ティアが闇落ちしたプレミアとするなら、ゼロは頭のネジがぶっ飛んだプレミアと言えるでしょう。
私は今、いつも通っている喫茶店でコーヒーを飲みながら読書に耽っていた。
やはり、こういう時間は本当に落ち着く。誰からも邪魔されず、一人の空間。
「チーーッス!!」
……なんか来た。
そう言えば、少し前に私とプレミアに妹が出来た。
「ヘェーーーーーーーイ!!」
私とプレミアは双子(の設定)の筈なので、妹がいるはずもなく、ましてや私たちと容姿が全く同じな妹など……
「ヘーーイ!ヘイヘェーーーーーーーイ!!!」
「やかましいわ!!」
私は耳の近くで騒いでいた妹ーーー『ゼロ』を思い切り引っ叩いた。
「イッタアァァァァ!!ひどいよ姉ちゃん?!!」
ゼロは涙目で私に摑みかかる。
「毎回出会い頭に騒ぐんじゃない、耳に響く」
「だって姉ちゃん難しい顔してた!緊張をほぐそうとしたんじゃん!」
こいつは『ゼロ』。キリトがある日偶然遭遇し、私たちの元へと連れてきた。
こいつを見ていると昔の自分を思い出し、最初の頃は色々なことを教え可愛がっていた。日に日に様々なことを覚え成長していくゼロを見て、ジェネシスやキリトもこんな感じだったのかな…と思いもした。
……だが、どこで道を間違えたのか。
騒がしい、なんてものじゃない。発する言動一つ一つがぶっ飛んでいるのだ。
「別に難しい顔などしていない。
大体お前は一々騒いでいないと気が済まんのか」
「だからって叩く事ないじゃん!ていうか姉ちゃんのステータスシャレにならないくらい高いからホント痛いんだからね!頭カチ割れると思ったからね?!!」
「割れてしまえばよかったものを……」
「辛辣ゥ!!」
騒ぐゼロを無視し、さっさとここから離れようと立ち上がる。
「ちょ、姉ちゃんどこ行くのさ?」
「…お前が騒がしいから場所を移す」
「へぇ〜、じゃあ私も〜」
と言ってしれっと両手を頭の後ろに組んで付いてくる。
「何で付いてくる」
「えー?いいじゃん!私も暇なんだし構ってよ〜」
そう言いながら彼女は私の後ろを歩いてくる。
……まあ、ここまでして構ってやらないのもあれなので少し付き合ってやるか。
ーーーーーーーーーーーーーー
「おりゃああああ!!祭りじゃああああ!!」
そう叫びながら大きな斧を振り回してモンスターを追いかけるゼロ。
私はそれを見守るだけだ。
ここは始まりの街から歩いて数十分かかるフィールド。
かつて私がジェネシスから剣を教わった、私の思い出の場所でもある。
ここで私は、ゼロに斧の使い方を教えたり、ゼロの実戦を見守ったりしている。
ジェネシスも、こんな感じで私を見守っていたのだろうか、と思いながらゼロを指導する日々だ。
最近ではゼロのステータスや斧の使い方に慣れてきたのもあり、ゼロがモンスターの群れを蹴散らすのを少し離れたところから見つめ、危なくなったら私が介入する、という形になっている。
今のゼロでは、一人だとレベルに不安があるし、何よりNPCを狙うプレイヤーもいるため私が付いているが、もし、ゼロのレベルがもう少し上がれば、フィールドボスやアインクラッドの攻略に連れ出そうか、とも考えている。
しかし、何でこいつは斧なんか使っているのだろう?
前に武器屋でこいつの武器を見繕っていた時、キリトの片手剣やプレミアの使う細剣を進めたものの、ゼロは「軽い」と文句を言い、そこで私と同じ両手剣を勧めると「性に合わない」などと言い、どうするか悩んでいるとゼロが「これがいい」と言って持ってきたのが両手斧だった。
私は斧の使い方なんか知らないし、私の知り合いで斧を使うやつといえば……巨漢のエギルしかいない。
なので、エギル本人から直々に斧の使い方を教えてくれれば良かったのだが、生憎彼は今GGOにいる。
なので仕方なく……本当に仕方なく、私が自分で斧の振り方、ソードスキルなどを調べ、それらをゼロに伝授した。
今思うと本当に面倒臭かった。こうなる事が分かっていたなら、有無を言わさず両手剣を使わせておけば良かった……
「いやっほおおぉぉぉぉう!!テエェェーーーイ!こんにゃろおーーーーー!!!」
……まあ、楽しそうにしてるし別にいいか。
モンスター狩りであんなに楽しそうにやるのは、ユウキくらいしかいないだろう。いや、みんなモンスターと戦うのは楽しんでいるのだろうが、ユウキとゼロは楽しんでいるというよりは、はしゃいでいると言っていいだろう。
ゼロとユウキは気が合いそうだ。
そう思った私の脳裏に、満面の笑みでモンスターを倒していくユウキとゼロの画が見えたーー
ーーいや、実際に見ると多分シュールにしか見えないだろう。
年端も無い二人の少女がそれぞれ大きな斧と片手剣を手にモンスターを蹴散らす姿など最早カオス以外何でも無い。
「汚物は消毒じゃあああーーー!!!」
………こいつはそれ以前の問題だった。
誰だ?ゼロにこんな言葉遣いを教えたやつは。今度会ったら私が直々に鉄拳を下してやる。
「ついでに姉貴も消毒じゃあああーーー!!!!!!」
「……ほう、死にたいらしいな?」
その前に鉄拳を下す奴ができた。
「あ……」
ゼロが「しまった!」とばかりに慌てて口を抑えるがもう遅い。
私は不敵な笑みを浮かべ、拳をゴキゴキと鳴らしながらゆっくりとゼロに近づく。
「ちょ、ちょっと待ってよ姉ちゃん!!冗談!冗談だってば!!」
「問答無用だ。悪い子にはお仕置きをしてやらないとな?」
そして私は、ゼロの頭を片手で掴み思いきり握る。ゼロの頭がミシミシと音を立てる。
これはアスナに教えてもらった技、『アイアンクロー』という奴だ。された事は無いから分からないが、結構痛いらしい。
「ギャアァァァァァ!!ごめんなさい!ちょっと、やめて!やめ、やめろーー!!」
ーーーーーーーーーーーーーー
〜数分後〜
「ぐすっ……まだ頭ズキズキする……」
「自業自得だ。それより、腹が空いたろう?食事を持ってきたから食べ」
「いええぇぇぇぇい!!姉ちゃん大好きだ!!!」
現金な奴だ。
困ったような笑顔を浮かべつつ、私はメニュー欄からバスケットをオブジェクト化する。
中には、様々な食材が挟まれたサンドウィッチがぎっしり詰まっている。因みにこれらは全て、私の手作りだ。
「食べるなら早くしろよ?耐久値が無くなるからな」
「よっしゃあ〜!いただきまーす!」
そして、早速サンドウィッチを同時に頬張る。
私が食べているのは卵サンドだ。うむ、我ながらによく出来ていると思う。
「ンまい!!このサンドウィッチすごく美味しいよ!!」
「そうか。それなら、作り甲斐があるというものだな」
美味しいものを食べるのもいいが、自分が作った料理をおいしいと言ってもらえるのもまたいいものだ。アスナや他の女子メンバーがキリトに料理を一生懸命作るのも分かる。
そう言えば、プレミアも言っていたな……『料理で胃袋を掴むのが、恋愛における大きな武器だ』と。
成る程、美味しい料理を作れる女子というのはかなりポイントが高いようだ。今度、ジェネシスにも振舞ってやりたいものだな。
ティアちゃんのサンドウィッチ……食べてみたい!
因みにですが、 HRではプレミア、ティア、ゼロは3人とも巽悠衣子さんが担当されていますが、私はこの小説ではティアが渡辺明乃さん、ゼロが高橋李依さんの声で脳内再生してますw
皆さんはどうですか?やはり、ティアもゼロも巽悠衣子ボイスでしょうか?