(※致命的なネタバレ注意) Forgotten world(HELLO WORLD二次創作)   作:従弟

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ターニングポイント

・転換期

 

 

ターニングポイントというものがある。

転換期。

今後を決定づけるようなそういったタイミング。

 

「6月の古本市は、重大なイベントとなる」

 

そう言ったナオミは、三鈴に何もするな、と言った。

その顔は固く、重い決意を噛みしめているようだった。

 

 

・古本市の準備

 

 

「おーい、かでのん」

 

ナオミの態度の不可解さについて考えていた三鈴は、友人の言葉に我に返った。

古本市は図書委員が行うチャリティーイベントだ。

古本を集め、売り、その売り上げを寄付する。

ただ、イベントと言っても、高校生の行うもの。

小規模で、本も40冊も集まればいい方である

このイベントに、図書委員は何班かに分かれて準備にあたる。

瑠璃と直実は古本収集班。

三鈴は衣装班となった。

この規模のイベントで、売り子に特別な衣装がいるのかという疑問はある。

だが、この提案がなされた際、反対するものは誰一人としていなかった。

男女問わず、勘解由小路三鈴のコスプレ姿に期待したためだ。

そして、期待された三鈴はというと、一行瑠璃のコスプレ姿に期待していた。

 

三鈴は今、教室で友人たちと共に衣装づくりに精を出している最中だった。

 

「あっ、ごめん。手が止まってたね」

「いいけどさ。話聞いてた?」

 

真剣な顔で詰め寄ってくる友人。

周りにいる他の友人たちも、三鈴の方を見ている。

 

「ごめん。聞いてなかった。何の話だっけ?」

「好きな人がいるのかって話」

 

女子高生の定番トークだった。

女が三人以上集まれば、一度は確実に出る話題と言ってもいいだろう。

三鈴もクラスの友人とそういう話をすることはあった。

思い返すと、図書委員ではそういう話が出なかった気がする。

委員会という性格上、周りに男子がいることが多いからだろう。

衣装班は女子だけで構成されていて、男子はいない。

しかも、退屈な針仕事の最中だ。

恋バナが始まるには、絶好のタイミングと言えるだろう。

 

「好きな人か」

 

窓の外に、視線を向けて、三鈴は考える。

言われてみれば、中学時代の失恋以来、そういった感覚を味わっていない。

高校での新しい生活が忙しかった。

それに、ナオミの依頼や特訓、瑠璃と過ごしたりする時間。

そういったものに忙殺されていた。

ここに、恋人との時間など入れば、三鈴のキャパシティは崩壊してしまうだろう。

今は自分の恋愛よりも、瑠璃と直実の方が大切だ。

 

「わたしは、そういうの、しばらくいいかな」

 

笑って、あたりさわりのないことを言う。

そう、花火大会が終わって、瑠璃が助かって、それから。

ズキリ。と胸の奥が痛んだ気がした。

それから。

その先を考えることを、拒否するように、胸が痛む。

窓の外に、瑠璃と直実がいた。

学内では古本の収集率が悪いので、外まで集めに行くのだという。

本を集めると決めたなら、何としてもやり遂げないといけない。

そう言っていた瑠璃の顔を思い出す。

 

「やってやりましょう」

 

そう言った瑠璃の瞳には、強い決意の色があった。

彼女なりに、この古本市にかける思いがあるのかもしれない。

カタガキナオミが時節見せる昏いものではない。

未来への希望を持った明るい決意。

直実が、三鈴が、高校に入って変わろうとしたように、瑠璃もまた、この古本市を通して何かを変えようとしているのかもしれない。

それは、きっと、とてもいいことなのだと三鈴は思う。

 

「でも、かでのん。私知ってるよ」

 

先程の友人が、意地悪く笑いながら(と言っても悪意はない)三鈴に言った。

 

「ちょくちょく。せんせいっていう人と電話してるよね」

「あっ、それ、私も聞いたことある」

「そうそう、なんか、ちょっと気やすい感じで。私も気になってた」

 

ナオミとの会話を聞かれていたらしい。

手元の作業そっちのけで、詰め寄ってくる友人たち。

 

「あの人は、そういうんじゃないよ。

 ただの家庭教師みたいなものだよ」

 

この返答は、初期の頃に決めてあったものだった。

電話の内容を聞かれたら、家庭教師との会話にするというもので、せんせいと呼ぶのも、そのカモフラージュの一環だった。

 

「家庭教師」

「教師と生徒」

「禁断の愛」

 

キャー!と盛り上がる友人たち。

なるほど、思春期の女子高生ならば、男女一緒にいればどうやっても恋愛関係に持っていけるらしい。

そこに思い至らなかった三鈴の返答ミスといえる。

 

「本当に、そんなじゃないよ。

 大体、あの人は住んでる世界が違うっていうか。

 好きな人がいるんだ……し……」

 

言ってから気付く。

そうだ、ナオミは住む世界が違うのだ。

物理的に現実世界と記録世界という違いがある。

そうして、瑠璃を助けてしまえば、元の世界に帰る。

瑠璃の幸せな笑顔という記録を胸に、帰っていく。

10年間ナオミを縛り付けていた瑠璃への未練は消え、新たな一歩を踏み出すのだろう。

現実世界で。

そこに、三鈴はいない。

当然、三鈴の横にもナオミはいない。

今日までの、ナオミと過ごした日々を、思い返す。

そして、それがなくなってしまうことに、今思い至った。

 

ふわり、と温かいものに三鈴は包まれていた。

友人たちが何も言わずに、三鈴を優しく抱きしめ、手を握っていてくれた。

きっと、彼女たちは勘違いをしている。

三鈴が、思い人のいる男性に恋をし、失恋し、傷ついていると思っている。

実際には、そんな話ではない。

けれど、三鈴は、彼女たちの優しさに身をゆだねることにする。

別れは辛くても、乗り越えた先には、幸せが待っている。

それは、三鈴にも、ナオミにもきっといえることなのだ。

また、胸が痛む音がした。

 

 

・思い出の本たち

 

 

古本市を三日後に控え、古本市の準備は順調に進んでいた。

とはいっても、順調なのは会場の準備や、売り子の準備だけである。

肝心の古本収集の方は、難航しているようだった。

直実や瑠璃は真面目にやっている。

いや、昼休憩にわざわざ古本の提供箱を持って声かけ運動を行ったり、学外にまででて、本の提供を呼び掛けていたのだ。

普通以上に頑張っていると言っても過言ではない。

けれど、集まった数は37冊。

 

「まあ、集まった方じゃない。

 家にあったら、何冊か足しといてよ。それで十分だから」

 

図書委員長が、二人にあっけらかんと言う。

恐らくは、例年通りと言った感じなのだろう。

直実は明らかに、落ち込んでいた。

努力に対して、成果があまりにも少ない。

 

「ふむ」

 

瑠璃が、考え込むように、うなずく。

その瞳には、ゆらりと青い炎が燃え上がったように見えた。

衣装藩の仕事は、すでに終わっている。

三鈴にも、何か手伝えることがあるかもしれない。

 

「る……」

「やめろ」

 

席から立ち上がり、瑠璃に声をかけようとした三鈴を、ナオミが止めた。

 

「なにもするな。

 そう言ったはずだ」

「でも、このままじゃ」

「問題ない。どうしても、何かしたいというなら。

 そうだな、他の図書委員たちが、帰らないように、足止めをしておいてくれ。

 あの二人については、俺の方で見ておく」

 

そう言って、ナオミは図書室から出ていく瑠璃と直実を追っていった。

ナオミの表情が、古本市の開催が決まってから、いつも以上に固い。

なにか、水面だけ穏やかで、水中だけ荒れ狂っている海を見ている気分だ。

先ほどの態度も、妙につっけんどんで余裕がない。

不安があるなら話してくれればいいのに。そう三鈴は思う。

こうして一人で置いて行かれるのは、面白くない。

 

「けど、あのノートがあるなら、大丈夫か」

 

これからの未来が書いてある、最良の未来を引き寄せるための、ノート。

最強マニュアル。

これまでも、大枠に置いては、最強マニュアル通りに物事は進んでいる。

そして、順調に瑠璃と直実の仲も進展している。

ナオミに、全て一人で抱え込まずに、自分にも相談してほしいというのは、三鈴の感傷に過ぎない。

少し寂しい気はするが、計画については、ナオミに一任しておけば問題ない。

そうやって、気持ちを切り替えると、三鈴はナオミに言われたとおりに足止めをするため、部屋に残っている図書委員たちの話の輪に入っていった。

 

そして、数時間後。

夕日を背にして、リアカーに大量の本を積んだ直実と一緒に歩いてくる瑠璃がいた。

古本市に使うための本を、瑠璃の家から持ってきたのだという。

なんでも、瑠璃の亡くなった祖父が、大変な読書家でまだ、家に大量に古本があるのだと言う。

そして、それを、今回の古本市に寄付してくれるのだという。

リアカーに乗せられた大量の本に、三鈴と一緒にいた図書委員たちが、色めき出す。

これだけの本があれば、古本市はかなり大規模なものになる。

それに、図書委員になっているような人間は、多少なりとも本好きが多い。

大量の本を目の前にするだけで、テンションがあがってしまう。

 

「でも、いいの?瑠璃。

 これ、おじいさんの形見なんでしょ」

 

目の前の本は、ただの古本ではない。

恐らくは、瑠璃が子供のころから祖父と一緒に触れてきた本たちだ。

祖父との思い出であり、彼女を形作っている人生の一端ともいえるだろう。

そんなものを、提供してしまって本当にいいのか。

無理をしているんじゃないのか。三鈴は、それが心配だった。

けれど、そんな三鈴に対して、瑠璃はあくまでも穏やかだった。

 

「肩書さんにも、言いましたが、構いません。

 読まれてこその本ですし。

 きっと、祖父も、喜んでくれます」

 

三鈴は、なんだか感極まってしまって、思い切り瑠璃を抱きしめた。

瑠璃は少し抵抗したものの、すぐにあきらめたように三鈴を受け入れた。

 

次の日、図書委員総出で瑠璃の家から、残りの本を運んだ。

炎天下の中、リアカーで本を運ぶのは、人数が多くいても重労働だった。

学校へ本を運び終わった時には、皆疲れていたが、古本市の成功を思えば、疲労感も充実感へと変わる。

先輩たちは、古本市に使うための、昔ののぼりなどを引っ張り出し、騒いでいる。

いつもは孤立している瑠璃も、今日ばかりは古本市の成功に向けて、他の図書委員たちと一丸になっている。

 

「すまなかったね。一年の君たちに負担をかけてしまったみたいで。

 図書委員長として、もう少し、積極的に取り組むべきだった」

「い、いえ、そんな。本を提供してくれたのは、一行さんですから」

 

直実は、先輩である図書委員長から頭を下げられ、恐縮している。

けれど、まんざらでもないようにも見える。

その直実と、珍しく人に囲まれている瑠璃の目が合った。

劇的な変化があったわけではない。

二人はすぐに目をそらしてしまった。

それでも、二人の間に共通の困難に立ち向かうことで、なにか絆のようなものが芽生えているのが、はた目にもわかった。

三鈴は嬉しくなってしまった。

 

やっぱり、せんせいの言う通りで間違いない。

 

きっと、古本市は最高に盛り上がるに違いない。

そして、古本市の成功は、瑠璃と直実に確かな成功体験として、素晴らしい思い出になるはずだ。

更に絆を深めた二人は、そうやって、幸せの階段を登りながら恋人になるのだ。

そして、三鈴が、最後に決められた事故から二人の幸せを、守り切って終わりだ。

三鈴の目には、希望に満ちた未来が見えていた。

そしてそれは、瑠璃と直実もそうだったに違いない。

ただ一人、未来を知っているナオミは、学校の屋上から、そんな彼らを哀れむように見ていた。

 

次の日。

屋外に置いておいた古本が燃えた。

幸いぼやで済んだものの、消し炭しか残らなかった。

古本市の開催は、絶望的になった。

 

 

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