【自由ノ地平線】Oath of Promise   作:暁月 輝路

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やぁ。
今回から数話は暁月のパートになります。
それでは、今回もよろしくお願いいたします。


第17話「長い時間と道を」

イアがノーネームにやって来た日の翌日の早朝、暁月は集落にもう降りていた。

「─────」

まだまだ薄暗い闇の中の集落の道を黒い外套(がいとう)を纏い、足音が聞こえないように歩いて彷徨う暁月はとても冷ややかで、隙もなく、静かな殺気こそ感じそうな雰囲気を持っていました。

ズリズリ………ガッ ガタン…!

本人が音を出していないので、周囲の音には敏感ですが、その音は少々早朝にしては騒々しい音でした。

そこへ暁月は静かに駆けると、そこはいつも暁月や他のメンバーがお世話になる武具店と鍛冶屋が合わさったお店である『Moss agate(モスアゲート)』でした。

店の前にはこの集落では中々見ない馬車が停まっており、小さな灯りの中で一人の小さな人影が頑張って荷物を持っています。

 

「エスメラルダ」

「ふぇ?…あ、アカツキくん」

馬車の荷車に荷物を積み終わったエスメラルダは弱いランタンの灯りの中に微かに見える暁月に気づきました。

それに対していつものゆっくりとした口調で問いかけます。

「夜の見廻り?」

「ううん、さっき降りてきたばかりだよ。エスメラルダはどこかに行くの?」

「お店の売れ残りを街で売って…そのお金で素材を買い出しに行くんだ…」

「街?」

暁月はこの周辺の土地をよく知っていますが、街がある事は初めて知りました。

「片道3日くらいかな…凄く遠い街だから集落の人もあまり知らないよ」

「片道3日…そんな道を1人で行くの?」

「うん…おじいちゃんはこっちでやる事もあるから、今年は私1人で行くんだ」

小さい体を持ち上げ、荷車に転がり込むエスメラルダ。

そこに暁月は1つ提案します。

「ねぇ、僕も着いて行って良いかな?」

「…え?」

「その街も見てみたいし、何より3日もある道を1人で行くエスメラルダを放っておけないよ」

「そんな…道のりも長いし、途中に村がある訳でもないよ…?それに食料だって、今用意してるのは私一人分しか…」

「別に気にしなくていいよ、食料もそうだけどね。行きと帰りの護衛くらいはさせてよ。いつ何があるか分からないから」

「───…」

エスメラルダは暁月の考えを分からないわけではありません。

1人で女の子が3日の道のりを行く事は、本人とて危ない可能性はあると分かっていますし、エスメラルダは受けた善意に遠慮をしてしまう控えめな性格をしているので、暁月自身に街へ行くという目的はあっても、3日という道のりに付き合わせるのはエスメラルダとしては嫌なのでした。

「エスメラルダ。そこまで気負う事は無いよ。だって僕は皆とは違うから」

その言葉は暁月らしからぬ、自虐と皮肉が混ざった台詞。

普通の人を上回る身体能力と反応速度、体力を持ち、違う見え方、考え方をしている暁月にとって、それは暁月が普通の人間ではないという事を示唆していました。

「─…」

しかし、それはエスメラルダにとっても、集落全員にとっても認めざるを得ない話です。

言葉で語らずとも、文で記さずとも、一見すれば全て分かる話でした。

だからといって見た目はなんら変わらず人なのが、解せない話ですが、運動性能や思考が違えど、暁月の心の優しさは人なのでした。

「──食料も無いし…時間はかかるし…私ともそんなに会話は続かないだろうけど…じゃあ……お願いしてもいい…?」

「エスメラルダが気にしてることは、僕にもよく分かるし、それを気にさせないよ。任せて…!」

暁月は荷車に乗りこみます。

荷台には鞘に収まった少量の剣や槍の入った樽とナイフの入った木箱、そしてエスメラルダの食料や毛布が詰め込まれていました。

「ごめんね…荷物が多かったり、荷車が大きいと馬も疲れちゃうし…速度もあまりでないから、小さい荷車なんだ…元々私一人が寝転がれればいい空間だから…」

エスメラルダの言う通り、余裕はほとんどありませんでした。

体が小さいエスメラルダなら足を伸ばし寝転ぶことが出来ますが、暁月の場合、足を曲げないと空間に納まらず、非常に窮屈です。

「これくらいあれば座れるし、大丈夫だよ」

「うん…」

暁月は荷車の前方に寄って座り、エスメラルダは荷車の先頭の席で馬の手綱を握ります。

周りはまだ薄暗く、荷車の弱い灯りがゆっくりと進み始めました。

 

 

 

あと3時間程で夜勤が終わるアッシュは東の集落の入口で眠気と戦っていました。

警備は疎かではありますが、居るだけでも意味はあります。

他の仲間が共に夜勤を乗り越えようと、言葉を掛け合います。

「アッシュ、あと少ししたら陽が出てくる。目を閉じる時間が長くなってるぞ、目を開けておけ…」

少し歳上であるアッシュの先輩も眠気に襲われ、弱々しく覇気のない声で、アッシュを励まします。

15歳で衛兵をしているアッシュには夜ずっと起きているというのは中々に辛いものでした。

「─はい」

休息こそ取ってはいますが、それでもその間は起きていなければならない為、アッシュや他の夜勤の衛兵達は瞼が重くなっているのです。

 

 

あと2時間。

陽はまだ現れていませんが、空は少し明るみを帯びていました。

先輩はアッシュの位置を離れ、他の衛兵のもとへ。

アッシュの頭はスパーク起こし、目は白目を剥き、力が抜けて膝が曲がり上体が落ち、それに目を覚ましても数秒でまた同じ眠りの世界へ堕ちて行きます。

眠気と意識が限界まで襲ってきていました。

「────」

夢の世界に沈む寸前のアッシュに何か語りかける人がいました。

しかし、アッシュは起きません。

そんな状態のアッシュに誰かが触れました。

それに反応するように飛んでいた意識は帰ってきて、頭の回転こそ追いついていませんが、本能的に素早く距離を取ります。

そこにはエスメラルダが立ち、後方には暁月が立って居り、なぜこの時間帯に2人がいるのか、考え始めました。

 

 

2人をボーッと眺めるアッシュにエスメラルダが話しかけます。

「私達…街に行ってくるからね…」

「………あぁ」

それを本当に理解してるのか、曖昧な返事でした。

そこへ暁月がアッシュの手に握って、手に何かを握らせます。

「──!?」

再度触れられた事で脳は起き、ボヤけていた2人の姿と景色をハッキリ捉えました。

「な なんだ…!」

「アッシュ、この手紙を上の山の家に届けてくれないかな?寝て元気になってからでいいんだ。僕も街に行ってくるよ」

舌打ちをして、その要件に答えます。

「街には勝手に行ってこい。だからって、なんで俺に手紙を渡すんだよ」

「アッシュがここに居たのと、信頼してるからだよ。他に理由がいるかい?」

「──」

普通なら、暁月の脚ならばすぐに山まで走って戻れますが、行く方向が違いますし、それに行く方向が違っても時間が朝や昼であれば誰かに頼むでしょう。

しかし、まだ早朝でこの時間に起きているといえば、夜勤をしてる衛兵しか居ません。

アッシュは暁月に手渡された手紙を持って、固まったまま馬車に乗って走っていく2人の姿を見つめていました。

「信頼?ふざけるな……俺は…お前のことが嫌いなんだぞ」

手紙を腰のポーチに乱雑に入れ、残りの夜勤の時間をひたすら暁月へのイライラを重ねる事で起き続けました。

アッシュにとっては逆に話しかけられ好都合でした。

暁月に話しかけられた事で、残りの時間を起きる事が出来たのですから。

 

 

 

「灯りはそんなに明るくないけど…見える?」

「うん…でも日が出てる間に進むから灯りは別にこれでいいんだ…」

集落を抜け、すぐそこには森があります。

その中には草に隠れたちゃんとした道があり、その道を長い時間かけて進むことで街へ辿り着きます。

「それに、暗いところで何かを見るのは慣れてるし…」

「それはジェイドさんのお手伝いしてるから?」

「─そう…」

暗い森の中の道を行き、揺れる馬車。

しかしエスメラルダはそれとは違い、ビクッと何かに反応して強ばっていました。

灯りの届かない少し離れた草むらが、"ガサガサッ"と揺れ、何かが周りにいるかのように思わせます。

すると、暁月がエスメラルダの背中に手を優しく置きます。

「エスメラルダ、怖がらなくていいよ。僕が居る。襲われる前に守るから」

その言葉を聞いて、ハッとしたのか。

「うん…ありがとう。アカツキくん…」

エスメラルダは微笑んで、暁月のその言葉を心の中で何度も何度も反芻します。

控えめな性格とはいえ、彼女も女の子です。

想いを寄せる男の子に『守る』と言われれば、嬉しいのは当然であり必然でした。

そして、背中に触れる暁月の優しくも力強い手はとてもエスメラルダを安心させます。

彼女は暁月に、この手に、実際何度も救われていたのでした。

 

夜明けを迎え、暗い森の中に転々と木漏れ日が差し込み、辺りが見え始めました。

「やっと日が出てきたね!」

「うん、ここからお昼までに湖のある所まで行って、休憩するよ…アカツキくん、灯り消してくれる?」

「わかった!」

暁月はぶら下がっていたランタンのスイッチを消します。

そしてふと消した時に気付きました。

「エスメラルダ、このランタン…電気だよね?」

「デンキ…?分からないけれど…それは街で買ったんだ。凄いよね…火をつけなくても明るく灯るんだから…」

街で買ったと言われるランタンは、集落にはない電気を使っていました。

集落では火を明かりの元としていますし、お湯や料理をするにしても火を使います。

故に、集落と街では文明がズレており、建物や服、技術や法律等も違う在り方の可能性が大いにありました。

集落とは違う、新しく発展した場所というのは暁月にとっては興味津々でした。

「楽しみだな~、街」

「うん、私も楽しみだよ…また発展してるのかな…」

 

 

森を通り過ぎて、長い道を馬車で乗り行く二人。

朝の風が起き、そよ風は彼等の頬を撫で、過ぎ去って行きます。

自然は彼らを気に入っていました。

風は彼等の移動を、言葉を、妨げずに柔らかに送り、森は木の葉を揺らし、『行ってらっしゃい』とでも囁くように、"ガサガサッ"っと葉を枝を擦り合わせた音を何重にも立てて森全体で2人を送り出していきます。

 




お疲れ様です。
ちょっと1日にぶわーっと書いた訳じゃなく、少しずつ少しずつ書いてので少々話の流れが早い場面もありましたが、とりあえず17話も終了です。
次話もお待ちください。
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