(※致命的なネタバレ注意) Forgotten world(HELLO WORLD二次創作) 作:従弟
・決められた未来
「先生は、知ってたんでしょ」
「ああ」
「じゃあ、なんで教えてくれなかったんですか」
「教えれば、君は止めただろう。
それをすれば、記録が変わる。
記録が変われば、彼女と直実は付き合えない。
彼女の事故も予測不能になる」
場所は、学校の屋上だった。
そこには、三鈴とナオミの二人しかいない。
「これも、彼女を救うために必要な工程だ」
ナオミの言葉には、一切の揺らぎがなかった。
ただ、事実を告げる。
昏い執念が、硬い意思を縛り、より強固に固定していた。
必死に、瑠璃を助けるためだけに動いている。
「だけど、これじゃあ」
三鈴は泣いていた。
理屈が分かって、決意が分かって、正しさが分かっても。
納得できず、悲しく、耐えきれず。
涙を流し続ける。
・経緯
古本市に使う本が燃えた。
原因は屋外に一緒に置いていたのぼりが、白熱電球に接触したことだ。
まず、風でのぼりが白熱電球へと倒れかけた。
白熱電球で熱せられたのぼりが燃え、そのまま、そばに置いてあった古本へと燃え広がった。
幸いというのなら、被害がのぼりと古本だけだったことは幸いだろう。
校舎に燃え広がっていれば、大惨事へと発展したに違いない。
けれど、それは、あくまで客観的な意見だ。
燃えた本は、瑠璃と直実が懸命に集め続けた本だった。
そして、その多くは、瑠璃が自主的に祖父の遺品から提供したものだった。
瑠璃が子供のころから親しんできた、今は亡き祖父の本。
それを提供してでも古本市を成功させようとした、瑠璃の決意。
それらは、一夜にして、灰になって消えた。
燃えてしまった本を見て、瑠璃はいつもと変わらないように見えた。
瑠璃の本を瑠璃の家の蔵から、リアカーで運んだ直実も。
その直実を手伝った、三鈴を含めた図書委員たちも。
瑠璃が何も感じていないなんて、思うことはなかった。
けれど、なにも言葉をかけることができなかった。
・未来への反逆
学校の屋上。
三鈴は、涙を流し続ける。
ナオミは、脇でただ立っていた。
その手には、最強マニュアルと書かれたノートが開かれている。
「古本市は中止になった」
子供を諭すように言う。
「古本市が中止になったことで、彼女は落ち込み。
励まそうと俺は、頻繁に話しかけ、結果距離が縮まった」
おだやかで、何の感情も、感じさせない。
「あいつもきっと、そうするはずだ」
もしかしたら、三鈴を慰めているつもりなのかもしれない。
仕方がなかったことなんだ。
元気を出せ。そういうつもりなのかもしれない。
そのことが、三鈴に、強い怒りを生んだ。
この人は、瑠璃を傷つけたことも、直実を傷つけたことも、三鈴を傷つけたことすら気付いているというのに。
何故、今自分自身が傷ついていることには、気付こうともしないのか。
ナオミは、平然としているつもりなのだろう。
この程度のことで、覚悟は揺るがさないと思っているのだろう。
だが、それだけの覚悟を持っていながら、目の前の三鈴に慰めの言葉をかけてしまう甘さを捨てきれていなのが、カタガキナオミなのだ。
「せんせい」
三鈴が、顔を上げナオミをにらむ。
「古本市を開きます。手伝ってください」
古本市は開かなくてはならない。
瑠璃の頑張りを、直実の頑張りを、決して無駄にしてはならない。
こんな悲しい結末はあってはならない。
けど、三鈴には知識も力もない。
ナオミなら、10年先の未来までの知識を持つナオミなら、三鈴の思いつかないような方法を知っているかもしれない。
いや、恐らく知っている。
そういう裏技のようなことに、ナオミは異常に詳しい。
恐らく、10年間「ああすればよかった。こうすることができた」そうやって公開し続けてきたのだろう。
バタフライエフェクトを修正する時、ナオミが思いがけないような修正の仕方をするのを、三鈴は何度か見ていた。
「言っただろ」
「拒否するなら、今後、わたしはせんせいを一切手伝いません」
ナオミが否定の言葉を出すよりも早く、言葉を紡ぐ。
事実上の敵対宣言である。
記録世界において、物理権限を持たないナオミは、三鈴の協力がなければ何の影響を与えることもできない。
つまり、ナオミの今後の計画が完全に破綻することを意味する。
「だが、そんなことをすれば」
「瑠璃の事故を防げないっていうんでしょ」
グッドデザインの練習も今はまだ半ばだ。
それに、記録にない行動をとることで、イレギュラーは爆発的に増える。
そうすれば、瑠璃を事故から守ることは、難しくなる。
「瑠璃は、わたしが守ります。
せんせいの手伝いはしません」
三鈴は、はっきりと言う。
「傷ついた瑠璃は、わたしが慰めます。
堅書君が入り込めないくらい、がっつり、わたしが瑠璃を慰めます。
そのまま、わたしが瑠璃と恋人になって。
花火大会でデートして、瑠璃を守ります。それで、問題ないはずです」
三鈴の暴論を、ナオミは真面目に考察する。
確かに、その方法なら、イレギュラーを極力回避することができる。
それに、三鈴が瑠璃の恋人になれば、四六時中くっついていても問題ない。
より長い時間、より近くでガードできる。
そうなれば、イレギュラーへの対処も可能だ。
グッドデザインの訓練も、直実を想定したものに比べると単純なものに変わったため、三鈴一人でも可能ではある。
「待て待て。君達は、女の子同士だろ。女の子同士で恋人には」
「なれますよ」
自信満々に言い放つ、三鈴。
三鈴の後ろに「やってやりましょう」という、大きな文字が見えた。
こうなっては、分が悪いのは、ナオミだった。
三鈴の言うやり方での成否はともかくとして、三鈴の協力がなくなるのは致命的だ。
それに、ナオミには、ナオミの目的がある。
三鈴のやり方では、その目的を達成することはできない。
「瑠璃を悲しませるカタガキナオミに、一行瑠璃は絶対に渡しません。
決めてください。わたしに協力して古本市開催に手を貸すか。
それとも、このまま、そのノートにしがみついて、指をくわえて見てるだけか」
三鈴の言うことが半分はったりであることは、ナオミにも分かっていた。
同時に、三鈴がやると言ったらやる女だということも知っていた。
それは、この目の前の三鈴だけではない。
現実世界で10年間付き合いのあった勘解由小路三鈴もそういう女性だったのだ。
いまいましそうに、ナオミは三鈴を見る。
三鈴もナオミを見ていた。
ナオミを見る三鈴の瞳は、赤く充血していて、その頬には涙の跡がくっきりと残っている。
「くそ」
ナオミは、舌打ちをして、最強マニュアルと書かれたノートを手元から消した。
「手伝いはするが、本当に開催できるかまでは保証できないからな」
ナオミの言葉に、三鈴が笑う。
まるで、ナオミがこう言うと分かっていたような顔だった。
ナオミに悲しんでいる瑠璃や三鈴を見捨てることなんてできない。
暗にそう言われている気がして、ナオミは気分が悪くなる。
目の前の少女の信頼を裏切らなくてはいけないのだ。
「あと、顔を洗ってこい。涙と鼻水でみれたもんじゃない」
デリカシーのないことを言うナオミに、三鈴の拳が飛んだ。