数年前
「ねぇ千聖....通してくれないかな?」
「いいわよ。あの子の所以外なら。」
千聖がとういうわけか、玄関先で僕の目の前にパジャマ姿で突っ立っている。笑顔で会話しているが、後ろから出てくる圧が凄い。
「別にデートとかしてる訳じゃないし....」
「ふふっ、兄さん。そんな言い訳をするってことは何かやましいことがあるってことよね?」
「無いってば。普通に練習に付き合ってもらうだけだし...」
湊さんから「先輩、あなたの演奏技術はまだ稚拙。今のまま練習していても他のメンバーの足枷になるだけよ。私が付き合ってあげるから、少しでも多く練習しましょう。」と提案されて以来、1週間に1回、音合わせや演奏の練習を湊さんに手伝ってもらっている。いたってやましいことも何も無いし、僕は千聖一筋だ。なのに.......
「あら?そうかしら?なら豪さんを含めたメンバーと練習すればいいんじゃないかしら?」
「それはそうかもしれないんだけど.....」
「だけど?」
「豪たちを、僕が皆に比べて習熟が遅いのを進める為にレベルを落とさせるのは何かモヤモヤするんだ。あいつらはあいつらでドンドン成長して高みへと目指してる。」
僕だって頼れるなら頼ってる。でも僕達は皆駆け出しで、今は自分の成長の為にも練習したい。なのに遅れてる僕が豪たちの時間を奪ってまで、皆に追いつくことを目指したら、それは結局足枷なんじゃないかって思う。僕の中には複雑な考えがあった。
「.......それで?」
あれ.....?さっきより圧が強くなってない?
「......だから、湊さんの力を借りてるんだ。ほんとにそれだけだからね!?」
「.........」
一通り弁明してから千聖を見ると、少し頬を膨らませてムスッとしていた。すごく可愛い。じゃなくてなんで怒ってるんだろ.....
「それは良かったわね。兄さん。」
全然良かったとは思ってなさそうな感じで言ってるよ千聖。
「.....兄さん。私は兄さんが誰かのために、頑張っている姿はとてもかっこいいと思うわ。」
「う、うん.....」
ストレートな褒め言葉。泣きそうになるけど今は泣く状況じゃないし.......
「でもね兄さん。なんで女の人なの?しかも同級生じゃなくて、私の同じ歳の。」
「それはたまたまで.....」
そして千聖は僕に指を指したまま話を続ける。なんか探偵もののドラマでも見たのかな.....
「なら千聖!!一緒に行こう!」
「....え?」
「練習風景を見て、千聖が許してくれるならそのまま湊さんと練習を続ける。ダメだったらその時は別の手段を探す。」
「ならアウトね。」
「早すぎるよ!!せめて見てから決めて!!」
(いや兄さん.....私を連れていったら湊さんにどう思われるか考えてないのかしら。)
「大丈夫だよ。湊さんは普段は猫を見て和んだりしてるけど、音楽のことになるとすごく一生懸命になる人だから。そういう浮ついたことはあんまり好きじゃなさそうだし。」
「そうなのね.....」
.......あれ?千聖、雰囲気が一瞬で修羅になった。何か地雷を踏んだ.....?
「なら着替えてから向かうわ。CiRCLEに向かえばいいのね?」
「うん。じゃあ僕は先に行くね。」
僕はそう千聖に言い残して、練習に向かった。」
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「ずるいのよ.....」
私、白鷺千聖、すごくモヤモヤする。言葉がたどたどしくなるくらいに心が曇る。兄さんが私のこと以外に.....あんなに細かく他の子を語る所なんて見たことがなかった。しかも話してる時の兄さんの顔は、どこかしら嬉しそうだった。兄さんが内向的で、ああやって話すことが少ないのは知っているけれど......
「湊さんが.....羨ましいわ.....」
そして何より、兄さんが打ち込んでいることの手伝いができる立ち位置にいる湊さんが、とても羨ましくて、憎らしい。私が望んでも手にすることが難しい立ち位置に、湊さんは普通に立っている。私と兄さんは会話こそすれど、私が中学に入ってからその距離はとても遠くなった。私が女優として進む中で、兄さんは別の道を選んで歩んでいる。それは何も悪いことじゃないし、兄さんが打ち込めるものを見つけて、それを共有できる人がいる.....それは何よりも嬉しい。けれど.....思えば思うほど痛みは増して、止まらない。
(複雑ね.....嬉しいのにこんなにも胸が痛い。今までやってきた役にも似たような状況があったのに.....)
部屋に戻って、少しだけ涙を拭いて、服を選んで、私は兄さんのところに向かった。
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そして現在
「白鷺さん.....あの時練習を見に来る前にそんなことがあったのね。」
「えぇ、今じゃこんな風にお茶を交わす仲にもなったけれど。」
私と友希那ちゃんと兄さんはCiRCLEのカフェテリアでお茶をしている。あの頃のことを考えたら人って数年で変わるんだなぁ.....と思う。
「別に僕はそんなつもりじゃなかったんだけどなぁ.....」
「乙女心が分からない兄さんは少し勉強すべきですー。」
「千聖何その口調....痛い痛い、足踏まないで。」
クリクリっと兄さんの足を踏む。私の言葉不足もあると思うけれど、気づかない兄さんも少しは反省してほしい。
「ふふっ、束縛が強いわね。先輩、私はこんなに縛らないわよ?」
「じゃあ僕が湊家に住んで、千聖に会いに行くって言ったら.....?」
「当然物理的に縛り上げていかせないわ。」
「ちょっと物理的すぎないそれ.....」
「冗談よ。冗談。」
「全然冗談に聞こえない.......」
こんな軽口を叩ける風になって、軽く聞き流せる風になったのも成長かしらね。それはそれとして兄さんを湊家に置くようなことは絶対にしないわ。
少し短めですが、お許しくださいぃ...
違和感あったり間違いがあったら教えてください。なにぶん久しぶりなものでミスが心配です。
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