「へぇ、パスパレでそんな事あったんだ。」
「そうよ、色々あったけれどなんとか成功したわ。」
仕事帰りの千聖に冷えたお茶を出して、リビングでくつろぎながら会話する。曰く、普段お世話になってる人の結婚式に招待してもらったらしい。
「ジューンブライド.....か。うちの大学でもなんか話題になってたよ。」
「ふぅん.....それはどんなのかしら?」
急に千聖が雰囲気を変える。え、そこまで気にすること.....?
「まぁ僕らも大学生なわけで.....あと数年して社会に出たら、結婚とかも視野に入れた人生設計をしなきゃいけないのかなって話題が上がってさ。そこでジューンブライドってことでどんな結婚式がいいかみたいなのに発展して。」
こういう話題は女子の内輪で盛り上がると思ってたけど、男子も盛り上がってた。でも確かに無計画もどうかなと思った。将来千聖が誰かに嫁いで.......嫁いで.....
「.....兄さん?急に下唇を噛んで涙を流してるのかしら?」
「いや、千聖が嫁入りする時が来るんだな.....って思って。」
「ちょっと待って兄さん。気が早すぎるわ。」
「そうなのかなぁ.....でも、ほら。芸能人の人とか俳優の人って、外資系とか商社とかの年収のいい人か、事務所一緒、仕事一緒とかで相手が決まるじゃん.....だから相手見つかったらすぐなんだろうなって。」
実際パスパレは最初はちょっと危なかったけど、今となっては業界にも名前は知ってもらってる感じらしいし、千聖は可愛いから絶対狙われてるだろうな......妹は渡さん!って出来たらかっこいいけど、札束ビンタ(物理)されそう。
「.....ふぅん。心配なのね?」
さっきまでオドオドしてた千聖の顔が、どこか小悪魔のようなかわいらしい笑みを浮かべている。
「今週末、兄さんは空いてたわよね.....今週末空けておいてね。その不安、一蹴してあげるから♪」
そう言ってお茶を飲み干し、千聖は鼻歌を歌いながら部屋に戻って行った。
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週末 CiRCLE前
「花音、今日は突然ごめんなさいね。流星さんも。」
「大丈夫だよ、千聖ちゃん。お兄ちゃんも暇そうだったし。」
「暇なんて一言も言ってない.....優希、覚えててよ.....」
「あーっ.....なんかごめん。」
どうやら松原兄妹も一緒らしい。松原さんが流星の腕をガッチリ固めて逃がさないとしている。固められてる腕が若干白くなってるのは気のせいかな.....?
「それで千聖、何するの?」
「何ってこれよ。」
千聖がバッグから丸めた紙を取り出し、バッと僕達の目の前に見せてくる。
『ヴぇ.......』
僕と流星が同時に悲鳴に近い声を上げ、目が合う。.......この広告は、見覚えがある。
花婿花嫁写真募集 花咲川ブライダルショップ
「り、流星.....これって.....」
「うん.....僕達が、お小遣い稼ぎに1回やったやつだ.....」
「ええ、そうでしょう?見覚えが、あるでしょう?」
千聖が顔に広告の紙を押し付けてくる。そしてその千聖の目は当然笑っていない。
「あー、なるほどぉ.....千聖ちゃん、この人選の意味が分かったよ。」
「花音、痛い痛い.....ちょっと、血が止まる。」
思い出したくもない過去.....2、3年前、僕達にはFWFの合宿と、その遠征に向けた、資金集めが必要だった。そして舞い込んで来た、服を着て写真を撮るだけでお金を貰えるバイト。当時高校生だった僕達はあっさり乗ってしまった.....後のことを考えずに。
「ええ、そうよね。兄さん達は、POISON HEARTさんの方々と花婿花嫁として写真撮影に参加したものね。しかも兄さんに限っては、リーダーさんと友希那ちゃんと2回も.....忘れたなんて言わせないわよ。」
「お兄ちゃんが急にお金を貯めたからびっくりしたんだよ.....そしたら、千聖ちゃんからこんな連絡が来たんだよ?」
.......そして、友希那さんが千聖に送り、当時から交流のあった千聖と松原さんが情報の交換を行ったことで、僕と流星だけ酷い目に合った.....
「という訳で、上書きしに行くわよ。そしてこれを私に近づく男に牽制がてら使うの。」
「お兄ちゃんも行くよ。あの写真、なんだかんだ鼻の下伸ばしてたもんね。」
「伸ばしてないってば.....優希、助けてぇ.....」
そして松原さんが流星を力づくで店へと連れていく。
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店内
店員「ダメです。」
「.....理由をお聞きしてもいいですか?」
店員「これ、新婚さんを応援させて頂くための物ですので.....血の繋がった親族同士で撮られても.......そのコンプラ的な問題がですね.....」
「どうして、私たちが血が繋がっていると言えるんですか?」
店員「目の色、そっくりじゃないですか。それに店の前での会話、全部聞こえてましたよ.....」
「うっ.....」
(千聖が押されてる.....珍しいこともあるな。)
店員「確かにこの方々がPOISON HEARTさんと一緒に撮られた時の雑誌の売れ行きはとてつもなく良かったですが.....」
「あの時は.....蒼生と、葵さん目当てで買ってる人が殆どだったよね.....」
「あの2人、喋らなかったら本当に外見完璧なイケメンと美女だもんな.....」
「POISON HEARTさんが、お好きなんですか?」
店員「え、は、はい。あの人たちに憧れてガールズバンドを始めた人も多いですからね.....かく言う私もそうなんですけどね。」
「では.....こちらは、どうですか?」
「そ、それって!!!!」
千聖がバッグから何やら取り出した.....何あれ。
「流星.....何あれ.....」
「.......葵さんがよく持ち歩いてた、ほら。」
「あぁ.....」
千聖が取り出したものがようやく分かった。葵が以前持ち歩いてた、ペンダントの欠片だ。というか、千聖がなんで持ってるんだ.......
「雑誌に載せる必要はありません。1枚撮って、私たちに現像して渡してくだされば.......」
店員「こ、こここれ。触らせてもらえるんですか!?」
「え?」
千聖が想定外の反応に驚く。あの反応の限り、おそらく渡すつもりだったんだろうな.....
「貰ってくれても、構わないんですよ?」
店員「いえいえ貰うだなんて傲慢な.....触らせていただけるだけで、充分です!!!写真、撮りましょう!!!」
「あ、え.....ありがとうございます。」
((買収した.....))
「ではこれは後々触らせてもらうとして.....お嫁様2人を整えて参ります。お二人様はお待ちください。」
そして店員さんはうっきうきで千聖と松原さんを奥へ連れていき、準備を始めた。
「改めて思うけど.....あいつら、凄いんだな.....」
「あのグループ、エリート揃いだもん.....」
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1時間後
店員「どうでしょう!?」
化粧なども終わって、2人がウェディングドレスを着て目の前に立っていた。千聖はサイド三つ編みに、Aラインのドレス。シンプルながらに大人な魅力が漂っている。松原さんは髪型はそのままで、プリンセスラインのドレス。こういうのが初めてだったのか顔がすごく赤い。可愛い。
「兄さん、どうかしら?」
「お兄ちゃん.....どうかな.......?」
「2人とも似合ってるよ。」
「............」
感想を求められ、横を見てみると、流星が硬直している。意識がどこかに飛びかけている。
「流星、おーい。大丈夫?」
「.......大丈夫、じゃない......」
「.......お兄ちゃん。」
感想を言えず、硬直している流星に松原さんが近づいて、左手を両手で掴む。それ、オーバーキルなんじゃ.....
「綺麗.....かな?大丈夫.....だよね?」
「う、うん.....」
「ふぇぇ.....お兄ちゃんが気絶しちゃった。」
この後、流星が起きるまでしばらく待ち、撮影をして店を出た。撮影の間の千聖が凄いノリノリだったのが意外だった。もう少し照れ恥じてくれてもいいんじゃないかな.......
友希那さん.....「最後の夏」なんて感慨深そうに言ってますけど、夏を5回越してるんですが......
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