ手で閉めると、階段を登り始める。
…ペンスの所で3年間過ごし、私は気づけば12歳になっていた。
そう。まさに12歳になったその日に…
魔王軍が私の街に攻め込んで来たのだ。
★
「とんだ誕生日になっちまったな」
ミューゼの手を引いてペンスは言う。
「…ここも敵が沢山いる!?」
「5匹ぐらいなら吹き飛ばすさ!【エッジオブサークル】!」5匹ほどの鎧に身を固めた犬男が悲鳴をあげながら吹き飛んだ「伊達に神託持ちの自警団じゃねえぜ?」
「まだいる!」
「裏を通るぞ!これじゃあ町は持たねぇ…一旦町から脱出しないとな…」
ペンスは建物の裏に回った。城壁に手をかけると、ブロックが一つ外れた。
「これって…隠し扉…?」
「あぁ」ペンスは扉を開けた「まぁ、俺がガキの時に作ったやつな」
二人はそこから町の外へ飛び出した。
そのまましばらく進んだ先で野営する。
「逃げ切った…?」
「まぁな」ペンスは干し肉をすすめる「食え…しかし町を見捨てて女の子と逃亡…自警団失格だなこりゃ」
「…」
「そんな顔すんなよ。俺はお前を選んだから今生きてるんだ…明日になったら出発しよう。近くに町が無いか探して、そんでそこでまたイチからやり直すんだ」
「ペンス…」
焚き火に照らされたペンスはとても頼もしかった。けれど…
「…」その顔が不穏に暗くなる「…でも、神託からは逃げられないのかもな」
「?」
「ミューゼ…言いにくいんだけどさ…」ペンスはミューゼを見つめた「俺な…勇者になろうと思う」
「ペンス…でもあなたは」
「あぁ。もしかしたらまた人と人とが争う世界になるかもしれない。けど、だからって逃げちゃいけないと思うんだ。それに…このネックレスが…」ペンスはネックレスを見せた「俺を呼んでる気がするんだ。真っ直ぐに魔王城に誘うように…」
「…」
「へ、変な話しちまったな?もう寝ようぜ!明日は少し早いからな」
ペンスはミューゼが寝たのを確認すると、小さなため息をついた。
「このペンダントの効果は、夜の間に着用者が魔物に襲われなくなるものだ…」
そして首から下げたペンダントをミューゼの首に静かに着ける。
「ミューゼ…何があったって俺は絶対にお前を守りきって見せる」
背後には大量の魔王軍の手先がいた。
ペンスは剣を静かに抜くと、一人猛然と立ち向かっていった。
★
次の日の朝にペンスは居なかった。
ミューゼは簡単に身支度を整えると、静かにその場をあとにした。
…なんとなく、もうペンスは居ない気がしていた。この世界に…
そして…
思ったとおり、少し歩くと不自然に曲がった彼の亡骸を見つけた。
命を挺してミューゼの存在を守ろうとしたのだろうか…?
「…どうして」視界がぼやけ、何か熱い物が目からこぼれ落ちる。
言っても、泣いても仕方がない。
分かっている…分かっているけれど。
そして目の前に…彼に突き刺さるようにあの剣があった。森がそこだけ途切れ、湧水の音が聞こえる中で…凶悪な形をした剣がそこにあった。刀とも剣とも斧とも言えそうな刀身。漆黒のボディに刻まれた、光る蒼い古代文字。
…微かにこの剣が、抜いてくれと言っている気がした…
ミューゼは剣の柄を握る。剣は斜めに地面に刺さっていたが、それでも彼女の身長のゆうに三倍はあった。
「…なるほど」
ミューゼははっと振り返る。
小さなコウモリが、赤い目を光らせながらこちらを見下ろしていた。
「誰…?」
「私は魔王…グラヴィード」
コウモリが声を発する。
魔王…?
「お前の事は…知っている…」コウモリははばたいて彼の死体に止まった「こいつはお前が殺したのだな?」
「私じゃない」怒りを押さえきれずにミューゼは叫んだ「あなたたちが…あなたたちのせいでペンスは…」
「いいや…お前が殺したはずだ」コウモリは言い放った「我が与えた神託に踊らされ、最後の最後でお前に命を預けた…お前の存在がこいつを殺した…」
「神託…まさか…貴方が!?」
「もっと面白い事を教えてやろう…その剣はお前の内なる願い…お前の【殺戮願望】が姿を成した心器だ」
「…わ…私の…殺戮願望?」
「そうだ。その剣【ブラックソウルブリンガー】…それこそが我を葬る可能性であり、我がわざわざお前に声をかけた所以」
「…この剣が貴方を倒す可能性…それを貴方自身から聞かされて、信じろって言うの?…どうしてそんな…」
「神託に拒否権はない。貴様に我が倒されるか、我が貴様を殺すか…せいぜい足掻くが良い。化け物の娘よ…」
★
だいたい思い出せるのはここまでだ。
あれから4年が経った。
背は伸び、少し女性らしさが出てきた容姿にはなったが、まだ魔王の元へは辿り着けていない。
そして今背中に背負っているのは、【不和の剣】ブラックソウルブリンガー…
彼女と冒険を共にすると、3日以内に死が降りかかる…。
いつの日か彼女は【死神勇者】と呼ばれ、人々から忌み嫌われるようになった。
彼女は魔王を探し続ける。きっと魔王を倒せば、この呪いは解ける。
自分の周りで死ぬ人が居なくなる。
ただ…そう信じて…。
「私の生きる意味を…証明する為に」