究極生命体カーズ 襲来   作:僕は悪いスライムじゃないよ

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 知っている方もいると思いますが、カーズってアニメの描写を見ると鬼滅の刃の世界でも十分に究極生命体として存在できるんですよね……
 皆様は、作者がどの場面を見てそのように感じたのかわかりますか?
 次の投稿はおそらく金曜。


第二話  邂逅

 そこには……

 

 

 

 『明治四十五年』と掲載されていたのである。

 

 一瞬の静寂がカーズの脳裏で潮流した。

 

 ——明治45年。さすがにこの国の元号が西暦何年を指すのかわからぬが、なぜだ? 今までに感じたことない身の毛もよだつような感覚がこのカーズを襲っている! しかし、聞かなければならない。そして、その事実を受け止めなければ……

 

 「おい、小僧! 明治45年とは西暦何年を示すのか教えろ!」

 「え、なんで急にそんな事聞くの?」

 「理由など話す必要はない。早くしろ」

 

 口調の荒いカーズの質問に、少年は呆れながら答える。

 

 「わかった。わかった。何をそんなに焦ってんだか…… えーと、確か父さんが戦った日露戦争が七年前に終わったから、今は1912年だよ」と大きく息をつきながら。

 

 

 身を硬直させ、口を小刻みに震わせながら息を思わず飲み込む。

 その言葉を聞き、カーズは耳を疑った。疑わずにいられなかったのであるッ!!

 あまりにも信じられない出来事であり、自分でさえもこの仮説が思い浮かんだが、ありえないと考えていたからだ。

 

 「——1912年だと……」

 

 過去に遡っているだと!? こんなことがあり得るのか? 未来ではなく過去だと……にわかに信じ難い。

 だが、あの小僧からは、嘘をついている音や熱は感知できなかった。目の動きも表情も至って自然であるし、そもそも私に嘘をつくメリットもない。

 周りの様子もこの小僧の証言通りであれば、納得もいく。

 

 

 地球以外の惑星とも一瞬考えてしまったが、これ程までに地球と同じ条件の星に都合よくたどり着けるとも思えん。

 やはり……

 

 「ここは過去の世界だ」

 

 カーズは認めたのだ。本来ならば、究極生命体ですら逆らえない宇宙の法則から、過程はどうであれ自分が逸脱してしまった事を! 

 そして、自分が今置かれている現状が奇跡であり、新たな希望へと繋がっているかもしれないと気づく。

 それは…………

 

 

 

 

 

 エシディシとワムウが生きているかもしれない……という希望に!

 

 「フワッハハハッ! アハハハッ!!」 

 

 端麗な顔を破顔させながら、再び友とまみえる()()()()()()という事に歓喜した。かつて一人の波紋使いによって、わずか一か月という短期間で一万年以上共に過ごした仲間たちが敗れ、二度と会うことが出来ないと思われていた仲間に! 

 自らの信念である「あらゆる恐怖の克服」を求め、弱点が存在しない究極生命体の追及に賛同した仲間に再び会える()()と! 

 

 「まさかエシディシやワムウに再び出会える可能性があろうとはな。これ程までに愉快なのは、究極生命体になった日以来だぞ!」

 

 そして、自らの宿敵に対する懸念も吹き飛んだ事にも浮かれていた!

 

 「ジョジョ! 私は貴様ほど憎いと思ったものはいない。長年、連れ添った仲間を倒した貴様を! しかし、私はいま安心しているのだよ。なぜなら、このカーズが追放されている間に貴様が死に、二度と復讐できないという懸念も消えたからだ!」

 

 そう。カーズは宇宙に追放されてからも、再び地球に戻る方法を模索し続けていたのである。

 だが、たとえ究極生物であろうとエネルギーは必要であった。他の生物と比べ、長い期間食べる必要性はないが活動するにはエネルギーは必要不可欠であったのだ!

 

 しかし、宇宙へと放逐された事により、新たなエネルギー源を確保することは不可能。そのためカーズは、脳とそれを活動させるための最小限の機能だけを残し、他はわざと物質化させたのである。

 そのおかげで、考え続けることが出来たのだ。

 

 だが、体の機能は最小限に留める事により他は機能せず、どれくらいの年月が過ぎたのかを正確に把握できず、ずっと思い悩んでいたのである。それが消えたのだ。天地万象がまるで自分の手の上で転がっている心地であっただろう。

 

 それに最も良い効率で脳のみにエネルギーを長年使用したおかげで、カーズは自らの身体能力のすべてを理解するのであった。

 あらゆる生物のすべての能力を身につけており、すべての生物の遺伝子情報を保持し、創造できるという事は、誕生する以前の生物や現存しない生物にも変化可能だという事にッ!

 

 自分の体を柱の男である時と比較して、より広い範囲であらゆる物質に変化できる事にも気づいてしまったのだッ!!

 

 それだけには留まらず。かつては敵視していた波紋でさえも、強さを持つだけではなく、それを完全に自分の思いのゆくままにコントロール出来るようになってしまったのであるッ!!

 

 まさに、無敵・不老不死・不死身の究極生命体(アルティミット・シイング)になったのであるッ!!

 

 だが、悲しきことかな。今は1912年。柱の男が目覚める年どころか、ジョジョすらもまだ生まれてきてすらいない。

 

 「二人が目覚めるまで、二十年以上の月日があるな…… 2000年の眠りを強制的に目覚めさせる方法は存在しない。だからこそ、我々は同時に眠りにつき、再び同じ時に目覚め行動していたのだ」

 

 右手の人差し指をこめかみに置きながら悩む。仲間が眠りから覚める間に何をするべきかを。超生物となった今、長年の目的はすでに達成している。自分を脅かす者はこの世に存在するはずがないと確信していた。

 もし自分の存在を脅かすような存在がいれば、決して容赦はしないだろう!

 

 「ふむ。しかし、このカーズを以てしても、なぜ過去の世界に来れたか皆目見当がつかぬ。ただ単に過去の世界に来れたと片づければ良い話でもあるが…… なにか大きな力が作用していると感じずにはいられない」

 

 カーズであるからこそ、そう感じたのだ。宇宙の法則に従って作り上げられた地球から誕生した究極の存在だからこそである。

 

 

 この男は探すのであった。なにか手がかりはないかと、なにか普通なら起こりえない奇妙なことが周りにないのかと。この地に舞い降りたのにも根拠は存在しないが、何か理由があるのではないかと!

 

 要するに、すぐにはイタリアやヨーロッパへは向かおうとしなかったのである。もっともらしい理由で日本に居続けようと考えたのだ。

 

 だがこの行動は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であったという事をこの時のカーズはまだ知る由もない……

 

 

 この街に訪れて数日が過ぎ去り、今日もまた太陽は西へと向かい、暮夜が近づこうとしていた。街の人々はいそいそと帰り支度をし、激しい人の往来が見渡せる。

 立ち込める人混みの中で、淡い赤色によって染まっている太陽を背にカーズは街を歩き続けていた。

 

 その天才的頭脳を持つことにより、わずかな時間で言語を完全にものにし、この国の人間がどのような営みを歩んでいるかを把握する。だが、わずか数日では自分に有益そうな情報はついには得られなかった。

 

 「何の根拠もなし、探し続けるのはさすがに骨が折れてしまうな」

 

 いくら聴覚が優れていることにより、自分の周りにいる半径数十メートル内にいる人間たちの会話をすべて掌握したとしても、数日だけではカーズ自身も得られると考えていない。

 

 だが、この日は違ったのであるッ!!

 

 

 足を進め続けたことにより、街の中心からは離れてしまい、人だかりも少しずつ薄れてゆく。辺りもそれに伴い静けさを増し、太陽も完全に沈みきった時のことである。

 

 

 周りの店がすでに戸締りをしている中で、暖簾を掲げる一つの小さい屋台での会話にふと歩みを止める。

 そこではひげ面の中年と顔を青くしていた坊主頭の青年が奇妙な会話をしていたのだ。

 

 「突然なんでおめえさんはこの街に来たんだ? あそこの町は、ここよりは小さいけど、別に悪くはない所だろ。おまえが急に転げ込んだ時は驚いたぜ」

 「オレが前に住んでいた王森町で、少し前から行方不明の人間が多発している噂を知っていますか?」と青年はおそるおそる尋ねる。

 「急にどうした? 物騒な話だな。まさか殺人鬼みたいなヤバイやつがいたりしてな。お~怖い怖い」

 「いや、其れならまだ良かったんですよ……」

 

 青年のまるで事の真相を知っているかのような口調に、顔をほんのり赤らめた男性が興味を惹かれて問い返す。

 

 「はあ? どういうことだぁ?」 

 「実は仕事で、夜遅くに家に帰ろうとした時のことです。その日は、少しでも早く帰るために普段なら通らない道を通ったら、突然小さい女の悲鳴が近くで聞こえたんですよ。最初は行くか迷ったんですが、正義感と好奇心に駆られて行ってみたら……」

 

 自分にあった出来事を説明しようとする青年の唇が青色を通り越して、紫色へと変貌する。だが、境遇を知ってもらうために重い口を開き、吐き捨てるように言う。

 

 「化け物がいたんですよ!! それが人間の腕を食い、周りには血糊(ちのり)が散らばっていて、二人の人間の死体が無造作に転がっていたんですよ……」

 「おい、おいちょっと待て。そんなものが本当にいたとして、なんでおめぇさんは五体満足で生きてんだ? 様子を視認できるくらい近くにいたんだったら、そいつがおまえを見て襲っていてもおかしくはねぇだろ?」

 「実際に、それは襲ってきたんですよ…… 自分でもなんで生きているか分かりません。車夫(しゃふ)として結構走りに自信はあったんですけど、距離を徐々に追い詰められて、もう死ぬと思ったら、そいつが途中で追いかけるのをやめたんですよ!」

 

 顔を手のひらで覆いながら、体を小刻みに震わせる青年。しかし、かわいそうな事に。相手を鼻で笑うかのような返事しか返ってくることはなかった。

 

 「どうも話があまりにも現実的じゃないぜ! 仕事が辛いからといって、俺の家に転がるための嘘をついてんじゃねえよな?」

 「本当ですって、嘘をつくならもっとマシな嘘をつきますよ!! あれは絶対人間、いや人間の形をした何かですって。もうあそこに戻りたくないです。姿を見られたからには、戻ったら今度こそ殺されます!!」

 「はあ~。そんな恐ろしいものがいるなら、俺を頼るんじゃなくてまず先に警察に行くんだな」

 

 

 一見、この会話は青年が錯乱しており、見てもいないものをあたかも現実であったかのように語り、普通なら一笑にふされるようなものであった。だが、裏の世界で何千年も時を過ごしていたカーズにとっては見覚えのある出来事である。

 

 「夜に活動をし、人の皮を被った獣が人の血肉を喰らうだと? まるで、吸血鬼ではないか。なぜ、我々が活動をしたことのない日本にそのような存在が?」

 

 吸血鬼とは、もともと天才であるカーズが作り出した石仮面を被った者のみがなりえる存在。それがなぜ日本にいるのか不思議でならなかったのだ。

 

 「石仮面がどういうわけかこの地にたどり着いたのか? まあ、それもあり得ない話ではないか。我々が目覚める前にも吸血鬼が暴れていたらしいからな」

 

 そう! カーズは知っていたのだ。自分たちが目覚める約50年前に、とある地方で吸血鬼が絶望をまき散らしていた事を。

 遺跡にいたドイツ軍が、なぜ自分たちの正体を知り、弱点を把握していたのかを人間社会に潜伏した際に調査したのだ。そして、表の世界では語られることのない歴史でさえもカーズは知りえたのであるッ!

 

 「……王森町か。確かここから南に数十キロ離れている町であったな」

 

 吸血鬼という取るに足らぬ存在に、本来ならカーズは興味すら示さないでいただろう。しかし、自分が偶然落ちた地に、たまたま吸血鬼がいるという事態に何か理由があるのではないかという深読みをしたのだ。

 つまり、まったくの偶然! だが、それが後に大きな波紋を呼び起こす事となるッ! 

 

 その後、目的を王森町へとさだめ、身を闇へとひそめる。

 

 

***

 

 

 王森町。その町は、名前の由来通り森が鬱蒼と茂っており、それらに囲まれている地形にあった。一万人にも満たない人間が身を寄り合い暮らしている小さな町であったが、林業も盛んであり活気のあふれる場所だ。

 

 しかし、今この町は恐怖につつまれている。普通の人間では到底かなうことの出来ない異形によって、この町が闇に覆われているからだ。そして、今日もまたその闇が人を呑み込まれようとしていた。

 

 月の明かりがほとんど照らされていない夜の町を一人の若い警官が、血の滴る腕を抑えながら全力で走っている。流れる血の量も夥しく、見ていて痛ましい程だ。

 

 「早く、この情報を誰かに伝えなければ! この町がただの人間に脅かされているのではないことを。伝承にしかいないと思われていた存在——鬼がこの町にいることを!」

 

 一緒に警戒に当たっていた三人の仲間はすでに殺されてしまい、この警官も致命傷を負っている。だが、その目は使命感にあふれ、なんとか生きようと藻掻いている。

 

 この町では、最近行方不明者が後を絶たないので、被害の拡大をこれ以上増やさないために国家権力は夜の巡回を強化していたのだ。

 任務にあたる際は、どんな相手が来ても対処できるようにするため、警官は数人体制で就かせるような命令が下っていたのである。

 

 このように数人体制だったこともあり、この青年警官は緊張の糸を緩ませていた。

 その判断は後に誤りとなるとは知らずに。 

 相手がただの人間であればそれは正しかっただろう……

  

 しかし、相手は闇に紛れて人の血肉を貪る悪鬼。一般の人間では捕食の対象でしかなく、鬼の討伐に特化した精鋭たちのみが敵う存在である。

 そのような存在が血の滴っている人間を見逃すはずはない。鬼は常人では持ちえない身体能力で、人間の血の匂いをかぎ分け、青年へと追いついてしまう。

 

 「血を流しながら、この俺からよぉ~逃げられると思ったか? 人間ってのはつくづく不便な生き物だよな、自分が負っている傷すら治せないなんてよぉ」

 「ッ! 貴様なぜ人間を殺す! 人の言葉が理解できるなら、人間を襲うことに躊躇はないのか!」

 

 張り裂けそうな肺から強引に空気を振り絞って、青年は問いただす。だが、返ってくるのは男を嘲笑うような声のみ。

 

 「てめぇはよ。いちいち自分の食べるものに同情するのかぁ? そんなのまどろっこしいだろうがよ!」

 

 鬼の目に映るのは、己の胃袋を満たすための存在。ただ、それだけである。

 

 (人間を食料としか見ていないのか……)

 

 この言葉を聞き、男は悟ってしまう。コレは人の倫理や道徳を持ち合わせておらず、ただ本能に従い人を喰らう、人間とは全く別の存在である事を。

 

 

 人間の肉を千切りそうな手に今にも捕まりそうだ。でも、手足が氷漬けにされたかのように動かない……

 

 男は、体から流れる夥しい出血と圧倒的な存在を前にして生きる事を自然と諦めてしまっていたのだ。

 

 「どうか、どうか、仏様。この悪鬼の牙が家族に向かぬようお守りください……」

 

 目に涙を浮かべ、最後の瞬間まで自分に愛情を注いでくれた家族を想いながら、青年は命を終えてしまう。

 こうして、闇にまた一人吸い込まれるのであった……

 

 だが、この闇は永遠には続かないだろう。鬼をも歯牙にかけないあの究極生命体が町へと到来したからッ!!

 

 

 

 

 「——ここが王森町か。人間の姿がまったく見当たらん。月もすでに高く昇り当然ともいえるが、それにしてもやけに静かだ」

 

 己の周りを見渡し、ここには何か必ずいるとカーズの本能が囁く。これまでの経験上、寝静まっている町を幾度となく散策している。

 だが、たとえ厚い闇に閉ざされていたとしても町全体がここまで凍てつくような感覚に包まれるのは異常とも覚えたのだ。

 

 「確かめてみようではないか……」

 

 服の袖を上腕まで捲り上げ、右腕を空へと伸ばし泡立たせる。

 緑の泡沫は、右腕を包み込み、新たな形に変質する。細い丸太を連想させる銀鼠色の円柱が生え、先端には空気を通すための穴が二つ開く。

 

 そう。それは、アフリカ象の鼻であったのだッ!

 

 動物界でも嗅覚に関して他の追随を許さない象は、人間の百万倍から一億倍の嗅覚を持つ犬のさらに二倍の嗅覚遺伝子を持ち、数キロ先にある水のにおいすらも的確に嗅ぎ分けることが出来る。

 カーズはそれすらも上回る驚異的な能力を持っていることも忘れてはならない。

 

 一度でもその匂いを覚えられてしまったら、たとえ地の果てまで逃れようと決して逃げるのは不可能ッ!

 

 「風に運ばれて匂うぞ、匂うぞぉ。かなり濃厚な血の匂いが。待っておれい! どのような吸血鬼が現れるか直々に観てやろうではないかッ!」

 湧き上がる好奇心を胸に、その匂いの下へと向かうのであった。

 

 鬼の命のカウントダウンが近づいていく……

 

 

 

 町の近くの森にある洞穴。昔は動物が住んでいたと思われるその洞穴にはすでに主はいない。代わりにその中は、人の血の匂いで充満しており、まだ新鮮と思われる死体が積み上げられている。

 洞穴の奥に顔を向けて、咀嚼音をあげながら嬉々として血肉を喰らう鬼がいた。

 

 「へへ、血鬼術が発現してくれたおかげで、人間を殺すのもずいぶんと楽になったぜ。おまけに力も日増しに上がっているのも実感できる」

 

 

 鬼——それは千年前に誕生した原種の鬼、鬼舞辻無惨の血を体内に注ぎ込まれた元人間の総称である。血を与えられたものは超人的な身体能力を有するが、それとは引き換えに人の肉を貪る悪鬼と化し、一部の個体を除き人間の倫理感を持たない外道となってしまう。

 

 この鬼もその例外に漏れる事はない。先ほどの青年の生き様をあざけ笑う声しか響かない。

 

 「しかし、あの警官も馬鹿な事をいうぜ。俺たち鬼が人間を食うのは当たり前なのによぉ~」

 

 鬼は確信していたのだ。おのれを倒せるのは自分と同じ存在だけだと、あの方からいただいた力は絶対であると。

 だが、その思考は閉ざされる。自分の後ろから突然発せられた声によって。

 

 「人間をひとり取り逃すような吸血鬼が、自らの力を誇るとは…… とんだ自惚れがいたものだ」

 「なっ!!」

 

 血肉を摂食するのを止め、鬼は咄嗟に洞窟の奥の方へ身をひるがえす。

 真後ろまで迫ってきている男に話しかけられるまで、一切の気配を感じなかったからゆえの行動。

 たとえ自分が食事に夢中であったとしても、入口への警戒は緩めていなかったのだ。それなのに、この男はものともせずに今ここにいるという事実。

 それだけで相手に対して毛を逆立たせ用心するのには十分な理由である。

 

 だが、その男からは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、匂いも鬼ではないとわかり、冷静さを取り戻し威嚇するような言動をとってしまう。

 

 「てめぇが何者だが知らねぇがよ。なんでおめぇがその事知ってんだよ! 大体あの時は、男が藤の木がある街頭を通らなかったら、俺様が確実に殺していたぜ!」

 「なるほど。なぜ吸血鬼がたかが普通の人間を殺し損ねたのか疑問に思っていたが、藤の木のせいで殺せなかったとな…… 詳しく話せ」

 「むかつく野郎だぜ。なんでてめぇに話さなきゃ……」

 

 相手を見下す鬼は最後まで言葉を口に出すことは叶わない。カーズが相手が反応すらできない速度で、鬼の頭を強引に掴み地面へと叩きつけたからである。洞窟全体に轟音が響き渡り、大きく地面を揺らす。

 

 「吸血鬼風情が。主である私に対する無礼な態度はとりあえず見逃そう。さっさと質問に答えろ。この私が苛立つ前にな……」

 

 今自分に起こっている現状を理解するのに数秒かかってしまう。そして、理解できなかった。なぜ、後頭部が地面にめり込んでいるのかと。なぜ、()()()()()()()()()()()()()()この男に自分は圧倒されているのかと。

 

 オレは、まだやれる! まだあれを使っていない。あの方にもらった力を使えば!

 

 頭の足りない鬼は、諦めることはなかった。無駄な抵抗であるとは知らずに。なぜ、相手が強者特有の気配を出していないのに、自分を圧倒しているのかを考えたらこのような行動は取らなかっただろう。

 

 血鬼術——剛鋼線

 

 突如、地獄の針山を連想させるような無数の針が体から現れ、カーズに襲いかかる。針はそのまま勢いを劣らせることなくカーズの体躯を貫き、全体を覆う。

 

 「オレの血鬼術はよぉ。体毛を鋼鉄以上の硬度に変え、自由自在に操れるというものなんだよ。この血鬼術があれば、たとえ力が自分より強い鬼でも簡単に体を切り裂くことが出来るんだよ! てめぇもこのまま針でズタズタにしてやるぜ!」

 

 舌をだらしなくたらしながら、己の技を自慢げに話す邪鬼。

 そのまま超人的な力を持つこの異形は、体をうねらせ相手を切り裂こうとする!

 

 だが、体はビクとも動かない。いや、動かせないでいた。

 それが普通の人間や鬼だったら効果はあっただろう。しかし、目の前にいる存在は普通の枠には到底収まらない存在である。吸血鬼ですら吸収する存在なのだから。

 

 眼前にいる、血鬼術で倒したと思われる存在が平然と喋りだす。

 

 「貴様、今安堵したな。この私を倒せたと」

 

 目を白黒させ、頭を打たれたように愕然とするしかなかった。

 自らの血鬼術を使用したのに、何もなかったように立っている事に。

 

 (なんで、こいつは生きてんだよ!!まさか.....)

 

 獲物を捕らえたかのような目が鬼である自分を突き刺す。

 

 目の前の存在は全力を出したとしても勝てない存在であり、自分はただむなしく抵抗していただけに過ぎない事に気が付かされたのだ。

 先ほどまでにない圧倒的な絶望が、鬼へと波のようにとめどなく押し寄せてくる。

 

 だが、すでに戦意を失った鬼にカーズは追い打ちをかけるように言う。

 

 「貴様は自分の針が刺さったと思っているようだが、わざとそうさせたのだよ。たかが鋼鉄を超える硬度でこの私に傷をつけられると思っているのか——このまぬけがッ!!

 もっとも気配を隠していたとはいえ、それをまったく察知することが出来ず、相手の力量をも測れぬ餌に言っても意味のないことよ……」

 

 氷のような目で見つめるカーズは、あまりの弱さにこの鬼に対する興味は失せかけていた。

 しかし、まるで藤の木が弱点であるかのように語っていた事に違和感を覚える。

 吸血鬼の弱点は日光と波紋だけであると知っているからだ。

 

 「二度もこの私に手間をかけさせた罰だ。お前には私の実験につき合わせてもらうぞ」

  

 (藤の木を避けたとこいつは言っているが、それは藤の木そのものが害だから避けたのか? それとも、この時期に生えている花の蕾に含まれる何かを避けたのか。試せばわかる事よ)

 

 鬼と接着している部分の細胞を藤の花の細胞へと変え、ほんの少し流す。

 

 その瞬間、この世の物とは思えぬ絶叫が洞窟内を響き渡る。鬼の顔は苦痛でゆがみ、血管が腫れんばかりに浮き、流された部分が紫色に染まっていく。

 誰もが聞いたら、耳を塞ぐような悲鳴が木霊する。しかし、カーズは己の推測が当たり、口を三日月にしながら愉快そうに笑う。

 

 「ほう。そうか。どうやら、藤の花に含まれる毒が弱点であるようだな。非常に興味深い……貴様、理由は知らんが、どこか他の吸血鬼とは違うようだな。——次は波紋を流したら、どうなるかも見せてもらおうではないか」

 

 己に刺さっている針の部分を吸収し、鬼の腕を手刀で切り落とす。そして、赤い煌めく波紋を切り落とした腕へと叩き込ませる。

 灰色の腕は、瞬時に溶岩のように融解し跡形もなく消えていくのであった。

 

 「波紋も効いているようだな。おそらく太陽の光を浴びても同様の効果があるはず。しかし、妙だ。吸収してわかったが、この吸血鬼は今までに食したものと何か少し違うように感じる」

 

 ……なぜだ?

 

 「あくまでも人間一人一人の細胞が少し違うような誤差の範囲内ではあるが、まだ他に違いがあるやもしれん」

 

 その後、鬼にとって拷問という言葉すら生ぬるいと言える行為が何時間も続く。再生力がどれ程あるのかを知るために、体の一部を何度も細かく切断されたり、カーズの波紋疾走の実験台にされるなど、まるで生き地獄という名がふさわしい光景が行われていた。

 

 それは夜空に赤みが帯びるまで続いてしまう。血がこべりついている鬼からはすでに眼の光は失せており、少しでも早くこの苦痛が終わるのを身動き一つもせずにただ待っている。

 

 あらかたやりたい事を終え、最も肝心と思われるものを脅すように追及する。

 

 「貴様、どのようにして吸血鬼になった? 石仮面はどこにある? 私のような者に会った事はあるか? これ以上の苦痛を味わいたくないならば、素直に答える事だな」

 

 コォオオオオオ————

 

 体中の血を巡らせ、虹色に輝く波紋を全身から放散させる。その波紋は、太陽に耐性のある人間にとっても致命的なもの。それを鬼に見せつけるように構える。

 

 「吸血鬼と石仮面がなんなのか知らねぇ! それに、あんたみたいな存在に会ったら、絶対に忘れねぇよ。鬼になったのも、あの方から血を分けてもらったからなんだ! お願いだからもう見逃してくれ!」

 「——あの方とな…… そいつは何者だ。私のような存在ではないとすれば、お前が言う鬼という存在なのか?」

 「そうだよ——いえ、そうです。 ただし、自分のような存在と比べるのもおこがましい程の御方です……」

 

 背筋が凍るような視線にあてられて、顔を青ざめながら丁寧に言い直す。この存在を怒らせてはならないという一心で起こした行動。だが、それが報われることはない。

 

 

 「ほぉぅ…… そいつは、どのような姿をしている? 名前も言え」

 

 (嘘だろ…… 言えない、言えない。言えるわけがねぇ!)

 

 その質問が発せられた瞬間、歯をカタカラ鳴らしながら鬼はおもわず身をすくめる。この質問だけには答えられないと体を流れている血に刻み込まれているからだ。

 

 「——言えません……」

 

 対象から発せられた言葉を聞くと、カーズのこめかみに青い癇癪筋が走り、怒気をはらませた声で最後の警告が言い放たれた。

 

 「貴様にまだそのような反骨精神があろうとはな…… だが、忘れるな。外では朝日が昇ろうとしているが、ここは洞窟の中。貴様が答えなければ、その苦しみからは永遠に逃れることはないと知れ」

 

 絶句するしかない。自分には死ぬか、苦痛を味わい続けるかの二つの選択肢しかないと思い知らされたからだ。まさに、四面楚歌!

 だが、同情する必要なし! これは数多の人間を喰らい続け、その尊厳をドブのように踏みにじってきた存在だからだ!

 

 そして、

 

 「あの方のお名前は、――キゥッ…」

 

 恐慌に駆られた殺人鬼は、思考の末自ら死ぬ選択肢を選んでしまう。

 体全体が赤黒く染まり、口や腹から豪腕が突如生え、それらが宿主を襲いかかる。だが、どこか安堵しているように見えていた。

 

 

 

 全身が張り裂け、細胞すべてが悲鳴を上げているかのように痛ぇよ。でも、あいつの拷問と違って、少し我慢すればすぐに死ねる。

 ——オレはどこで道を間違えてしまったんだ。ただ人間をもっと食って強くなろうとしただけなのによぉ…… 

 

 

 体を崩壊させながら、無念の思いを抱いて意識を落とすのであった。

 やがて身躯は拉げられて、洞窟が鮮血に染まる。それをカーズは目を少し驚かせ、見つめていた。

 

 血を分け与えた個体の体内で、細胞を異常増殖させて自分の正体を明かそうとする者を殺したか…… しかし、今ここにいるのは私だけだ。周りにも他の気配を全く感じられん。

 

 「なるほど…… たとえ離れていたとしても、隠滅できるのか。用心深いやつめ」

 

 周りに散らばった肉片に視線を移し、それらを拾い上げ自分の中へと取り込む。

 やがて、不敵な笑みが零れだす。

 

 「うまく正体を隠していると思っているかもしれんが、自身の血をほんの少しでも分け与えたのは間違いであったな。自ら証拠を残すとはなんとも浅はかな奴。貴様の()()()()はすでに覚えたぞ」

 

 独自の技を繰り広げられる吸血鬼を生み出せる吸血鬼か…… 興味深い存在であるな。その慎重な姿勢から姿を表に出すのは滅多になかろう。——だが、この私からは決して逃れるとは思わぬことだ。

 

 

 洞窟の入り口から自分を暖かく迎え入れる光に向かって、歩みを進める。

 

 

 

 このようにして、町からは鬼の脅威は人知れず去ったのだ。

 だが、町はとても深く傷ついていた。家族を殺された者たちは、これかもずっと帰りを待ち続けるのだろう。そして、その傷がいつ癒えるのかは我々にはわからない……

 

 

 このような惨状はこれからも様々な場所で続くだろう。元凶が消えない限りは、決して!

 今その脅威に一つの究極生命体の矛先が向かう!!

 

 

 to be continued>>>>

 




* Q&A

①なんでカーズって自分の体を物質化できるの? 
 
 ツェペリ魂を持つとある金髪の波紋使いによれば、柱の男たちは眠っている間は無機質になっているらしいので、体の一部などを目覚めている状態でも意図的に物質化できるのでは?と作者は考えました。


②鬼から腕が生えたってことは……

 鬼舞辻無惨にバレています。ただ生えてきたのは目ではなく、あくまでも鬼を殺そうとする腕です。つまり視界は共有していません。ですので、カーズの素性は相手には伝わっておりません。おそらく鬼殺隊に拷問されて自害したとしか感じてないでしょう。
 
 それにこの鬼は、雑魚で無惨の血の量もかなり少ないです。本人との距離もかなりあるという設定なので、せいぜい位置しか把握してません。
 血の少ない鬼や未熟な鬼では、視界の共有もままならないという解釈です。


③手鞠鬼はフルネーム言えたのに、頭文字だけで殺されるのは速すぎない?

 ストーリー上、重要なとある場面を描くためにあえてこうしました。

*筆者の余談

 ・今回の舞台となった町の元ネタ:漢字の順番と同じフリガナを持つ漢字に変えてみてください。

 ・作者が考えている炭治郎が正式に入隊した年は、1915年です。

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