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沢山いて嬉しいですね。
リザードロードとは、その名の通りリザードマン達を指揮する王の事だ。
しかし辺りにいるリザードマンと違い、このリザードマンの体皮は白い。
先ほど自分で名乗ったとおり、このリザードマンが魔王の側近である3神柱であるという事は間違いないだろう。
「最初に聞くけど…魔王の居場所は?」
「…せぇあっ!」
問答無用で槍が飛んでくる。…まぁ、答えるまでもないということか。
リザードマンの身長は立った状態でもミューゼの身長のゆうに三倍はあった。巨大な尻尾も含めれば、かなりの巨体である。
しかしその巨体に似合わぬ俊敏な動きで、しかし力強く次々とミューゼに打ちかかる姿は確かに勇猛な王者を思わせた。
「…っ!」ミューゼは歯軋りをする。
防戦一方。完全に相手のペースに乗せられてしまっている。
体格差もあるが、先程広間で思いに任せて魔剣を解放してしまった代償で、ミューゼは体のあちこちから流血してしまうほどに弱ってしまっていたのだ。
「この程度か小娘!これではこのド・グオルの【氷磔の槍】の力を見せるまでもない…もっと楽しませてくれ!」
「…このっ!」ミューゼは重心をずらして相手の攻撃を受け流すと、剣に力を込める「カースボルト…なっ…!?」
すんでの所で身を屈めて死角からの一撃を回避する。それが巨大な尻尾だと気づいた頃には、再び体勢を立て直した相手からの強烈な一撃が襲いかかっていた。
「我が剣技を…食らうがいい!【ブリニクルスパイラル】!」
ミューゼは剣で受け止めるが、体勢が崩れていたため受け流しきれずに、壁に叩きつけられた。
…寒い…?
手の感覚が鈍い。一瞬代償のせいとも思ったが、よく見るとミューゼのガントレットや鎧の一部に青く光る透明な塊が貼り付いているのが見える。
「氷…しかも魔法の…?」
「気づいたようだな」ド・グオルはニヤッと笑うと槍を高々と上げた「これこそが我がグラヴィード様より賜りし力…【氷磔の槍】の力…その氷はお前の体温を奪い続け、やがては死に至らしめる」
「くっ…」立ち上がり、壁に片手を打ち付けて氷を壊してからミューゼは剣を構え直す「まだだ!私は…負けない…!」
「フン…」ド・グオルは鼻を鳴らすと、槍をミューゼに向ける「何故貴公のような小娘がグラヴィード様の脅威であるのか…我には理解出来んな」
「アイツの脅威であるだとか…そういう話に興味はないよ」ミューゼはド・グオルを睨み付ける「私はアイツに奪われたものを取り返す。私という人間が世界にいていいって…証明して見せる!だから、魔王の居場所を教えろ…!」
「フン…何故貴公に言う必要がある?」ド・グオルの槍が再び怪しく光った「貴公もグラヴィード様より心器を賜りし身であろう。この現世に心器を賜りし者の行く先は二つに一つ。偉大なるグラヴィード様に永久の忠誠を誓うか、さもなくば…」
「…!」ミューゼは危険を感じて横に飛び退いた。自分が先程まで立っていた場所に巨大な氷の柱が出来ていた。
「さもなくば…ここで滅べ!」
…やられてたまるか!
「…行くぞっ!」ミューゼは駆け出した「【カースボルト・ブランディッシュ】」
赤いオーラによって巨大化された刃を横凪ぎに振り払う。
「ふん、甘いわ!」ド・グオルは武器で攻撃を受け流すと、頭上で槍を回転させた「【ブリニクル・ガーデン】!」
辺りの地面に霜が張る。空間を凍結させているのだろうか…強力な技だ。
…息が苦しい…でも!
ミューゼは止まらない。振り抜いた勢いをそのままにミューゼは足を斜めに滑らせ、相手との距離を詰める。
「こっちが本命だっ…【エリミネイトシザーズ】っ!」
漆黒の刀身から溢れでる狂気、それらは無数の刃となり稲妻のごとくド・グオルに襲いかかった。
「なにっ…グァァァ…!」
白い体皮から鮮血が飛び散る。
「ブレイドルーン解放!」ミューゼは剣を振り上げた「血を喰らう刃の演舞…【ハングリー・ブレイドダンサー】!」
ミューゼの意志とは別に、剣が血を求めるように動き始める。その動きは素早く、肉眼でも捉えることは出来ない。
「なっ…何だこの…力はッ…!?」
先程とはうって変わってド・グオルの方が防戦一方になっていた。
「はあああッ…!」ミューゼはもはや尋常ではない速さでド・グオルに攻撃を打ち込んでいた。
「…ッ!かくなる上は…」ド・グオルは一度武器を引き戻し、ミューゼを尻尾で吹き飛ばす。ミューゼの放ったオーラで尻尾が切り落とされるが、しかし彼は不敵な笑みを浮かべていた「…かかりおったな。そろそろ終いにしてやろう!」
凍てつく氷の吐息を吹きかける。その吐息はオーラごとミューゼの動きを封じた。
「しまった…動けない…!?」
「心器解放!」ド・グオルは槍を構え、突撃する「この一撃に全てを賭ける…!氷葬の心技【ディープエンド・ブルー!】」
轟音と共にミューゼの体を青い槍が貫く。氷は弾け飛び、辺りには空間が凍った名残であるダイアモンドダストが煌めいた。
「…なかなか楽しい闘いであったな。確かにこの力ならグラヴィード様の脅威になりうるかもしれぬ…しかし」ド・グオルは笑う「ふふ…ハッハッハ!詰めが甘かったな小娘!このド・グオルと戦えた事を誇りに思うがい…」
「…ふうっ!」ド・グオルの背中に突然剣が突き刺さる。
「ぐ…アアァァァ!?」
「高位のリザードマンであればあるほど、皮膚感覚が鈍いって話…本当だったね」ミューゼは剣を引き抜いた「身代わりだよ…こんな場所で終われない…お前は私がここで、終わらせる…!」
「ぐっ……抜かったわ。代償のせいで体がッ…この小娘ェェェ!」
ミューゼはしがみついていた手を放すと、ド・グオルの槍を避けて突き出された槍の上に飛び乗る。
「チィィ!」ド・グオルは槍を振り上げようと、力を込めた「死ねェェェ!」
「ド・グオル」ミューゼは飛び上がる「残念だけど、これで終わりだよ。【ブラックエッジ・エクスキューショナー】!」
体を反転させ、ド・グオルが槍を振り上げる力をも利用し力任せに剣をぶつける。
パキィィィィン!!
轟音。
漆黒の刀身が遅れて地面に落ちる。
「ギャアアアァァァァッ!?」
ド・グオルの心器は…折れた。
「ストローク・エンド…」
ミューゼが再び剣を振り上げると、剣に纏ったオーラははっきりと、巨大な大鎌の形をしていた。
刹那、彼の首が宙を舞う。
「……代償慣れしてるかしてないか。勝敗を決めたのはそんな所か…な」
ミューゼはその場に崩れ落ちた。受けた傷と代償が、床を赤く染めていく…
「あ…私も…ヤバい…かも」
私もやりすぎた…かな…
うっすらとそんな事を思いながら、ミューゼは意識を手放した。
★
目を開けると、辺り一面に青空が広がっていた。なんとなく状況が分からないので辺りを見回す。景色が移動している…ということは自分は馬車か荷車に乗せられているのだろうか…?
「気がつかれましたか?」
「…」声のする方に目を向ける。馬の手綱を握っているのは、少し前まで行動を共にしていたシスターだった「オルテ…?」
「まったく」オルテは笑いながらも呆れたような声で言う「無茶苦茶ですね貴方は。人に頼れないとはいえ…もう少し自分を大切にしてください」
「オルテ!?なんで…あの怪我で…」
「はぁ…」オルテはため息をついた「リーダーが始末された事により、フォナス城塞からリザードマンの大群が北に撤退していったようです。その後城塞の調査のために東から調査隊がいらしたのですが、ルィンベルグスの孤児院まで子供達を送り届けてくれると言って下さって…」
「ちょ…ちょっと待ってよ…あ痛っ!」
「まだ動いちゃ駄目ですよ」オルテは馬を止める「…子供達を残すことに未練は有りましたが、帰ってこられないかも知れない旅路に出掛けたのは私の責任ですしね」
こちらを見つめるオルテの顔を見てミューゼは凍りつく。その顔は…とても青白く、生きている気がしなかった。
「…オルテ、貴方は…」
「また会えましたね」寂しそうにオルテは笑う「司祭様は…私が帰ってきた時の為に用意していたのでしょう、【帰魂の石】を持っていたんです」
「それって…一般的な心器のひとつで…確か一度だけ死体を3日間動かすっていう…じゃあ君はもう…」
「よくご存知で」
…そうか。司祭は自分の死を知らないオルテが自分を探しに来るだろうと考えていたのだろう。
自分を見つけてくれたら、その力で3日間の猶予を手に入れ、子供達やオルテを安全な場所へ。
それが彼の願いだったのだ。
強い想いが形となり、彼が死しても
心器となって残ったのだろう。
しかしオルテも死んでしまった。
彼の意志を、オルテが継いだのだ。
「オルテ、貴方が起きてからどれぐらい経ったの?」
「…」オルテは馬から降りた「2日と少しですね。死人として生きているとは…少し奇妙な気分ですが…。さて、と」
オルテはそう言うと、、そのまま馬車から離れて歩きだす。
「何処へ行くの?」
「貴方の意識が戻ったので、残念ながらもうお別れです。…ちょっとだけ、まだやり残した事があるんですよ」
「…ごめんなさい」ミューゼは俯いた「私…貴方を護れなかった…」
「私は貴方を恨みませんよ」後ろを向いたままオルテは言った「冒険者の掟…なのでしょう?貴方のおかげで子供達を護ることは出来ました。私に思い残す事はありません。だから…貴方は貴方の進むべき道を進んで下さい。私は…そうですね、天国でも司祭様に会えたら…また孤児院を作りましょうか」
「オルテ…」
「さようなら、また会う日まで…。でしたっけ?もう…貴方という人は本当に無茶しかしないんですから…魔王を倒すまで、私の所に来ちゃ駄目ですよ?」
オルテは最期にこちらに振り返った。その顔が笑っていたのか別の表情だったのかは逆光で分からない。ただ…最期に交わした会話はずっと、ミューゼの耳から離れることはなかった。
「ありがとう、オルテ。そして…さようなら、また会う日まで」
「ごきげんよう」オルテはお辞儀をした「私…貴方に会えて良かったです。最期にもう一度手合わせしたかったですが…それは機会があればまた、にしましょうか…次は負けませんからね」
「うん」ミューゼは頷いた「私も。貴方ほどの使い手はなかなかいないから」
「…では」
オルテは踵を返すと、教会の方へ振り向きもせずに走っていった。それを少し見送ると、ため息をついて馬に跨がる。馬はすぐにミューゼになついた。そのまま馬車を走らせようとするが、ふと何かを思い立ったのか馬の綱を外してしまう。
「私は死神…貴方と一緒には居られない…」ミューゼは馬を見つめる「私じゃなく、他に行きたい人の所に行ってあげて」
★
「あの人という人は…全く…」オルテは返ってきた馬を操りながら呟く「まぁおかげで、なんとか間に合いましたが…」
馬から降りると、一本の巨大な樹に歩いていき、適量の肥料を撒いていく。
「…ふふっ」大きな幹に身体を預けながら、オルテは笑った「生きていれば…甘さを感じたのでしょうか…」
その片手には小さなリンゴが握られていた。ミューゼと出会うきっかけとなった…あのハルノコリンゴである。
そう。かつて使われていた街道沿いのリンゴの樹。オルテが一生懸命育てていた、一番上等なリンゴの樹だ。
「最期にお世話していたリンゴを食べたいなんて…我ながら呆れた用事ですよね」オルテは自嘲ぎみに言った「はぁ…でもやっぱり司祭様…私、死にたくないなぁ…」
…。
小鳥が鳴く声。
風に揺れる葉の擦れる音。
木の葉から差し込む綺麗な日の光。
「こんなにも美しい景色が…すぐそばに…。あぁ、神よ…貴方は私のすぐそばにいたのですね…願わくは、あの少女の歩む先に光があらんことを…」
…その言葉を最期に。
糸が切れたようにオルテの手からリンゴが滑り落ちた。
まるで眠りにつくように静かに…
オルテという女性は、確かに。
この世から居なくなったのだ。
…馬はそれを悟ったのだろうか。
静かにその場から離れると、そのまま何処かへと走り去っていった。
【つづく】