本編どうぞ!
「はぁ!」
「甘いですよ!妖夢さん!」
「きゃん!」
どうも皆さん比那名居天子(♂)です。妖夢に稽古をつけてあげようとしたら早苗が現れて、彼女も一緒に稽古をつけてくれることになった。只今妖夢の太刀筋を見るために早苗に頼んで戦ってもらっている。
生前の私は戦いに身を置くことなんてなかったし、喧嘩も弱かったし、暴力沙汰なんて無縁だった。しかし転生して天子になってからは己を磨き上げた。体の動かし方や緋想の剣を使えるように剣術を学んだ。天界には戦うなんて野蛮なことをする天人がいなかったので、私は初めは変人だと思われていただろう。でも、私が天界で得た信頼の効果が有利に働いた。今では「天子様がいるなら天界の安全は守られたも同然だ!」「天子様が緋想の剣を使うお姿が美しい!」など私の鍛錬している姿を観戦する者までいたぐらいだ。あの時は恥ずかしかった。内面はドキドキが止まらなかったが、今ではもうそんなことはなくなった。
それで妖夢の姿を見ていると刀が縦や横に振るわれる。綺麗な姿だった。一直線で曇りのない真面目な妖夢を映しているような太刀筋だった。十分すぎるぐらいに見惚れてしまう姿だった……が、現実は綺麗だけではだめだ。
妖夢だってただ刀を振るっているだけではないことはわかる。しかし、戦いになれている者や己より上の強者であるならば妖夢の刀の軌道を読めてしまう。
単純……簡単に言ってしまえばそうだった。妖夢の太刀筋を悪く言うつもりは私にはないのだけれど、私にはそう思えた。私が戦闘狂になってしまったからなのかわからないけど、萃香との一戦で得た経験は途方もないものだったことがわかる。萃香は真っすぐにかかっていくと見せて私の後ろをとった。決して卑怯なことなのではない、あれは戦いに置いての基本、相手の背中をとることは戦況を優位に進めることであり、生きるか死ぬかの世界では当然なことだ。それに比べると妖夢は早苗に対して真っすぐに攻めて行くばかりで、早苗もそれがわかっているのか背後を気にしていない様子だ。それに……
「妖夢さん、まだまだですよ。今の私はスーパー東風谷早苗なのです。妖夢さんが今のままならば私には勝てませんよ?」
「な、なんですか?そのスーパー東風谷早苗って……?」
「ふふふ、教えてあげましょうか?それはですね……」
「それは……?」
妖夢は早苗の話を聞こうとして、刀を握っている手の力を抜いた瞬間を早苗は見逃さなかった。
「隙ありです!」
「――うわぁ!?」
間一髪で早苗の攻撃が妖夢に直撃するところだった。妖夢は慌てて早苗との距離を離す。
「避けられてしまいましたか……」
「卑怯ですよ早苗さん!話の途中で攻撃なんて……!」
「戦いに卑怯もクソもないのですよ!それに戦っている途中ですよ。私がその気だったなら妖夢さんは今頃白玉楼に逆戻りでしたよ」
早苗の言う通り妖夢は戦いの途中でも相手の言葉に耳を傾けてしまう。真っすぐなのは悪い事ではない、相手が早苗だからってのもあるかもしれないけど、今の妖夢は戦場の怖さを知らずに戦に挑む若者その姿だ。私も戦場なんて経験は萃香の一戦だけだけど、あの戦いが私を大きく成長させてくれたようだ。ありがとう萃香……
それに早苗はワザと妖夢に隙を作らせているようだ。早苗は時々私の方を見て目で何かを訴えていた。早苗は妖夢に汚い戦術があるのだと教えているようだった。あれ?早苗って私よりも教え方上手くない?私の出番ないんじゃないかな?それに早苗って5面ボスで妖夢と同じはずなのに早苗の方が強く見える……妖夢が弱いって言っているわけじゃない。そう見えるだけだ。実力的には同じだが、戦い方は早苗の方が様々な戦術を駆使しているのに対して、妖夢は刀と身の一本で戦っている様子ね。
「私は地底で霊夢さんと再び戦ったんですが、勝てませんでした。だから私はいつか霊夢さんを超えられるように戦術も考えたんですよ。丁度妖夢さんが居ましたし、試してみたいと思っていたんです」
なるほどね。霊夢の存在が早苗を強くしたみたい……地底の一件は私が知らない所で早苗を成長させたみたいだ。私なら上手く教えられないだろうからつけてきてくれてよかった。私だけじゃ不安だったから……
「(ぐぬぬ、天子さんの前でこんな醜態は見せられません!)」
「そろそろ決着の時ですよ!妖夢さん!」
「私だって負けません!」
それから妖夢と早苗の戦いは激しさを増し、結果勝ったのは……
「やりました!私の勝ちです!」
「くっ!」
早苗が勝利した。服はお互いに汚れていて、死力を尽くしたことが窺える。
弾幕を駆使したおとり作戦が妖夢の目を眩ませた時に勝負がついた。妖夢は余程悔しかったのか地面の土を握りしめて手が汚れていた。
「妖夢、負けたな」
「天子さん……」
そんな泣きそうな顔しないで妖夢。よく戦ったと思うし、早苗もギリギリだったみたい。ただ早苗の戦術が一歩先を行ったのよ。私なんやかんや思っていたけど、やっぱり妖夢の真っすぐな戦いの姿勢が好き。一直線に突き進もうとする妖夢の姿は逃げて隠れていた昔の私には決してありえないもの……羨ましいわ。だから、私は妖夢にはそのままでいてほしいし、戦い方もいろいろある。私がちょいちょい教えていって妖夢にもわかってもらえるように私自身も努力するわ。妖夢にはこれから先、成長する機会があるだろうし妖夢の成長した姿を見てみたい。白玉楼の前で会ったあの方にも成長した妖夢を見せてあげたいから……
「天子さん……私……負けてしまいました……」
「妖夢、顔をあげてくれ。綺麗な顔が台無しだよ?」
それでも妖夢は悔しさに染まった顔を上げようとしなかった。普段の彼女なら綺麗と言われれば動揺しただろうが、今の妖夢にはそれがなかった。
「あの……私……不味かったですか?」
早苗は悪くない。寧ろとてもよかったわ。妖夢に戦いの厳しさと悔しさを教えてくれたんだから……
「いや、早苗は妖夢に大切なことを教えてくれた。私が教えるよりも良かったと思うよ。ありがとう」
「い、いえ……そんなことは……ありますよね!やっぱり私って才能溢れる天才児ですからね」
やっぱり早苗は早苗だね。これが早苗の良い所でもあるんだろうけど……さて、妖夢にも元気を出してもらわないとね。しかし、だいぶ落ち込んでいるわね。悔しさを知ることはいいことだ。だけど、そこで止まってしまったら一生壁に阻まれて前には進めない……妖夢一人じゃまだ難しいから私が何とかしてあげないと……
「妖夢……私を見なさい」
「……」
うつむいたまま顔を上げようとしない妖夢。天子はこのままでは駄目だと思い、妖夢の頬に手を添える。
「あっ」
早苗がその光景を見て思わず声に出した。
そっと添えられた手が優しく妖夢の顔を天子の方へ向けさせる。妖夢の顔と天子の顔が近づいて息がかかるぐらいの距離しかない。
「て、てて、てんし……しゃん!?」
「妖夢、元気を出してくれ。今回は早苗に負けたがそれが終わりじゃない。始まりなんだ。人は負けて強くなり、勝ってまた負けて更に強くなっていく。負けたことを糧にしないといけないよ?妖夢はこれから強くなれると私は信じている。だから、私も力を貸すし早苗だって協力してくれた。妖夢は決して一人じゃないよ」
「天子……さん……」
私は今とてもいいこと言った。誰かが信じてくれるとわかるだけでも強さになるからね。あの人のためならこの人のためにって奮起できる。思いは強さだよ妖夢。それに妖夢の悲しそうな顔なんて見たくない……やっぱり妖夢はかわいいんだから笑顔じゃないといけないよ。
「それに、妖夢のそんな悲しい顔なんて私は見たくないからね。笑っている妖夢が私は一番好きだ」
「ひゃ、ひゃい!?」
「(うわぁ~!天子さんったら大胆♪)」
天子のイケメンロールの甘い言葉に妖夢の顔が真っ赤になって湯気が出る。どんどんと体温が上がっていき妖夢の頭がオーバーヒートしてしまい……
「きゅぅ……」
妖夢は気を失ってしまった。
「よ、ようむ!?どうしたんだ!?」
妖夢が倒れちゃった!?私ってやりすぎた!?最近イケメンロールし過ぎかしら……そんなこと思っている場合じゃないわ!妖夢帰って来てー!
気を失った妖夢を抱く天子は動揺していた。そんな光景を見ている早苗は思う。
「(天子さんはジゴロだったんですね。やっぱりイケメンこうでなくてはいけませんね!意識無意識関係なく女の子達を落とす誘惑の言葉!あ~あ、私にも一度でいいですから壁ドン経験したいですね。やってくれないですかね?)」
現代少女は考えることが違う……
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「お茶が入りました。幽々子様、紫様」
「ありがとうね藍ちゃん」
「ありがとう藍」
妖夢を送り出してすぐのことだった。藍を引き連れた紫が幽々子の元へ遊びに来たのだ。幽々子と紫は旧知の仲であり、生前の幽々子を紫は知っている……幽々子はそのことを憶えていないが。それでも二人の仲はとてもいい。気軽に遊びに来る程度よくあることなのだ。
「幽々子、最近どう?なんだか嬉しそうじゃない?」
無意識に笑顔になっている幽々子の姿に紫が聞く。普段みせている笑顔よりも今日のは一段と楽しそうだったので聞いてみることにした。
「あら?わかる?私の妖夢が今デート中なのよ」
「で、でーとですか?!」
紫の横にいた藍がたまらず驚く。妖夢は超が付くほどの真面目で男に簡単に騙されてしまいそうな性格であるためにもし彼氏ができたとしても幽々子はそれを見定めるはず……紫は思う。幽々子は何もしないということはその男は幽々子の目に叶った男であるのだと……
「あの子に彼氏がね……意外だわ」
「まぁ、私がそうなって欲しいと思っているだけだけれどね」
「……どういうことよ幽々子?」
紫は訳がわからないといった様子だ。藍の方も横で聞き耳を立てていた。藍と妖夢もお互いに従者同士なので何かと通ずるものがあるので気になって仕方ないのだ。
「比那名居天子、紫は彼のこと知っているわよね?」
その名を聞いた途端に紫は眉をひそめる。先ほどまでの友人としての紫ではなく、そこには幻想郷の賢者である八雲紫の姿があった。
「彼が……どうして出てくるのかしらね?」
「妖夢は彼に助けられたのよ。紫と藍ちゃんには話しておいた方がいいわよね……」
幽々子は語った。天子と妖夢の出会いに出来事、そして白玉楼でのこと……紫と藍にも知っていてもらおうと幽々子は二人に事の経緯を説明した。
藍は妖怪共の横暴に腹を立てていた。同じ女としてこれほどの恥辱を味わうことなど許されない。だが、妖怪共は天子の手によって葬られた。腹を立てていた藍も落ち着きを取り戻していつもの藍に戻っていた。紫はその話をずっと静かに聞いていた。
「そう……彼がね……」
紫はそれだけ言うと白玉楼の客間から冥界の空を見上げた。
「……紫様?」
空を見上げていた紫は藍の言葉に反応するかのように視線を幽々子に戻した。
「私も彼のことは嫌いではないわ。幽々子は彼を信頼しているのよね?」
「ええ、一生返せない恩が彼にはできたからね。妖夢も救ってくれたし、私も彼に救われたようなものよ。これ以上彼を信頼できない要素なんてないわ。紫、あなたが危惧しているのは彼の影響力よね?」
紫はしばらく沈黙した。それからポツリと語る。
「彼は既に天界では多大な影響を与えているわ。彼を崇拝する天人もいるみたい、それに彼の力は萃香の力を上回った……幻想郷のパワーバランスの一角の鬼である萃香が負けたの。この時点で彼は幻想郷の一角と対等の存在だと思うわ。もしそんな彼が力を権力を悪しき方向へ向けてしまうことが……『そうはならないわ』……幽々子?」
そう言おうとした時に幽々子が遮る。その目はいつもゆったりとした幽々子の目ではなかった。白玉楼に存在する幽霊を統率し、幻想郷の閻魔により冥界に住む幽霊たちの管理を任されている西行寺幽々子がそこにいた。
「天子さんは優しい方よ。紫、あなたは少し彼を危険視しすぎていると思うわ。確かに彼は強い……けれど、心も強い。これから様々なことが彼に振りかかるけど、彼はそのたびに強くなり、周りにいい影響も悪い影響も与えるでしょう。でもね、初めから危惧するのではなしに、見てあげることも必要なのではなくて紫?」
「わ、わたしだって別に初めから決めつけているわけじゃなくて……様子を窺っているだけよ。それに、彼が悪人って感じはしないわよ」
幽々子の滅多に見せない圧力に紫が少したじろいでしまう。藍も幽々子の見たこともない鋭い瞳に体を硬直させてしまっていた。
「そう……なら、私が言うことはないわね……藍ちゃ~ん、お腹減っちゃった。何かおいしい料理作って~!」
「え、あっはい……」
紫の言葉を聞いた幽々子は、いつも通りの幽々子に戻っていた。藍も体の硬直が消え、急いで料理の支度をする。
「……紫、私は天子さんのことを信じているわ。私の大切な妖夢を守ってくれたし、彼から教えられた。妖夢がいないと私はダメな存在……だけど、妖夢がいることで私が私でいられるし、妖夢も私が居ての妖夢でありお互いに支え合える存在だとね」
「幽々子……」
「だから彼に何かあった時は私は力を貸す。紫、あなたが彼に手を貸さないことであったとしてもね」
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私は幽々子から比那名居天子の名前が出た時は驚いた。彼が何かしたのかと思ったが、想像していたこととは違っていた。妖夢を助けて幽々子の信頼まで勝ち取っていた。話を聞いていて藍は相当頭に来ていた様子が窺えた。幻想郷は理想の世界だけど残酷な面もある。危うく妖夢がその犠牲になってしまうところだった。もし妖夢が穢されたなら幽々子は私の友人としての幽々子ではなくなってしまっていたかもしれない。怒りに身を任せたただの亡霊になっていたかもしれなかった。でも、あの天人がそれを救ってくれた。幽々子が信頼するのはわかるわ。
私も万能ではない。幻想郷の端から端までを把握するなんてことは無理。その頃は私は比那名居天子のことを調べるために天界にこっそりとスキマを使って覗いていた。あの天人の人気ぶりには驚かされた。そして、天界は外の世界で見るような娯楽施設や仕事をする天人の姿が見て取れた。
暇な毎日を送る天人をこうも変えてしまうなんて比那名居天子という存在は侮れなかった。彼が与えた影響力は多大なものだった。
それ故にこの幻想郷に与える影響を危惧していた。いい影響力が強ければそれだけ悪い影響力も強い。だから心配だった。私が愛する幻想郷を壊されたくなかったから……
「彼は既に天界では多大な影響を与えているわ。彼を崇拝する天人もいるみたい、それに彼の力は萃香の力を上回った……幻想郷のパワーバランスの一角の鬼である萃香が負けたの。この時点で彼は幻想郷の一角と対等の存在だと思うわ。もしそんな彼が力を権力を悪しき方向へ向けてしまうことが……『そうはならないわ』……幽々子?」
私が幽々子に彼の危険性を訴えようとしたら遮られた。私の目の前にいるのは先ほどの幽々子じゃない。これは……
「天子さんは優しい方よ。紫、あなたは少し彼を危険視しすぎていると思うわ。確かに彼は強い……けれど、心も強い。これから様々なことが彼に振りかかるけど、彼はそのたびに強くなり、周りにいい影響も悪い影響も与えるでしょう。でもね、初めから危惧するのではなしに、見てあげることも必要なのではなくて紫?」
「わ、わたしだって別に初めから決めつけているわけじゃなくて……様子を窺っているだけよ。それに、彼が悪人って感じはしないわよ」
今は友人の幽々子ではなく、冥界の管理人としての西行寺幽々子だったわ。私ですら今の幽々子は緊張してしまう。いつものようにゆったりとした表情は決してない。それに幽々子はあの天人に絶対な信頼を置いているみたいね……わからなくわないわ。私だって彼が悪人とは思えない。それでも私は幻想郷の賢者として彼を見定める必要があるの。
「そう……なら、私が言うことはないわね……藍ちゃ~ん、お腹減っちゃった。何かおいしい料理作って~!」
「え、あっはい……」
元の幽々子に戻ったみたいね。藍も硬直してたし……久しぶりに緊張したわよ。でも、比那名居天子……あなたには感謝するわ。妖夢と幽々子を救ってくれて……悪い人ではないけれど、それがいい結果になるとは限らない。強い力を持つ者は必ずしも大きなリスクを背負っているものだから……
「……紫、私は天子さんのことを信じているわ。私の大切な妖夢を守ってくれたし、彼から教えられた。妖夢がいないと私はダメな存在……だけど、妖夢がいることで私が私でいられるし、妖夢も私が居ての妖夢でありお互いに支え合える存在だとね」
「幽々子……」
「だから彼に何かあった時は私は力を貸す。紫、あなたが彼に手を貸さないことであったとしてもね」
そうなの……それはそれでいいわ。立場的なものもあるだろうし、幽々子が彼に手を貸してあげることに私は何も言わない。幽々子が決めたことなんだから何も言わない。私は私で、幻想郷の賢者として彼を見定めているからね。
「さてと、もうこの話はおしまい。紫も藍ちゃんも来てくれたことだし、いっぱいお料理食べないとね♪」
「……そうね。藍、とびっきりおいしい料理お願いね」
「かしこまりました」
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「……う、うん……」
「あ、目が覚めました?」
「早苗……さん?ここは……」
妖夢は知らない天井を眺めていた。
「私はさっきまで森の中にいたはずなのに……?」
「ここは守矢神社ですよ。天子さんに抱えられてここまで運んでもらったんですから」
「そうでしたか……あ!天子さんは!?」
妖夢は飛び起きて天子を探そうとする。すると廊下から天子が現れた。
「妖夢起きたか。気を失うからびっくりしたぞ」
「うぅ……ごめんなさい……」
思い出したように顔を赤くする。天子を見つめて気を失うなんて恥ずかしいことだったから……嫌という感情は妖夢にはなかった。寧ろもっと見つめていたい感情が……そんな妖夢の様子を見ていた早苗がニヤニヤと笑っていた。
「妖夢さんって天子さんにベタ惚れなんですね♪」
「さ、さなえしゃん!?」
「あ、噛みましたね。妖夢さんったらかわいい~♪」
早苗の言葉に妖夢が反応する。傍に天子がいるのにこんなことを言われたら恥ずかしくてたまらない。恥ずかしすぎて刀を握り、力ずくで早苗を黙らせようとした時に新たな声が聞こえてきた。
「こらこら、早苗あまり乙女を揶揄っちゃダメだよ?」
「諏訪子様!それに神奈子様もいらしたんですね」
諏訪子と神奈子が廊下から現れた。守矢の二神が部屋に集う。
「邪魔するよ。初めましてだな比那名居天子」
「八坂神奈子さんですね」
「そうだ。あの鬼に勝ったんだって?相当強いようだね?」
神奈子は興味津々と言った感じで天子の体を隅から隅まで観察する。いやらしいとかの目ではなく、強者を見定めるような鋭い目だった。
「条件付きで勝っただけだ。条件がなければ私は負けていた」
「なるほどね。謙虚な奴だよ。鬼に勝ったことを自慢しないなんてな。それでなんだけど、天子は宴会が開かれるのを待っているようだな」
「何故それを?」
天子は何故神奈子がそのことを知っているのだろうと思った。そのことは新聞には載っていなかったはずだったから……それに妖夢と早苗にはさっぱり会話の内容がわからなかった。二人はそんなこと知らないし、聞いてもいない。二人は置いていかれても、神奈子の話は止まらずに続ける。
「伊吹萃香に会ったんだ。それで『比那名居天子と宴会する場所を探している』と言っていてな」
「なるほどな」
「それでなんだが……」
「明日守矢神社で宴会するぞ」
約束の時が来た。