閃空の戦天使と鉄血の闊歩者と三位一体の守護者 作:ガイア・ティアマート
*トラック島離島鎮守府 虹見島 りんご村*
季節は廻り、秋になっていた。
秋は多くの作物が収穫の時期を迎える。
台船操縦免許を見事取得した一夏もその収穫作業を精力的に手伝っていた。
おかげで作業は捗り、予定より早くに本日の収穫作業は終了、りんご村で皆と共にしばしの休息をしていた。
【視点:一夏】
エンタープライズ「しかしまぁ、君は本当に努力家だな。この間ロングアイランドが言ってたぞ。シミュレータールームで戦闘機の操縦訓練まで頑張っているって。」
吹雪(艦これ)「台船の次は戦闘機・・・一夏さんはなんでそこまで色々なことをやりたがるんですか?」
一夏「俺の姉さんは人類最強と言われるほどに凄い人なんだよ。生活能力は壊滅的だけど・・・。おまけに俺がいた世界は男性の立場が殆どなくてね・・・、よく比較されてはあれやこれやといじめやらなんやらされてね・・・。」
吹雪(艦これ)「あ、ごめんなさい・・・嫌なことを思い出させてしまいましたか?」
一夏「そこまで気にしてはいないさ。そんなことするのは女性の中でもごく一部だったし、図らずも女尊男卑の原因を作ってしまった束さんもこうなってしまったのを酷く悔やんでいたし・・・。」
脳裏に自ら命を絶ちかねないほどに苦しみ思いつめていた束さんの姿がよぎった。
ダンケルク「止しましょう!そういう暗い話は!」
向こうの世界に碌な思い出が無いせいで身の上話はどんな話題でも地雷になってしまうと思ったのか、はたまたそういう空気に耐えられなかったのかダンケルクさんは話題を変えようとした。
ダンケルク「そういえば、貴方のお姉さんは生活能力が壊滅的だとさっき言いましたけど、具体的にはどういうレベルなのですか?」
恐らく興味半分、他の話題が思いつかなかった半分だろうが、これに関しては別段言ってはばかるようなことだとは思っていないので答えた。
一夏「あー、千冬姉はね・・・例えば料理しようとしたら何故か包丁がすっぽ抜けて壁や天井にぶっ刺さるんだよ・・・。」
エンタープライズ「・・・へ?」
一夏「掃除機使わせたら壁や家具にすごい勢いでアタックを繰り返して壁や家具は傷だらけになるし・・・。」
駆逐棲姫「・・・はい?」
一夏「洗濯機使わせたら洗剤も柔軟剤も丸々一本を一回で使い切るせいで服も洗濯機もエライことに・・・。」
ダンケルク「うわぁ・・・。」
吹雪(艦これ)「・・・それって、不器用とかそういう問題じゃないですよね?」
駆逐棲姫「それって寧ろ、加減が解っていないという雰囲気が・・・。」
一夏「それもあると思うけど、それだけじゃないと思う。」
エンタープライズ「お・・・おう・・・。」
正直な話、こんなの序の口だ。電子レンジで卵を温めようとして卵が爆発するとかそういうありきたりな失敗なんてとっくにフルコンプ済だ。
いつぞやは何を失敗したのかカレーという余程酷い失敗をしなければ最低限形になるしろものを調理中になぜか台所で爆発事故を起こすという斜め上の要らないミラクルを起こしたこともあった程だ。
あまりの酷さに束さんに「ちーちゃんはもう家事全般やっちゃだめだよ。」と怒られるほどだ。
今でも何をどうしたらカレーを作る過程で台所で爆発が発生するのか解っていない。別にガス漏れとかしていたわけではないのに爆発したのだから原因が解らなかったのだ。
エンタープライズ「・・・こういうことを言うのは失礼かもしれないが、そんなことで君のお姉さんはこの先結婚できるのか?いやそれ以前に、今大丈夫なのか?」
一夏「結婚はどうだろうなぁ・・・ただでさえ高嶺の花みたいな存在だから女尊男卑を差し引いてもあんまり寄り付く人いなさそうだし、仮にできたとしてもなぁ・・・。」
「天は二物を与えず」とは言うが、もうちょっとこう手心というものは無かったのだろうか天よ・・・。
一応マドカと箒がいるから今のところは大丈夫だとは思うが・・・。
-因みに、このころマドカは束と一緒に行動しており、千冬の世話はほぼほぼ箒が担当していたことを補足しておこう。-
-それでも大荒れ状態の千冬の生活は箒一人では補いきれないレベルに達しており、千冬は現在進行形で不摂生を積み重ねていることも追記する。-
*その問題の千冬なのだが・・・*
【視点:箒】
千冬「一夏ぁ・・・一夏ぁ・・・どこにいるんだお前はぁ・・・。」
箒「千冬さん・・・気持ちはわかりますけど部屋片づけますから一度出てください・・・。」
腐海の如くどっ散らかった部屋の中のベッドの上で千冬さんは涙目で抱き枕を抱きしめながらゴロゴロと転がっていた。
見るに堪えない千冬さんの惨状は何度見ても慣れない。見るたびに自分自身の胸も締め付けられるように苦しくなる。
千冬「うぅ・・・一夏ぁ・・・。マドカも早く帰ってきてくれぇ・・・私を一人にしないでくれぇ・・・。」
両親に先立たれたうえに、一夏は生死不明となりマドカも出奔。余程ショックが大きかったのだろう。
自分はまだ両親が存命中だし、姉さんも死んだわけではない。
連絡は全くないが、家族に危害が加えられるようなリスクを背負わせないためにも敢えて連絡を寄越してこないのだろう。ただ・・・。
箒「私でさえもこんなに辛いのに、姉さんはどう思っているのだろう・・・。」
姉さんたちの発明が結果的に女尊男卑という今の風潮を作ってしまった事を決して乗り越えられたわけではない姉さんだ。
あの酷く憔悴した姿を未だに覚えている以上、どこかで完全に壊れて死に急いでしまうのではないかと内心気が気ではない。
先日のドイツの非合法研究施設の一件のニュースを見る限りでは少なくとも今は大丈夫そうだが、何時か擦り切れてしまうのではないかと、つい想像してしまう。
箒(一夏・・・早く帰ってきてよ・・・。私もそうだけど、姉さんも千冬さんもそろそろ限界かもしれないの・・・。)
私はそのまま蹲り、一人ですすり泣いた。
胸元に風穴を穿たれたかのような喪失感は、薄れるどころか日を追うごとに自己主張を少しずつ、しかし確実に強くしながら私たちを追い詰め苦しめ続けていた。
*一方そのころ束はといえば・・・*
【視点:マドカ】
束「げほっ!げほっ!!」
マドカ「束お姉ちゃん・・・。」
ベッドの上で束お姉ちゃんは激しくせき込み、時々血の絡んだ痰を吐いたりしていた。
鈴音「はい、お粥が出来上がったよ。」
鈴お姉ちゃんが完成したお粥を持ってきて、束お姉ちゃんはそれをゆっくりと食べている。
「細胞レベルでチート」とか「人類最強クラス」とか謳われた束お姉ちゃんが病に倒れるなんて、「病は気から」とはよく言ったものだと思う。
あの日報復を始めた日から殆ど休みなしで戦いつづけた束お姉ちゃんはとうとう無理が祟って体調を大きく崩してしまった。
最初は風邪のようだったけど、治るどころか日に日に症状が悪化して、今では束お姉ちゃんは一日の大半をベッドの上で過ごさなければならないほどに弱り果てていた。
アンお姉ちゃんも精神安定剤を服用しなければ夜眠れない程に弱っているし、今は普通に振る舞っている鈴お姉ちゃんも毎晩ベッドの中ですすり泣いている。
スコール「ただいま。頼まれていた食材と薬、買ってきたよ。」
マドカ「あ、うん。ありがとうスコールさん。」
買い出しに出ていたスコールさん、オータムさん、そしてアンお姉ちゃんが帰ってきた。
オータム「今日も今日とて辛気くせぇな・・・。まぁ仕方ねぇってのは解るし、空元気で無理やり明るくするのも辛いってのも解ってるけどよぉ・・・。」
アン「本当、私達って一夏がいないだけでこんなにも壊れちゃうんだなって・・・。」
クロエ「皆様にとって、一夏さんは本当に大切な人だったんですね。」
車いすに乗ったクロエさんが資料を持ってきた。
クロエさんはこの間のドイツの非合法研究施設から救出した「被検体」の中でも特に重症だった人だ。
束お姉ちゃんがISの技術を応用して機能停止寸前だった体の一部機能をISで代用することで辛うじて命を繋いだくらいだ。
まだ体力がまだ戻り切っていないらしく車いす生活を続けている。
・・・因みに他の子たちは皆束お姉ちゃんが秘密裏に作った孤児院で元気に暮らしている。
マドカ(お兄ちゃん・・・どこに行っちゃったの・・・?)
未だ消息不明のお兄ちゃんの事を想い、私も思わず涙を流していた・・・。
*数日後のトラック島離島鎮守府に視点を戻して・・・*
【視点:一夏】
平和な日々が続くかといえば答えはNoだ。
この世界だって争いは抱えている。
今でこそ安定しているが、それでも争いがないわけではない。
セイレーン
数年前から突如現れた謎の勢力で、まるで人類を試すかのように振る舞いつつ人類と敵対する謎の存在だ。
ルウさん曰く「彼女らの目的は不明だが、少なくとも人類を滅ぼすという意図はないことだけは確実だ。」とのことだ。
その振る舞いは人類を嘲笑うというより、まるでワザと挑発しているようだという。
まるで強大な敵として立ちはだかることで人類に新たなる可能性の分化を促そうとしているようだと。
現在の状況を説明すると、近海を航行中のユニオンの艦隊がセイレーンの大規模艦隊と遭遇戦になったという。
しかし中途半端に距離があるせいで艦娘の航行速度ではとても間に合わず、基地の航空部隊で急行対処しなければならないとのことだ。
俺はPDA越しにルウさんに直談判していた。
一夏「ルウさん!俺にも出撃させてください!」
ルウ『ダメよ!貴方はあくまで客人、命がけの戦いに連れて行くなんてできないよ!』
当然却下されるが、俺はなおも食い下がる。
一夏「シミュレーターでの訓練は充分積みましたし、空母の皆さん監修のもと実戦訓練も受けさせてもらいました!それに、今この基地の航空隊は殆どが別の任務で出払っていてパイロットが殆どいないんですよね!」
ルウ『だけど・・・!』
ちょうど別の鎮守府の新人航空隊員の訓練飛行と周辺警備に人員が割かれている上に、通常の警邏飛行が重なってしまい、今救援に出撃できるパイロットが1部隊しかいないのだ。
仮に警邏飛行に出ている部隊をすぐに呼び戻したとしても再出撃のためには補給と応急整備、換装と時間がかかる。
なお、訓練飛行に関しては本来は別の鎮守府の航空隊が担当する予定だったのだがトラブルが発生したために急遽こちらの鎮守府が代理で部隊を派遣したらしい。
エンタープライズ『提督、彼の勝ちですよ。人手が必要なことに変わりはないし、彼の実力は私たちが保証しますよ。』
ルウ『むぅ・・・そういわれてしまうとなぁ・・・。仕方がない!地下六階のF-6通路に向かいなさい!その先にある「ヴァーンツベック」という高速リニアモノレールで天見島まで行ける!』
一夏「了解!!」
俺はそのまま階段を地下六階まで駆け下り、通路の先にある乗り物に乗り込み天見島へと急いだ。
・・・
・・・・・・
天見島にたどり着き、整備員のおじさんに言われた通り格納庫に入ると、そこには何機かの戦闘機が駐機してあった。
そばの段ボール箱にはパイロットスーツが入れられており、さっきの問答のあと大急ぎで準備されたような印象があった。
整備員「その機体は「VF-172 ナイトメアダブルプラス」という可変戦闘機だ!一応初心者にも扱いやすい素直な性能な奴を用意した!壊してもいいから生きて帰って来いよ!!」
一夏「解ってます!!」
おじさんの激励に返事をした後、俺はパイロットスーツを着込んでコックピットに滑り込んだ。
一夏「訓練は積んだ・・・やってできないことじゃない・・・。武装はなにがある・・・?」
機体が載せられたトレーのような台座によって発進位置へと運ばれていく中、俺は機体の武装を確認した。
一夏「大型レーザーガンポッドに腕部ビームキャノン・・・口径が違う二種類のビームバルカンに、後はマイクロハイマニューバミサイルか・・・。格闘武器はビームサーベルと・・・ピンポイントバリアパンチ?」
防御システムにも目を通すと、VTPS装甲という機体エネルギーを消費して実弾を遮断する特殊装甲とピンポイントバリアというバリアフィールドを纏うことでダメージを肩代わりさせる、ISの絶対防御のようなシステムが備わっていることが記載されていた。
一夏「フラップ・・・スラット・・・エルロン・・・ラダー・・・エレベーター・・・。」
残った時間で俺は機体の動作確認のチェックリスト、続いて離陸用チェックリストを順番に確認していく。
管制官『滑走路解放!発進準備が完了した機体から順次離陸申請願います!』
ルウ『一夏さん!発進後は私の機体とエレメントを組んでもらいますよ!赤地に黒のラインが入った4発機だからすぐにわかるはずよ!それと、暫定でいいからコールサインを決めておきなさい!紛らわしいものじゃなければなんでもいい!戦闘中はみんなコールサインで呼び合うから忘れないように!!』
一夏「解りました!!」
管制官『進路クリア!叢雲機、発進願います!!』
ルウ『総員遅れないように!ついてこれなければ置いていくよ!!VF-X-28レギルスバルキリー、叢雲ルウ、ルシファー、出撃する!!』
次々と発進していく機体を見送りつつ、自分の番が回ってくるのを静かに待った。
管制官『進路クリア!織斑機、発進願います!!無事に帰ってきてくださいね!』
俺は深呼吸をして、そして答えた。
一夏「了解!VF-172ナイトメアダブルプラス、織斑一夏、ホワイトクェーサー、行きます!!」
エンタープライズ:ユニオンの空母。
第二世代艦娘の中ではトップクラスの艦載機運用技術を有する。
原作では食事をレーションで済ませるなど食に関してあまりにも無頓着だったが、この鎮守府のエンタープライズは農作業をすることもあってか普通に料理を食べる。
吹雪(艦これ):特型駆逐艦の長女。
第二世代の吹雪が子供っぽいために事実上第二世代の特型駆逐艦の姉でもある。
また、特I型駆逐艦の設計図を元にしてツバキ級防空駆逐艦が設計されたのでツバキ級にとっての姉ともいえる。
駆逐棲姫:姫クラスの深海棲艦で春雨の双子の姉。
ダンケルク:アイリス・ヴィシアの正面番長式戦艦。
アイリス・ヴィシアの参謀的な立ち位置だが、甘いもの好きでどちらかというとお姉さん的な立ち位置が似合う性格。
クロエ・クロニクル:前話の最後のニュースで報道された襲撃の折に束が救出した被検体の中でも特に重体だった少女。
滅茶苦茶な実験と改造の弊害で多臓器不全を起こしかかっていたため体の機能の一部をISで代用することで当座を凌いだ。
回復しつつあるが、束が倒れてしまったために次の手術が出来なくなっている。