死神勇者~生きる意味を探して   作:イオシウム生命体

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5 堕ちた蜥蜴の軍勢

しゃくしゃくと、朝露を含んだ草を踏み分けて少女が歩いている。

少女は白いローブを着て、ガラガラと【空になった】馬車を引いていた。

中身は無論…食いきったのである。

ふと…ため息をついた少女は

空っぽの馬車から手を離した。

 

「罰ゲームじゃないんだから…捨てよ」

 

馬の引かない馬車から手を離し、

少女、ミューゼ・イグシスは歩き出した。生きる意味を…探すために。

 

 

「…ここか」

ミューゼは地図を睨みながら言う。

 

目の前には小さな集落がある。

それは木や丸太を組んで作っただけの簡素な塀で囲まれた、そんな村だった。

 

実はミューゼは途中で町の廃墟を訪れている。かつてノーザンプリスと呼ばれていたその場所。建物は白く塗られ、広場には女神像が鎮座する噴水がある町だ。

 

だが…噴水はまだ稼働していて、辺りには血のむせかえるような臭いが漂い、

そこかしこに住人と見られる者達の、

目も向けたくない【破片】が

ただ散らばっている惨状。

 

「あの原因は…やっぱり」

ミューゼは一人呟いた。

 

先日、ド・グオル率いる魔王軍の軍勢をフォナス要塞から追い出した。

彼らはそのまま北上し、更にその先にあった村や町で略奪の限りを尽くしている。

恐らくトップを失い、それまでにあった統制を失ってしまったのだろう。

 

…人間は、家畜じゃないのに。

ミューゼは襲われた村や町を見るたび、無惨に殺された人々を見るたびに思った。

奴等にとって人間は食料でしかない。

リザードマンが飼っている犬…ヘルドッグですら人肉を食べるのである。

 

砦では相当数のリザードマンを狩った筈であるが。それでもこれだけの影響を与えているという現状は、たとえ死神といえども大人しく看過できる事では無かった。

 

「あ…良かった。ここはまだ人がいる」

ミューゼは安堵のため息をつくと、

集落の入り口と見られる場所にローブ姿のまま近づいていった。

 

「おいそこ!止まれ!何者だ!」

筋肉隆々の男の人に止められる。

 

「私は冒険者の…ミュレスと言います」

まぁ当然本名なんか名乗れないので、ミューゼは嘘をついて答えた。

 

「お前が…冒険者だと?」男はミューゼの姿を見て訝しげな表情をした「…ミュレスとか言ったか、お前一人でか?」

「そ、そうだけど…」

 

「…お前、フォナス要塞の方から来たようだが、冒険者なら何か知らないか?」

男はミューゼの周りを歩きながら、荷物の中に怪しい物が無いかどうかチェックしている。

 

「フォナス要塞と言うと、先日魔王の側近である三神柱のうちの一人が、勇者たちの手によって倒された、と聞いてますが」

ミューゼはあくまでも自分がやったとは言わない。【死神】である事を隠さなければ、下手を打てば襲われる場合だってあるのだから…。

流石に人間とは戦っていられない。

 

「…そいつとは知り合いなのか?」

「えぇ。彼女とは古い友人で…ただ、それによる被害の安全確保の為にバラバラに今は動いています」

 

「そうだ」男は歯をギリギリと食いしばる「フォナス要塞を追われたトカゲ共が今、近郊の町や村を襲ってやがるんだ。クソが…なんて余計な事をしやがったんだ!」

 

「…ご、ごめんなさい…」男が急に怒鳴ったので、ミューゼは涙目で男を見上げる…はっいけない、平常心平常心…。

 

「あぁ、トカゲ共を逃がしやがった友達にもし会うなら、精々逆恨みした奴等にぶっ殺されないようにって言っとけよな」

「はい…分かりました」

 

「で」男は腕を組んだ「これで状況は分かったと思うが、今現在ニジモの村は絶賛魔王軍警戒中だ。隣のサニズの村が襲われて、生存者を匿うのに手一杯。本当なら泊まる場所なんか用意出来ないんだが…」

 

「奴らが今、どこで野営しているのかが分かれば、仲間と協力して残党を排除するように動く事が出来ますが…」

 

ミューゼがそう話すと、

男は考え込むようにミューゼを見た。

16歳のミューゼはあくまでもミュレスとして、ちょっとオトナな対応ってヤツを意識しながら自信ありげな表情を浮かべる。

ただそれだけに専念する!

 

「…なら村長の所に行け。俺が話をつけといてやるから」

男はそう言うと道を開けてくれた。

「ありがとうございます!」

 

 

ニジモの村は川沿いにある小さな村だった。川から取れる小さな魚と、それほど大きくはない麦畑から取れる小麦。

それらで自給自足の生活をする、他の町との交流のあまり無い村である。

 

村長はまだ若めで、恐らく30、行っても後半かぐらいの男だった。

「よう、冒険者の方!背中に背負ってんのが得物って訳だな。見たとこ剣はそこそこ使えるって前提で話するが、いいな?」

「はい、剣の腕には自信があります」

 

「よし」村長は水を飲んだ「ビバイスから話を聞いたと思うが、クソトカゲ共がとうとう近くに野営地を建てやがった。まぁ聞けば…お前らのせいなんだよな?」

「ごめんなさいっ!」ミューゼは頭を下げた「私ももう少し冷静になって考えるべきだったと思ってます。だから…」

「野営地の場所さえ分かれば、そいつらをぶっ潰してくれるって事だな?」

 

「うん、場所さえ分かれば…恐らく新たなリーダーがいる筈だから、そいつを倒す。そうすればもうこの行軍は終わるよ」

 

ミューゼは普通に言ったつもりで…

ふと殺気を出していた事に気づいた。

いけないいけない。

戦いの話題になるといつもこうだ。

 

「そ、そうか…なるほど…」村長は若干ビビリながら話を進めた「場所はこの川を南に登って一時間ぐらいのとこだ。村の連中が見つけてくれたが、多分そこが敵の本隊がいる場所じゃねえかって話でな」

「…リザードマンは水場を好みます。敵の本格的な基地だと言うのは間違いないだろうと思いますよ」

 

「そうか!」村長はパンと手を叩いた「じゃあミュレス、早速明日行ってなんとかしてくれないか!?今日は泊まってって構わねえからさ!」

「…いいえ」

 

ミューゼがそう言うと、村長は疑問の表情を浮かべた。

「…あぁ、仲間がいないと駄目か?流石にぶっつけ明日、ってのは無理だよな」

 

「あぁ、そうじゃなくて」ミューゼは首を傾げた「今日行きますよ?」

 

…。

 

「は?」

「今日行きます。奴らの襲撃頻度、付近の町村の被害を考えると、高い確率で今夜、ここにリザードマンの軍勢が押し寄せる事になりますからね。幸いまだ日はまだ高い…奴らは夜戦を好むので、昼間は水浴びとかしながら寝ている事が多いんです」

 

「…って言ったってよ」村長は苦笑いする「流石に今日は無理だろ?周りの仲間に連絡取ったりとか、準備を考えると日が沈んじまわないか?」

 

「うーん…」ミューゼは考え込む「仲間は近場を探索してるはずなので、呼ぼうと思えばすぐ呼べるんですよ。村長さんはここで吉報を待っていて下さい。基地を制圧したら、ここにまた戻ってきますので」

 

「いや、もしかして今日中に落とすつもりなのか?」もはや村長の笑みはひきつっている「確かにお前ほどの奴が何人かいれば可能だとは思うけどよ…だがあのトカゲ野郎だって強いぞ?これまでにいくつもの町や村がやられてんのがその証拠だ」

 

「拠点自体を落とすのは簡単で…」ミューゼは説明する「司令塔を担っている上位個体とその取り巻き、そして総数を減らすことによって影響力を少なくすることが目的なんです。リザードマンはすぐにリーダー個体を作って部隊を再編成出来るので、掃討しなければ被害は増すばかりなんですよ…」

 

「なるほどな…」

村長は頷いた。

 

「なので決行するなら今日中に。ただ、この村の自警団の方々は村の護りに集中してください。残党がこちらに流れ込む事も十分に考えられるので」

 

「なるほどな。了解した」村長は膝をバンと叩く「それじゃあ、準備が出来たら向かってくれ。期待してるぜ、ミュレス」

「はい」

 

 

小さな集落ゆえ、少し心配ではあったが、村の人々は食べ物と薬草を分けてくれた。仲間がいるとか云々は全く嘘だから、人目が無いうちに村を出なければ。

 

「…さて、川に沿って向かおう」

装備を確認して、川を左に見ながらミューゼは基地へ向けて歩き出した。

 

川は澄んでいて、せせらぎの音が耳をくすぐる。細かい音も決して聞き逃さないように注意しながら、ミューゼは進んだ。

 

 

「…あれか。随分とまた本格的な基地を作ってるなぁ」

ミューゼはため息をついて言う。

 

金属板や人々から奪ったであろう鍬や鋸等を組み合わせて作った塀が建っている。

鎧に身を包んだリザードマンが、舌をチロチロ出しながら周りを巡回していた。

 

…さて。

恐らくだが新たなリザードマンの司令官は一番上等なテントにいるはずだ。

塀の長さから基地自体の規模はかなりの物で、正面突破などすれば川を下ってニジモの村の方に大多数が流れ込む事になる。

…そうなれば何の罪も無い村人がまた犠牲になってしまうのだ…

 

「だから、殲滅するにはまず…奴らの数自体をバレないように確実に減らさなければいけないんだけど…」

 

うーん…どうしたものか。

そうだな…やはり、毒だろうか?

と言うのも、今は丁度昼飯時であり、

その中に毒を仕込むことが出来れば、

大多数のリザードマンを倒せる。

 

備蓄食料が入った倉庫をまずは探そう。

…なるべくバレないよう、塀の隙間から中に侵入する。小柄なミューゼだから出来る芸当である。

 

基地の中ではあちらこちらにリザードマンがいた。言語のような物を交わしながら、槍や斧で武装した戦士があちこちを見回っている。

ミューゼは一つ一つテントに近づき、倉庫として使われている一角を探す。

 

しばらくして目的の場所、ではないのだが、ある程度の兵士が詰めている兵舎テントを複数発見する。

 

「【ブラッドソーン・ララバイ】!」

地面に剣を突き刺し、剣のオーラを地面に浸透させる。

少しコストの高い技だが、この兵舎のリザードマンを全滅させられれば、大分掃討戦は楽になるに違いない…。

足を踏みしめると、テント内に

赤い杭が大量に『下から』現れる。

 

「ギ!?」「ガアッ!?」

 

…。

しばらくテント内をテントの外から

テント内に杭を生やしまくり、

ある程度静かになったのを確認すると、

入り口からチラッと中を覗く。

 

うん、真っ赤だ。

真っ赤な色々が散らばっている惨状だ。

まさか自分達が襲った人間達と同じような末路を辿るとは思わなかったろう。

ざまあみろ!

 

「あとはここと」

バシュッ!

「ここに」

ドシュッ!

「あれと」

ガシュッ!

「このへんと」

ビシュッ!

「これだな」

ボシュッ!

 

辺りに血の臭いが満ちる。

流石にこれは数分でバレるので、

内部…司令官級がいるテントまで

急襲をかける必要が出てきた。

 

「あぁ…っ…」

しかしこれだけ高コストの技を連発したのだ、ミューゼもただでは済まない。

視界が霞み、更に物が見えなくなる。

足元に血が垂れているようだが、一体どこが切れたのか分からない。

確認している暇も無さそうだ。

 

「ふう……よしっ…」

深呼吸して気合いを入れ直すと、

ミューゼは大剣を構え、白いローブを脱ぎ捨てて走る。

ようやく異常を察知したリザードマンが行く手を阻む。リザードマンが飼育する戦争犬…ヘルドッグも放たれていた。

 

「残念だけど、ここにいる奴は一匹たりとも逃がさないからね…【カースボルト・ブランディッシュ】!」

放たれた赤い稲妻がリザードマンとヘルドッグをテントごと引き裂いていく。

兵舎を制圧するのに大分心器の力を使いすぎている…身体が持つのも、そこまで長くないかもしれない。

 

「もしこんなとこで動けなくなったら…原型が無くなるまで食い尽くされるよね」

自嘲ぎみにそう呟き、ミューゼは基地の中心部に向けて駆け出した。

いつも通り。

多少なりとも無茶をするつもりで。

 

【つづく】

 

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