比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

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休みだと捗るのでまた投稿しに参った。


本編どうぞ!




12話 宴会の時

 天界で準備をしている男が一人……地上に行くためだけじゃなく、今日は約束していた日だ。

 

 

 待ちに待った萃香と約束した宴会だ。先に幽々子さんと妖夢としちゃったけど、今度は二人も誘って大勢で飲み会だ。萃香が私のために宴会を開いてくれると聞いた時は感激のあまり号泣しそうになった。場所は守矢神社で早苗と出会ったのも必然だったのかもしれない。それで今、準備し終えたところだ。

 それでなんだけれど、私だけ行くのはなんかあれだなって思って今彼女を誘っている。その彼女とは……

 

 

 「私が……地上の宴会に……ですか?」

 

 

 衣玖だ。最近衣玖に構ってあげられなかったし、一人で宴会に行くのは衣玖に対して失礼だと思う。だって、衣玖はお酒好きだもん。部屋に言った時には酒の瓶が大量に転がってあったの見たからね。一人暮らしの女性の部屋をワザと見たわけじゃないんだ。たまたまって感じだ。なんだけど、見ちゃったんだから衣玖がお酒好きなことがわかった。それに衣玖も毎日私に付き合ってもらっているし、お手伝いもしてくれている。昨日も私が地上に居る時でも天界で仕事していたみたいだし……私が天界にいない時は大体衣玖が取り仕切っている。天人達はゆっくりしているので、衣玖ものんびりすればいいものを帰って来るまでに大量にあった資料を全てまとめていてくれた。本当に助かります……だから息抜きも必要だと思うので衣玖を連れて行きたい。私が誘ったんだから萃香も許してくれるよね?

 

 

 「一緒に行ってくれると嬉しいのだがな」

 

 「一緒に……って天子様とです……か?」

 

 「駄目かな?私は衣玖と一緒に居たいのだが……」

 

 「わ、わたしと……一緒に……」

 

 

 衣玖の頬がほのかに赤かった。どことなく口元がにやついているようにも見えるが、天子の方が背が高いのでうつむいた衣玖の表情を見ることはなかった。

 

 

 「で、では……お言葉に甘えることにします。これから向かうのですよね?」

 

 「ああ、衣玖以外にも誘ってあるから宴会は大盛り上がりになるはずだよ」

 

 「む、そうですか……」

 

 

 あれれ?衣玖の元気がなくなっちゃった……私は選択肢を誤ってしまったの?ごめんね衣玖!元気が出るように私頑張るから……

 

 

 「……でも、それでもいいです。天子様と一緒に楽しめますから」

 

 

 元気なくなったかと思ったけど、笑顔の衣玖が見れて安心した。私の思い過ごしだったのかも……まぁ、なんであれ衣玖が元に戻ってよかった。

 

 

 天子と衣玖は共に地上へ下りて行った。

 

 

 ------------------

 

 

 「衣玖、地上で宴会が開かれるんだが行かないか?」そう天子様は私に言ってくださいました。お誘いは嬉しいですが、私だけ行っても意味がありません。行くのでしたらやっぱり天子様と一緒がいいですねぇ……

 

 

 「私が……地上の宴会に……ですか?」

 

 

 天界は毎日ゆっくりしていますが、天子様の仕事を増やすわけにはいかないですし、今日中にやっておきたいこともあるのでここは申し訳ないですけど断ることにしましょうか……

 

 

 「一緒に行ってくれると嬉しいのだがな」

 

 「一緒に……って天子様とです……か?」

 

 「駄目かな?私は衣玖と一緒に居たいのだが……」

 

 「わ、わたしと……一緒に……」

 

 

 地上へ行きましょう!仕事なんか後回しでも問題ありません。基本天人様達はゆっくりしておられますし、天子様と一緒なら喜んでお受けいたします。それに、天子様は「私は衣玖と一緒に居たい」と言ってくれました。それならば私がとる行動は一つしかありません……宴会やったー!

 

 

 「で、では……お言葉に甘えることにします。これから向かうのですよね?」

 

 「ああ、衣玖以外にも誘ってあるから宴会は大盛り上がりになるはずだよ」

 

 「む、そうですか……」

 

 

 天子様……私以外の方も誘っていたのですね……衣玖は少し、ほんの少し、1ミリ以下ですけど悲しいです。決して泣き出したいぐらい悲しいわけではありませんよ……本当ですよ!で、でも……折角天子様と二人で楽しめると思ったのに……

 

 

 「……でも、それでもいいです。天子様と一緒に楽しめますから」

 

 

 それでも、天子様が()()()()にと言ってくれたんです……私は今から楽しみですよ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ここを上ると守矢神社だ」

 

 「少し前に現れた神社ですね」

 

 

 詳しいことは知りませんが、少し前に起きた異変でここ妖怪の山と呼ばれる場所に、外の世界から移住してきた神様と人間が住んでいる場所が守矢神社というところみたいです。ここで宴会をするみたいですね。階段を上った先の空気が慌ただしいですね……既に宴会が始まっているのでしょうか?それでも準備中でしょうか?どちらにせよこの先にお酒が待っているのです。大勢でお酒を囲んで飲むなんて中々ないですからね。それに天子様も一緒ですから楽しみでワクワクしております♪

 

 

 「衣玖どうしたんだ?」

 

 

 いけません、私としたことが自分の世界に入っていたみたいです。天子様を待たせるなんて失礼なことをしてしまうところでした。

 

 

 「なんでもありません。さぁ、参りましょうか」

 

 「ん?そうか?なら……ほら」

 

 

 天子が衣玖に手を差し出してきたその行動が衣玖には初め理解できなかった。天子の手と顔を見比べているとその様子を見ていた天子が言った。

 

 

 「エスコートしよう。すぐそこまでだけど衣玖を誘ったのは私だ。女性をエスコートするのが男である私の役目だからな」

 

 「天子様……!」

 

 

 天子様……あなたはなんて立派過ぎるお方なんでしょう……子供の頃からあなた知っています。子供の頃からあなたは私の事を気にかけてくれましたね。そして今でもあなたの優しさが私をまたダメにしてしまいます……ですが、その優しさも含めてあなたが……

 

 

 「衣玖?またボーっとしているが……体調が悪いか?」

 

 「ふふ、そうじゃありませんよ。天子様ありがとうございます。お言葉に甘え宴会場までエスコートお願いできますか?」

 

 

 天子はにっこりと笑って力強く頷く。

 

 

 「ああ、勿論だとも」

 

 

 衣玖は天子の手を優しく握りしめた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ああー!それは天子のための酒だー!飲むんじゃねぇ!!」

 

 「誰のでもないだろ!それにここに置いておくのが悪いんだ!それに萃香が他人のために酒を用意するなんて異変に違いないぜ!なぁ、霊夢?」

 

 「うるさいわよ魔理沙!私は今、1週間分の食事を蓄えているんだから話しかけないで!」

 

 「お前なんて意地汚いんだ!?」

 

 「酒返せー!!!」

 

 「うぉ!?やめぇいだだだだだだぁ!!ほ、ほねが折れるー!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これが地上の宴会なのでしょうか天子様……?」

 

 「……そうだな。これが幻想郷の宴会なんだろうな」

 

 

 ------------------

 

 

 守矢神社で開かれた宴会は盛大に開かれた。一日前に決まって次の日に開かれるには大勢の人妖が集まっていた。騒ぎを聞きつけてやってきた霊夢と魔理沙も参加した。宴会は誰でも参加可能だし、大歓迎である。楽しく騒いでお腹いっぱいに腹を膨らませる。酒を飲み合い、瓶の中身を空にしていく。それが宴会である。そんな人妖関係なしに騒ぐ宴会の中で異質な存在が現れた。

 

 

 「萃香、約束通り来たぞ」

 

 「お?お、おおー!!」

 

 「はなせぇ……!はぶぅ!」

 

 

 酒を取り合っていた萃香の手がいきなり離れて、尻もちをつく魔理沙。何かが割れたような音がしたが、萃香はそれよりもやって来た天子に夢中になっていた。

 宴会に参加しているのは人妖種族バラバラだが、全員女である。が、一人だけ違っていた。比那名居天子だけが男であった。中身は純粋な女の子であるが、周りは誰も知らないし、知っているのは当の本人のみ。ここには天子と会った人物もいるが、今日が初めて会う者もいる。その者達は驚くだろう、男なのに美しく凛々しい顔に腰まで届く青髪のロングヘアに真紅の瞳をしたイケメンがやってきたのだ。騒いでいた連中も天子の姿を見て時が止まったように場が静かになる。

 

 

 「(あれ?なんで静かになったの?これって私のせいなの……?)」

 

 

 いきなり静かになった場に天子は内心動揺するが……

 

 

 「天子~!来てくれたんだなぁ!」

 

 「ああ、約束を果たしに来たぞ」

 

 「うんうん♪天子は本当にいい男だな♪」

 

 

 もしも萃香に耳と尻尾がついていたのなら犬が大好きな主人を出迎えるように耳にピクピク動き、尻尾はブンブンと振られていたことだろう。萃香は天子が来てくれたことで魔理沙との酒の取り合いなど忘れてしまう程喜んでいた。天子を連れて行こうとした時に気が付いた。天子以外眼中に入らなかった存在が横にいた。それだけなら別によかったが、その女は天子と手を握っていた。

 

 

 その女とは衣玖のことだ。萃香よりも背が高く、萃香は会ったことのない人物であるが、すぐさま竜宮の使いであることがわかった。萃香は天人のことを知っていたし、竜宮の使いならば、天子と関りがある人物であることがわかる。天子の知り合いだとわかるのだが、萃香はジッと天子と衣玖が手を繋いでいるところを見ていた。

 

 

 誰こいつ?天子の手を握っている……竜宮の使いか?天子の従者か何かか?そうか……別に気にする必要もないだろうけど、ないだろうけども……なんだよ。こいつなんで天子と手を……繋いでいるんだよ……

 嫌な気分……別にこいつと天子の関係なんて今は関係ないことじゃないか。天子は私との約束を守って宴会に参加してくれたんだ。誰も連れてくるなとは言ってないし、ここに集まった連中だって騒ぎを聞きつけてやってきた奴もいるし、天子が誘った奴もいるんだ。何もおかしなことなどない。おかしなことなどないんだ……それなのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだ?この胸のムカムカは……?

 

 

 「あ、あの……私に何か?」

 

 

 萃香はいつの間にか衣玖を睨みつける視線を送っていた。衣玖は睨まれている理由がわからずに萃香に聞いたのだが……

 

 

 「……別に……なんでもない……」

 

 「そ、そうですか……」

 

 

 衣玖は空気が重いことが実感できた。それも自分に対してこの鬼がいい印象を持っていないことを感じ取ってしまった。そして、天子と手をまだ握っていたことをそこで思い出した。

 衣玖は宴会場までならと思っていたが、宴会の騒ぎっぷりを見て忘れてしまっていた。慌てて手を離すが、時すでに遅く、この場に居る全員は天子と衣玖に注目している。当然、手を握っていたことも見られてしまっていた。

 

 

 萃香の視線は慌てて手を離した衣玖から天子に視線を戻す。だが、さっきまでの笑顔はなく、ジッと天子を見つめていた。

 

 

 「……何かな?萃香、私の顔に何かついているか?」

 

 「……いや、気にしないでよ。私もよくわからない……」

 

 「よくわからない?」

 

 

 よくわからないよ。なんでかこいつが天子と手を握っていたのを見たら急に天子を見ていたくなった。なんとなく見ていたいって思ったんだ。訳がわからなくてごめん天子……

 

 

 天子が聞き返すが、萃香は頭をブンブンと横に振って気合を入れなおす。

 

 

 何やっているんだ私!折角天子が約束を守って来てくれたのに、天子を不安がらせてどうする!この日を天子は待ち望んでいただろうから楽しく騒ごう。今は誰も関係ないんだ。鬼も天人も人もみんな一緒に騒ぐのが宴会だ。こんな静かなのは宴会じゃないやい!

 

 

 気合を入れなおした萃香は天子の手をとって誘導する。意図的なのか無意識なのか、萃香が天子の手をとったのは、先ほどまで衣玖と繋いでいた方の手だった。衣玖と手を握っていたことを忘れさせるかのように萃香は優しく離れないように天子の手を握っていた。

 

 

 「天子、私がお前のために持って来た酒があるんだ。存分に味わってくれ!」

 

 

 萃香は天子を連れて酒がある元まで来たが……

 

 

 「あ、悪い萃香。さっきのはずみで酒瓶割れてしまったぜ」

 

 「……」

 

 

 魔理沙の手には割れて中身が空になってしまっていた酒瓶だ。天子は知らないだろうが、萃香が天子のために用意した極上のお酒だった。大切に持って来たお酒を魔理沙が見つけて取り合いになったのがこれだ。さっき割れた音がした正体はこの酒瓶だったようだ。

 

 

 「……へへ」

 

 「……だぜぇ」

 

 

 魔理沙と萃香の間に冷たい風が吹く。萃香は仮面のような冷たい笑顔で、魔理沙は引くついた表情だ。蛇に睨まれた蛙……蛇と蛙ではなく鬼と人間なのだが、この言葉がこれほど似合う光景はない。

 

 

 「……魔理沙……骨は拾ってあげるわ」

 

 「霊夢……助けてくれ……」

 

 「自業自得よ」

 

 

 霊夢は相変わらず料理を漁りながら魔理沙に言った。霊夢に見放された魔理沙は他にも助けを求めようと視線を送るが誰も目を合わしてくれなかった。

 

 

 「魔理沙よぉ……私が天子のために持って来た酒を……どうしてくれるんだ」

 

 

 魔理沙の周りには誰もいなかった。助けを求めた霊夢はいつの間にか別の場所で食べ物を漁っていた。萃香は冷たい笑顔をしたまま、拳を握りしめ……

 

 

 「魔理沙……歯を食いしばれよー!!」

 

 「許してくれー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「萃香、気にしないでくれ。私のために用意してくれたのはわかったから気持ちだけでもありがたいよ」

 

 「うん……」

 

 

 守矢神社の隅っこで体育座りをする元気のない小鬼がいた。萃香を知る者でもこんな姿をした光景は見たことない。魔理沙を簀巻きにした後、酒瓶を震える手で拾い上げた姿はとても鬼とは思えない程の弱弱しい姿だったから……

 

 

 天子がそう言ってくれるのは嬉しいけど……これはいろんな奴から聞いて選別したものだったのに……私が天子のためを思って持ってきて飲んでほしかったのに……一緒に酌し合って語り合いたかったのにぃ!

 

 

 萃香は心の中で叫んだ。割れてしまった物は元に戻せないし、今までの苦労が水の泡となってしまった。そのことを悔やみ、一番楽しみにしていた天子と一緒に最高の酒を堪能することが出来なくなったことで心が泣いていた。鬼の目にも涙……小さな小鬼は表に何も出さずに心の中で雫を流していた。

 

 

 「……ほら、萃香」

 

 「へっ?」

 

 

 そんな萃香の目の前にはおちょこが差し出されていた。気の抜けた声が萃香から漏れた。萃香は差し出してきた天子を見た。

 

 

 「天界には酒がいっぱいあるんだ。萃香にも飲んでほしいと思ったので持って来た。萃香が準備してくれた酒が飲めなかったのは残念だが、これで我慢してくれないかな?口に合うかわからないが……」

 

 

 ああ……なんだよ。ずるいじゃないか……天子は私をダメにするつもりなのか?お前は完璧すぎるよ……強いし、優しいし、カッコイイし、欠点なんてないじゃないか。いい男すぎる……そんなこと言ったら付き合うしかないじゃんかよ!

 

 

 「へ、へん!天子に誘われたんじゃ仕方ない、いいぞ。天界の酒とやらを飲んでやるぞ」

 

 「そうこなくてはな。酌してあげるよ」

 

 「私もするぞ。天子ばかり良いところ見せられないからな!」

 

 

 もう鬼の目に涙はなく、いつも通りの小鬼がそこに居た……

 

 

 ------------------

 

 

 皆、私の宴会のために集まってくれたんだ!あれは魔理沙だ!生魔理沙を見れるなんて嬉しいわ!それにあっちで料理に群がっているのは霊夢だ!生霊夢とか感動です!皆を生で見れるなんて私は転生できて幸せ者ですわ♪

 そんなときに、魔理沙と萃香が何かを取り合っていた。瓶?萃香が私に気づいて手を離したら魔理沙が吹っ飛んで瓶が割れたけれどよかったのかな?きっと酒だと思うけれど……?

 私の元へやっていく萃香の機嫌が実にいいの。私の方が背が高いので、下目使いで見上げる萃香の笑顔がとてもかわいいったらありゃしないの♪写真撮ってほしい。文は……あっちで小さくなっていた。萃香がいるから存在を薄くしているんだと思うね。大変なようだ……

 

 

 そして皆、なんで黙るの?私のせい?さっきまで盛り上がっていたのに、私が来てしまったせいで静まり返る宴会場……皆、私に注目しているし……そんなに見られると流石の私も恥ずかしいじゃない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから衣玖と萃香の間に何か重い空気が漂っている気がする……さっきまでの萃香の笑顔がなくなって怖いですよ……

 そういえば衣玖が慌てて私の手を離した。そうだったわ。衣玖と手を繋いでいたこと忘れていた。皆に見られてしまったわ……恥ずかしい!ところで文、シャッター音無しにカメラで撮るのやめようか?後でそのカメラはボッシュートしないといけないわね。

 

 

 「……何かな?萃香、私の顔に何かついているか?」

 

 「……いや、気にしないでよ。私もよくわからない……」

 

 「よくわからない?」

 

 

 私の顔を見つめている萃香……笑顔でもなく無表情で……怖いわよ、それに見つめていた理由もわからない。どうしたの萃香?私が衣玖と手を繋いでいたことに不安があるのかな?もしかしたら友人である私が衣玖に取られるのを嫌がっているとか?う~む、わからん。

 

 

 考えていたら今度は萃香の方から手を握ってきた。

 小さくて暖かく柔らかい手だった。鬼と言っても女の子なんだし、かわいらしい手をなでなでしてあげたかった。頭も撫でてあげたいけど、子供扱いするなって怒られそうだけどね。 

 

 

 「天子、私がお前のために持って来た酒があるんだ。存分に味わってくれ!」

 

 

 なに!?萃香が私に酒を提供してくれると!アルコール度高そうだけど私大丈夫かしらね……?

 

 

 それで引っ張られてやってきたのは魔理沙の元だった。天子は嫌な予感がした。

 

 

 さっき魔理沙が割った瓶ってまさか酒が入っている酒瓶のことよね。あれ?それじゃ萃香の用意した酒と言うのは……

 

 

 「あ、悪い萃香。さっきのはずみで酒瓶割れてしまったぜ」

 

 「……」

 

 

 無表情で魔理沙を見つめる。魔理沙死んだわこれ。この世にゲームみたいに残機があればいいけど、ないから私はこう言える…… 

 

 

 「……へへ」

 

 「……だぜぇ」

 

 

 魔理沙は助けを求めるが当然ながら誰も応じなかった。

 

 

 「魔理沙よぉ……私が天子のために持って来た酒を……どうしてくれるんだ」

 

 

 魔理沙の周りにいた者達が一瞬で離れて行った。

 

 

 「魔理沙……歯を食いしばれよー!!」

 

 「許してくれー!!」

 

 

 私はこう言える……魔理沙よご愁傷様です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体育座りの萃香が落ち込んでいた。よっぽど私にさっきの酒を飲んでもらいたかったらしいね。魔理沙は簀巻きにされてそこの辺りに転がっている。こればかりは私はどうしようもないね。それにしてもどうしようか、萃香の元気のない姿は見たことないな。いつもお酒を飲んで酔っ払っている子に見えないわよ。元気出そうよ萃香!元気があればなんでもできるって偉大な方も言っていたんだから。

 

 

 天子はどう元気を出してもらうか悩んでいたら、自分が持って来た荷物の中身を思い出した。

 

 

 そうだ!これがあるじゃない!

 

 

 「……ほら、萃香」

 

 「へっ?」

 

 

 萃香の口に合うかわからないけど、天界の選りすぐりの酒を持って来ていた。開いてもらうだけじゃ申し訳なかったので、私もちゃんと今日という日のために準備してきたんだからね。

 

 

 「天界には酒がいっぱいあるんだ。萃香にも飲んでほしいと思ったので持って来た。萃香が準備してくれた酒が飲めなかったのは残念だが、これで我慢してくれないかな?口に合うかわからないが……」

 

 

 そう言ったら萃香の顔に笑顔が戻った。

 

 

 「へ、へん!天子に誘われたんじゃ仕方ない、いいぞ。天界の酒とやらを飲んでやるぞ」

 

 「そうこなくてはな。酌してあげるよ」

 

 「私もするぞ。天子ばかり良いところ見せられないからな!」

 

 

 よかった。萃香が元気になってくれて、私も元気が出てきたよ。皆もさっきから待ってくれているし、霊夢と魔理沙とも一緒に楽しみたい。今日は宴会なんだ。皆で楽しまないと面白くないよね!

 

 

 「さぁ、今日は楽しむぞ!萃香!」

 

 「おおー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふむ、ここでもないか……早くご主人達のためにも、あの者の復活に必要な【飛倉の破片】を見つけないといけないのに……」

 

 

 とある場所に一匹の妖怪がL字型のダウジングロッドを手に呟いていた。

 

 

 「ご主人には困ったものだ。それに宝塔もなくすなんて……あれがないと封印が解けないのにな」

 

 

 その妖怪は空に浮かぶ船を見つめていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それと同時刻の別の場所で……

 

 

 「あらあら、大きな船が空に浮かんでいることですわ」

 

 「そ~なの~か?」

 

 

 空を見上げている二つの影……

 

 

 「芳香ちゃ~ん、そろそろ霊達が集まりだしたから戻りましょうか」

 

 「わかった~のだ」

 

 

 雑多な霊がフワフワとどこかに向かっていた。

 

 

 「楽しくなりそうですわ~♪」

 

 

 その影の主はとても面白そうにしていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幻想郷に二つの異変が動き出す……!

 

 


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