(※致命的なネタバレ注意) Forgotten world(HELLO WORLD二次創作)   作:従弟

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協力関係の始まり

・自己紹介と未来紹介

 

 

情報をある程度共有したところで、お互いに自己紹介をすることになった。

 

「俺は、カタガキナオミという」

「あっ、勘解由小路三鈴と申します」

 

なんとなく、改まってしまった三鈴の顔を、驚いたようにナオミがのぞき込む。

 

「な、なんですか」

「勘解由小路?言われてみれば。確かに。そのリボンにも見覚えが」

 

ひとしきりぶつぶつ言って、ナオミが顔を離す。

ナオミは物体にさわることはできないらしいが、成人男性の顔を間近で見るというのは、うら若き女子中学生には刺激が強い。

三鈴は、自分の顔が少し赤くなっていることを自覚した。

パチン。と、唐突にナオミが指を鳴らす。

 

「なるほどな。確かに勘解由小路さんだ。

 彼女、中学生の頃は君みたいだったんだな」

 

納得したようにうなずくナオミ。

訳が分からず、三鈴は、部屋に置かれている姿見を見た。

そこにいたのは、まったく知らない少女だった。

三鈴が入学する予定の、錦高校の制服を着た女子生徒。

メガネはなく、セミロングの髪形に、ピンクのリボンが映えていた。

三鈴がなりたいと思っていた三鈴が、そこにいた。

 

「これは……」

 

三鈴が顔に手をやると、姿見の中の少女も鏡写しに、手をやる。

姿見の中には存在しないメガネに、手が触れ、ハッとする。

 

「それは、外見だけの幻だ。

 アルタラの中での俺の権限は、制限されているが、この程度の手品はできる」

「そうじゃなくて、この姿は」

「俺の高校時代の同級生だった勘解由小路三鈴さんの格好だな。

 髪の毛とコンタクトで、女の人は印象が随分変わるな。

 名前を聞くまで、同一人物だとは気付かなかったよ」

 

それはそうだろう。

三鈴本人ですら、姿見に映った自分と今の自分が同一人物だとは気付けないくらいだ。

 

「彼女は、医療関係に進んだんだったな。

 最後に会ったのは、脳波と電気信号の数値化についての学会発表だったか」

「あの、これって本当に私なんですか」

「そうだ。髪の毛とメガネ、後、服装はいじったが、顔や体格なんかには手を加えていない」

 

言われて、改めて、姿見の中の自身の姿を見る。

こうなれる。

この自分になれるかもしれない。

いや、ナオミの未来から来たという話が本当ならば、未来の三鈴はこの理想の自分になったのだ。

 

「あの、わたし。あなたを手伝います」

「本当か!」

「ただ、条件があります」

 

身を乗り出すナオミを、三鈴は、言葉で押しとどめる。

 

「わたしは変わりたい。自分を変えたい。そのための手伝いをしてください」

 

言われたナオミは、困惑した。

三鈴は、知らないことだが、ナオミは高校時代、一行瑠璃に出会うまで、ほぼ、女性との接触というものがなかった。

その後も、勉強一筋で色っぽい話は一切ない。

大学時代に猫目当てでナオミの部屋に通っていた女性はいたが、特に関係に進展はなく、ナオミの猫を奪っていってそれきりだ。

女子中学生の高校デビューなんてものは見当もつかない。

そして、ナオミ自身が、高校時代自分を変えようと自己啓発書「決断力ー明日から使える!実践トレーニング」を買ったものの、まったく使えずに挫折した、苦い経験がある。

だが、ここで、首を横に振れば何度も失敗を繰り返し、この記録世界にやってきた意味がなくなってしまう。

ナオミは、神妙な顔で頷く。

 

「分かった。俺にできる限りのことをしよう」

 

 

・変えること、変えないこと

 

 

互いに協力関係の確認ができたところで、ナオミの話を詳しく聞くこととなった。

ナオミのいる時代から10年前。

つまり、三鈴のいる現在。

ナオミは一行瑠璃という少女と恋人関係となった。

しかし、初めてのデートの日、鴨川での花火大会で、雷が彼女の近くの木に落ちた。

それ以降、彼女が目を開けることはなかった。

 

「俺は、彼女を助けたい」

 

そのための、記録世界への介入。

そのための、記録の改ざん。

事故があってからの10年間。

ナオミの人生は、そのためだけにあった。

三鈴は、ナオミの瞳の裏にある執念の正体が分かった気がした。

けれど、その行為には、大きな疑問が残る。

 

「けど、この世界で、その一行瑠璃さんを助けても、現実の彼女は……」

 

それ以降を口に出せず、三鈴はきまり悪く言葉を濁す。

この世界が記録に過ぎないというのなら、記録を改ざんしたところで現実は変わらないはずだ。

小説のラストを赤ペンで書き換えたところで、小説の内容が変わることはない。

それと同じことだ。

 

「現実の彼女は戻らない」

 

その疑問を、ナオミ自身も想定していたのだろう。

彼は、あっさりと行為の無意味さを肯定した。

 

「ただ、俺が欲しいだけなんだ。

 幸せになった彼女の笑顔が。

 その記録が。

 その思い出が。

 現実じゃなくてもいいから、彼女が幸せになる世界が、欲しいんだ」

 

その声を聞いて、その瞳を見て、その言葉を解いて、カタガキナオミが本当に一行瑠璃を愛しているんだと、三鈴は確信した。

なんて硬い意思だろう。

ナオミの10年が、三鈴には彼の言葉から感じ取れるような気がした。

10年前の恋人を助けるために、タイムスリップしてくる。

話だけ聞けば、物語のヒーローみたいだ。

けれど、目の前彼は、傷つき、執念という泥にまみれながらあがき続ける、小さな子供のようだった。

そして、あがいた末にたどり着くのが、恋人の笑顔という、自分では触れることのできない記録に過ぎないという。

彼は、彼の10年は、そんなことで報われるのだと、目の前の彼自身が言う。

それは、美しく、それ以上に悲しい覚悟だと三鈴には思えた。

 

「分かりました。それで、具体的にわたしはどうすればいいんですか」

 

ナオミの覚悟がどういったものであれ、三鈴にできることは限られている。

彼を哀れに思うなら、せめて、彼の思いを遂げさせてやるべきだろう。

三鈴の言葉に、ナオミが指を2つたてた。

 

「一つは、一行瑠璃を助けること。

 これは、ちょっと特殊な訓練が必要になる。

 詳細については、後で話そう」

 

訓練。と聞いて、三鈴は少し緊張する。

自分に可能だろうかという不安が頭をもたげるが、心はナオミに協力すると決めているのだ。

今更、グダグダというつもりはない。

ナオミが指を折る。

残ったのは、1本の人差し指。

 

「そして、もう一つは、一行瑠璃をこの世界の堅書直実の恋人にすることだ」

 

三鈴とナオミ。

室内だというのに、二人の間に冷たい風が吹いた気がした。

 

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