救いなんてありません。
これはあくまで鬱小説であり、
今思えば、
これを書いた時期は荒れてなぁと
思い返すぐらいの
ひどいお話となっております。
心して読んでください。
オルテさんは巨乳です。
「オルテさん、待ちましたか?」
「いいえ」オルテは首を振った「ご協力、感謝しますわ」
「さて…」ミューゼは歩き出しながら言った「我々はこれより敵地へと向かうわけですが…移動中に言っておきたい事があります」
「えぇ。よろしくお願いします」
舗装された街道を二人で歩きながら、ミューゼは教会が見えなくなった辺りでローブを脱ぎ去った。
「…私が協力出来るのは本日と明日だけ。3日以上私と会い続ける訳にはいきませんから…」漆黒のプレートアーマーに黒と蒼の戦装束…それをオルテに見せて言う「私は【死神勇者】。3日以上私に会えば、絶対に貴方に死が降りかかる…」
「…まさか貴方が…」オルテは驚きの表情を浮かべた「もしかしてそれが、魔王から受けた呪いなのですか?」
「そうかも知れないし…そうじゃないかも知れない…」ミューゼはローブを折り、マントのように羽織る「それを確かめる為に魔王を探しているんです…」
★
「ここが…フォナス城塞…」オルテはフルーレを握りなおす「ミューゼさん…ここから先は命の保証は出来ません。あの…」
深呼吸をして、息を整える。そして、
身体の奥底に眠る何かを引き出す。
「…私もこの先に用事があるから」ミューゼは両手剣の封を解いた「お互い、この先でもしも命を落とすことがあっても恨まない…それが冒険者の掟だよ。」
「わ、分かりました」
ミューゼの雰囲気が変わった事にオルテは少しだけ戸惑ったようだった。
フォナス城塞は今より20年前に建造された、対魔物用の前線拠点である。
魔物に支配されてからも機能の一部が生きている可能性が高く、もし内部で大事が起きれば最悪油入りの砲弾の歓迎を受けてしまう…慎重に情報を集める必要がある。
「正面にリザードマンの見張り…無力化しても良いけれど、安全を考えるなら別の通り道を探した方がいいか」
ミューゼはそう言うと辺りを見回した。
「でもあんなに高い城壁…登るにしても気づかれてしまいますわ」オルテはそう言うとふと足元を見た「…ミューゼさん!」
「どうかした?」
ミューゼはオルテの元に駆け寄る。
「これ…もしかして用水路の点検口では無いでしょうか?孤児院に似たような作りの物があるんです」
「…ちょっと待って」確かに草に隠れるように人が入れそうな大きさの、金属扉を見つけた「……ふんっ!」
メキメキと音をたててミューゼは金属扉ごと入り口を開いた。
「…わぁ」唖然とそれを見守るオルテ。
「まぁこんな大きさの剣を持っているとね…嫌でも筋肉ついちゃうんだ」
「それほど筋肉質には見えないですけど…とにかくこれで中に入れますね」
「…行こう」
冷たい金属製の梯子に足をかける。湿気なのか、少し梯子は濡れていて滑りそうだった…慎重に降りていく。
しばらく降りると、思ったとおり地下水路のような場所に出た。
「薄暗いですね…」ランプを鞄から取り出しながらオルテは言う。
「…いや、明かりは点けない方がいい」ミューゼはオルテを止めた「水棲の魔物は明かりに寄ってくるから…。変な触手に捕まって、全身をゆっくり溶かされたくはないでしょう?」
「そ、そうでしたか…」気味悪そうに水路の方を見ながらオルテは言った。
「…さて」ミューゼは剣を構えて少しずつ通路を進んでいく「む…見張りはゼロではない…か」
「こんな地下水路にも奴らがいると?」
「…うん。でも向こうは多分明かりを持っているから、先制攻撃出来るね」
「え?敵って…」
「この先の通路を右に曲がってすぐだよ。こういうのは先に気づいた方が勝つ」
そう言ってミューゼは駆け出す。
そして曲がり角に一瞬チラリと槍の先端が見えた所で、その槍の先端を左手で掴み…こちらに引き寄せる。
「グガァア!?」
「…ふっ!」
その姿がリザードマンであるとオルテが確認した頃には、既にミューゼの剣が背に突き刺さり、こと切れていた。
「松明持っといて」ミューゼは片手に奪い取った松明をオルテに渡す「…鍵だね」
「どこの鍵でしょうか…」
「さぁ?…他は…大したもの持ってないな」ミューゼは死体を水路に蹴落とす「はい、松明も死体に投げ込んどいて」
リザードマンの遺体はゆっくりと暗い水面に沈み込んでいった。辺りはまた暗闇に包まれる。
「…あの、ミューゼさん」
「ん?」ミューゼは剣を構え直す。
「司祭様は…生きていらっしゃるでしょうか…」
「ん…」ミューゼは剣を下ろしてオルテを見つめる「…可能性はすごく低いよ」
「…っ!?」
「およそ魔族が…まして知性の低いレイダーリザードマンが人質を取るなんて事は聞いたことがない。もしまだ希望を持っていたいなら良いけど、覚悟はしておいて」
「そ…そんなっ」オルテは動揺を隠しきれないようだった「だって、行方が知れなくなってまだ3日しか経ってないんですよ!?あの司祭様なら…」
「3日も、だよ…」ミューゼは冷たく言う「魔族に連れ去られたのなら、その日のうちに行動を起こしておくべきだ。少なくとも私なら…そうするし」
「ミューゼさん…」
「…行くよ」ミューゼは再び、ゆっくりと歩き出した。
「…この鍵だったみたいだね」扉を開きながらミューゼは言う「上へ続く階段…」
「この先は…地上でしょうか?」
「いいや…」ミューゼは耳を澄ませながら階段を上っていく「これは恐らく…早速ビンゴだったみたいだね?」
格子のついた扉を開けると、鼻をつく臭気が二人を襲った。
「…ひどい臭いですね」
「地下牢だね…」辺りを見回してミューゼは言った。そのまま慎重に歩を進める。
「まさかここに…!司祭様がっ!」
オルテはそう叫ぶと、ミューゼの制止を振り切り先に走り出す。
「駄目っ!オルテさん待って!戻って!早く!そもそもこの牢から人を出すことなんてない!相手は…」
ミューゼはオルテに向かって手を伸ばすが、間に合わない。オルテは地面にあったワイヤーに足を引っかけてしまう。
ドシュッ
「…え?」
オルテの身体が不自然に曲がった。
「…ッ!」ミューゼはオルテに駆け寄り、体を抱き起こす「だから言ったのに…」
オルテの腹には深々と金属製の杭が突き刺さり、無機質な床に赤い水溜まりを作っていった…。この状態では…もう…
「わ…私…」
「死に急いだね」ミューゼは杭に力を込めた「…この馬鹿野郎っ!」
「…あああっ!」
オルテが悲鳴をあげ、気絶する。
抜いた杭を放り投げ、手慣れた手つきで簡単な止血を施す。しかしあくまでも、これは気休めにしかならない…。
手遅れだ…深い傷を負いすぎた。
「オルテ…ごめんね…ごめん…」
オルテの体を抱え、引きずりながら近くの牢の比較的綺麗な一室に寝かせる。
手遅れになる前に早く…探さなきゃ…。
ミューゼは【ある物】を探しに、一人罠を避けながら地下牢をさまよった。
★
「う…」オルテはうっすらと目を開けた「ミューゼ…ここは…?」
「貴方の死に場所」ミューゼはオルテをあえて冷たい目つきで睨む「…その量の出血ならもう助からない…。ここから近くの町に行くには3日はかかる。…リザードマンが相手だったのが裏目に出たわね…奴らは医療品を使わないの」
「わ、私…ここで…死ぬ?」オルテはわずかに動く右手を使い、ベッドから起き上がろうとする「駄目…!私が居なくなったら、あそこにいる子供たちはどうなるの!?こんな…こんな場所でっ…げほっ!?」
「あなたは、私に任せて孤児院で待っておくべきだったのよ」ミューゼは立ち上がる「あんなふうに死に急がれたんじゃ、私は庇ってあげられない…何か言い残しておきたいことは?」
「そんな…」オルテの目から涙が溢れた「そんなっ…こんな事って…」
「…無いのなら最期に左を向いて」
オルテは自分の寝ているベッドの左側の床に横たえられた物を見て、驚愕の表情を浮かべる。
「しさい…さま…いゃぁぁぁぁ!」
「オルテ」ミューゼは泣き叫ぶオルテに背を向けた「死に急ぐような仲間なんて、私には必要ない。だからもう…さようなら。また会う日まで」
★
「…」
…私って…何なんだろう。
両手剣を引きずり歩きながらミューゼは頭を片手で押さえていた。
また、護れなかった。
私が…殺してしまった。
もう…いやだ…誰か…
「グアアアッ!」
気付けば城塞のかなり深部まで歩いて来ていたようだった。行く手にリザードマン達が立ちはだかる。
「心器…解放」ミューゼは呟き、剣を素早く横向きに斬り払う「…邪魔だ!【エリミネイトシザーズ】!」
剣が鈍く赤く光り、三体のリザードマンが悲鳴をあげてバラバラに引き裂かれた。
「…ぐっ…あ…」
ミューゼは目の前が一瞬暗くなる。
…でも。死んだオルテはもっと苦しんだ筈だ。司祭様の遺体を目にして苦しんだ筈だ…だから…まだ…
「…皆殺しにしてやる…」
ミューゼは再び剣を握り直すと、行く手を遮る敵を切り刻みながら更に階段を上がって先に進んでいく。
自分には確かに死神のような特殊な呪いが掛けられているのかも知れない。でも、それでも大切な仲間達を殺しているのはいつだって魔王軍なのだ。
奴らをこの世から無くさないと、私の存在だって証明することは出来ない。
だから…一匹残らず殺す…殺す!
「うおぉぉぉ!」
そんなミューゼの狂気に呼応するように魔剣は赤く光りを発する。
そのたびにミューゼは剣を振り抜く。彼女の命はその都度…確実に削れていく…
代償で目に靄がかかり、
身体には新たな傷が穿たれる。
そして、いよいよ巨大な扉を見つけた。
既に開け放たれたその場所へ、ミューゼは剣を振りかざしながら乗り込む。
「ガァァァァァッ!!」
巨大な広間には、互いが立つのもままならないほどに大量のリザードマンが整列し、こちらを向いて声をあげている。
「…っ!」背後にもリザードマンが集結しつつあった「ちっ…」
やがて、あちこちから矢が飛んでくる。
ミューゼは何体かリザードマンをなぎ倒し、盾にしながら広間を走り抜ける。
脇腹に矢が突き刺さったが、部屋の端までなんとか辿り着くと、死体を突き飛ばして剣を振り抜く。
殺す。
殺す殺す殺す殺す…!
「呪われし雷よ…【カースボルト…ブランディッシュ!】」
ミューゼの剣から放たれた赤い稲妻のようなオーラは、広間にいたほとんどのリザードマンの首を一瞬のうちに切り落とす。
「うっ…ああぁ…っ!」体が魔剣に蝕まれていく感覚に耐えながらミューゼは再び顔をあげる「くっ…そ…」
朦朧とする意識をなんとか保ち、脇腹に刺さった矢を引き抜くと、そのままよろよろと歩き出す。いつの間にか広間に第二派が現れていた。
「まだまだぁ!」
再び同じ技で消し飛ばす。
この一撃でミューゼの前に敵は居なくなった。他のリザードマンはもういないのか、それとも怖じ気づいて逃げたのか…
おもむろに広間の奥の扉が開いた。
「…誘っているの?ふっ…随分となめられたものね…ケホッ…!」
ミューゼは奥の扉をくぐり抜ける。
長い螺旋階段がミューゼを待っていた。
この先は…指令室だろうか?
ミューゼは壁に片手をつきながら息も絶え絶えに登りはじめる。
一段一段がとても長く感じた。
永遠と思われた時間が過ぎ、ふと体制が崩れて転びかける。
…どうやら最上階まで来たらしい。
「この先に…」ミューゼは息を整えるように深呼吸して、軽く咳き込んだ。
目の前にひときわ大きい鉄扉がある。
ミューゼが目の前に立ち、扉に体重をかけようとした所で、扉はまたひとりでに開き、ミューゼを誘う。
「…来たか。勇者よ」
城塞の指令室。
すべての壁はガラス張りになっており、城塞の全貌と少し離れた場所にある教会までもが見渡せる空間。
置いてあっただろう椅子やテーブルはないが、ミューゼから見て左側の窓に空いた大きな穴から大体予想はついた。
部屋の中央には巨大なリザードマンが一体。黒い革製の防具に身を固め、細かい装飾のされた青く光る槍を持っていた。
「グラヴィード様に忠誠を…。」リザードマンは口を開く「魔王軍3神柱が一人…ノーザンリザードロードのド・グオル。貴公の命、貰い受ける…いざ!」
【つづく】