閃空の戦天使と鉄血の闊歩者と三位一体の守護者 作:ガイア・ティアマート
この世界の過去、第二次世界大戦時の情報が登場します。
今日は特に何もすることがない。
収穫もひと段落ついたし、シミュレーターも定期メンテナンスで今日は使えない。
この間発売された小説の第二巻もついさっき読み終えてしまったし、かといって二度寝するほど疲れているわけでもない。
一夏「こういう日は、ぶらぶらと散歩するに限る。」
俺は部屋を出て、特に目的地も決めずに気ままに歩き出した。
・・・
???「(ゴクッゴクッ)ふぅ・・・。あら?今日はお散歩かしらぁ?」
一夏「ああ、特にやることが無くてね。」
???「ふぅん。まぁ、私も今日は非番だから何もやることがないのよね。」
そういいながら眼前の背中から黒い翼を生やした長い銀髪の少女は空になった牛乳瓶をゴミ箱に放り込んだ。
彼女は鉄血所属のUボート「U-3008」だ。
彼女の服は他のUボートたちとは違いどちらかというとゴシックドレスに近いデザインだ。
潜水艦にしては動きづらい服装だが、彼女を侮ってはいけない。
彼女の元となったUボートは大戦時にはノルマンディーに艦砲射撃をしていた米英連合艦隊を戦艦のネルソン級とネバダ級を含めて単独でほぼ壊滅させた(駆逐艦と重巡洋艦が一隻ずつ生き残った)実績がある『黒翼の魔女』の異名を持つ狼なのだ。
U-3008「あーあ、流石につまんないわね。862や183でも誘って海上レースでもやろうかしら?」
一夏「あー、今日はロイヤルの戦艦たちが海上訓練しているから止めてあげて・・・。」
U-3008の話に出てきたU-862とU-183だが、彼女らも鉄血が誇る狼だ。彼女らの場合はどちらもクイーンエリザベス級戦艦の、それぞれウォースパイト、ヴァリアントを沈めた経歴を持つ。
そんなロイヤル戦艦スレイヤー達がもし海上訓練中のロイヤル戦艦たちの視界内に入りでもしたら戦艦たちがかわいそうだ。
この間ユニオンの潜水艦「アルバコア」のアンブッシュで重桜の装甲空母「大鳳」が卒倒したのを見たのもあり、艦船時代のトラウマが蘇って気絶でもしかねないと考えたのだ。
だが、そもそもそれを言うべきではなかったと即座に気づいて頭を抱えた・・・。
このU-3008、そういう面白そうなことが眼前にぶら下がっていて飛びつかないはずがないのだ。
U-3008「ふぅん。そりゃ尚の事やらないわけにはいかないわねぇ?」
一夏「勘弁してあげてください!」
U-3008「やーよ。そんな面白そうな事を見逃すわけないじゃない。」
一夏「そこを曲げて、どうか勘弁してあげて!」
U-3008「やーよ。」
U-3008の表情は既に獲物を視界にとらえ、どう喰らってくれようかと思案する狼のそれと化していた。こうなってしまっては指揮官でさえ止めるのは簡単ではない。現実とは非情である・・・。
恍惚とした表情で襲撃のために去っていくU-3008を力なく見送った俺は、せめて危険を伝えようとPDAで連絡をした。
ウォースパイトのエクスカリバー『あら?どうしたの?これから訓練なんだけど。』
一夏「あまり時間が無いから本題だけ話すね。そっちにU-3008が行くと思うから今のうちに逃げて。」
エクスカリバー『U-3008?ん?どうしたのかしらネルソン?そんなに震えて?』
ネルソン『・・・あいつが・・・なんだって・・・?』
エクスカリバー『なんでもそいつがここに来るかもしれないって・・・。』
ネルソン『す、すまないエクスカリバー・・・今日は逃げさせてもらっていいだろうか・・・。』
エクスカリバー『???』
一夏「あー、えっと、もしかしたらU-862とU-183も行くかもしれないからすぐ逃げて・・・。」
エクスカリバー『たぬっ!?・・・な・・・何ですって・・・?』
どうやらこれで解ったらしい。一説では鉄血(当時ドイツ)の狼たちが暴虐の限りを尽くしたために当時のロイヤル(当時イギリス)首相は頭髪どころか尻の毛まで一本残さず毟り取られたとか・・・。
実はこの世界の第二次世界大戦は俺の世界のそれとは違う道筋をたどっており、最終的に連合国と枢軸国は両者痛み分けという形で講和となったのだ。
特に鉄血のUボートたちが暴虐の限りを尽くしたのと、重桜(当時日本)の質で勝負した艦隊が量で勝るユニオン(当時アメリカ)艦隊を圧倒したために連合国は結局枢軸国を攻めきれず人的資源が欠乏して戦争を続けられなくなってしまったらしい。
それは枢軸国側も似たり寄ったりで、お互いに決定打を欠いたために連合国側から「もうここで手打ちにしないか?」と言われ、枢軸国側もそれを断る理由が特に無かったため講和が成立したとのことだ。
特にユニオンは重桜の事を開戦前は見下していた節があったが、まるで攻め切れないどころか寧ろ量で勝るはずなのに押し返されていたこともあって今でも重桜には一目置いているらしい。
ロドニー『あ・・・来たみたいです・・・。U-3008、U-862、U-183を確認・・・!』
ネルソン『アイエェェェェェェッ!?!?オオカミ!?オオカミナンデ!?!?』
U-3008『見つけたわよぉ!!!さぁ追いかけっこをはじめましょお!!』
戦艦たち『嫌だぁ!!!!!!!!!!』
一夏「ああ・・・R.I.P.・・・。」
現実は非情なり・・・。こうなってしまったのは俺のせいでもあるわけだし、俺も担当する今日の夕食では詫び入れとして彼女たちの分は一品二品は足しておこう・・・。
・・・
・・・・・・
昼になっても若干肌寒く感じる秋の後半の昼過ぎ。
そろそろ食堂で昼食でも取ろうかと思っていた俺はある人物に呼び止められた。
???「おーい織斑!探したぞ!」
一夏「あれ?デシルさん、何かあったんですか?」
デシル「いやな、お前が前使ったナイトメアダブルプラスの事でちょっとな。」
この人はデシル・ガレット。
この鎮守府の整備班長を務める人だ。気難しい所があって、仕事の邪魔をされるのをとても嫌うけど、その分仕事には全身全霊であたる所謂職人気質な人だ。
なお、彼は自分の事を「魔中年」と自称している。昔は思い出すだけで恥ずかしくなるほどに手が付けられないほどの悪ガキだったらしく、その若さゆえの過ちに対する戒めとして自ら「魔中年」と名乗っているとのことだ。
・・・自分のツナギの背中にデカデカと「魔中年」と書き込んでいるほどの徹底ぶりだ・・・。
デシル「あの機体だけどな、正式にお前の物にすることが決まったよ。」
一夏「・・・え?」
デシル「あの機体のAIがお前の事を主と認めたんだよ。調整やらなんやらが多くて向こうに持っていくのはお前が帰る予定日には間に合わねぇと思うが、まぁ俺たち整備班からの贈り物とでも思って受け取ってくれ。あーでも向こうでの置き場がねぇか・・・。」
デシルさんが頭をかきながら思案しているのを見ながら俺は苦笑いをした。
確かに贈り物を貰うのは有難い話だが、あんな大きなものをどこに置けばいいのだろうか?まぁ、束さんに相談すれば置き場の一つや二つはどうにかしてくれるとは思うけど。
つっかえすのは失礼だし、置き場所については追々考えることにしよう。最悪俺が大人になって航空自衛隊員にでもなったときまで預かっていてもらえばいい。
デシル「あ、すまん。もしかしたら飯前だったか?悪いな引き止めた挙句一人で勝手に盛り上がっちまって。」
一夏「大丈夫ですよ。そこまで急ぎじゃないですし。」
・・・
・・・・・・
そのあとデシルさんと雑談しながら昼食をとった。
デシルさんは次の仕事のために天見島に戻っていったけど、入れ違いでロングアイランドがやってきた。
ロングアイランド「一夏くん、この後暇?」
一夏「ああ、特に用事が無くて適当に時間潰してたんだ。」
ロングアイランド「だったら麻雀に付き合ってよ~。提督さんを誘ったんだけど、「ルールが解らないから出来ない」って断られちゃった。」
一夏「(麻雀か・・・鈴と何度かやったことあるからルールは覚えているな・・・)別に構わないけど、他に誰がやるんだ?」
ロングアイランド「えーと、エンタープライズさんとレパルスさんだね。」
一夏「レパルスさんは兎も角、エンタープライズさんもやるんだ・・・。」
ロングアイランド「やることないから暇つぶしに付き合ってくれるんだって。」
やっぱしココのエンタープライズさんは付き合いがいい。過去にユニオン本部所属のエンタープライズさんとあったことがあるけど、あちらはどこか危うげなところがあった。
どこか気負い過ぎているというか、方向性は違うけど昔の束さんにどこか通じるところを感じた。何事のなければいいけど・・・。
・・・
で、麻雀をしたのだけれど、結局途中でレパルスさんが姉のレナウンさんに連行されたために勝負はお流れとなった。
まぁそれ以上に、エンタープライズさんはかなりの乱調だったらしく、結構負けが込んでいた。その一例が・・・。
・・・
エンタープライズ「う~む・・・とりあえずこれを捨てるか・・・。」
パチン!
一夏「あ、ごめんなさい。それです。」
ロングアイランド「幽霊さんもそれだよ~。」
『UnLuckyE』
エンタープライズ「あわ・・・あわ・・・あわわわわ・・・。」
・・・
エンタープライズ「く・・・まさか大負けするとは・・・ここは守らねば・・・!」
レパルス「あ、私ツモっちゃった。」
『UnLuckyE』
エンタープライズ「あわ・・・あわ・・・あわわわわ・・・。」
一夏「エンタープライズさん!戻ってきて!!」
・・・
とまぁ、幸運艦と言えどもついてない時はあるのだから仕方がないけど、ここまで運がないのはかわいそうだった・・・。まぁ当人はそれなりに楽しんでいたけど。
さて、まだ夕食まで時間があるからせっかくだからあそこに行こう・・・。
・・・
*国見島東埠頭*
ここは虹見島や天見島とを結ぶ連絡船が使う埠頭だが、ここからなら未来見島が良く見えるのだ。
四島の中で唯一立ち入りが禁止されている未来見島だが、どうやらあの島には大戦時の攻撃などで死亡したこの島々の住民たちの亡霊が今でも漂っているらしい。
立ち入り禁止にしているのは物見遊山気分で人が入ってくることが多かったためで、加えて大戦時からあまり人の手が入っておらず危険であるためらしい。
なお、それ以外にも色々と空間が歪んでいるために長居すると何が起こるかわからないという理由もあるとのことだ。過去に不法侵入した若者数名が神隠しに遭い今もなお行方不明なのだという。
俺があの島に流れ着いたのはその不安定な空間が引き寄せたのか、或いは霊たちの思念が死にかけていた俺をこちらに導いたのか・・・。
一夏「まぁ、そんなことはどうでもいいか・・・。」
現に俺は瀕死の重症こそ負ったが生き延びた。理由が何であれ、俺は今こうして生きている。今はそれだけで充分だ。
俺は恐らく見たこともない霊たちに感謝の念を込めて手を合わせ、そして夕食準備のために食堂へと向かった。
・・・
*食堂*
夕食を楽しみつつ俺は食堂に設置されている大型テレビで放送されている番組を鑑賞していた。
今回の番組はどこかの鎮守府や母港の艦娘達を対象にした格付けクイズ番組だったのだが・・・。
司会のHさん『こいつらホンマにええもん食ってへんなぁ!!』
なんと最終問題を迎える前に全チームの艦娘達が全問不正解で『映す価値無し』になってしまった。
一夏「これは酷い・・・。」
U-3008「1チームが全問不正解ってのは何度か見たことあるけど、これは無いわぁ・・・二重の意味で。」
デシル「これは当分語り草になっちまうなぁ・・・。ていうかこれじゃ番組成立しねぇぞ・・・。」
エクスカリバー「でもこれでも放送しているのよね・・・。」
一夏「画としては面白いからネタとして放送したのかもな・・・番組成立しないけど・・・。」
司会のHさんが凄い苦笑いで悪態をついているのを眺めながら俺たちも苦笑いを浮かべた。
登場人物
U-3008:Uボート型艦娘だが、史実艦ではなくゲーム「サイレントハンターシリーズ」のニコニコ潜水戦隊が原典。
水銀灯艦長が操る紫色のド派手な痛潜水艦「U-3008」がモチーフであり、その影響もあって外見は水銀灯とよく似ている。
面白そうな事が眼前に現れると飛びつかずにはいられない性格。
U-862:隻眼艦長が操る潜水艦「U-862」がモチーフであり、その影響か常に眼帯をつけている。
U-183:餓狼艦長が操る潜水艦「U-183」がモチーフであり、ギリギリまで寝ている等肝が据わっているところがある一方、獲物を前にすれば一切の手心無く喰らいつくす獰猛さを併せ持つ。
彼女が仕留めたQE級戦艦の四番艦「ヴァリアント」は史実ではドックでの事故で横転していたのだがこの世界ではその前に彼女の餌食となった。
ウォースパイト(エクスカリバー):QE級戦艦の改造艦。主砲が新型の物に換装されており、対艦砲弾と対空砲弾を撃ち分けることができる。カンレキでU-862に沈められた過去がある。
ネルソン:ネルソン級戦艦のネームドシップ。カンレキでネバダらと共にノルマンディーへの艦砲射撃中にU-3008の襲撃を受けて自分含めて艦隊が壊滅させられてしまった過去がある。
ロドニー:完全にとばっちりを被ったネルソン級戦艦。だが、彼女もカンレキではネルソンの5年ほど前にシグルーン艦長が操るU-13によって撃沈の憂き目を見ており、史実ではビッグ7の中でも大きな武勲を立てたにもかかわらず、この世界線では碌な戦果を挙げる間もなくあっさりと退場させられてしまっており潜水艦、特にUボートに対してはトラウマに近い恐怖を抱いている。
デシル・ガレット:ガンダムAGEで登場した魔中年の平行世界の同一人物でトラック島離島鎮守府の整備班長。
昔は手が付けられないレベルの悪ガキだったのだが、今ではかなり大人しくなっている。が、仕事の邪魔をされるのを酷く嫌い、酷い場合は邪魔者を叩きのめすこともある。
ロングアイランド:有名な幽霊さん。ぼんやりした雰囲気を漂わせているがやるときはやる。
レパルス:遊び人なレナウン級戦艦。複数人必要なゲームをするときなどに数合わせで呼ばれることが多い。