(※致命的なネタバレ注意) Forgotten world(HELLO WORLD二次創作) 作:従弟
・初デート
2027年7月3日、宇治川花火大会当日。
堅書直実と一行瑠璃は、初めてのデートで、この宇治川を訪れていた。
付き合い始めてから、二人で何度も検討した末に選ばれたデートプランだった。
二人とも、こういったものには疎かったが、三鈴がサポートしてくれた。
直実と瑠璃が交際を始めたことは、公にはしていない。
二人とも交友関係が広い方ではないし、言って回るようなことでもないと思ったからだ。
ただ、三鈴にだけは、二人が恋人となったことを報告した。
瑠璃の数少ない友人であるし、直実も、栞の件などで三鈴にフォローしてもらった恩を感じていた。
三鈴は、二人のことを祝福し、大いに喜んでくれた。
デートに関しても、色々な雑誌を紹介してくれたり。
いくつか話題のデートスポットを紹介してくれたりした。
押し付けることはなく、あくまで、選択肢の提案だ。
「今度、宇治川で花火大会があるんだって、きっと綺麗だよ」
そう言って、チラシを渡してくれたのも三鈴だった。
駅で待ち合わせをして、宇治川へと向かった。
駅の構内から浴衣姿の瑠璃が出てきた時、直実は心臓が止まるかと思った。
緊張しすぎて、すぐに。
「じゃあ、行きましょうか」
と言って、会場へ向かってしまった。
上手く話すことができない。
言葉は出てくる。瑠璃もうなずいてくれる。
けれど、舞い上がって上滑りしているのが、分かるのだ。
人込みに沿って移動していると、花火が上がった。
「わあ、綺麗ですね。一行さん」
「本当ですね」
そう言ってから、直実は、自分の失敗に気付く。
せっかくの浴衣だというのに、直実は、そのことに全く触れていない。
お洒落をしてきた恋人に対して、一言もない。
彼氏として、失格である。
だが、それを言うタイミングは、完全に逸していた。
なんて、自分はダメなやつなんだと、自己嫌悪が募る。
そうこうしているうちに、朝霧橋へと着いた。
花火が上がり、見物客が、歓声を上げる。
瑠璃の方を見ると、少し歩きづらそうにしているのに気づいた。
そうだ。
瑠璃だって、浴衣を着なれているわけではない。
今日のために、わざわざ、頑張って着て来てくれたのだ。
直実との初デートのために。
だというのに、直実はタイミングを逃したなどという理由で、そのことに触れようともしない。
それは、彼女への侮辱へと思えた。
だから、勇気を振り絞る。
「いっ、一行さん!!」
瑠璃が、直実の方を見る。
周りの何人かも、突然大声を上げた直実の方を見る。
注目されて、緊張して、恥ずかしさがこみ上げる。
その全てを、勇気という燃料で吹き飛ばす。
「浴衣!とっても似合ってます!すごいかわいいです!」
瑠璃は、少し驚いたようだった。
何事かと思って、直美を見ていた周りの人間も、事情を察した。
温かい目で直実と瑠璃を見て、上空の花火へと視線を戻す。
「ありがとうございます」
瑠璃が、笑った。
河原に咲く、清楚な野菊が風に揺られた様な、柔らかな笑顔だった。
ドン、ドン、ドン。と花火が上がる。
そのたびに、鮮やかな花火が、彼女の笑顔を多様に彩る。
時間が、止まったようだった。
放心していた直実を現実に、戻したのは、一粒の雨だった。
天気は、元々微妙だった。
降るか降らないか。家を出てからも、直実はやきもきしていた。
その不安が今、現実になった。
「一行さん。あっちに隠れましょう。せっかくの浴衣が濡れちゃいます」
言っている間にも、雨粒は勢いを増し始めている。
周りの見物客も、三々五々に散らばっていく。
その中で、瑠璃は焦ることなく、リュックサックを下ろしていた。
浴衣に似合わない。大きなリュックサックだ。
この存在に今まで気づかなかった直実は、本当に緊張していたらしい。
「三鈴からの伝言です。
雨が降ると思うけど、これを着て、できるだけ橋の上で固まって動かないように。
とのことです」
「勘解由小路さんが?」
瑠璃から渡されたのは、ずっしりと重い、ゴムか何かで作られたポンチョだった。
「完全防水、完全絶縁のスペシャルポンチョだそうです」
「どこから、そんなものを」
「この間会った千古さんに、作っていただいたそうです。
アースがついているので、雷が直撃しても大丈夫だと言っていました」
そう言われてみると、電気の通りそうな線が、何本か地面へと垂れ下がっている。
天気が悪いなら、直実も折り畳み傘くらい用意しておけばよかったのだ。
勘解由小路さんが気を利かせてくれてよかった。
おかげで、一行さんが濡れなくて済んだ。
三鈴に、頭の上がらない思いで、直実はほっと安心する。
わざわざ、千古に頼む必要はなかったとは、思う。
けれど、千古のあの子供みたいな性格を考えれば、こういう無駄に高機能なポンチョなどは、喜んで手配しそうな気もする。
直実は、ありがたくポンチョを着る。
瑠璃も同じようにポンチョを着ていた。
パステルカラーの水色のポンチョで、浴衣は隠れてしまったが、これはこれで別のかわいらしさがある。
「でも、なんで、橋の上で動いちゃダメなんでしょう」
「さあ、三鈴なりに何か考えがあるのだと思います」
二人で首をかしげる。
そうこうするうちに、雨は本降りになっていた。
周りには人はいなくなっていた。
朝霧橋の真ん中で、ポンチョを着た二人だけが立っている。
2027年7月3日、20時01分。
突然の落雷が、宇治川の朝霧橋に立つ瑠璃を襲った。
・運命との闘い
2027年7月3日。20時00分
宇治川の中央に、二人の人間が立っていた。
常識では考えられないことに、その二人は、水の上に立っていた。
突然の豪雨で、そちらを見る人間はいなかった。
見た人間が居たら、赤いポンチョを着た彼女を、赤ずきんの幽霊だと思ったかもしれない。
そして、もう一人の白い防護服のような奇妙な格好をした、長身の男を見ることはできず、一人しか立っていないと思っただろう。
「彼女は、君の言葉を信じてくれたみたいだな」
「当り前じゃないですか。わたしたち、友達ですよ」
三鈴とナオミは、橋の上で固まって立っている直実と瑠璃を見る。
千古に作ってもらったポンチョは気休めだ。
人事を尽くして天命を待つ。
ほんの少しでも作戦の可能性が上がるなら、何でもする。
幸い千古は、のりのりで、三鈴の分までポンチョを作ってくれた。
代金まで不要だと言ってのけた。
ここまで来ると、ただのいい人というより、三鈴たちの事情を知っているのではないかと勘繰りたくなる。
ただ、敵でないことだけは確かだ。
「2027年7月3日、20時01分。落雷が、俺から彼女を奪った」
すでに、三鈴は瑠璃を助けるための準備を終えている。
落雷が落ちれば、自動的に瑠璃を防御するよう、グッドデザインに設定がなされている。
瑠璃をこの場に来させないことも考えた。
だが、三鈴の限定的なグッドデザインの性能を考えた結果、状況を限定して、待ち構えることとなった。
確実な場所で、確実に準備を整え、確実に迎え撃ち、絶対に瑠璃を助ける。
そのために、直実たちにチラシまで渡して、誘導したのだ。
ナオミの10年も、ナオミと出会ってからの三鈴の5か月も、全ては今日のため。
「5、4、3、2、1」
ナオミがカウントする。
過去の記録と、現在の気象条件から、ナオミは落雷のタイミングを計算していた。
そして、律義にも、ナオミの「0」の音と落雷の轟音が重なる。
1秒のずれもなく、運命の雷が、朝霧橋の上の瑠璃へと襲い掛かる。
「神の手(グッドデザイン)!八咫鏡(ヤタカガミ)!」
三鈴が、宇治川の水面へと手を置く。
宇治川の水が、四方八方から立ち上り、シェルターの様に瑠璃と直実を囲む。
そして、そのまま、落雷を防ぐ盾へと変わる。
ただの水の盾ではない。
宇治川の水を片っ端から超純水に変換して作った、超純水による大質量の盾だ。
一般的に、水は電気を通しやすいと言われる。
だが、一切の不純物を排した超純水は、電気を非常に通しにくくなる。
実際に通さないわけではないが、電気を通すための物質が、通常の水に比べて少なくなるため結果的に、電気を通しにくくなる。
ただ、この超純水をそのまま落雷にぶつけても、歴史の修正力を上回れるとは限らない。
だからこそ、最初、ナオミはブラックホールなんてものを作ろうとしていたのだ。
ならどうするか、防げるまで、超純水をぶつけ続ければいい。
幸いここは、川である。水はいくらでもある。
あとは、アルタナの方が根負けするまで、ひたすらグッドデザインで川の水を超純水へと変換し、落雷にぶつけ続けるだけである。
要は、質より量である。
アルタナの修正力が力尽きるのが先か。
グッドデザインの演算能力が焼き切れるのが先か。
「いいぞ!防げてる!」
ナオミは物理権限を持たない。
口を出すことしかできない。
「大丈夫だ!君ならできる!」
結局最後は三鈴に丸投げするしかない。
励まし続けることしかできない。
落雷の勢いが、増す。
ありえないことだ。
一瞬で消えるはずの雷が、もう、何秒も水の盾とせめぎあいを続けているのだ。
歴史の修正力が、瑠璃を奪おうと運命のアギトを開き続けている。
「くうう!」
グッドデザインの力の根源は、想像力であり、集中力だ。
高速で処理を行う三鈴にも、負担が大きい。
しかし、その負担を無視できるほどの思いがある。
三鈴だって、瑠璃を助けたい。
落雷が、少しだけ押し返された。
「いける!いけるぞ!」
これまでの三鈴の努力を、ナオミはずっと見てきた。
三鈴ならやり切ると、信じている。
だが、上空で不吉な音が響くのを、ナオミは聞く。
ゴロゴロというのは、雲の中で雷が鳴っている音だ。
そして、上空の、真っ暗な雨雲の中から、さらに7つの雷が、いけにえの娘に襲い掛かる竜のように、瑠璃のいる場所へと落ちる。
単純に、今までの7倍の雷だ。
水の盾が、押し込まれる。
ナオミの顔に、絶望がよぎる。弱音が漏れそうになる。
それでも、目の前で懸命に戦う少女を前に、そんなことは口に出せない。
「大丈夫だ!あんなのは、君の敵じゃない」
ただ、三鈴を信じることしかできない。
信じられないとしても、信じていると、励まし続けることしかできない。
8つの雷が、勢いを増す。
アルタラも、無限にエネルギーを使えるわけではない。
宇治川の水で足りなければ、海からでも超純水を作り出し、盾とする予定だった。
そのための、訓練をしてきた。
耐えきれば勝ち。根性勝負。
奥の手も用意していたものの、この雷の勢いは想定外だった。
「頼む。俺に、彼女を助けさせてくれ!お願いだ!三鈴!」
悲痛なナオミの懇願が響く。
その声は、三鈴にしか聞こえない。
三鈴の口元が緩んだ。
圧倒的な劣勢の状況で、本当にうれしそうに、緩んだ。
「覚えてますか。わたし、ナオミさんのこと好きだって言ったんです」
それは、つい先日の、デートの日のことだった。
勿論、ナオミも覚えている。
「好きな人に頼られて、喜ばない女の子なんていないんですよ。
神の手(グッドデザイン)八尺瓊勾玉(ヤサカノマガタマ)!」
水の盾が、その形をすり鉢状に変える。
8つの雷が一か所に集まり、まとめられ、一つの大きな雷になる。
一見すると、これは、逆効果に見える。
事実、雷は先程以上に水の盾を押し込み、あわや、瑠璃に届きそうになっている。
けれどこれは、真の奥の手の前段階に過ぎない。
「恋する乙女を、舐めるなああああああああああああああああああああああ!」
三鈴の気迫に呼応するかのに、グッドデザインがひときわ青く発光する。
そして、水の盾が形を変える。
だが、その変化は一瞬だった。
そう、ほんの一瞬だけ、グッドデザインの性能を限界ギリギリまで引き出した。
瞬間的に、巨大な剣へと姿を変えた超純水の盾は、今まさに瑠璃を食らおうとしていた雷を切り裂き、雲を切り裂き、空をかけた。
雷の音がやんだ。
雨が止まる。
「神の手(グッドデザイン)天叢雲剣(アマノムラクモ)……」
三鈴のつぶやきを合図に、雲が霧散する。
雨が消えうせ、月明かりが辺りを照らす。
運命に打ち勝った瞬間だった。
正直、天叢雲剣とかは調子乗りすぎた結果です。
逆に約束された勝利の剣くらい突き抜けれたら、逆にカッコいいのですが。
自分のセンス的には、これが、いっぱいいっぱいでした
一応、それぞれ解説
八咫鏡、水の盾でひたすら雷をはじく(これで防げれば一番良い)
八尺瓊勾玉、雷を受け止めて力を貯める(受け止めた雷が球状になるので勾玉、準備段階)
天叢雲剣、受け止めた力を変換して、自分の力に上乗せして跳ね返す(最後の手段、その後数分は動けなくなるので、これでだめだとアウト、本当に最後の賭け)