(※致命的なネタバレ注意) Forgotten world(HELLO WORLD二次創作)   作:従弟

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明かされた真実

・対立

 

 

「やった。やったぞ!三鈴!」

 

ナオミが三鈴の方を見る。

力を使い果たした三鈴は、膝をついて、息を荒くしている。

水に浮く力も残っていないのか。

手袋からカラスへと姿をもどしたグッドデザインが、沈まないように三鈴をくわえて羽ばたいている。

小さな体で、普通のカラスでは、考えられない力だ。

 

「ともかく、岸へ行こう」

 

岸まで戻ると、ようやく一息ついた。

朝霧橋の方を見ると、直美も瑠璃も、何が起きたのかまだわかっていない様子だった。

ただ、直実が瑠璃に覆いかぶさって、守ろうとしていたことが、二人の体勢からわかる。

その様子を見て、三鈴は羨ましいと、本心から思う。

その三鈴に、ナオミが感謝を込めて語り掛ける。

 

「ありがとう。これで、やっと、俺は」

「瑠璃を連れていける。ですか?」

 

ナオミが、驚愕の表情で、いまだへたりこんでいる三鈴を見る。

 

「現実の世界の瑠璃は死んだわけじゃない。脳死だった。でしょ」

「なんで、それを」

「さっき、言ったじゃないですか。恋する乙女を舐めるなって。

 普段のナオミさんの態度を見てれば、分かりますよ。好きな人のことですもの。

 ナオミさんは、記録を改ざんしたいだけにしては、あまりに切羽詰まってました。

 それこそ、本当に瑠璃の命がかかってるみたいに」

 

そう言って、笑いながら三鈴は続ける。

 

「あと、アルタナセンターで千古さんに話を聞いてた時に気付いたんです。

 アルタナにダイブすれば、データを引き出して、利用することができる。

 もし、現実の瑠璃が、死んでいたんじゃなくて、脳死だったなら、瑠璃のデータを引き出して、移植することができるんじゃないかって

 ナオミさん。瑠璃のこと、死んだとは一言も言ってませんもんね。

 とは言っても、確証はなかったから、今のはただのカマかけだったんです」

 

三鈴は笑顔だった。

泣きそうな笑顔だった。

騙されたことが悲しいわけではない。

利用されたことが辛いわけでもない。

ただ、好きな人が、こんなに追い詰められているというのに、少しの心の余裕にもなれない自分の無力さが、三鈴は悔しかった。

 

「そうだ。俺の世界で彼女は、事故で脳死状態になった。

 この世界の一行瑠璃を彼女の体へと移せば、その精神をガイドとして彼女を目覚めさせることができる。

 俺が、ここへ来たのは、そのためだ」

 

ナオミの顔には、どんな表情も浮かんでいなかった。

後悔も、罪悪感も、喜びも、なにも浮かんでいない。

ただ、淡々と事実を告げていく。

 

「なんで、今日まで待ったんですか」

「彼女の精神を、できる限り、事故当時のものに近づける必要があった。

 ついさっき、測定値が閾値を超えたよ。これで、ようやく現実の彼女に精神を同調させることができる」

 

朝霧橋の上で、直実と瑠璃が見つめあっているのが見えた。

三鈴は直感する。

恐らく、現実の瑠璃と記録世界の瑠璃。

二人の同調の条件は、肩書直実への恋心だ。

彼に恋心を抱き、彼に本当に心を開いた瞬間。

それが、現実の瑠璃が事故にあった瞬間だったのだ。

 

「君には、本当に感謝している。

 だが、すまない。俺が好きなのは、一行さんだけだ」

 

それは、あのデートの日の答えだった。

全てが終わった後に、答えてほしい。そういった三鈴への返答だった。

予想通りの回答だった。

三鈴の心に後悔はない。

 

「最後に、教えてもらってもいいですか」

「なんだ」

「ナオミさんが、いなくなった後、ここはどうなるんですか」

「恐らくは、リカバリーが行われることになる。

 簡単に言うと、一行瑠璃という要素が欠けたせいで不完全になったこの世界を壊して、新しく完全な世界を作り直すことになるだろう。

 そうしなければ、アルタナというシステム自体が、完全に壊れてしまうからな。

 俺が、君と君の世界の全ての人を、殺すんだ」

 

ナオミの顔は、一切変化しない。

感情全てを、どこかに無くしてしまったようだった。

その顔を見て、三鈴は決意する。

 

「なら、わたしはナオミさんの邪魔をします」

「そうか。だが、グッドデザインは返してもらうぞ」

 

三鈴の傍に控えていたカラスが飛び立ち、ナオミの肩にとまる。

 

「これで、君に俺を止める手立てはなくなった」

「ナオミさんは、きっと、やめてくれます」

 

信頼のこもったその声に、初めて、ナオミの表情が動いた。

 

「ナオミさん。なんで、リカバリーなんて教えてくれたんですか」

「聞いたのは君だろ」

「嘘を教えればよかったんです。何も変わらない平和な日常が続くだけだって。

 なのに、本当のことを教えてくれた」

「そんなのは、どっちでもいいことだからだ」

「古本市の時、なんで、手伝ってくれたんですか」

「君が脅したんだろ」

「適当に失敗させればよかったんです。協力したけど失敗した。本は集まったけど数は足りなかった。

 そうすれば、わたしを納得させたまま、あのノートの通り計画を進めることができた」

「気づかなかっただけだ。あの時は、切羽詰まっていた」

「結局、ナオミさんに、目の前で困っている人を見捨てるなんてできないんです。

 それは、高校生の時も、10年たっても、変わったりしない。

 だって、それが、カタガキナオミっていう人間なんだから」

 

三鈴はナオミを見つめたまま、続ける。

 

「それでも、リカバリーをしようとするなら、止めます。

 そんなことをすれば、ナオミさんはナオミさんじゃいられなくなる。

 ナオミさんは絶対に幸せになれない。きっと、瑠璃も。

 だから、絶対に止めてみせます」

 

三鈴の目にあるのは、覚悟。

瑠璃を救おうとナオミがあがき続けたように、三鈴は今ナオミを救おうとしている。

敵視されるのも、恨まれるのも、罵倒されるのも、ナオミは想定していた。

けれど、この状況で、なお、ナオミのために戦うという三鈴の言葉は、まったくの想定外だった。

 

「なんで、君は、そこまで」

「好きな人のために頑張るなんて、当然のことですよ。せんせい」

 

三鈴の言葉が、ナオミの胸にすとんと落ちる。

だが、それを肯定してしまえば、ナオミは動けなくなる。

自分を本当に信頼し、助けようとしている人間の腕を叩き落とせるほど、ナオミは強くない。

だから、三鈴の言葉を肯定するわけにはいかない。

肯定して、三鈴の手を取ってしまえば、瑠璃を救えなくなってしまう。

それだけは、許容できない。

肯定できず、かといって、言い返す言葉も持たない。

逃げるように、ナオミは、三鈴に背を向ける。

いや、ようにではない。ナオミは、三鈴から逃げたのだ。

その瞬間、世界が反転した。

 

「対象の心理パラメータが、規定値から大幅に外れています。

 これ以上のアプローチは困難です。リセットを実行します」

 

その言葉は、カタガキナオミの肩にいたカラスの口から紡がれた。

世界が、赤く染まる。

全てが、反転し、裏返り、空へと帰っていく。

 

「こ、これは、リカバリーだと、何故、今」

 

動揺するナオミ。

そして、空は人も例外なく呑み込もうとする。

目の前で、三鈴の体が浮く。

 

「ナオミさん!」

「三鈴!」

 

思わず、ナオミが手を伸ばす。

考えての行動ではなかった。

そして、それは、無意味な行動のはずだった。

カタガキナオミは物理権限を持たない。

この記録世界の一切のものにさわることができない。

ナオミの伸ばした手を、三鈴が掴んだ。

互いの手から、互いに、互いの熱が伝わるのを感じる。

 

「そうか。そういうことだったのか」

 

一瞬驚いた顔をしたナオミだったが、すぐに納得し、安心した顔になる。

 

「良かった。俺のやってきたことは、無駄だった」

「え?ナオミさん。それって、どういう」

 

ナオミの言葉の意味を、三鈴が聞き返そうとしたところで、より強い力が三鈴とナオミを引っ張った。

そうして、二人は、空へと飲まれた。

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