死神勇者~生きる意味を探して   作:イオシウム生命体

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16 剣よ、炎よ、そして意志よ

ヴェルドールが生きていた!

…でも、何故?

 

彼は片手に心器を持っていた。

黄色い光を発するカタナ…ではなく、

赤黒いマグマのような、絶えず熱を発している、巨大な刀身の刀だ。

 

刀身から滴る赤い液体は、岩の地面に触れると燃え上がり、火を灯していた。

 

「…どうだ?なかなかだろう?豪雲煉獄刀…こいつが今は俺の愛刀だ」

「あ…」ミューゼは言いたい事が有りすぎて、言葉に詰まる。

 

「おいおい、俺様のネーミングセンスに感動してるのかよ?」ヴェルドールはいつものように軽い調子で話し出した「お前があの心器を叩き折ってくれたから、グラヴィードに仕える義理も無くなったって訳だ。どんなカラクリかは分からねぇがミューゼ…お前がきっと危ない目に遭ってるだろうと思ったら、このカタナが出てきて俺は目を覚ました」

 

…自分で心器を錬成し、死の淵から蘇ってきたというのか。

 

「…ヴェルドール…うっ…」

ミューゼは涙を拭きながら言った。

「いやぁそれにしても役得だぜ」ヴェルドールは鞘にカタナをしまうとミューゼにいやらしく指を動かして見せた「やっぱり年端もいかない女の子だな…最ッ高に柔らかいなぁ…いやぁ、改めて最初宿屋で何もしなかったのが悔やまれるなこれは」

 

「へ…変態」

…全く、この人は…。

 

「…なるほど…自らの力で心器を錬成したか…」シャドウロードは口を開いた「【幻狼神】ヴェルドールよ…まだお前には価値がある。今すぐその女を殺せ…さすれば我らに楯突いた事は忘れてやる」

 

「いやぁ…向こうも美人だなぁ。というか同じか!困った困った…」ヴェルドールは懐から水晶の塊を取り出す「リングモント…お前の残してくれた心器…世界を護って全てを手に入れる為に…使うな」

 

そしてミューゼに水晶の塊を投げる。

「…?」

ミューゼの目の前で水晶の塊が黒くなり、木っ端微塵に砕け散った。

それと同時に…

 

ミューゼはまず、視界が開けた事に驚いた。遠くの方までちゃんと見える。

そして…全身の傷が癒えている。

左手を見ると、何事も無いように

ちゃんとそこについていた。

 

「感謝しろよ?」ヴェルドールはカタナに手を掛けて言う「リングモントは人の為なら自分を考えない最高のヤツだった。お前みたいな美少女の力になれて、アイツもきっと喜んでるだろう」

 

「ありがとう…本当に…!」ヴェルドールの隣にミューゼは立った。

 

「よし…ミューゼ」ヴェルドールはミューゼの頭をそっと撫でた「玉座の裏に何かある。きっと先に進めるはずだ」

 

「…?」

「アイツの能力は大体分かった。流石に二人がかりでも倒しきるのは難しいだろう。…俺が時間を稼ぐ。だからその間にグラヴィードを倒すんだ」

 

「…でも…」ミューゼは言いかけた。

「このまま二人満身創痍でグラヴィードに挑むよりは全然いいさ…なぁミューゼ。俺がここにいるのは、お前の覚悟が俺の魂に届いたからだ。だから…言わなくても分かるよな?」

 

「…分かった」ミューゼは武器をしまって駆け出した「お願い…死なないでね!」

 

「まぁ適当にやってるぜ?」ヴェルドールはシャドウロードに襲い掛かりながら言った「さぁ行けよ!ちゃんと二人で、生きて帰るんだ!な!?」

 

「ヴェルドール!」シャドウロードは剣をかち上げると、叫んだ「貴様、グラヴィード様を裏切るつもりか?…今すぐ私の前から消えろ!さもなければ…」

 

「あぁ?消える?…いいぜ」

ヴェルドールの姿が消えた。

「な…!?」

シャドウロードが狼狽する。

 

「…これでいいかよ!」ヴェルドールは背後から痛烈な一撃を食らわせた「容赦しねぇぞ?俺は一度惚れた女を泣かす奴は半殺しにする主義なんだよ…どうだよ?いい性格してるだろ?」

 

 

 

 

確かに玉座の裏には転移用と思われる魔法陣が描かれており、ミューゼが上に乗ると、魔法陣は起動を始めた。

 

「クソ、逃がさんぞ!」

シャドウロードが慌ててこちらを向く。

 

「【幻狼斬〜真打】!…解ッ!」

「ぐわぁぁ!」シャドウロードが反対側の壁に叩きつけられる「ぐっ…」

 

「おいおい?」ヴェルドールはミューゼにウィンクをしながら言った「一応俺の上司なんだろ?なら俺の方が優勢なのっておかしくねぇかな?…来いよ!斬っても燃やしても死なねぇ相手なんて初めてだ!たっぷりと楽しませて貰うぜ…!」

 

 

 

 

気づくとミューゼは見覚えのある場所に立っていた。

昔、訪れたことのある城だ。

玉座の前に、擦りきれたローブを着た巨大な影が立っていた。

 

「ここは…我の記憶が作り出した場所」

影は…グラヴィードと同じ声を発した。

彼がグラヴィードなのだろうか?

「グラヴィード…貴方を倒しに来た」

ミューゼは剣を引き抜いた。

 

「ミューゼ…私はお前を待っていた」グラヴィードは振り向いた「ついに我が呪われし宿命を終わらせてくれると…何年もの間…。様々な者達が我に挑み、そして破れ…我に飲まれていった」

「…」

 

「ミューゼ・イグシス。呪われし剣を持ち、魂に解放を与えし者よ」グラヴィードは既に人の形ではなかった。角が生え、皮膚は干からび、目は赤く光を放ち、両手と両足には長い鉤爪を持っている…「頼む…ミューゼ!我を…大いなる者から…解放…してくれ…!」

「…!!」

 

強い殺気を感じた。

咄嗟にミューゼが飛び退いた場所に、一本の剣が突き刺さる。

ミューゼは駆け出した。

…これが最後の戦いだ。

ヴェルドールが助けてくれた命…精一杯使ってグラヴィードを止める…!

そして…二人で帰るんだ!

 

 

「…【カースボルト・ブランディッシュ】!!」

横凪ぎに、ミューゼはグラヴィードを斬りつけた。

グラヴィードは太い両足で跳躍すると、攻撃を回避した。

 

「ぬうん!」

グラヴィードが蹴りを放つ。

何も無かった場所から突如巨大なドラゴンの腕が現れ、ミューゼを突き飛ばした。

 

「ううっ!…まだまだぁ!」

ドラゴンの腕は空気に溶けるように消え、代わりに地面に様々な魔法陣が展開されていた。…これは…爆発魔法!?

 

グラヴィードを見ると、一度に何本もの杖を宙に浮かせ、まるで指揮者のように腕を振り上げた。

 

「【テラーオブアビス】!」

素早くオーラを伸ばし、魔法を阻止する為に杖を払う。しかし一瞬遅く、いくつかの魔法は発動し、ミューゼは爆風で壁に叩きつけられた。

 

「…ウォォ!」

危険を感じ横に飛び退く。

今まで自分のいた場所に巨大なグレートソードが突き刺さっていた。…心器を与える能力…。それは思いの外強力な能力で、どうしても防戦一方になってしまう。

 

どうにかして突破口を見つけなくては。

グラヴィードを見ると、次は大量の弓を召喚し、一斉に放っていた。

 

「…ッ!?」

赤いオーラで身を護る。

ヴェルドールの仲間の水晶のお陰か、ここまではあまり対価を感じずに対応出来ている。しかしこの状況が続けば、圧倒的にミューゼの方が不利になってしまう。

 

とはいえ…

…相手にスキがないっ!!

近づけばドラゴンの腕のような衝撃波に突き飛ばされ、遠くに逃げれば矢や斧や槍が山ほど飛んでくる。

 

ミューゼも攻撃を仕掛けていくが、相手に攻撃が当たる前に盾や剣を召喚され、防がれてしまった。

 

次第に体力も切れてくる。

 

「うっ…あ…」

目眩を感じてミューゼは動きを止める。

でもここで倒れる訳にはいかない。

 

「ミューゼ…オマエを…殺して、我が、世界の王者と…ナルノダ…」

「そんな事、誰も救えない!少なくともヴェルドールはただ世界を破滅させるだけだと言っていた!貴方の行動は、犠牲しか生まない…」

 

「ヴェル、ドール…?」グラヴィードの動きが止まる「それは…聞き覚えのある名だ。ミューゼ…その者は今どこに?」

 

グラヴィードの様子が変わっていた。

 

「自分でよく考えてみて」ミューゼは体勢を戻し、攻撃に備える「貴方が彼にしたことを…彼がどんなに苦しんだかを」

「…。私は大いなる者に敗北し、世界の終焉を宣告された…。再び奴に挑むために…私は地表の人々をひとつにして、もう一度奴を倒そうと…」

 

「グラヴィード」ミューゼは気になって聞きたかった事を訊く「【大いなる者】って…何の話なの?」

 

「…」グラヴィードはミューゼを赤い目で見つめた。

瞬間、吸い込まれるような感覚と共に、付近の景色が一転した。

 

 

 

 

「っ!…ここは?」

『ここは私の記憶の深部…そして全てがここから始まったのだ』

 

目の前にはグラヴィードと全く同じ格好をした男が立っていた。

こちらには気づかないようで、杖を構えたままミューゼの背後を睨む。

辺りには沢山の死体があった。

 

 

「あぁ…くそっ」グラヴィードの姿をした男は言う「どんな魔法を当てればいい!?こんな化け物に…でもこいつを倒さないと…世界が…滅ぼされてしまう…!」

 

そして。

ミューゼの背後にいる【何か】は男に白い光の矢を放った。

 

「ぐわぁぁ!」光の矢は男に突き刺さり、鮮血が飛び散る「あああああ…み…んな…すまない…ッ!!」

 

場面が切り替わった。

 

「わ、私は…生かされた…のか」グラヴィードは魔族の姿にされていた「奴を…倒さなければ…世界が…」

 

『その為には力が必要だった。私は、自らを超える者が現れるのを何年も…何世紀も待った。待ち続けた…しかし…』

 

場面が切り替わる。

「くそ……畜生ォッ!」

地面を殴りつけ、叫んでいる姿には見覚えがあった。背は低く、顔も幼さが残っているが…彼はヴェルドールだ。

 

彼の仲間だろうか…無残に引き裂かれた死体が沢山彼の周辺に転がっていた。

 

「人間よ」グラヴィードはヴェルドールに声をかける「我を倒しに来たのだろう?立ち上がれ…剣を取るのだ」

 

「…」ヴェルドールはカタナを構えた。何の装飾もされていない…小さな刀だ「…護れなかった…。だが俺は最後まで戦う…それが俺に残された、せめてもの償いだ。お前を倒し、俺は全てを手に入れる!」

 

「全ては手に入らない」グラヴィードは腕を広げる「ヴェルドール…お前は殺すには惜しい男だ。…お前は真に全てを手に入れ、この世界の人々を護ろうと魂に誓っているか?想いを刻んでいるか?」

 

「…何が言いたいんだよ…?」

「大いなる者は必ずや再び現れ、この世界を滅ぼしに来るだろう」

 

「大いなる者…だと?まさか…」ヴェルドールは目を丸くした「おいおい、お前はまさか過去にノヴァに喧嘩を売ったってのかよ…?あんなの伝説上の話だろ?」

 

「大いなる者は定期的に現れ、世界の再生を引き起こす」グラヴィードは頭をおさえた「大いなる者を止めなければ、この呪われた傷は我が精神を…ググ…ううう」

「…何だ…何が起き…!グ…あぁ?」

 

ヴェルドールに刀が突き刺さった。

…あの黄色い心器だ。

 

ヴェルドールは仰向けに倒れる。

「…我の目的は…地表の人々をひとつに…統治し…心器による支配を…」

 

「…」操り人形のようにヴェルドールは起き上がり、心器を引き抜いた「この感情…そうか…そういうことだったのか」

 

 

 

 

「この胸の傷が囁くのだ…」ヴェルドールは言った「全ての人々を支配し、心器による生け贄をもっと差し出せと…」

 

「結局のところ、その…」ミューゼは訊いた「大いなる者というのは何者なの?」

「私がいなくなれば、お前が戦う事になるだろう…」グラヴィードは答えた「時空の淵より現れる、再生の名の元に全てを破壊する者だ。千年に一度姿を現し、【世界と等価の対価】を払うことで姿を消す…。しかしその脅威がある限り、世界は常に破滅の危機に晒されているのだ」

 

「貴方はそんな物と戦って…その胸の傷を受けた」ミューゼは彼の胸を見つめる。…

白い矢はまだ刺さったままだった。

 

「私は【世界を破滅させる】意識と戦いながら、自分を解放してくれる者を探していた。…自らの力で戦士を増やし、大いなる者と戦おうともした。

…もうどれが自分の感情なのか…制御が効かなくなっていた…。ミューゼ、私は…この矢が…大いなる者が残したこの矢が破壊されれば解放されるだろう…」

 

グラヴィードは懇願した

 

「頼む…もう時間が経ちすぎてしまった…私を…殺してくれ…!」

 

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