お花の妖怪とお兄さん   作:ケンイチロウ

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一面に咲き誇る向日葵

 絶景。普段そう見ることは無いほどの感性を揺さぶる感動を与えた景色に送る言葉。俺という人間は自分でも思うほど口が悪く、クラスの女子に「……前の方が髪型似合ってたな」とか言って二週間ほどはぶられた経緯を持つ位には表裏の少ない人間だ。

 そんな俺がこの言葉をひねり出すって事はどれだけこの景色が凄いが伝わるのでは無いだろうか。

 

 一面に咲き誇る向日葵。しかも一本一本がたくましく太陽目掛けて大きく育っている。以前チューリップ畑とかいう所に行ったことがあったけどそんなもんとは比べものにならない。

 自分に花を見てこころ揺さぶられる良心が残っていたことにも驚きだが。

 

 「………まじで後3日はここにいれるな……。早起きは三文の得とは言うけどよ、ことわざも馬鹿にしたもんじゃねぇな。」

 

 普段母ちゃんの怒鳴り声か妹のドロップキック以外で目覚めることのない俺が何故か目が覚めて適当にその辺を歩いていたらここについていた。

 まさか近所にこんな秘境があるなんてな……。そこそこ町のことは知ってるつもりだったけどまだまだって事か。

 

 「………にしても本当に向日葵ばっかだな……。ってうわぁ…可哀想に……ガキにでも踏んづけられたのか?」

 

 向日葵畑を歩いていると一本だけ地面に横たわっている向日葵を見つけた。花には詳しい訳じゃ無いが完全に折れちまってる。折ったやつも悪気は無いと思うが気分のいいもんじゃないな。

 せめとこの花が次は大きく咲けるようにと俺は手を合わせて祈っておく。気休めにしかならんが何もしないよりは良いだろう。………この向日葵からしたら変な奴にしか見えない気がするけどな。

 

 

 「伝わってるわよ、その花も貴方に御礼を伝えたがってるくらいにはね。」

 

 「………へ?」

 

 声のする方に顔を向けるとそこには珍しい形の日傘を差した綺麗な女性が涼しげな顔をして俺を見ていた。

 緑色の髪に赤い瞳、派手な服に身を包んでいるがそれら全てをまとめ上げて一種の芸術にまで昇華するほどの美貌。間違いないなく俺が今まであってきた人の中で最も美人だろう。

 ………にしてもすげぇ髪だな。ファッションにしても最先端すぎねぇか?てかそもそも……この人なんか人間味を感じないんだけど。

 

 

 「……ここの管理人さんですか?なんかすいません勝手なことしちゃって……。ちょっと可哀想だなって思ったらほっとけなくって。てかさっきこの向日葵が喜んでる的なこと言ってましたけどホントですか?それなら嬉しいですけど。」

 

 「自分の子達の声くらい解るわよ。私が大切に育てた花がぽっと出の貴方に思いが向いて嫉妬するくらいには好かれるわよ。」

 

 「…………はぁ…。えっとなんか凄いですね。やっぱこんだけの絶景を作り出せるようになると花とお喋りくらいお茶の子さいさいみたいな?」

 

 「花の大妖怪が花の声も聞けないなんて肩すかしも良いところでしょう?まあこの能力も花への愛があってこその物であるのは違いないけれどね。」

 

 ………………なんか電波チックな人に捕まったぞ。なんだよ妖怪だの能力だの。美人だからロマンチックに見えるけど冷静に考えたらただのいたい人だぞ。……そろそろ帰った方がいいかもな。

 

 「………ああ、貴方さっきから話が噛み合わないと思ったら外来人か。そんな変な服着てるのなんてそれしかないものね。……よりにもここに幻想入りするなんて運がいいのかも悪いのか……。」

 

 「?いやこれただのパーカーですけど?……え?幻想入り?外来人?一体何言ってるんですか?」

 

 ……何だろう凄い嫌な予感がする。さっきまでの疑問だったパズルノピースが重なりかけてるがそのゴールが俺にとって良くないものな気がしてはならない。

 緑髪の女性はため息を静かにつくと俺の方に向かって気怠げに語る。…想像以上のリアルを。

 

 「………ようこそ幻想郷へ。貴方はこの風見幽香を楽しませてくれるのかしら?」

 

 

 

 


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