究極生命体カーズ 襲来   作:僕は悪いスライムじゃないよ

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 誤字報告をいつもしてくださり、ありがとうございます。

 もっと感情表現を書きたいが、書いたらカーズじゃなくなりそうでうまく書けない。


第三話 軌跡を辿る影

「こいつもか……」

 

 人影が見当たらぬ田舎道で、一人の男が人間の首元を剛腕で掴み、頭上に持ち上げている。一見、暴行の現場のように見えるが、持ち上げられている人間には三つの目が備わっている事からして、人間ではないことが窺えた。

 やがて、この異形は相手の男から流れる虹霓(こうげい)の波紋によって、体は気化し跡形もなく崩れ去る。

 

 ——この地に来て、すでに数えるのが面倒になる程の吸血鬼もどき…… いや、自らをと呼ぶ存在と遭遇している。どれも脆弱であり、本能的にこの私の強さを事前に察するものは結局一人も現れなかった。

 怪しい術を使う鬼もその例外ではない。だが、分析のために多くの鬼と遭遇し、喰らう事でいくつかの特徴を知りえた。

 

 一つ目は、気配を消した際に、遭遇した個体はどれもこの私に何も感じずに襲い掛かってきたことだ。このカーズが作った石仮面は、それを被った者には本能的に、この私に逆らえないと自然と認識するようになっていた。実際にローマで目覚めてから、新たに作り出した吸血鬼は私には従順であった。    

 しかし、日本という地に足を踏み入れてから、それらの特徴を持つ個体には一度も鉢合わせていない。

 

 二つ目は、どの個体にも耐性の違いはあったが、ほんの僅かの藤の毒で致命傷を負ったり、絶命するものまで現れる始末だ。私の知る限り、吸血鬼の弱点は太陽光と波紋のみのはずであるのに対してだ……

 

 最後に、どの個体も含まれている量こそ違えど、あの御方と呼ばれる者の血が流れていた。妙な技を使う鬼や力を持つもの程、ヤツの血の割合も高くなっている。

 だが、私が知っている別の吸血鬼から血を与えられた吸血鬼は、血の比率に関係なく特殊な技を使えていたはず。才能のないものには、どれだけ血を与えようと無駄であるが、日本にいる鬼はヤツの血の量に明らかに影響されている。

 

 

 集めた情報から、カーズはとある結論を導き出すのであった。

 

 「——これらは私の石仮面で作り出せる吸血鬼ではない…… もはや全く別の存在だ」

 

 鬼とはこの国ならではの吸血鬼の別名と最初は考えていたが、根底から覆すこととなる。

 

 念頭に置かなければならぬかもしれん。

 鬼やあの方と呼ばれる存在が今までに出会ったことのない存在である事を。

 そして、警戒する必要があるかもしれんな。あの方と呼ばれている奴をではなく、鬼そのものを作り出せる存在が居るかもしれない事態に……

 

 カーズは人間が持つ知能に一定の評価を下している。だが、吸血鬼やそれに連なるモノを作れるのはあくまでも自分たち闇の一族の特権であると考えていた。それは自分たちが持つ潜在能力に対する自信と(おご)りからくるものッ!

 

 「人間が己の力のみであのような力を手に入れたとは、とても考えにくい。可能性は低いが、その背後にこの私が知らない闇の一族の生き残りが居るかもしれん。

 もし、そうであるならば、将来かならず私の脅威となるだろう。なにせ、かつて私の思想を危険視し、私を殺そうとした一族を逆に皆殺しにしたはずだからな……」

 

 はるか遠い昔、己の目的の達成を邪魔した存在を思い浮かべる。

 石仮面によって得られた新たな力で切り刻んだ無数の存在たち。その者たちは、被った者が多くの生命エネルギーを必要とさせる石仮面とそれを作り出した天才(カーズ)を否定していたのだ。

 

 だが、見逃した生き残りが万が一いたとしよう。それもこの私と同様に己に秘められた力や能力に気づいた場合、一族を殺された者が何をするか。

 そのような事は、わかりきっている。当然、“復讐”だ。

 復讐に駆られる者が目的の達成のために、手段を選ばずに石仮面に連なるモノを作り出した可能性もあり得る……

 たとえ、そういう者ではないにしろ、鬼という生物を作り出せる存在。当然知ってしまった以上、野放しには到底できん。

 

 絶対に崩れさることのない床が決壊し、己の脚を氷の手に捕まれたかのような心騒ぎに駆られる。

 

 正体も知らない何者かが、自分と同じような道を辿っている。つまり、いずれ自分と同じように太陽を克服しようとする者が現れるかもしれないという事態に直面している事を示す。

 それは自分という絶対的な存在の立場が脅かされる事を意味してしまい、カーズがそれを許容する可能性は皆無。

  

 「断じて、私と同じ究極生命体に成りえる存在が仲間以外にはあってはならん!! 確実に脅威となる前にとどめを刺さねばッ!!」

 

 握る手に力を込めながらカーズは言い放つ。己の生存の脅威になりえる者を探し出し、絶対に屠ると胸に強固に決意する。

 

 

 そして、胸をくすぶる煩慮(はんりょ)を宿しながら、暗礁のような夜が終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 ——今日も、あの太陽が見ることは叶わぬか…… すでに何度もあの美しさを目にしているが、決して感動が衰えることはない。

 

 頭上では、本来地上に温もりを届ける存在はおらず、代わりに鼠色をした厚い雲が空を覆っていた。

 緩やかにではあるが、薄墨(うすずみ)色へと変わっていくのも見て取れる。

 

 それらの様子を心の内で少しの憤懣(ふんまん)を抱きながら、見つめて舌打ちをしてしまう。

 

 「チッ。この様子では雨が降ってしまい、鬼どもをおびき寄せられぬではないか」

 

 頭脳明晰なカーズは、ただ無暗に鬼を探して行動していたのではない。いくつもの鬼を屠ることにより鬼が人間の肉、特に女・子供の肉を好むことを知り、その性質を利用していたのだッ!

 夜には、人気の少ない田舎道、山、裏通りなどをわざと通り、その際には鬼に違和感を覚えられない程度に女・子供のフェロモンや血の匂いを放ちながら散策していたのである!(決して変態ではありません)

 

 他にも自らの体の一部を嗅覚や夜目などに特化した鳥や超音波を放つコウモリへと変え、索敵を行わせるなど様々な手段も用いていたのだ。

 

 ここで読者の一部が不審に思ったことがあるだろう。

 『カーズとその分身は視覚を共有しているのか』という疑問である。それが出来てしまうのだ。カーズがかつて己の羽を変化させ、アルマジロの甲羅のように硬質化させたもので飛行艇を攻撃した場面を思い出してほしい。

 

 残骸は航空機のいたる部分に突き刺さり、ウイングもその例外ではなかった。それはやがて意思を持ったかのように巨大な触手へと身を変え、プロペラを止め、爆発させている。『命令』を受けていないでそのような事が可能だろうか? いや、できない!

 理屈はどうであれ、本体とは切り離された状態でも、視覚に限らず明らかに感覚を共有していたのである。

 

 

 だからこそ、己の力のみで数多くの鬼を効率よく探し葬れたのだ。

 

 しかし、雨が降ってしまっていては匂いはかき消されてしまい、音もまた捕捉するのが困難となってしまう。できる手段が限られた状況に追いやられてしまうのである。

 

 案の定、黒みを帯びた雲からは雫がチマチマと降り注ぎ、時間の経過と共に寸分の隙間のない細かい雨がカーズへと注がれる。

 

 「こうなってしまえば、やれることは限られてしまうな…… さすがにこのカーズを(もっ)てしても天候は操れん」

 

 ——やむをえん。とりあえず、どこかで夜を待つとしよう。本来であれば、昼であろうと鬼の寝首を狩るが、この状態では索敵を行わせたとしても簡単には見つからないであろう。

 

 

 

 

 雨は昼を過ぎても強さが衰えることはなく、やむ(きざ)しも一切見せることはない。

 

 その頃、カーズはいくつもの山々を遠くから見渡せる街へと足を運んでいた。

 とめどない雨が降っていることもあり、普段ほど通りの賑わいは見せてはいないが、それでも行きかう店は活気あふれている。

 

 店主は、客の呼び込みなどに励んであり、行きかう人が少ない分より熱意があふれているようにも感じる。だが、中には貪欲に客引きをするものたちもいた。

 

 それにあの男は引っかかってしまうッ!

 

 「フッ、人間とはいつの世も騒がしいな。かつて、夜のローマを歩いた時も車の騒音や人間で賑わっていたな…… なんだ?」

 

 一人の若い娘が傘を差しながら、ちょこちょことカーズへと歩み寄ってくる。

 顔には、わずかなそばかすが見られるが、顔立ちは整っており、束髪くずしが良く似合う女性であった。その女性が、笑顔で話しかけてきたのだ。

 

 「ねえ、そこにいる旦那! 外の国の人だろう? うちの店にはお客さんが好みそうな洋服も扱っているから寄ってらっしゃいな。おまけもしとくよ~」

 「……客引きか。服なら間に合っている」

 「あら旦那、日本語が上手いね! じゃあさ。売れ残り品だけど、まだ肌寒い日もあるからもう一丁首巻を買う気はない? もちろん、安くしとくよ!」

 

 ほくほく顔の女はそう言って、店に戻り、棚に置かれていた横に長い紅い色の絹の布を持ち出す。

 

 ——マフラーか。寒さをほぼ感じぬこのカーズには二つも必要ないが、このマフラー…… やけに見覚えがあるように感じてしまう。

 

 

 「これ、結構良い生地を使っているから、なめらかで着心地は最高なんだよ! もし、買ってくれたら、初めてこの町に来たであろう貴方に有益な情報も教えるからさ~ 買っておくれよ」

 

 

 

 購買欲を唆るために放たれた言葉にカーズは反応する。

 

 ——情報か…… 私が一番求めているものではあるが、所詮店の手伝いをしている町娘が持っている情報など大した事はなかろう。

 だが、鬼という存在は人間の血肉を食べる。そのため妙な技が使える者の中には、それらをうまく活用し、人が多い町などの場所に潜伏しているという事も前例がいくつかある。

 人を喰らえば喰らう程、隠蔽が難しくなり、そのボロが人の噂として巷に流れるのもありえない話ではない……

 口車に乗ってやろうではないか。

 

 「この町で、なにか普段とは違う異変や行方不明者は出ていないか?」

 「お客さん。美味しい店やお得な店を聞くと思ったのに、変な事聞いてくるんだね。別にここいらは異変や事件とは無縁な平凡な町だよ。顔が広い私が言うんだからね!」

 (あまり期待せずにいたが、その通りだとはな…… ならば、もう用はない)

 

 返事を聞き、予測した通りだと思い、娘に背を向けようとする。だが、次の言葉を聞き、動きを止める。

 

 「あっ。でも、うちの店の話ではないけど、少し前に珍しい一行が旦那と似ているような事を尋ねていたらしいよ。確か…… 多少の違いはあるけど、全員が同じような黒服を着ていて、羽織や振袖を着ていない人たちの服の後ろには‘‘滅”の文字が書かれていたんですって」

 「——ほう…… 話を続けろ」

 「なにが珍しいのかって言うと、服もそうだけど、そのうちの一人が刀を誤って地面に落っことしたんだってさ。廃刀令が施行されて随分たつのに、刀を持つなんて珍しいでしょう?」

 

 確かに、そのような法が敷かれているというのに、わざわざ捕まる危険を冒してまで所持するとはな…… 武器を持っているのは、それが何かを遂行するために必要不可欠だからとしか思えん。

 

 「見た目は、どのような感じだ?」 

 「うーん。確かみんな十代半ば行くか行かないかぐらいの見た目で、中には女性の方も居たって言っていたかな」

 

 この平穏な時世に、刀を持つにはいささか若すぎるのではないか? 時代錯誤も甚だしいな。

 

 「その者たちが、どこへ向かったかは知っているか?」

 「さあね…… そこまでは私も聞いていないなぁ。ここいらは平凡そのものだから、もうどこか他のところに行ったとしか思えないね。だから、居場所の見当はまったくつかないよ」

 「この町に関することだけじゃなくても良い。人が消える話は聞いたことないか?」

 「——そうだね……ここの周辺じゃないけど、ここから遠くにだけど見える山々があるでしょ? 昔から猟師などがたびたび行方不明になっているらしいよ。まあ、熊も頻繁に見られるらしいから、何があってもおかしくないけどね……」

 

 娘は少し悲しげな表情で、亡くなったであろう人たちを悼みながら話をしてくれた。

 

 「なるほど。一度そこに行ってみる価値はありそうだな」

 

 ——しかし、その黒服たちは何者だ? 刀を持っていることからして、組織による強盗などの類かもしれんと考えたが。其れなら、わざわざ私のような質問をするとは考えにくい。

 それに、そんな連中が何かをこの町で行ったのであれば、噂ぐらいにはなっているはずだ。

 だが、この女は平凡な町と言及したことから推察すると、特に大きな事件が最近起きたとは考えにくい……

 

 加えてこの町娘は、みんな若く女性もいると述べていた。この時代の軍がどのような制服を纏っているかは知らんが、未来の知識を持っている私は世界大戦までまだ二年の猶予があることを知っている。

 だというのに、すでに国家機構が徴兵をしているだと? それも若い男女両方合わせて? 戦争の兆しも見せていないというのに、いくらなんでも総動員体制に入るには時期尚早——無理があるだろう。

 

 高速に頭を回転させたカーズは判断を下すのである。この未知の集団は、強盗でもなく、軍にも所属していない第三勢力ではないのかと。

 何か別の目的あるいは脅威に立ち向かうために編成された組織だと。

 そして、この男は知っている。この日ノ本で明らかに人間の害になる生物をだ。

 

 

 もし、この私と探し求めているものが一致しているならば、必ず鉢合わせするだろう。

 雨も未だに降り続けて手段は限られている。山に何もなければ、別の場所を探せば良いだけのことよ…… 騒がしいな。

 

 

 

 「ねえ、ちょっと! お客さん! 急に黙り始めたけど、大丈夫ですか?」

 「——気にするな」

 「もしかして、私の情報がお役に立ちましたか? だったら、このマフラー買ってくださいよ。目一杯、安くしときますからさ〜」

 

 商魂たくましい女だ…… だが、予想に反して有益な情報ではあった…

 

 「よかろうッ! このカーズが買ってやろうではないかッ!」

 「毎度あり!」

 

 その後、旅の途中で絡んできた追いはぎから逆に奪った金で、買い出しを済ませる。

 究極生命体には似つかわしくないようにも思えるが、目的の為ならば、人間社会に適応するカーズであったのだ。

 

 新しく買った紅のマフラーを首に巻き、少し町の喧騒を楽しんでから、目的地へと歩みを進める。新たな獲物を探しに……

 

 

****

 

 

   

 「夜になったか…」

 

  一人の男が自分の目の前にある大木の群れに視線を向けて呟く。そして、普通の人間なら入らないであろう夜闇に完全に包まれている樹林へと立ち入る。

 

 雨も障害にはならぬ程度まで弱まり、断続的となった。雨の中では手段が限られているから、わざわざ鬼が広範囲に動ける時間帯まで待っていたが、その必要もあまりなかったかもしれんな……

 

 「やっと行動に移せるか…… このカーズの力、存分に使わせてもらうぞッ!」

 

 声を張り上げたカーズは、己が被っていた帽子とその下にあるターバンを脱ぎ、くせっ毛のある長い髪をあらわにする。やがて、一本一本の毛がみるみると変貌していき、それは長い舌を口から出しながら、体をくねらせて地面を走り出す。

 それに加え、左腕の一部をも変化させ、無数の蠢く小さい存在を生み出した。

 

 それは、なんといくつもの蛇と無数の蜂であったのだ。それも唯の蛇と蜂ではない!コースタル・タイパンと蜜蜂である! 

 

 コースタル・タイパン。それはあの蛇の王と呼ばれるキングコブラの毒の致死量を優に上回る非常に攻撃的な蛇。

 森林地帯を含む様々な地域に生息しており、特殊な舌を使うことにより空気中のにおいや味を捕らえ獲物を確実に捉えられるッ! マムシの百五十倍の強さの毒を持つ!

 

 蜜蜂。毒を持っているが、蜂の中では可愛らしい見た目をしている。だが、その嗅覚は特異的であり、訓練をすれば癌細胞でさえ見分けられる程と言われているッ! それもこの蜜蜂は、夜行性のヤミスズメバチのDNAを混ぜたもの。夜には本来飛ばないが、それを知っての処置。

 

 両方とも嗅覚に優れ、毒を持っている。だが、忘れてはいけない。これはカーズが作った生物であることを。

 毒は普通の物ではなく、鬼を無力化するのに特化した藤の毒であるッ!

 

 「たとえ、雨で匂いが多少消されようとこの樹海を調べつくすのは時間の問題だ。わざわざ樹海に出向いたのだ。このカーズを失望させる結果になってくれるなよ……」

 

 そう言うや否や、作り出した分身は瞬く間に散らばり、夜の森へと姿を消す。

 

 

 

 

 「どうやら、何かを見つけたようだな」

 

 沈黙を破るような知らせが来るのには、あまり時間は必要なかった。広大な森でさえも無数の生物を同時に操れるカーズにとってはほんの少しの手間暇をかければ、十分に索敵可能。

 

 己の目をゆっくりと閉じ、意識を集中させ、分身と視覚を共有させる。

 

 ——なるほど、これは中々面白いものではないか。奴らに任せても仕留めるのは容易だが、直接行ってみるとしよう。

 

 目的の場所にたどり着きカーズが見たのは……

 

 

 「——鬼の血が流れる猪が二匹か。吸血馬を思い出させる存在だな」

 

 そこには、山ではよく見かける牙を生やしたあの動物がいた。だが、その体は通常の個体よりもはるかに大きく、体は血のように赤黒く染まっている。目全体も血走っており、正気を保っているようには到底見えない。

 

 二匹の獣は、突如目の前に現れた人間らしき存在に本能の向くままに咆哮し、満身の力を込めて突撃してくる。

 

 「二匹とも生かす必要はないな……切り刻んでやろうッ!」

 

 だが、自分に向かってきている獣を意に介さず、カーズは右腕から光り輝く刀を生やす。

 先に向かってきた一匹には、波紋を帯びせた状態の輝彩滑刀(きさいかっとう)で鮮やかに切り裂き、再起不能にさせる。

 

 一方で二匹目は、カーズが腕を上下に振り落とすことにより、頭から胴体を左右に真っ二つに切断する。

 胴体を二つにされた猪は、同じように波紋で消えると思われたが、そのまま溶けることはない。二つに分断された猪は、すかさず再び繋がろうと身を寄せるように動く。

 

 冷たい眼光を放つカーズは、わざと波紋を流さなかったのだ!

 

 (貴様には、やりたいことがある。すぐには殺さん)

 

 再び波紋を腕に通わせた滑刀で、体の右半分しかない方だけを幾重にも切り刻み消滅させる。

 体を片方だけ切断された猪は、己の半身が地上から消えたのに気づき、僅かな間を置き、傷口から肉を隆起させ再生を始めた。その再生力は、カーズにとっても初めて見る物。

 

 「やはりか。鬼の血——というより、ヤツの血が濃ければ濃いほど再生力も上がるのか」

 

 そして、今回の鬼は今まで出会ったどの鬼よりも、ヤツの血の含有量が血の割合に対して多い…… これは当たりかもしれんな。

 

 カーズは考えたのであるッ! あの方と呼ばれる存在の血の量が多い鬼ほど、その鬼にあの方が信を置いているのではないかと。それらを倒し分析することにより、ヤツを探す手掛かりになるのではないかと。

 

 「それに……」

 

 自分が作り出した一体の蛇に、再生中の猪に毒を流し込ませる。茶色の毛が生えていた体は紫色に染まるが、再生力が落ちるだけに留まり、絶命することはなかった。

 

 「今までの鬼なら致死量に値する藤の毒であったが、どうやら毒に対する耐性も大きく向上しているようだな」

 

 もだえ苦しむ獣を観察しながら、より毒性の強い毒を体の中で調合する。だが、それを流すことはない。

 

 「まだこの私の役に立ってもらうぞ」

 

 激しく動き回る獣にゆっくりと近づくカーズ。その姿は、すべての生態系の頂点に立つ者の威風を漂わせる。

 

 これまでの鬼とは異なる存在。人間ならば、未知なる恐怖に対して歩みを止めるだろう。

 だが、この究極生命体は行動を終えた後に、己の力に自負を持ちながら、より奥へと進むのであった。

 

 

To be continued>>>

 

 

 




*Q&A

①なんで、カーズは吸血鬼を作らないの?

 まず最初の理由としては、自分が作り出せる生物だけで様々な事に対処できると思っているからです。そもそも、今のカーズは石仮面を持っていません(必要ならば作れると思いますが)
 
 他の理由としては、吸血鬼は自我があり人間の血肉が必要な存在なので、どうしても目立ってしまうんですよね。そのため、未知なる存在に万が一吸血鬼が捕縛されてしまう状況を警戒してあえて作っていないという設定です。
 後、50年前どこかの誰かさんが暴れたせいで、カーズはジョナサンの孫であるジョセフ(第二部の主人公)と戦う羽目になりましたからね。そいつがいなかったら、歴史が変わっていたかも。
 吸血鬼=面倒ごとを引き寄せるという図式が成り立っています。

*輝彩滑刀
 
 カーズが持つ戦闘術「光のモード」で使用されるあらゆるモノを切る刃。骨か皮膚を硬質化させたものだから、腕からだけではなく足からも生やせる。体のどこからでも生やせるのでは?

 筆者はカーズの輝彩滑刀には二段階あると思っております。

・第一段階

 唯の鋭い刃(シュトロハイムの手で押さえられていた時)

・第二段階

 鋭い刃に加えて、その先端を無数のサメの歯のような刃が高速に動いている状態。
 ジョセフの一点集中の波紋であっても、防御することは不可能と述べられております。
 まあ、リサリサ戦後のジョジョとの直接対決で、カーズは刃を折られてしまいますがね。

 ちなみに原作では究極生命体になった後は一度も折られていないので、その性能はわかりませんが、柱の男の時点での輝彩滑刀よりも向上していると個人的に考えています。

*波紋

 太陽光の波と同質な生命エネルギー。特別な呼吸法を取得することにより、行使できる特殊な技。カーズは、太陽を克服した時にこの秘法ともいえる技を身につけました。
 様々な応用法があり、カーズにも使わせる予定。

・この小説での波紋の強さ

黄金色の波紋<<大きな壁<<赤い閃光を放つ虹色の波紋(カーズのみが扱える強さのもの)


*作者の余談

 今回登場した蛇の毒は、1956年まで血清は作られていないらしいですよ。
 

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