死神勇者~生きる意味を探して   作:イオシウム生命体

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イオです!

書き貯めたものなので
結構沢山話数があるのですが、
少しずつ投稿していこうと
思っております…。


2 孤児院の守護者

死を選ぶことも出来た…。

それでも私は逃げたくなかった。

どうして魔王がこんな真似をしてまで私に執着するのか…それを知りたかった…。

 

 

舗装された道に出た。

仲間が遺した地図によれば、小さな教会がこの先にぽつんと建っているらしい。

 

ミューゼ・イグシスは漆黒のプレートメイルと黒と蒼の装束を悟られないように、大きな白いマントを羽織って歩いていた。

背中の剣も布で巻いて隠してある。

春の陽気を肌で感じながら、鳥たちの声を頼りに進む。

 

目が見えにくいのは、魔剣をこれまでにかなりの回数行使してきた代償だ。

魔剣の力は彼女の生命エネルギーを媒介とする。しかし彼女から10メートルも離せば、その者の心の器たる心器は、使用者の心と共に破壊されてしまう。

 

…代償のお陰で瞳も隠さなければ、焦点の合いにくい赤い目を持っているせいで魔族扱いをされてしまう事もあった。

 

「…む」

ミューゼは立ち止まる。

目の前に綺麗な実を実らせた林檎の木が生えていたのだ。

「ハルノコのリンゴ…珍しい」

地面に転がっている一口サイズの林檎をいくつか選別し、手荷物の中に詰め込む。

そのうちひとつを口に放り込むと、豊満な蜜の味が口の中に広がり、喉の渇きが癒されていった。

「…うまいっ!」思わず声をあげる「この味は人の手が入ってる…」

 

「何者ですかっ!?」

 

ミューゼは声に驚いて危うく林檎の種を飲み込んでしまうところだった。

「うっ…ゲホゲホッ…」

 

「ロムナス孤児院に用事の方ですか?…所属と名を名乗りなさい。さもないと…」

ミューゼは声のする方を見る。

清楚な服装のシスターが一人、小振りなフルーレを構えてこちらを睨んでいた。

「ミューゼ・イグシス。べ…別に怪しい者じゃない。…飲み水を切らしちゃって、落ちていた林檎を…ごめんなさい」

一応警戒を解くために鞄を鎧から外し、中身を見せる。

「林檎泥棒ですか?」怪訝な顔でミューゼを睨む「一応この孤児院の敷地内なのですが…看板があったはずですよ」

…目が悪くて、文字が読めなかった。…ただの道標看板だと思って素通りしていたが、そこまで教会の敷地が広かったとは。

 

「間引きしている奴かなぁと思いまして…まぁ、無断で持っていけば泥棒ですよね…すみません」

しかし…名前を聞いても相手が身じろぐ様子はない。どうやら彼女は【死神勇者】については知らないようだ…

「…冒険者の方ですか」フルーレを腰に差しながらシスターは言った「こんな場所までいらしてくる方はなかなか居ませんが…所属している町はありますか?」

 

「いいえ。魔王軍に関する情報を集めているんです」ミューゼはシスターが剣をしまったのを安心してため息をつきながら言った「詳しくは言えないのですが、魔王にかけられた呪いを解きに、魔王のいる場所まで行く必要があって…」

 

「魔王にかけられた呪い…?」シスターはミューゼを見つめた「魔王が誰かに対して呪いを…?それは、クレリックやプリーストには相談しましたか?」

「いいえ。相談はしたけれど、手に負えないと言われました」ミューゼは鞄を再び鎧に取り付ける「飲み水を頂くだけで良いのです。この先の教会に立ち寄ってもよろしいでしょうか」

 

「そうでしたか…分かりました」シスターは頭を下げた「私は、オルテ=メイベリィと申します。ここから先にある孤児院…教会に所属しているシスター見習いです。そういう事でしたら、私が案内致します。あぁ、間引きしたものは置いていって構いませんよ。孤児院につきましたら収穫したものをご用意しますわ」

 

 

少し歩くと、小さなチャペルに四角い建物がくっついている教会のような建物に辿り着いた。

「あ、シスターお帰りなさい!」

「シスター!」

「お帰りなさい〜!」

着くなり、外で遊んでいた子供たちが沢山オルテの元に駆け寄ってきた。

「皆さん、朝のお祈りは済ませましたか?」オルテは笑いながら子供たちの頭を順番に撫でていく「冒険者の方がいらしました。皆さんくれぐれも粗相のないように」

「「はーい!」」

 

「…皆元気ですね」教会に入りながらオルテにミューゼは声をかける「私は貴族の生まれだったので、婚約者以外の同年代と話をする機会って無かったなぁ…」

「そうだったのですか?」オルテは目を丸くする「…ここの子供たちは、魔王軍によって親を失った子供たちなんです」

「…」ミューゼは話に耳を傾ける。

「かつて私がこの教会に孤児として来たとき、この教会の北にはひとつ街がありました」オルテは礼拝堂を歩きながら言う「でもそこも魔王軍の手に落ち…すぐ南に位置するこの教会も、魔王軍の標的になったのです。…そんな時にかつての司祭様が命を犠牲にして、この敷地内を魔族の知覚から完全に消すという結界を張ったのです」

 

「命を犠牲に…それって心技?」

「そうです」オルテはミューゼを見つめた「司祭様は神託を賜っておりました…その想いの力が神に伝わり、奇跡と呼べるものを呼び起こしたのです。私はそれに憧れてシスターになったんですよ」

「…」

神託、か。

「時間も時間ですし、お水を汲みになられたら朝食にしませんか?大した物はお出し出来ないのですが…」

「そんな、悪いですよ!」ミューゼは手を振った「ただ通りかかっただけなのに、そこまでご迷惑になるわけには…」

「では、ひとつお願いを聞いていただけませんか?」

「?」

フフッとオルテは笑った。

「お姉さん、よく食べるね…」

子供たちに引かれるぐらい沢山のアップルパイを平らげながら、ミューゼは幸せそうな声をあげる。

「はぁぁ…きちんと甘度調節がされた上質なハルノコのリンゴの甘美な味わい…!それにサクッと焼かれた幾重にも連なる牧場のバターのパイの味が…ハーモニー…ハーモニーですよこれは!もうひとつ!」

「はは…」オルテは苦笑しながらアップルパイを切り取り、ミューゼに渡す「お口に合って良かったですが…ミューゼさんもう12個目ですよ。苦しくありませんか?」

「…まぁ、ここら辺にしとかないと太っちゃうかなぁ…」自分の頬をつつきながらミューゼは呟いた「ほっぺた…落ちそう」

「そういえばシスター、司祭様は?」

子供の一人がオルテに問いかける。

「司祭様は馬車で近郊の村に買い出しに出掛けていますよ」

「そっかー」

「早く帰ってきて欲しいですね」

オルテは子供に笑いかけた。

ミューゼは表情を固くする。

…『今の司祭様が北にあるフォナス城塞に囚われているようなのです。私と司祭様を取り戻すのを手伝って頂けませんか?』

先程オルテからお願いされた内容だ。

しかし魔王軍の手先が捕虜を取ることは【絶対に無い】。生きている可能性は限りなく低いだろう。

「ねぇねぇお姉さん」小さな女の子に手を引かれた。

「どうしたの?」なるべく優しい微笑むように注意しながらミューゼは言った。

「この背中に背負ってるの、でっかい剣なの?つよいドラゴンみたいなの、これでやっつけちゃうの?」

「ドラゴンか…」ミューゼは普通に答えた「かつて私がドラゴンと定義していた魔物よりも沢山の種類が竜族として存在してたなぁ…そうだね、沢山やっつけたよ」

「かっこい〜!」

「オレ、お姉さんの剣技見たい!」

「あたしも!」

「君たち…」ミューゼはちょっと困って言った「この剣は必殺技だから、そう簡単に人には見せられないんだよ」

「ケチ」

「ぐは」子供ってやつは…

「こらっ!」オルテが子供たちをたしなめる「冒険者は光の加護を受け、神託を賜った神聖なお方なのですよ!あまり困らせるような事をしてはなりません!」

「はーい…」

しかし、未練がありそうにミューゼを見つめる子供たち。滅多に冒険者などを見る機会も無かったのだろう。

「仕方ないなぁ」ミューゼは立ち上がりながら言う「オルテさん、貴方はフルーレを使っているようですが、剣術の腕は?」

「私…ですか?」オルテは恥ずかしそうに片手で口を覆う「お恥ずかしながら…となり町の剣術大会で準優勝を頂きました。魔物相手に振った事はありませんが、純粋な腕なら、冒険者の方々にひけは取りませんかと」

「…じゃあ、私も自前のサーベルを使っていいなら、決闘しませんか?」ミューゼはニッと笑う「私の一族のサーベル捌きは、【紅の蜂】と称されていますよ…これでも元貴族ですから」

鎧を外し動きやすい格好になる。中庭に到着し、荷物からサーベルを出すと一、二回軽く振って感覚を取り戻した。

…埃被ってる。一年間あたりで剣術大会で握って以来だったからなぁ…

 

「それでは始めましょう」オルテは礼をして、フルーレを構える「ルールはお渡ししている競技用胸当てに傷を付けた方が勝利となります」

「…開始の合図は?」粘土が塗り込まれた特殊な防具を身につけながらミューゼはオルテに問いかける。

「この鈴を空に放り投げます」オルテは小さな鈴を見せた「これが地面に落ちた時にお互い地面を蹴って開始しましょう」

「…わかった。いつでもどうぞ」

 

「シスターが勝つとおもう?」

「いや、あのお姉さんもつよそうだよ」

「あ、ほら、はじまるわよ」

 

オルテが鈴を放り投げ、フルーレを静かに構える。ミューゼも体の力を抜き、攻撃に備えた。

…チリーン。

「…せあっ!」

まさに風のようにオルテが迫る。

「…!」ミューゼはオルテと打ち合った「うわぁ…やっぱり早い…」

「ミューゼさんも流石ですね」オルテは笑う「大抵の方は初撃で落ちてしまうのですが…うっ!?」

オルテが声をあげる。

ミューゼは次々とオルテに打ち込む。

飛びかかり上から強襲したと思ったら、姿勢を低く足払いからの一撃を見舞う。

…その動きは蜂そのものだ。

あまりにも早く、怒涛の勢いに押されぎみになるオルテ。

「そこだっ!!」

突然大振りにミューゼは振り抜く。

オルテの体勢が不意に崩れた。

「ぐうっ…」しかし…オルテの顔はニヤッと不敵な笑みを浮かべる「ふっ…掛かりましたね…?」

…しまった…

わざと力を分散させ、重いサーベルを持っているミューゼに隙を作ったのだ。

フルーレは非常に軽い剣。体勢を立て直すのはオルテの方が早い…

「これで終わりです!」

渾身の突きがミューゼを襲う。

しかしミューゼは慌てなかった。

剣は振れない…なら別を使うだけ。

体をずらし、最初の突きを避ける。

しかしもう足は地に着いていない。オルテがフルーレを振り抜けば勝敗はつく。

「ふっ…りゃあああああっ!!」

だから地面にサーベルを刺しこむ。

そのまま体を柔軟に捻ると、そこを支点にして宙へ舞い踊る。

サーベルを使った高跳び。

…もはや曲芸である。

しかも振り抜かれたフルーレを絶妙なタイミングで回避、着地時に器用にサーベルに巻き込む。

「…なっ!?」「せいやぁっ!」

そのまま地面に落ちたフルーレを伝い、驚愕の表情を浮かべたオルテに横一文字にサーベルを振り抜いた。

バシュッ!

競技用の胸当ての表面にある粘土に確かに傷がついた。

「…ととっ…」オルテの背後に立つと、少しよろけながらミューゼは振り返る「いやぁ、前半までのが【紅の蜂】の動き…後半は全然美しくなかったね、たはは…オルテさん、お怪我はありませんか?」

「えぇ」差し出された手を握り、オルテはミューゼを見つめた「ですがあの空中での身のこなし…もしかしたら貴方なら本当に魔王を倒せるかもしれませんね。いやはや、完敗です」

「オルテさんも強かったよ…」ミューゼは立ち上がらせながらため息をつく「うん。あれはシスターの動きじゃない…剣術は何処で習ったんです?」

「少し前に教会のシスターになってから、戦術書などを参考に自分で…あとは大会のメンバーと手合わせしているうちに、勝手に上達していたようですね」

「なんと独学とは…凄いセンスだ」

ミューゼは目を丸くした。

 

「すごい!」

「やっぱり冒険者って強いんだ!」

「オレは最初から分かってたけどな」

子供たちも満足したようだった。

ミューゼはサーベルの汚れを軽く布で拭き取ると荷物に戻す。

鎧を身につけ、教会の建物を出ると、もうオルテが準備を終えて立っていた。

 

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