比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

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出張で遅くなりましたすみません。ようやく投稿できる。



それでは……


本編どうぞ!




10話 常識に囚われてはいけない

 妖怪の山と呼ばれる天狗達が住まう山の中に一軒の神社が立っている。

 

 

 その神社は守矢神社と呼ばれ、元々は幻想郷の外にあったのだが、信仰が得られなくなったため神社ごと幻想郷に引っ越した。そして守矢神社に住まう者達が信仰を集めるために異変を起こす。異変解決に乗り出した霊夢と魔理沙のおかげで無事に解決され、幻想郷はいつもの日常に戻っていった。そんな神社で新聞に夢中になっている娘がいる……

 

 

 「はわわ!私が地底にいる間に地上でこんなことが起きていたなんて……!」

 

 

 新聞を握る手に力が入りしわくちゃになってしまう。わなわなと震えた後、手を新聞ごとテーブルに勢いよく叩きつけた。

 

 

 「これは……異変ですね!」

 

 

 【東風谷早苗

 緑のロングヘアーで、髪の左側を髪留めでまとめている。白地に青と縁のラインが入った上着と、水玉や御幣のような模様の書かれた青いスカートを履いている。巫女装束のような服装であり、特徴的な腋の部分が露わとなっている。頭に付けた蛙と蛇の髪飾りは彼女の特徴ともいえるアクセサリーだ。彼女は守矢神社の風祝(かぜはふり)である。元々は外の人間だったために、感覚が幻想郷の人間と少し異なっている。

 

 

 そんな早苗は目の前に呑気にお茶を飲んでいる二人に抗議する。

 

 

 「神奈子様!諏訪子様!お茶飲んでいる場合ではありませんよ!今幻想郷は大変な危機に直面しているんですよ!」

 

 

 【八坂神奈子

 青に紫がかった色をしている。冠のようにした注連縄を頭に付けており、赤い楓と銀杏の葉の飾りが付いている。瞳は赤、そして背中に、大きな注連縄を輪にしたものを装着している。(日常生活内なら外している)

 上着は赤色の半袖、上着の下には、白色のゆったりした長袖の服を着ている。首元、上着の袖、腰回り、足首、とあちこちに小さな注連縄が巻かれている。

 

 

 座布団に腰を下ろしている神奈子の隣には幼くかわいらしい子供の姿がある。

 

 

 【洩矢諏訪子

 金髪のショートボブで、青と白を基調とした服に、足には白のニーソックス、頭には目玉が二つ付いた特殊な帽子を被っている。小さな子供を想像するような姿だがこれでも何百年以上も生きている。

 

 

 神奈子と諏訪子の二人は神様であり、大昔にお互い戦争した間だが、訳があり今では仲良く暮らして居る。そんな二人が早苗の方に視線を送りお茶ののんびり飲みながら聞く。

 

 

 「早苗は一体何を言っているんだい?異変は博麗の巫女らが解決しただろう?」

 

 「そうだよ、神奈子の言う通りだよ。早苗も地底に行ったのだからわかっていると思うけど?」

 

 「それはわかっています!私が言っているのはこれですよ!こ・れ!!」

 

 

 早苗は新聞を指さす。そこには天子のことが書いてある記事だった。

 

 

 「ああ、噂の天人だね。写真を見る限りイケメンだね。神奈子も好きでしょイケメン?」

 

 「イケメンを嫌いな女はいないだろ?それにしても……いい男だ♪」

 

 「そうだね。もし彼が守矢神社を信仰してくれるなら私達への信仰もあがるかもね!」

 

 

 などと他愛もない話をしていると先ほどから体を震わせていた早苗が再びテーブルに両手を叩きつける。

 

 

 「違います!確かにイケメンですが、騙されてはいけません!顔はいい男でも本当はもっと違うのです!」

 

 「違うって何がさ?」

 

 

 諏訪子が聞くと、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの顔で早苗は語る。

 

 

 「この天人は……この幻想郷を支配しようと企んでいるのです!」

 

 

 音に例えるとババーンッ!と聞こえてくるような気がした。

 

 

 「「……また早苗の妄想か……」」

 

 

 神奈子と諏訪子は同じことを思った。早苗は外に居た頃に漫画やファンタジー小説をこよなく愛する人だった。なので、頭の中もファンタジーに感染していると思われていた。一度や二度ならお年頃なのでわからなくもないが、今まで神奈子と諏訪子は何度同じ光景を見たか……二人にとっては何も変わらない日常の風景だった。

 

 

 「ちょっと!?二人ともなんで反応が薄いのですか!?幻想郷が悪者に支配されてしまうのですよ!?」

 

 「ごめんね早苗……私達、早苗の妄想には既に何回も付き合ったから今回はパスね」

 

 「そんな諏訪子様!?神奈子様なんとか言ってください!」

 

 「早苗……強く生きよ……」

 

 「神奈子様!?」

 

 

 ------------------

 

 

 早苗は人里へやってきていた。買い出しに来たわけではない。早苗はある人物を探していた……

 

 

 もう!神奈子様も諏訪子様も危機感が全くありません!これは一大事なんですよ……幻想郷中が天人に支配されて私達は奴隷のようにこき使われることになってしまうに決まっています!

 

 

 探していた……新聞に載っていた人物、比那名居天子を……

 

 

 「あれは……?」

 

 

 早苗は人だかりを発見した。一体何に集まっているのかと近くによるとそこには探していた人物がいた。

 

 

 新聞に載っていた通りの容姿ですね。髪は腰まで届く青髪のロングヘアに真紅の瞳、それに顔はイケメンそのもの……カメラが欲しい……私が外に居た頃にも学校にはイケメンは居ましたけど、それとは比べ物にならないほどの顔立ちですね。グッド!……あ、いけません!これは罠です!漫画やアニメでも天人ってのはどれも地上の民を見下している輩が多いのです。きっと天人は私達地上の民を騙して最終的にはこき使うつもりなんでしょう!汚い!イケメン天人汚いです!

 

 

 そんな訳のわからない妄想に支配されていると横に見知った顔がいることに気がついた。

 

 

 「あれは……妖夢さん?」

 

 

 天子の横にいるのは白玉楼の庭師である妖夢だった。二人は里の人達に囲まれていた。

 

 

 「いや~さっきはありがたい!天子の兄ちゃんのおかげで助かったよ」

 

 「妖夢ちゃんもありがとうね。今度サービスするよ」

 

 「そっちの子は天子さんの彼女さんか?」

 

 「か、かかかかかのじょだなんて!?わ、わたしとて、てんしさんはその……師弟の間柄でして……」

 

 

 なにやら里の皆さんから感謝されている様子ですね。しかし私は騙されません。妖夢さんはあの天人と仲がいい様子……妖夢さんに何かあったのでは?

 

 

 早苗があれこれ考えていると天子と妖夢の二人は移動し始めた。

 

 

 「それでは皆さん、また会いましょう」

 

 「おう!天子の兄ちゃんもまたな!」

 

 

 ムムム!妖夢さんと天人はどこかへ移動するみたいですね……これは尾行する必要があるようです。必ずこの東風谷早苗があなたの真の素顔を暴いてみせます!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天子と妖夢は人気がない森の奥地に入っていった。それを草むらや木の陰に隠れながら尾行する影がある……

 

 

 「妖夢さんをどこへ……」

 

 

 東風谷早苗が忍者顔負けの忍び術で後をつける……森の緑に早苗が保護色で一体となっている錯覚に覚えるようであった。早苗は正義感で溢れていた。幻想郷にやってきてからというもの自分の見るもの感じるものが違う世界で暮らすようになり、不便ながらも生きている。神奈子と諏訪子は信仰欲しさに異変を起こした。しかし、それも博麗の巫女らによって解決され、お仕置きを受けた。

 それから彼女はこの世界のことを勉強した。そんな中で知った、妖怪という存在が悪さを働いていることに……懲らしめなければならないと、退治しないといけないと思うようになった。それからというもの、妖怪退治や信仰集めの日々を送っていた時に地底での異変が起きた。早苗は地底にまで顔を出して異変を解決しようとしたが、博麗霊夢と出会い再挑戦することになったが結果は惨敗。落ち込んでいた時に例の記事を読んだ。

 

 

 そしてティンと来た!

 

 

 外の世界で漫画やアニメに没頭していた彼女は一つの結論を出した。天人は地上を支配しようとしているということを!どうしてこうなったと思うだろうが、彼女は大真面目である。人々を危機から救うために今、目の前の敵を追っていたのだ。

 

 

 「イケメンの天人が妖夢さんを引き連れて森の奥へ……ま、まさか……!?」

 

 

 妖夢さんにいかがわしいことをする気ではないでしょうか!?も、もしかしたらあの天人は自分がイケメンだからって女の子を甘い言葉で誘い出し、森の奥地へ連れて行ってあんなことやこんなことを強要しているのでは!?それか、妖夢さんを洗脳して自分の思いのままに操って地上のスパイを作り上げるつもりなのではないでしょうか!?こ、これは一大事です!神奈子様と諏訪子様にご理解いただけなくては……!

 

 

 そんなことを思っていると、天子と妖夢は向かいあった。

 

 

 「そ、それではお願いします……!」

 

 「緊張しなくて大丈夫だよ。さぁ、肩の力を抜いて」

 

 

 あわわ!妖夢さんがイケメンにいいようにされてしまいます!イケメンにならされてもいいかもしれませんが……はっ!?私は何を思っているのですか!?これもきっと天人の罠です。幻想郷のかわいい女の子達を誘惑して自ら自分を差し出させるよう仕向けているのですね!イケメンだからって何しても許されるなんて思わない事ですよ。でも、私は一人……今から誰かを呼ぶにしても間に合わないし……ここは!!

 

 

 「さぁ、妖夢は刀を抜いて……『ちょっと待ったー!!』……はっ?」

 

 「早苗さん!?なんでここに?」

 

 

 天子と妖夢は草むらから飛び出した早苗に注目する。先ほどまで草むらに隠れていたせいで髪に葉っぱや虫がついていたが当の本人は気にしていないようすだ。しかし二人は思う……何故ここに早苗がいるのかと。

 

 

 「話は聞かせてもらいました!覚悟してください!」

 

 「覚悟とはなんですか早苗さん?」

 

 

 妖夢は訳がわからないと首を傾げて早苗に問う。

 

 

 「大丈夫ですよ妖夢さん。今からそこにいる悪しき天人を懲らしめて妖夢さんをお救いします」

 

 「ちょっと落ち着いてくれ……」

 

 

 天子も訳がわからない様子だが早苗を落ち着かせようと試みるも常識に囚われない娘には無意味だ。今の彼女には常識など存在しない。

 

 

 「そう言って油断した私を洗脳しようとする作戦なのですね。でも残念でした!私にはあなたの考えていることが手に取るようにわかるのです。地上を支配しようとする悪しき天人は退治されるべきです!覚悟ー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 秘術『グレイソーマタージ』!!!

 

 

 数多くの弾幕が天子を襲った……

 

 

 ------------------

 

 

 「ええっと……刀は持った、髪は変なところなし、服装も……大丈夫」

 

 

 半霊が横でプカプカと浮かんでおかしなところがないか確認するように飛び回る。鏡の前で自分の姿を整えているのは魂魄妖夢、今日はいつも以上に気合の入った表情をしているように感じた。

 

 

 「大丈夫……だよね?もし笑われたりしたら……」

 

 

 もし笑われたりしたら私はショックで立ち直れないかもしれません……でも天子さんは優しいからそんなことはないはずですし、逆に褒めてくれるかも……もしかしたらかわいいって言ってくれるかもしれない。「妖夢、前よりかわいくなったね」なんて言われたら……ど、どうすればいいでしょうか幽々子様!!

 

 

 妖夢は鏡の前で頬に手を当てて妄想相手に葛藤している最中に、隣には別の亡霊が佇んでいた。

 

 

 「私に何か用かしら?」

 

 「幽々子様……えっ?ええええええええええええ!?ゆ、ゆゆこ様なんでここに!?」

 

 

 妖夢は幽々子が隣にいたことに驚いて尻もちをついてしまった。

 

 

 「大丈夫妖夢?妖夢が私を呼んだ気がしたから来ただけよ。はい、立ち上がれる?」

 

 「す、すみません……幽々子様」

 

 

 自身のみっともない姿を去らずことになって少し顔を赤色に染める妖夢は幽々子の手を借りて立ち上がる。そんな妖夢の姿を嬉しそうに見ながら幽々子は妖夢を揶揄うように言う。

 

 

 「スカートの中も張りきっているわね。天子さんに見せる気なのかしら♪」

 

 「ゆ、ゆゆこしゃま!!?」

 

 

 幽々子の言葉に咄嗟にスカートを抑える。顔を赤色に染めて、妖夢は弁解しようとするが言葉が見つからず右往左往するしまつに、幽々子は笑いが止まらない。

 

 

 ゆ、ゆゆ、ゆゆゆゆこさまのばか!天子さんに見せるなんて破廉恥です!わ、わたしは戦うことを想定してただ……その……見られてもいいようにしただけで……天子さんなら別に見られても構いませ……あっ!い、いまのは違うんです!決して天子さんに見られてもいいだなんてそ、そんなこと思っていません!絶対に!ぜっっっっっったいに!そんなことありませんよ!!そ、そんなことよりも!幽々子様は私の心の中が読めるというのですか!?

 

 

 「読めるわよ」

 

 

 え”え”え!?幽々子様そんな能力なかったはずですけど、新たな能力に目覚めてしまったのですか!?

 

 

 「読めるって言っても、妖夢の態度と顔を見れば事情を知っている人なら誰だってわかるわよ。今の妖夢はとってもわかりやすいしね」

 

 「そ、そうでしたか……」

 

 

 能力ではなかったのですね。よかったです……心の中を読むことができるなんて私の考えていることが全て赤裸々にされてしまう……天子さんとの思い出も……って!?天子さんのことは今関係ないですから頭から離れないと!

 

 

 「本当に妖夢はわかりやすいわね……全部顔に出てるわよ」

 

 「うぅ……」

 

 

 不甲斐ない……表に全部出てしまっているなんて、これじゃ幽々子様の従者として恥ずかしいじゃないですか……

 

 

 そう思っていると幽々子は妖夢の頭にデコピンをくらわせた。

 

 

 「いた!うくぅ……幽々子様またデコピンですか……」

 

 「妖夢、私のために強くなろうとしてくれているのは嬉しいけど抱え過ぎよ。あの日全部お互いに今までのため込んでいたものを吐き出したばかりでしょ?」

 

 「あっ!」

 

 

 あの日とは、天子さんに救われた忘れもしないあの日のこと……

 天子さんが帰った後は幽々子様とずっと一緒でした。いつもならお互いに一人部屋で寝るのにその日だけは一緒に寝ました。幽々子様が抱き着いて離さなくて苦しかったですけどとても温かかった。布団に入りながらお互いに思っていることを全部言い合いました。私もいろいろと幽々子様に言ってしまいましたが、その後とてもスッキリしました。次の朝はとても清々しい朝になりました。新たな魂魄妖夢として人生を歩むかのような感覚でした。

 そうでした。抱え込まずに分け合えばいいのです。幽々子様が、天子さんもいます。一人じゃできないことでも、誰かの手を借りればきっとできるようになる。誰かの手を借りるのは決して恥ずかしいことではない。抱え込まずに、誰かに思いを分かち合えばいい……幽々子様はそう私に言いたいのではないかと思います。

 

 

 妖夢は真っすぐに幽々子を見つめると幽々子に伝わったのか満足そうな顔になった。

 

 

 「成長したわね妖夢、ほんの1ミリ程だけど」

 

 「それっぽっちですか……」

 

 

 幽々子様に認めてもらうにはまだまだ先の話でしょうかね?でも、頑張って必ず認めてもらうのですから。

 

 

 「ふふ、いい顔になったわね。それでなんだけど時間はいいの妖夢?」

 

 「あっ……ああ!?」

 

 

 つい準備に時間をかけすぎてしまった!早く行かないと待たせてしまう!

 

 

 「幽々子様すみません!後はよろしくお願いします!」

 

 「はいはい、いってらっしゃ~い!」

 

 

 幽々子は笑顔で妖夢を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 約束の人里に近づいて来た。心臓の鼓動が早くなり、高ぶるのを感じる……緊張していた。一歩一歩足を踏み出すたびに体が硬くなっていく。いつもなら人里に来るだけでは緊張などしない。私は人見知りでもない。だが、今日はあの方がいる。あの方が人里で待ち合わせをしている。あの方と約束をしている。あの方と一緒にいられる……あの方とは……

 

 

 「やぁ、妖夢元気してたか?」

 

 「ふぁ、ふぁい!天子ひゃん!」

 

 

 おもいっきり噛んだ……私の……バカ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天子と妖夢は約束していた。「教える前に人里で一緒に見て回ろう」そう天子は言ったのだ。妖夢は天子の弟子となり、稽古をつけてもらうために人里へやってきた。初めての自分の祖父以外の男性から剣術を教えてもらうことに緊張しているのは当然ながらだが、妖夢にはもう一つ思いがあった。妖夢自身もおそらく気づいていないだろうし、初めての感覚なので答えが全く見いだせていなかった。正体がわからない感覚に戸惑いつつも天子に会える日を心待ちにしていたのに出だしがこの調子である。

 

 

 「あはは、噛んじゃったね」

 

 「ふぁい……じゃなくて……は、はい……」

 

 

 穴があるなら入りたい。会ったばかりなのに醜態を見せるなんて一生の不覚です。で、ですが、私は挫けません。失敗してもそれが糧になるのです。落ち着け、落ち着いて深呼吸……いつもの私になれ!

 

 

 「妖夢大丈夫かい?」

 

 「……はい、大変お見苦しい所をお見せしてしまいました」

 

 「見苦しいだなんて……寧ろかわいかったけどな」

 

 「か、かかかわわあわ!?かわかわいあわわ!!」

 

 

 もう天子さん私が折角落ち着いたのに卑怯です!もう一度、もう一度落ち着くのよ……!

 

 

 それから数分後に落ち着きを取り戻した妖夢と共に天子は人里を回った。天子と共に人里を歩いているだけでいつも目にしている光景が一層と変わっていた。楽しいと思えた。目的も持たずにただ人里を歩くだけでこんなに心が満たされていた。もっとこの時間が続くように祈ってしまうぐらいに。天子はその中で、重い荷物に困っている人が居れば手伝ったり、天子が買い物をするとその店の亭主がサービスしてくれたりと妖夢は驚かされた。天子一人にさせるのはダメだと思い妖夢も手伝ったが、それでも妖夢は天子を尊敬するばかりだった。

 

 

 天子さんって地上に下りてきたばかりって言っていたけれど、もうこんなに溶け込んで……里の人々は天子さんをもう信頼しているし、やっぱり天子さんは凄い方です!

 

 

 妖夢が天子に尊敬の眼差しを送っていると天子が振り返る。

 

 

 「妖夢、楽しんでいるか?」

 

 「はい、天子さんといるとなんだかいつも以上に楽しんでいる自分がいます」

 

 「そうか、それはよかった。誘って正解だったね」

 

 

 天子が笑うと妖夢は鼓動が一気に高鳴るのを感じた。

 

 

 あ、あれ?なんですかこれは?なんだかボーっとします。熱でもあるのでしょうか、なんだか体が熱くなっている気がします……天子さんに風邪を移すわけにはいきませんけど、喉も痛くないし、咳も出ていません。私は風邪を引いてしまったのでしょうか……?

 

 

 天子を見つめていると周りに天子を知る者達が集まって来た。

 

 

 「いや~さっきはありがたい!天子の兄ちゃんのおかげで助かったよ」

 

 「妖夢ちゃんもありがとうね。今度サービスするよ」

 

 「そっちの子は天子さんの彼女さんか?」

 

 「か、かかかかかのじょだなんて!?わ、わたしとて、てんしさんはその……師弟の間柄でして……」

 

 

 な、なにを言っているのですか!?わ、わたしと天子さんが恋人同士だなんて……天子さんだってそう思われたら困るはずですし、私なんかじゃ不釣り合いですし、天子さんにはもっと素敵な方が似合います……わ、わたしはまた天子さんのことばかり!?もう私は天子さんの弟子なんですから変なこと考えないようにしないといけないのにー!!

 

 

 そんな時、天子は妖夢に耳打ちして言った。このままだと妖夢に稽古をつける時間がなくなってしまうので、人目につかない場所に移動しようと言ったのだ。妖夢もこれに了承して二人は別れを済ませる。

 

 

 「それでは皆さん、また会いましょう」

 

 「おう!天子の兄ちゃんもまたな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人目につかない森の奥地にやってきた。私一人なら怖かったでしょうが、天子さんが傍にいるから全然怖くありませんでした。それに今は二人きり……また緊張してきました。これから稽古をつけてもらうだけなのに何故こんなに緊張するのでしょうか?わかりません……わかりませんが嫌な気分ではありません。もっとこの時間が続けばいいのに……

 

 

 天子と妖夢は広さがある空間にやってきた。そこで稽古を始めようとした時に()()が草むらから飛び出して来た。

 

 

 「さぁ、妖夢は刀を抜いて……『ちょっと待ったー!!』……はっ?」

 

 「早苗さん!?なんでここに?」

 

 

 野生の東風谷早苗が現れた!

 

 

 ------------------

 

 

 人里で待っていると向こうからやってきた妖夢に話しかける。

 

 

 「やぁ、妖夢元気してたか?」

 

 「ふぁ、ふぁい!天子ひゃん!」

 

 

 いきなり噛んだ妖夢……本当にかわいいわね。抱きしめてあげたい衝動にかられた程だ。やっぱり妖夢は侮れない子のようね。それに緊張しているようだ。それが更にかわいらしらをアップさせる。

 

 

 私はこの前一度白玉楼を訪れた、その時はただ寄っただけなのと、借りていた着物を返しに行っただけだった。その時に妖夢と約束した。稽古をつける前に人里を一緒に見て回ろうと。それで私は妖夢と待ち合わせをしていたのだ。

 

 

 「あはは、噛んじゃったね」

 

 「ふぁい……じゃなくて……は、はい……」

 

 

 呼吸が荒くなっている妖夢。ちょっと心配するぐらいに息が荒いけど大丈夫?体調が悪いなら休んだ方がいいと思うけど……

 

 

 「妖夢大丈夫かい?」

 

 「……はい、大変お見苦しい所をお見せしてしまいました」

 

 「見苦しいだなんて……寧ろかわいかったけどな」

 

 「か、かかかわわあわ!?かわかわいあわわ!!」

 

 

 妖夢は混乱している。妖夢は初心だから甘い言葉にすぐにコロッとされてしまう。顔を真っ赤して体をモジモジさせている妖夢を見れるなんて……私は感激だ。妖夢の精神的面を考えて、稽古をつける前に人里でリラックスしてもらおうかと思っていたけど、あたふたして恥ずかしがっている姿が凄くよかった。脳内メモリーはパンパンですよ。

 

 

 それから落ち着きを取り戻した妖夢と人里をぶらぶらした。天子は困っている人が居れば手伝い、店の亭主がサービスしてくれた。妖夢はそのことに驚いていた。そして妖夢も天子のためにと協力した。

 

 

 「妖夢、楽しんでいるか?」

 

 「はい、天子さんといるとなんだかいつも以上に楽しんでいる自分がいます」

 

 「そうか、それはよかった。誘って正解だったね」

 

 

 本当によかったよ。こうやって仕事から解放されてぶらぶらするのも一つの興だね。妖夢もあの事件以来大丈夫か心配していたけど問題ないようだ。天界へ帰った後も正直心配だった。幽々子さんがいるから大丈夫だろうと思ったけど、私が心配で寝付けなかったぐらいだ。天界から冥界覗けないかな?って思って実行しようとしたぐらいだしね。まぁ、寝付けなかったのは、衣玖にこってりお説教を受けたのもあるけどね……

 でも、今の姿を見ていると安心した。それも前よりも清々しい顔つきだったし、いいことあったんだろうね。よかったよかった♪

 

 

 そうしていると周りに見知った顔の者達が集まっていた。さっき天子が手伝ってあげた人もそこにはいた。

 

 

 「いや~さっきはありがたい!天子の兄ちゃんのおかげで助かったよ」

 

 「妖夢ちゃんもありがとうね。今度サービスするよ」

 

 「そっちの子は天子さんの彼女さんか?」

 

 「か、かかかかかのじょだなんて!?わ、わたしとて、てんしさんはその……師弟の間柄でして……」

 

 

 私が彼女連れて歩いていると思ってそそのかしにやってきたのかな?だいぶ集まって来たね……私の人望ってここまで凄いんだ……それに妖夢は絶賛興奮中だ。う~ん、このままだと妖夢に稽古教えるって約束したのに時間がなくなってしまう。人目につかない場所にでも行こうか。

 

 

 「それでは皆さん、また会いましょう」

 

 「おう!天子の兄ちゃんもまたな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達は森の奥地の人気のない場所に向かった。妖夢に稽古をつけるために人目につかない場所を選んだのは単に私が教えているところを見られるのが恥ずかしいのと、教え方下手なの妖夢以外に見せたくなかったから。森の奥地で教えるのはどうかと思ったけど、ここは日が差し込んで明るいし、私が周りに気をつかって妖怪共が近づいてきてもすぐに察知できるようにしていた。していたはずなんだけど……私のレーダーに反応せずに現れたのは「また守矢か」で有名な早苗だった。

 私に気づかれずに近づいてくるなんて何奴!?っと一瞬思ったけど早苗なら納得だ。だって彼女に常識なんて通用しないし……私の理解が及ばない領域の現人神であるために予想もしないことを起こす。だから早苗が現れてもただ彼女の迷言の通りに「この幻想郷では常識に囚われてはいけないのですね!」で済んでしまう……不思議だ。

 なので私は考えることをやめてこの場のノリに任せることにした。

 

 

 「話は聞かせてもらいました!覚悟してください!」

 

 「覚悟とはなんですか早苗さん?」

 

 

 そりゃそうだ。妖夢もそう思うよね?覚悟ってなんのことですかね?それに早苗は戦闘態勢に入っている……嫌な予感がした。

 

 

 「大丈夫ですよ妖夢さん。今からそこにいる悪しき天人を懲らしめて妖夢さんをお救いします」

 

 「ちょっと落ち着いてくれ……」

 

 

 私が悪者設定にされてしまっている。流石は早苗だ。常識が通用しない……しかし困ったぞ。落ち着かせて話を聞いてくれればいいけどな……

 

 

 「そう言って油断した私を洗脳しようとする作戦なのですね。でも残念でした!私にはあなたの考えていることが手に取るようにわかるのです。地上を支配しようとする悪しき天人は退治されるべきです!覚悟ー!!」

 

 

 やっぱりだめでした。うん……わかってた。何故に私が悪者になっているか知らないけど話が通じないことは既に想定済みです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 秘術『グレイソーマタージ』!!!

 

 

 数多くの弾幕が天子を襲った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 っと思っていた?想定済みって言ったでしょ?だから私は即座に反応してみせる。

 

 

 天子は緋想の剣を取り出すと、次々に弾幕を切り裂いていく。切り裂かれた弾幕は消滅し、早苗のスペルカードを一枚失ってしまう。

 

 

 「ムムム!やりますね。私の弾幕を全て消滅させるなんて……」

 

 「単純な攻撃だったので、振るうだけで終わってしまったよ」

 

 

 早苗は口をへの字に尖がらせて唸った。天子の言葉に悔しさを感じている様子だった。

 

 

 「こうなったら私は手加減しませんよ!私のとっておきを見せて『早苗さんいい加減にしてください!』ひゃい!?よ、ようむさん……!」

 

 

 早苗に刀を向ける妖夢はとても怒っている様子だった。

 

 

 「早苗さん!いきなり天子さんになんてことするんですか!人の話も聞かずに!」

 

 「だ、だって……悪しき天人に妖夢さんがこれからいかがわしいことをされてしまうと思って……」

 

 「い、いかがわしいなんて!?て、てんしさんがそんなことするわけがないでしょう!」

 

 

 妖夢ってば、顔を赤く染めてかわいらしい♪早苗が何故ここにいるかはわからないけど、大体早苗が勘違いしていることに気づいた。妖夢が早苗を大人しくさせてくれたおかげで話せそうだ。

 

 

 「早苗、あなたとお話したいのですけどいいかな?」

 

 「えっ……ま、まぁ………いいですけどね……」

 

 

 熱が冷めて落ち着きを取り戻した早苗に事情を説明する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ええー!?天子さんっていい天人だったんですか!?」

 

 

 説明すると早苗は信じられないといった顔で天子を悪者認定から善人認定に変更された。

 

 

 「そうですよ。天子さんが悪者なんて絶対ありえません!」

 

 「天子さんは天人の中でも、漫画に出てくる特別な友好的キャラ設定だったんですね」

 

 

 早苗は相変わらず早苗でした。それより早苗の中では天人=悪者ってイメージなの?地上のことを良く思っていない方がいるのはいるけど、その天人の方も悪党ではないからね?価値観の違いってやつだよ。

 

 

 「なるほど……稽古ですか。なら私もお手伝いしましょう!私が協力して差し上げるのですから妖夢さんにはもう敵なしです!」

 

 

 なんでそんなに自信満々なの?でも、協力してくれるならありがたいよね。お言葉に甘えて早苗に手伝ってもらおうかな。

 

 

 「それはありがたい。妖夢はいいかい?私じゃ上手く教えることができないので、早苗が居てくれた方が私が気がつかないことを指摘してくれるかもしれないけど……どうする?」

 

 「天子さんがそう思うのならば私は何も言いません。早苗さんよろしくお願いします」

 

 「こっちこそ、ただ稽古に付き合うだけじゃありませんよ!妖夢さんをギッタンギッタンにやっつけて差し上げます!」

 

 「それじゃ、改めて準備しようか」

 

 

 ------------------

 

 

 「早苗は今頃何しているかな?」

 

 

 目玉のついた帽子をクルクルと回して遊ぶ諏訪子が神奈子に問う。

 

 

 「さぁ?早苗のことだし、何が起きても不思議じゃないよ」

 

 「そうだね。それにしても神奈子さっきから新聞ばかりに目を通しているじゃん?その天人がそんなに気に入ったの?」

 

 

 神奈子が持っている新聞を覗き込むとそこには天子のことが書かれてあった。

 

 

 「ああ、いい男だし、イケメンだ。諏訪子が言った『もし彼が守谷神社を信仰してくれるなら私達への信仰もあがるかもね!』これは大きいと思ってな」

 

 「はは~ん……異変起こすの?」

 

 

 理解した上で諏訪子は問う。しかし、神奈子は首を横に振った。

 

 

 「異変は起こさない。しかし、比那名居天子は実にいい。鬼を倒してしまうなんてね」

 

 

 新聞の方を見ながら神奈子は久しぶりの感覚が見え隠れしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「一度でいいから戦ってみたい男だね」

 

 

 神奈子が新聞を見ながら呟いた。するとどこからか声が聞こえてきた。

 

 

 「戦うなら油断しない方がいいよ。天子は強いからね」

 

 

 その声の主の姿は見えない。神奈子の傍には諏訪子だけだが彼女ではない……だが、神である二人にはわかっていた。

 

 

 「神の会話を聞き耳する奴がいるとはね……誰だい?」

 

 

 神奈子と諏訪子は一点を見つめる。周りの霧がその一か所に集まりだして形を作っていく。

 

 

 「私は伊吹萃香だ。親友(とも)と宴会する場所を探している」

 

 

 霧の正体は小さな小鬼だった。

 

 


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