(※致命的なネタバレ注意) Forgotten world(HELLO WORLD二次創作) 作:従弟
そして、時間は冒頭のバス停へと戻る。
「せんせい。本当にこれって、意味があるんですよね」
疑うように、スマホに語り掛ける三鈴。
堅書直実とカタガキナオミ同姓同名だと分かりにくいという理由。
そして、三鈴が変わるための方法を考えてくれること。
最後に、ナオミの事情に付き合わせる関係でおろそかになりがちな勉強面をナオミが家庭教師という形でフォローする形になったこと。
それらの理由から、三鈴はナオミのことを先生と呼ぶことになった。
この呼び方なら、会話を聞かれても、他人から不審に思われることはない。
それに、ナオミは家庭教師としてとても優秀だった。
本人曰く。
「高校の勉強くらいは10歳児に教えられる程度に理解してないと、アルタラにかかわることなんてできない」
とのことだ。
現実世界のナオミは、どうやら、記録上の瑠璃を救うために、アルタラに深く食い込む場所へと接触したらしい。
アルタラによる京都クロニクルは、世界的大企業であるPluuraと京斗大学、京都市の共同事業であり、国家プロジェクトと言える。
それに関わるのなら、一般的な高学歴と、それを超える実績を生み出せるだけの頭脳が必要となる。
ナオミの言葉には誇張など一切なかった。
そして、その事実を裏付けるように、勉強時間自体は減っているというのに、三鈴の成績はぐんぐん伸びていた。
ナオミの先生という呼び名の面目躍如といってもいいだろう。
一方で、二番目に挙げた三鈴が変わる手伝いには、ナオミはあまり役に立っていたいない。
なんせ、乙女心なんてわからない上に、人との関係をほぼ切って、勉強だけしてきたようなナオミだ。
対人コミュニケーションの技術など皆無だし。
内面を変える方法など知りもしない。
人に話しかけたいけど勇気が出ないなどと相談すれば、こう言うのだ。
「勇気がないなら、勇気を出せ。ほら、さっさと話しかけろ」
そうやって、めんどくさそうにせっついて追い詰める。
結果的に、習うより慣れろということか、三鈴の人見知りは改善されたが、方法として褒められたものではないだろう。
あまりにも、優しさが足りないと三鈴は思うのだ。
そして、ナオミは、女性のファッションなんて、どうでもいいと思っている。
もっと、言えば、一行瑠璃以外を女性とすら思っていない節さえある。
先生と呼ばれるには、あまりにも不相応な給料泥棒だ。
結果として、ナオミから未来の勘解由小路三鈴の話を三鈴が聞き、その行動や言動を分解し、解析することで三鈴は自身の理想の内面を作っていった。
ファッションに関しては、三鈴がファッション誌を見て指示し、ナオミのいう「手品」で家にいながら試行錯誤を繰り返した。
そして、これはというファッションを見定めて、店に買い行った。
「かでのんって、そんなに買うの決めるの早かったっけ?」
などと、友人に驚かれたりした。
当然だろう。
すでに家で試着を終えて、買うものが決まっているのだ。
一応実際に試着はするものの、それは、最終確認に過ぎない。
そして、実際に買った後、ナオミにそれを見せると彼は決まってこう言うのだ。
「それ、一行さんにも、似合いそうだな」
最初会った時こそ、三鈴はナオミを大人落ち着いた男性などと思っていたものだが、今は違う。
出会って2か月ちょっとの共同生活で、彼がかなりのポンコツであることを見抜いていた。
だからこその、先の発言だ。
直実と瑠璃の恋のキューピット役など、本当に必要なんだろうか。
三鈴から見て、直実は10年後、隣にいるナオミになるとは思えないくらいに純朴で引っ込み思案なところもあるが、それ以上に優しい男の子だ。
それに、彼が以前の三鈴と同じように、変わろうと頑張っていることは見て取れた。
その懸命に頑張る姿は、三鈴にはとても好ましく思える。
その直実の良さに、瑠璃が気付かないとは、三鈴には到底思えない。
つまり、過程は変われど二人は恋仲になるのではないか。
そもそも、デリカシーのないナオミに恋の作戦など立てられるのだろうか。
「俺が来たことで、ほんの少しだが、影響が出ている。
もし、俺の知っている記録と決定的にずれてしまった場合、一行さんを救えない可能性が出てくる。
そうならないためには、一行さんと直実を恋人関係にするのは、必須事項だ。
そして、その方法はこのノートにある」
そう言って、ナオミがとりだしたのは、最強マニュアルと雑にマジックで書かれた大学ノートだった。
三鈴は中を見せてもらえていないが、どうやら、ナオミの高校時代の日記のようなものらしい。
そこには、ナオミがどうやって、瑠璃と距離を縮め、恋人関係となったかが、詳細に書かれている。
その通りに、行動すれば瑠璃と恋人になれる。
まさに、恋愛における最強マニュアルなわけだ。
ナオミは当初、直実にこのマニュアルに忠実に行動させるつもりだったらしい。
だが、何らかの理由により、直実はナオミのことを認識できず、三鈴のみがナオミを認識できる状態となった。
こうなると、直実にこのマニュアルを忠実に実行させることは不可能だ。
三鈴が逐一直実に指示を出す案もあったが却下された。
「初対面の女子がそんなおせっかいを焼いてくるなんて、不自然だろ。
それに、自分に友好的な女子なんていたら、あいつはコロっとそっちに転ぶぞ。
男子高校生のチョロさを見くびるなよ」
堂々と宣言するナオミはとても、情けなかった。
なぜ彼は、ここまで過去の自分を信じないのか。
ともすれば、敵視しているようにさえ見える。
結果として、重要と思えるようなイベントだけ取り逃しのないようにフォローする形となった。
恋のキューピットなど、恋愛話が大好きな思春期女子高生としては、おいしい役割だけに三鈴は少し不満だった。
それに、先程の対応も正解だったのだろうか。
もっと、積極的に直実を応援すべきだったのではないかと、三鈴は思うのだ。
後日、直実が図書室で瑠璃にバスでの一件を謝罪し、その謝罪は受け入れられた。
大切な栞だったのだろう。
直実から、栞を受け取った瑠璃は、探し物が見つかってほっとしたようだった。
これで、直実と瑠璃の距離は、少しだが縮まった。
「な、俺の言ったとおりだろ」
その様子を、三鈴とナオミは物陰からそっと覗いていた。
大切そうに栞をしまう瑠璃を見ながら、嬉しそうにナオミが言う。
眩しいものを見るように、目を細めるその表情を見て、三鈴の胸にモヤっとした不快感が沸いた。
ナオミの脇腹の辺りを、軽く拳で叩く。
拳は、データであるナオミの体を突き抜け、宙を叩いた。