(※致命的なネタバレ注意) Forgotten world(HELLO WORLD二次創作)   作:従弟

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神の手を使う

・訓練開始

 

 

恋愛の方は、順調だったが瑠璃を落雷から守るほうは、難航していた。

 

「花火大会に瑠璃が行かなければ、いいんじゃないですか」

 

最初に、三鈴はそう提案した。

それは、三鈴とナオミが出会って次の日のことだった。

早朝、人気のない公園で、二人は話していた。

 

「それは、俺も考えたが、アルタラの修正プログラムが働く可能性がある。

 簡単に言うと、歴史の修正力とかそういう話だな。

 今回は、一発勝負だからな。

 より、確実性の高い、絶対的な方法を選ぶ必要がある」

 

そう言って、ナオミ右手を挙げた。

肩に乗っていた三本足のカラスが飛び上がり、三鈴の右手に降り立つ。

手乗りインコというには大きすぎるが、三鈴は怖いとは思わなかった。

なんとなく、このカラスは自分を害さないと確信できていた

カラスが、一瞬にしてその姿を変えた。

青い、森の中の湖面の様に透き通り、海底の水の様に青い手袋が、三鈴の右手にはまっていた。

 

「それは神の手、グッドデザインと呼ばれるものだ」

「グッドデザイン……」

 

朝日に透かした手袋が、青く揺らぐ。

 

「簡単に言うと、アルタラのデータに直接アクセスして、データを書き換えるデータ改ざん装置だ。

 つまり、グッドデザインを使えば、歴史の修正力すらも上書きし、改ざんすることができる」

「すごい。じゃあ、瑠璃の無事は決まったも同然ですね。せんせい」

「はずだった」

 

はしゃぐ三鈴を前に、ナオミが、ぽつりと一言。

不吉な一言を付け加える。

 

「グッドデザインを使いこなすには、訓練が必要だ。

 それに、制約も多い。

 俺は、本来堅書直実にブラックホールを作らせて、落雷を消し去るつもりだった」

「ぶ、ぶらっくほーる?」

「ああ、落雷と一言で言っても、このアルタラの中での落雷は普通のものとは違う。

 過去の再現なんだ。

 一行瑠璃を永遠に眠らせることを目的とした運命と言っても過言じゃない。

 下手にゴムの盾や、車に避難なんて常識的なもので対抗しても、運命という理不尽には打ち破られてしまう。

 だから、こちらも運命の理不尽をねじ伏せる理不尽で、記録を上書きする必要がある。

 そのためのグッドデザイン、だった」

 

またもや、不吉な一言が最後に付け加えられる。

話としては単純で、アルタナとグッドデザインで力比べをして、勝てばいいということだ。

そして、理論上グッドデザインの用意できる最大戦力がブラックホールだった。

突然、京都のど真ん中にブラックホールが発生するなんてありえない理不尽だ。

そんな超常現象が起きれば、運命が変わってしまっても仕方がない。

 

「あの、せんせい。

 さっきから、最後にだった。だった。て不吉な過去形がくっついてるんですけど」

「ご明察だな。さっき言った方法は、今は使えない」

「な、なんでなんですか」

「単純に、君とグッドデザインの相性の問題だな。

 それは、俺が堅書直実に使わせるように調整した代物だ。

 他人が使うとなると、どうしても、性能が落ちてしまう。

 今日は、君がどのくらいそれを使えるのか見てみよう」

 

空気を水に、土くれを宝石に、ないものをあるように。

記録世界において記録を書き換える万能の手袋。

神の手の名に相応しい力を持つグッドデザイン。

その力で三鈴がなしたのは、単体や水のような単純な物質の構造の組み換えと操作のみだった。

無から有を作り出すことはできず、神とは程遠い力しか使えない。

現状において、ブラックホールを作り出すのは、ナオミの言うように不可能だろう。

 

「あの、ごめんなさい」

 

三鈴が悪いわけではない。

けれど、本来の計画通り直実がこのグッドデザインを使っていれば、問題なく瑠璃を救えたはずなのだ。

そう考えると、三鈴は自分がナオミの足を引っ張っているようで、申し訳ない気持ちになる。

三鈴の様子を見て、ナオミがほほ笑んだ。

相手への思いやりが見えるそのほほえみは、ナオミに似合っていた。

三鈴は、その時、初めて本来のナオミを見た気がした。

 

「謝ることはない。

 こちらのミスが原因なんだ。

 むしろ、君にはこんなことに付き合ってもらって本当に感謝してるよ」

 

そう言って、ナオミは三鈴の頭をなでようとして、その手が頭を通り抜けた。

何とも言えない沈黙が、訪れる。

憮然とした表情のナオミに、三鈴はつい噴き出してしまった。

結局その日は、解決策がでないまま、終わりとなった。

 

 

・お昼休み

 

 

グッドデザインの訓練は続けているものの、成果は芳しくない。

その一方で、直実と瑠璃の仲は、順調に進展しているように見えた。

ナオミからは、重要なイベントや不測の事態が起これば報告すると言われている。

その報告がない。

便りがないのは順調なあかしともいえるが、三鈴としては是非とも細かな進捗を聞きたいのである。

一人の女子高生として。

ナオミが教えてくれないというならば、別の人に聞けばいい。

 

「るーりりん。おべんと食べよ」

「その呼び方やめてください。お昼は、購買でパンを買うので少し待っててください」

「あっ、わたしも行くー」

 

ということで、三鈴は瑠璃と昼食を取ることとなった。

場所は変わって、学校の中庭。

 

「ルリエンタール。そんなに落ち込まなくても」

「その呼び方、いえ、気を使わせてしまって申し訳ありません」

 

お決まりの突っ込みを放棄した瑠璃に、三鈴は苦笑する。

傍目にはそうは見えないだろうが、瑠璃は落ち込んでいた。

理由は簡単で、購買に行ったもののお目当てのパンが買えなかったのだ。

瑠璃が気に入っているパンは、ねじりパンという。

錦高校における一番の不人気パンである。

購買において、いつも最後に山となって残っている。

そのねじりパンを、瑠璃は、人込みをかき分け、あまたのパンを差し置き、毎回おばちゃんへと要求する。

ちなみに、堅書直実も毎回ねじりパンを食べているが、その理由はパンの争奪戦に負けるからである。

三鈴には、あの気弱な直実が、今横にいる傍若無人なナオミになるというのが、いまだにに信じきれない。

ともあれ、いつもなら最後まで大量に残っているはずのねじりパンなのだが、今日は発注ミスによって少数しか入荷しなかった。

さらに、錦高校に存在するねじりパン愛好家がその少数を買い占めてしまったため、瑠璃はねじりパンを買うことができなかった。

一応、他のパンを買ったものの、そんなもので瑠璃の心の穴は埋まらないらしい。

瑠璃の好物であるきんぴらで埋め尽くされた弁当も、消費ペースがいつもより遅い。

いつも凛として、強い意思をもって、堂々と立っている瑠璃が、パン一つでこんなにしょげている。

その様子を、困ったようにしてみながら三鈴は、

 

かわいい。ぎゅーてして、慰めてあげたい。

 

そんなふしだらなことを考え、脳内では変質者のごとくよだれを垂らしていた。

ともすれば、脳内だけでなく現実世界でも、三鈴の腕は、いつ瑠璃に抱き着いてやろうかと、ワキワキと怪しくうごめいている。

だけでなく、三鈴の中では抱き着くことは決定事項であり、カウントダウンにはいっていた。

 

10、9、8、76543

「おい!」

「ひゃい!」

 

なので、ナオミに声をかけられた時、人目もはばからず奇声を上げてしまった。

 

「どうしました。三鈴」

「な、なんでもないよ。

 携帯が、急にぶるっちゃって、びっくりしちゃっただけ。

 ごめんね。驚かせちゃって」

「そうですか」

 

何事もなかったかのように、きんぴら弁当の消費に戻る瑠璃。

三鈴は、瑠璃に背を向けると、スマホを耳に当て、小声で抗議の声を上げる。

 

「せんせい。急に、なんですか。びっくりするじゃないですか」

「それどころじゃない。

 緊急事態だ。

 今から、ここに直実の奴が通る。

 なんとか、一緒に昼食をとるように誘ってくれ」

「それは、構いませんけど。緊急事態なんですか?」

 

焦った様子のナオミに、三鈴は気を引き締める。

こんなに切羽詰まった顔のナオミを見るのは、初めてだった。

詳しい理由を聞こうとしたところで、直実が歩いているのが見えた。

楽しそうな顔で、大量のパンを抱えて歩いている。

 

「瑠璃、ちょっと、席外すね」

「どうぞ」

 

もくもくと、きんぴらを口の中に放り込み続ける瑠璃に、断りを入れる。

小走りに、直実の所へ向かうと、直実も三鈴に気付いたようだった。

 

「やあ、堅書君」

「勘解由小路さん。どうかしたんですか。

 急いでるみたいですけど」

「そういうわけじゃないんだけどね」

 

三鈴の背後では、ナオミが急げ、急げと騒いでいる。

女子が男子を誘うのに、ある程度の手順が必要なことが、ナオミにはわからないらしい。

大学時代、部屋にこもりきりで、あらゆる誘いを断り続けた男のコミュ力だった。

 

「そだ、ちょっと、図書委員のことで話したいことがあって。

 よかったら、お昼一緒にどうかな」

「委員のこと、ですか?」

「うん。そうそう。瑠璃もいるし。どう」

「一行さんも……、じゃあ、お邪魔させてもらいます」

 

決意を固めた様子で、頷く直実。

彼にとって、女子とお弁当というのは、かなりハードルが高いことなのだろう。

三鈴についてくる際も、手と足が同時にでる挙動不審ぶりである。

 

 

・予想外の変化

 

 

瑠璃から同席の許可はあっさり下りた。

食事が再開される。

 

「堅書君。すごいパンの量だね」

 

直実の抱える袋の中には10程度は、パンが入っているように思えた。

三鈴も食べる方ではあるが、線の細い直実がこの量を食べるのは、意外に思えた。

三鈴の指摘に、直実が苦笑いを浮かべる。

 

「実は、今日入荷の手違いで、ねじりパン以外も結構あまってて。

 ねじりパン以外食べる機会がないから、物珍しさでいっぱい買っちゃって。

 良かったら、二人も少し食べますか」

 

そう言って、直実が袋に入ったパンを並べていく。

いつもなら、即完売のカツサンドや、ホットドッグ、とろーりクリームパンなどもある。

毎回、あまりもののねじりパンを渋々食べている直実にとっては、宝の山にみえたのだろう。

お小遣いを使いすぎたと言いながらも、その顔に後悔の文字はない。

 

「ひい!」

 

それまで笑顔だった直実の表情が、突如恐怖のそれに変わる。

何があったのかと、直実の視線の先を追うと、ものすごい形相の瑠璃がいた。

いや、表情自体は普段とそんなに変わっていない。

ただ、その目力がすごい。

中学時代の三鈴なら、思わず土下座してしまいそうな迫力がある。

直実を連れてこさせ、 この状況を作り出した元凶のナオミの方にどういうことかと視線を向ける。

ナオミは、何故かそんな瑠璃を見て、ご満悦な様子だった。

野良猫を愛でる老爺のような目で、ライオンのような眼力の瑠璃を眺めている。

 

「堅書さん。それは」

 

瑠璃が口を開く。

そして、指さされたのは。

直実の手に握られたままの。

ねじりパンだった。

 

「え?これですか」

「そうです」

「ただのねじりパンですけど」

「そうではありません」

「違うんですか?」

「はい。違います」

 

ねじりパンの観察を始める直実。

彼なりに普段のねじりパンとの違いを確認しようとしているらしい。

三鈴がフォローへと回る。

 

「実は、瑠璃もそれ買おうとしたんだけど、売り切れてて。

 どうやって、買ったの?」

「ああ、そういうことですか。

 これ一個だけ、他のパンに紛れてたらしくて、おばちゃんがサービスでつけてくれたんです。

 いつも、僕がねじりパン食べてるからって」

 

残り物には福があるという奴だろう。

たまたま、最後の方でパンを買いにいったおかげでサービスしてもらえたらしい。

瑠璃の視線が、ねじりパンから一瞬たりとも離れない。

 

「あの、一行さん。良かったらどうぞ」

 

ねじりパンを差し出す直実。

瑠璃の視線が、ハッとねじりパンから離れ、直実を映す。

 

「いいんですか」

「はい。買いすぎて一人じゃ、食べきれませんし」

 

いつも変わらない瑠璃の表情が少しだけ、緩んだように見えた。

 

三鈴は、二人とは少しだけ距離をとって、傍らのナオミに小声で話しかける。

 

「緊急事態って、これですか」

「ああ、俺の時は、ねじりパンが手に入らず、彼女に渡すことができなかった。

 俺がこの世界に干渉した影響が、こんな形で現れるとはな」

「あんなに焦るから、何かと思えば」

 

文句を言おうかと、三鈴はナオミを見た。

けれど、結局は何も言わなかった。

幸せそうな瑠璃と直実を見つめる、その表情を見てしまえば、何も言うことなどできはしなかった。

ただ、どうしてだろうか。

その瞳の中に、昏く思いつめたような悲しみが少しだけ見えた。

そのことが、三鈴には気がかりだった。

 

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