前回の荒筋
なんやかんやあってボロボロになった一夏。それを助けた弾と数馬。状況を把握した弾の祖父の厳の計らいによって、一夏は空腹を満たし眠ってしまった。そして数馬は一夏の代わりに買い物に行くのだった。
「スゲーな。こんだけ買ったのに3000円を切るとは……」
一夏の書いていたメモ通りに隣町の安売りスーパーにて買い物をした数馬。量としてはかなり多い。一夏と千冬の2人分と考えると、大体1ヶ月分だ。数馬1人で持つのは普通に辛い。
「ん?あれって……」
汗を流しながら荷物を運んでいると、ある人物が目に入った。千冬だ。一夏の持っていた写真を見ていた為、容姿は知っている。多分だが、一夏が今どこにいるかは分かっていない筈だ。声をかけてみることにした。
「織斑千冬さん。ですよね」
「え?あ、あぁ。一夏のクラスメイトかな?」
「えぇ。一夏なら家にいませんよ。今、友人の親がやってる店にいます。案内しますよ?」
「そうか。なら頼もうかな?」
「わかりました。こっちです。あとこれ。一夏が買う予定だった物です」
「こ、こんなに沢山!?重たいものを持たせてしまって申し訳ない!」
数馬から荷物を受取り、後に付いて一夏のいる場所まで向かっていく。意外にも距離があり、こんな遠くまで買い物に来たことに千冬は驚いていた。
「今日は特別ここまで買い物に来たのか?」
「いえ。売ってるものが安いとき、一夏は大体この町まで買い物に来ているようです」
「そうなのか……いつも苦労をかけてばかりだな……」
そんなことを呟く千冬だったが、数馬は特になにも反応をせずに案内を続けた。そんなこんなで、一夏が待つ弾の家へと到着した。店の入り口には『臨時休業』の札が付いており、客がいるような様子はない。
「戻りました~。ついでに一夏の姉の千冬さんも連れてきましたよ~」
「ソイツは良かった。呼び出す手間が省けたぜ」
厨房から料理を持ってきた厳がそれをテーブルに置き、千冬をそこへと座らせた。
「まぁオメェも腹減ってんだろ。食え」
「え?いや、でも、お金無いんですけど……」
「はぁ……なんでお前ら姉弟は同じ反応をするんだよ。気にすんな。腹が減ってるヤツには飯を食わせる。それがこの店だ。腹減ってるのを見過ごすつもりはねぇ」
「い、いただきます……」
箸を持って食べ進めて行く。一夏と同じく千冬もまだ育ち盛り。どんどん加速が付いていく。やはり、千冬も空腹だったのだろう。
ある程度まで食べた辺りで、厳は千冬にあることを聞いた。
「お前、今はどこで働いてるんだ?」
「え?」
「今日は月末。明細も貰ってる頃だろう。それを見せろ」
「…………」
渋々ながら、バッグの中から1枚の給料明細を取り出して厳に手渡した。
「新聞配達か。給料はピンはねも無く満額支払われているな……だが、この時間の仕事、お前にはキツいんじゃないのか?」
「で、でも!働かないと……」
「まぁ、お前らの家のことはそれなりに知っている。金が必要なこともな。さ、もう1つのも出しな」
「ッ!?」
「坊主が言ってたぞ。朝も夜も働いてるってな。見た感じこれは朝刊の配達。朝の仕事で夜のじゃない。ほら、もう1つのを早く出せ」
バッグを握り締めて出すのを渋っている千冬だったが、弾がバッグを奪い取り中からもう1枚の給料明細を取り出した。それを厳に渡し、厳は内容を確認する。
「……キャバクラ。か」
「はい……」
「まぁ、その容姿なら確かに年齢を誤魔化せるだろうな。話し方や雰囲気も大人びてる。が、分かってるだろ?ダメなことだって事くらい」
「はい……」
「酒は?」
「アルコールアレルギーと言っているので、飲んだことは無いです……」
「まぁ、それなら下手に手を出すヤツは居ねぇわな」
アレルギーと言ってしまえば、下手なことはできない。知ってながらアレルギー物質を与えた場合、暴行や障害罪、殺人未遂、殺人罪として起訴されることがある。やってしまえば「酒で酔ってついやってしまった」は通用しない。社会的に殺されてしまう。
「はぁ……取り敢えず、今すぐにここは辞めろ」
「で、でも!ここを辞めたら収入が……」
「よく見ろ。お前、ピンはねされてるぞ。どう考えてもこの給料、時給に直すとこの県の最低賃金を下回ってる。お前、雇われたとき声を掛けられたんだろ?面接抜きにしてやるとか簡単に稼げるとか上手いこと言われて。お前に声を掛けたヤツは、お前が中学生って事も知ってるんじゃないのか?」
「そ、そうです。制服姿で歩いていた時に声を掛けられて……簡単に沢山稼げるし、面接はしないし、年齢の事は周りに黙ってると言われて……」
「やっぱりな。……ん?この店……」
店の名前を見て何かに気付いたのか、電話を取り出してどこかへと連絡をした。
「あ、あの何処へ?」
「警察や児童相談所じゃねぇから安心しろ。この店、知り合いが経営してる店だ」
携帯の電話帳から目的の人物の名前を探しだし、そこへとかける。4回ほどコール音が流れると、相手が出てきた。
『おう厳。久し振りだな。お前からかけてくるたぁ珍しい。どうしたんだ?』
「どうしたもこうしたもあるか!龍テメェ、自分の店でなに中坊働かせてんだ!」
『は?なに言ってんだ?俺は面接もしてるし、身分証明書やマイナンバーも出させてるぞ?つか、俺は新しい店を出す準備で、ここんところ誰も雇った覚えはねぇんだが?』
「じゃあテメェの店で働いてる織斑千冬はどうなんだ?そこのスタッフから声を掛けられて働いてるって言ってるぞ?」
『んあ?最近店はヤスの野郎に任せてるが……』
「ヤスだと?成る程。そう言うことか」
『あぁ察したよ。今から戻るから先に行っててくれ』
「分かった」
電話を切ると、千冬の給料明細を持って店を出ていく。
「あの……なにかあったんですか?」
「大丈夫だ。あと、もうこの店で働く必要はねぇぞ。働き口は俺が用意してやる。今日は泊まっていけ」
「いらっしゃいませ。今日は──」
「ヤスに用事があるだけだ。どけ」
「え?ちょっ!お客さま!?」
店員を押し退けて店の中に入ると、店長の部屋へとズカズカ入っていく。
「えぇ。上玉ですよ~?金をチラつかせればすぐに来るガキです。えぇ。年齢とお望み通り……はい!では、またご贔屓に…………ふぅ。楽な仕事だな~。女のガキを売るだけで100万か……ククククク」
「随分とご機嫌だな。ヤス」
「んあ?誰──げ、げげげげげげけ!厳の旦那!?きょ、きょきょきょきょ今日はどう言ったご用件で!?」
「自分の胸に聞いてみやがれ!」
デカイ拳がヤスの顔面を捕らえ、そのまま2メートルくらい吹っ飛ばされていった。
「随分と舐めた真似をしやがって……龍に拾ってもらった恩を仇で返すとはな……」
「な、なんの事で──」
「とぼけんな!生活が苦しくて無理して働いてるヤツの給料をピンはねするだけじゃ飽き足らず、ソイツを売る?どうやら、テメェは救い用のないゴミクズ成り下がったようだな」
胸ぐらを掴んで持ち上げると、丁度この店のオーナーである龍が帰ってきた。こんな状況だが、特に焦っている様子はない。
「もうやってたのか」
「あぁ。どうやら、どっかの誰かに売るつもりだったらしい。これがアイツの給料明細だ。結構な額ピンはねされてる。確認して足りない分を今すぐ出しやがれ」
龍はデータを確認すると、金庫から足りない分と今までの千冬への迷惑料を封筒に包み、厳に渡す。
「取り敢えず、このバカの根性を叩き直してやる。アイツへの償いも兼ねてな」
「なら丁度いい。ここに来る途中知り合いに電話をかけてな。良い仕事をさせることになった」
「りゅ、龍さん!?お、俺の事、見捨てないですよね!?」
「悪いが今回の事は庇いきれねぇ。死ぬかも知れねぇが、たった1回出るだけで1200万は稼げる仕事だ。そこで暫く働いてこい。勿論逃げ出さねぇ様に監視はつけるぞ」
「龍、後はお前に任せる。迷惑かけなた」
「いや構わねぇ。今度から毎月蟹が送られてくる。楽しみに待ってろ。迷惑掛けたヤツの家にも送らせるから、連絡先教えてくれ」
「あぁ。聞いとくよ」
そう言うと、厳は自分の店に帰って事の顛末を千冬に話した。そして迷惑料とピンはね分が包まれた封筒を渡し、もう店で働かなくて良いと言うことを伝えた。
「でも、これからどうすれば」
「知り合いの婆さん、マンションの管理をしててな。もう歳だから掃除がキツいらしい。手伝ってくれるのを探してたそうだ。土日に数時間来て欲しいとよ。その分の手伝い料も出るそうだ。それでも足りないなら、ここで働け。その分は出すし残り物で良いならくれてやる」
「は、はい!よろしくお願いします!!」
「おう。分かったからさっさと寝ろ」
「分かりました。ただ、蟹と言うのは?」
「アイツの根性を叩き直すために、今から低気圧の墓場に行って貰ってる」
※低気圧の墓場=ベーリング海
今回はここまで。次回は未定。感想よろしくお願いします!!