SAO HR 〜深淵の巫女の日常〜   作:ジャズ

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リクエストがありまして、今回はちょっと無防備なティアちゃんを。


無防備な彼女

今日はアイングラウンドの中でも最高の気候設定。

気温、湿度、風の強さ、世界の明るさ……どれを取っても素晴らしいの一言に尽きる。

なので殆どのプレイヤー達は、このような日なので攻略はせず、街の草原やフィールドの少し開けた大地でのんびりと過ごしている。

 

そしてそれはこの世界の住人、つまりNPC達も例外ではない。特に普段から毅然とした振る舞いで、だらけることなど全くないストイックな彼女も。

 

「ーーったく、どこにいるかと思えばこんなとこで呑気に昼寝なんか決め込みやがって……」

 

草原フィールドのど真ん中で、体を抱えるように眠っている白無垢の女性ーーティアを見つけた男、ジェネシスはため息をつきながら呟いた。

 

「まあ今日みてえな日は眠くなるのも分かるけどよ……何でよりによってこんなフィールドのど真ん中で寝てやがんだ。なんかされたらどうするんだ」

 

そう。ティアはNPCであり、一度死んだらもう生き返らない。なので、ダメージの通らない圏内で眠るならば良いが、このような開けたフィールドで眠ってしまうと、モンスターや悪意あるプレイヤーに襲われる可能性もある。

ましてや今のティアは街でも一際目立つ美女なのだ。こんな女性が無防備な姿を晒していては何が起きるか分からない。

 

「……おい、起きろコラ。寝るなら宿屋のベッドで寝やがれ」

 

ジェネシスは膝をつき、ティアの頭をコンコンと叩き、起こそうとする。

だが、ティアは「う〜〜ん」と寝返りを打つだけで中々起きない。

 

「はぁ〜〜〜………ったく、しょうがねぇなあ」

 

ジェネシスはそう呟くと、ティアを背中に抱えて負ぶさり、そのまま歩き出した。

ふと、ジェネシスは昔を思い出した。

 

それはまだティアと出会ったばかりの時。

 

彼女がプレイヤーに襲われていたところをジェネシスが通りかかり救出すると、彼女は安心しきったのか気を失ってしまったのだ。

ジェネシスはそんなティアを放って置けず、彼女を背負って街まで歩いた。

その後もジェネシスは、特訓で疲れ果てて眠ったティアを何度も背中に背負い、その度に街まで運んだ。

 

「……世話のかかるやつだぜ、全く」

 

苦笑しながら一人呟いた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

普段感じられない空気の心地よさに、私は思わず草原で眠りこけてしまった。

無論、自分がどういう存在で、この行為がどのような危険を孕んでいるのかも承知であるが、それ以上にただ襲いかかる眠気に打ち勝つことができなかった。

 

そして眠り続けてしばらく経った頃だろうか。

不意に体が揺れる、どこか懐かしい感覚に、私の意識はほんの少しだが眠りから引き戻される。

眠気が覚めない中うっすらと目を開くと、いつも見慣れた大きな背中と、荒々しく逆立った赤い髪が目に映った。

 

……自分は……またおんぶされているのか?

 

そういえば自分が小さい頃、彼はその広い背中に何度も自分を乗せてくれた。

一番最初は、彼が自分を助けてくれた時。あの後自分は気を失ってしまい、気がつくと彼の背中に乗せられていた。

その後も、日々の特訓で疲れて眠ってしまい、気がつくとフィールドの安全地帯に、自分は寝袋に入って寝かされていた。

そうして自分が起きると、目の前にはジェネシスがいて、

 

「……おう。やっと起きたか」

 

と言って、彼が作った温かいスープを汲んで自分に手渡す。そう言えばあのスープの味は、寝起きの自分にはとても美味しいものだった。

 

そんな過去の事を私はウトウトとしながらも思い出す。

 

……まあ、そんなはずはないだろう。自分はもう大きくなってしまったので、ジェネシスがまた自分を運ぶなどしないだろう。つまり、これは夢の中なのだ。

 

でも………こうして自分をおんぶして運んだらしてくれるのも、ジェネシスだけだ。キリトは寝ている私を見つけたら、起こさず自分のそばにいるだろう。それも有難いが、自分はこの揺さぶられている感覚がとても心地良い。一定のリズムで体がわずかに上下するのが、返って自分の眠りを深くしてくれる。

そして何より、ジェネシスがおんぶしてくれると、彼の背中を直に感じ取ることができる。彼の広く逞しい背中は、自分に安心を与えてくれる。自分はこの背中に守られてきたのだと、この背中がより愛おしく感じる。

 

ならば……これが夢ならば……せめてこれくらいはしても良いだろう。

 

「………ま、すたあ………」

 

朧げな口調で彼を呼び、私は両腕を伸ばし交差した。

そして自分をよりジェネシスの背中に近づけた。

 

ああ……私は今ジェネシスに抱きついているのだ。

キリトにも、このような事はやったことがない。私がこうして抱きつけるのは、世界広しと言えども、ジェネシスただ一人だけだ。

もしこれが現実なら、ジェネシスは自分を振り落とそうとするだろうか……いや、彼なら困ったような顔をしつつ何も言わずに黙ってそうさせてくれるだろうか。

 

そう思うと、私の頬は自然と綻んだ。

 

私は、キリトが好きだ。

いや、キリトだけじゃ無い。彼の仲間達……女子の活動というものを教えてくれたアスナやリズベット、いつも自分を気にかけてくれたシノンやリーファ、冒険の楽しさを教えてくれたシリカやフィリア、キリト達現実世界からやって来る者達がいない時にいつもそばにいてくれたユイやストレア、初めて自分を食事に連れて行ってくれたクラインやエギル(因みにその時のラーメンは今でも自分の好物だ)、みんながいなくなった後、私の心の支えになっているゼロ、そして何より……自分に可能性と未来、人とのつながりの大切さを教えてくれたプレミア。

 

私はみんなが好きだ。

 

だけど、彼だけは…………ジェネシスだけは特別なのだ。

 

彼といると…………どうしてか胸が高鳴るのを感じるのだ。

彼が近くにいるだけで、自分は満たされる感覚に陥る。彼さえいれば、美味しい食べ物も目に入らないだろうーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー私は、彼が好きだ。

 

いや、彼を愛している。一人の男性として。

 

だからどうか……もう私を離さないでーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「……ま、すたあ……」

 

そう言ってティアは、ジェネシスに抱きついた。

 

「……オイオイ、寝言までいってやがる」

 

すると、ジェネシスの背中に二つの柔らかい感触が襲った。否、さっきからあったが、ティアが抱きついたことによってそれがより強く感じられた。

 

確か80代あると言っていたか。恐らく、E〜Gはあるだろうそれが、惜しみなくジェネシスの背中に押し付けられている。

 

もし、これがキリトなら

 

「?!!お、おいティア!!」

 

と顔を真っ赤にして慌てるだろうし、クラインなら

 

「っっ!!!(おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい……)」

 

などと煩悩の塊になるだろうし、エギルなら

 

「……Oh……Jesus」

 

とイケボで呟くだろう。

 

だがジェネシスはこの程度で動じない。

無論、彼も男だ。全く意識していない訳ではないが、彼がこの程度で慌てる助平なら、ティアはきっと彼にここまで気を許して眠らないだろう。

 

「……おい、当たったんぞコラ」

 

ジェネシスはいつも通りのぶっきらぼうな言い方でティアに言うが、ティアは眠っているため応えない。

ジェネシスは仕方なくため息をつき、そのまま歩く。

 

数十分かけて歩き、はじまりの街に入る。

あたりはすっかり夕方になり、先ほどまで心地良い暖かさだった空気も、だんだんと冷え込み始めている。

だがこんな状態でも、ティアはジェネシスの背中で熟睡しており、街のプレイヤー達はジェネシスとすれ違うと必ず二度見する。

なにせ、彼の背中にSA:Oでも最近話題になり始めている美女が、その背中で眠っているのだ。男性プレイヤーの中には怨嗟の目をジェネシスに負けるものもいたが、当のジェネシスは全くと言って良いほど気にしない。

 

そして数分で、いつも寝泊まりしている宿部屋にたどり着いた。部屋をノックし、中にいるであろうゼロを呼び出す。

 

「おーい、俺だ。空けろ」

 

直ぐに、部屋の扉は開けられた。

 

「あ、お帰り兄貴……え、姉ちゃん……?」

 

ゼロはジェネシスの背中で眠るティアを見て、思わず戸惑いの表情を浮かべた。

何せ、ゼロが見ているティアはいつも毅然としており、こんなリラックスした彼女を見たことが無いからだ。

 

「あー、こいつ大草原の真っ只中で昼寝してやがったんだよ」

 

「うわ、それは草が生えるわ」

 

「んで、こいつNPCだろ?おまけにこんな見た目だしなんかあったらやべえだろ?だから俺が仕方なく連れて帰ってきてやったんだよ」

 

「無視はやめてほしいデスねー……まあでも、今日の気候は最高でしたからね〜…眠くなるのも無理はないですよ」

 

「とりあえず寝室開けてくれや。こいつ運ぶから」

 

「はーい」

 

そう言って、ゼロはトテトテと歩いて寝室のドアを開ける。

ジェネシスはその扉をくぐり、シングルベッドの置かれた寝室に入った。

そして、ティアを背中からそっとベッドに寝かせる。

 

「はあ……やっと運び終えたわ」

 

ジェネシスはそう呟きながら伸びをした。

ティアは未だに「すぅ……すぅ……」と寝息を立てている。

 

「結局最後まで寝てやがったな……どんだけ眠りが深ぇんだよこいつは……」

 

ジェネシスはベッドのとなりに置かれた椅子に腰かけ、ティアの寝顔を見ながら独りごちた。

 

そうして暫くティアの寝顔を見つめていたが、ふと立ち上るとティアに毛布をかけて部屋を静かに出た。

 

「あれ、姉ちゃんまだ寝てるんですか?」

 

リビングでお菓子を食べていたゼロが、部屋を出たジェネシスに問いかけた。

 

「ああ。全く起きる気配がねえ」

 

ジェネシスは頷きながら、リビングのソファーに座った。

 

「……寝起きドッキリでも仕掛けましょうかね」

 

「やめとけ、殺されるぞ」

 

ゼロがいたずらな笑みを浮かべながらティアの眠る寝室に向かうが、ジェネシスがそれを制した。

 

「そうですね。でも、こんな姉ちゃんは貴重なので、ちょっと寝顔を拝んできます」

 

そう言って、ゼロは部屋へと入った。

 

〜30分後〜

 

「ふぅ〜、満足しました♪」

 

「いやどんだけ見てんだよ」

 

随分と長いこと部屋にこもっていたゼロに対してジェネシスは思わず突っ込んだ。

 

「いやいや、姉ちゃんの寝顔なんて中々見られないですからね!今しっかり見ておかないとと思ったんですよ!」

 

「だからって30分も見るか普通。そんでティアもなぜそれで起きねえんだ?」

 

いつになく長く眠るティア。

ジェネシスは立ち上がって再びティアの寝室へと入った。

 

やはり彼女はまだ夢の世界にいるようだった。

 

「……正直驚いています。こんな姉ちゃんを見るのは本当に初めてで……」

 

いつのまにか入ってきていたゼロがジェネシスの隣で呟いた。

 

「そうか?まあ俺は、こいつの寝てる姿は昔から知ってるからな」

 

「へえ〜そうなのですか!なら今度教えてくださいよ、姉ちゃんの昔の話」

 

「……そんな良い話でもねえと思うけどな」

 

目を輝かせながら言うゼロに、ジェネシスは苦笑しながら答えた。

 

「……ゼロ、もう少しして起きなかったらもう起こしてくれ」

 

そう言って、ジェネシスは部屋を出た。

 

「良いですけど、どこに行くんですか?」

 

「別に大した用じゃねえよ」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

……目を覚ますと、そこはよく知る天井だった。

はて、自分は確か草原で寝ていたのではなかったか。

 

「あ!やっと起きましたね!!」

 

隣で妹の声が響いた。

視線を向けると、私が横になっていたベッドのとなりに置かれた椅子に座っていたゼロが、私の顔を覗き込んでいた。

 

「……ああ、おはようゼロ。お前が私を運んでくれたのか?」

 

「そんなわけないでしょう。ジェネシスですよ」

 

「……え?」

 

思わぬ答えに、私は目を丸くした。

 

「それ以外いないでしょう?姉ちゃんを運べる人なんて。草原で昼寝してた姉ちゃんを、ジェネシスが危ないからとここまで運んでくれたのですよ」

 

……すると何だ。

あれは夢では無かったのか。

あの背中で揺さぶられている懐かしい感触も、私が寝言であの人に抱きついたのも……

そこまで思い出すと、私の顔は、羞恥で赤くなった。

 

「?どうしたのですか、姉ちゃん」

 

ゼロが首を傾げて私に問いかける。

 

「…!あ、い、いや……何でもない。彼は今どこに?」

 

「キッチンで何か作ってました。多分夕飯ですよ。早く行きましょう」

 

そう言ってゼロはそそくさと部屋から出た。

私もそれに続く。

 

寝室を出ると、嗅いだことのあるスープの香りが部屋に漂っていた。

 

「……おう。やっと起きたか」

 

聞き慣れた彼の声。

そしてその方向を向くと、ジェネシスがリビングのテーブルに料理を並べていた。

 

「おお!凄く美味しそうですね!兄貴は料理も出来たんですか?!」

 

「まあ、昔色々あって料理スキルは取ってたからな。味はあんま期待すんなよ」

 

そしてジェネシスとゼロは椅子に座った。

 

「姉ちゃん、何してるんですか?早く座りましょうよ」

 

「オイオイ、まだ寝ぼけてんのか?」

 

二人に促され、私も空いた席に座る。

 

目の前にあるのはシチューと、大きな鍋。そしてその中には、私が昔眠りから覚めた時に彼が必ず振舞ってくれたスープーーーーーーコーンスープが入っていた。

 

「パンを用意すりゃ良かったな」

 

「あ、それならまだ残りがあったと思います」

 

ゼロがキッチンへパンを取りに走る。

その間に、ジェネシスがコーンスープをカップに注いだ。

 

「ほれ」

 

「……ありがとうございます」

 

私はそれを受け取り、口に運ぼうとーーーーーー

 

 

「ああぁぁ!!姉ちゃんダメですよ!まだ“いただきます”してないじゃないですか!!」

 

「……あ、ああ済まない。つい昔の癖でな」

 

私は苦笑しながら応えた。

 

そしてゼロも席に着き、いよいよ晩餐が始まった。

 

「では、《この世の全ての食材に、感謝を込めてーーーーーーいただきます》!!」

 

「いただきます」

 

「……毎回思うんだけど、それトリコのセリフじゃねえか」

 

「良いじゃないですか!私は結構好きですよ。ほら、兄貴も“いただきます”して下さいよ」

 

「はいはい分かったよ……んじゃ、いただきます」

 

そうして、各々がシチューやスープを口に運ぶ。

 

私は真っ先に、コーンスープを口に含んだ。

 

凄く、懐かしい味だった。

口の中にコーンの甘みと風味が広がり、その熱で自然と体も温まる。

だがそれだけじゃない。普段は表に出さないジェネシスの愛情が、このコーンスープには込められている。寝起きの舌に刺激的でないような優しい味付けが、ジェネシスの持つ優しさを私に感じさせてくれる。

 

全く、本当に罪な人だ。

ここまで私に意識させるとは。

 

「美味しい!凄く美味しいですよ、このコーンスープ!!」

 

「おいおい、スープだけか?シチューも一応手作りなんだがな」

 

スープの感想にジェネシスは納得いかないというような表情だが、反面嬉しそうだ。

 

ふと、ジェネシスと目が合った。

 

「……何だよ?」

 

「いえ。少し昔を思い出して」

 

「そういえば、ジェネシスは姉ちゃんの小さい頃を知ってるんですよね?なら、今聞かせて下さい!」

 

ゼロがテーブルから身を乗り出して言う。

 

「おい行儀悪いぞコラ。ちゃんと座れ、話してやるから……」

 

そう言って、ジェネシスは語り出した。

 

昼間のような温かな空気が、私たち三人を包み込んだ。

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。
普段のティアからは想像もつかない爆睡ティアちゃん、いかがだったでしょうか?めっちゃ良いやつなジェネシス。本当、ホロリアでもこんな性格だったらなあ……

そして、ティアちゃんが本格的にジェネシスに対する恋心を意識しましたね。思ったんですが、ジェネシス×ティアの小説書いてるのって僕くらいじゃないでしょうか?ほかにジェネシス×ティアの小説がありましたら教えて欲しいです。

さて、ジェネティアの甘々な雰囲気が続いたので、次回はギャグパートを挟もうかな。
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