比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

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シリアスが続いております。当分シリアス続きなのかな?


それでも見たいよという方は……


本編どうぞ!




15話 誰かのために

 「これで終わりです!」

 

 

 奇跡「白昼の客星」!!!

 

 

 「のわぁあああああ!!!」

 

 

 早苗は水兵服を着た娘を見事打ち破った。

 

 

 「やりましたよ霊夢さん!」

 

 「見てたからわかっているわよ」

 

 

 早苗はぴょんぴょんと空中で飛び跳ねていた。今回の早苗は絶好調であった。途中で現れた唐傘お化けを特に気に入って退治してたぐらいだった。そのおかげで、霊夢と魔理沙は暇な異変になりつつあった。しかし、そんな二人にとっては好都合らしく目的は宝船であることには欠かせないお宝狙いだった。

 

 

 「霊夢そっちはあったか?」

 

 「ああ、魔理沙……何もないわね。ここじゃないのかしらね」

 

 「もう二人共お宝なんかよりも妖怪退治しましょうよ!面白いですよ妖怪退治!」

 

 

 早苗は興奮気味だった。そんな早苗とは関わりたくないように視線を合わせないようにしている霊夢と魔理沙。二人にとって妖怪退治は慣れっこで、それに早苗の今のままのテンションにはついていけないので、熱が冷めるまで軽く放置プレイである。

 

 

 「さっきから集めていたんだけど、これって何に役立つんだ?」

 

 「知らないわよ。とりあえず集めておけばもしかしたら金にかもしれないでしょ」

 

 「ああ!次はどんな妖怪が退治されに現れるのでしょうか?このスーパーミラクルエクセレント東風谷早苗が華麗にパーフェクトに退治してみせますよ!!」

 

 「「(無視無視……)」」

 

 

 後ろの方で騒いでいる早苗をスルーすることにしていた。関わったら面倒だから……

 

 

 早苗を置いておいて、二人はここに来るまでに集めたものを取り出していた。霊夢と魔理沙が持っているのは赤・青・緑のUFO型をした謎のものだった。二人は一応何かの役に立つか、後で金になるものであるかもしれないので持ってきていた。

 

 

 「まぁ、持っていても重さなんて大したことないし、持っていても損はないよな。ところで霊夢はよかったのかよ?」

 

 「はぁ?いきなり何のことよ?」

 

 

 魔理沙が藪から棒に霊夢に投げかけた。

 

 

 「私が言うのもなんだけどさ、あの天人の比那名居天子とかいう奴が今回の異変を手伝ってくれているんだろ?博麗の巫女としてどうなんだ?活躍の場を奪われているけどそこのところどうなんだぜ?」

 

 

 魔理沙は天子のことを霊夢がどう思っているか気になっていた。霊夢と魔理沙は今日初めて天子と出会った。天子の姿を見た時迂闊にも二人は見惚れてしまっていた。美しく凛々しい顔立ちに目がいってしまった。二人共女の子だから異性を気にすることは当然だった。宴会ではほとんど萃香と神奈子が天子を独り占めしていて、話す機会がなかったが、何となく魔理沙には天子のこと信頼できる存在だと感じていた。萃香が気を許した相手だったからもあったのかもしれないが、天子の目はとても優しさを含んでいるように見えたから。

 

 

 霊夢も魔理沙も今回の出来事は初めての経験だった。一度に二つの異変が起こることなど今までなかったことだ。例えあったとしても、小規模の異変程度だろうが二つとも彼女達には気がかりな異変だった。特に宝船と聞かされれば尚更だった。霊夢と魔理沙の二人はこっちを選んだ。しかし、もう一つの異変の方は天子が解決しに行くことになった。異変解決の素人である天子を行かせるのはどうかと普通は思うだろうが、不思議とそう感じなかった。特に霊夢の勘が言っていた……地上で現れる霊現象には天子が行かなければならないと……

 

 

 「別になんとも思わないわよ。あの人なら解決してくれる……そう思っただけ」

 

 「ふ~ん、まぁ私も何となく天子に任せた方がいいなって思ったんだぜ」

 

 「なら、これ以上言うことはないわね」

 

 「そうだな。それじゃ奥に行ってみようぜ!お宝ってのは大体最深部にあるものって決まっているんだぜ!」

 

 「それもそうね。早速行きましょう」

 

 

 霊夢と魔理沙はお宝を探すべくどんどんと奥へ進んで行った。

 

 

 「ああ!霊夢さん、魔理沙さん待ってくださいー!私が妖怪をギッタンギッタンのコテンパンにするので獲物を取らないでくださいよー!!」

 

 

 空の方は平凡に異変解決が進んでいた。

 

 

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 「私を救うですって?君は何を言っているのですか?冗談はそれぐらいにしておきたまえ」

 

 

 神子は鼻で笑う。バカなことを言ってくる天子を見る目は冷ややかな目であった。

 

 

 「冗談などではない。私はあなたを……豊聡耳神子を救いたいのだ」

 

 「私は救われる必要なんてない。私が救い出すのだ!人々を妖怪の恐怖から解放し、人々自身の穢れた心を消滅させることで救いあげる。それが私の役目……私は人々を導かないといけないのだ!」

 

 

 心の底から絞り出すように神子の声が辺りに響く。そんな神子の姿を見つめる娘がいる。

 

 

 「……太子様……」

 

 

 神子の傍に仕える亡霊の娘、蘇我屠自古である。彼女には神子の声が重く冷たいものになっていたこと知っていた。昔はもっと優しく温かい人を包み込むような声だった。

 あの声を屠自古はあの日から聞いていない。屠自古が神子に命を託したあの日から……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近神子の様子がおかしかった。挨拶すればよそよそしくされ、話そうと思っても早めに切り上げられてどこかへ去って行ってしまう。会う回数が減っていき寂しい思いをしていた。あの人が遠くに行ってしまって戻ってこないのではないか?私達を置いて行ってしまうのではないか?そう思うことが多くなった。夜も眠ることができない日だってあった。次第に不安は体を蝕み、屠自古が病で()せていた時だった。

 

 

 よく知る人物が屠自古の元を訪れた。その者は屠自古と同じく神子の元をよく訪れそのたびに顔を合わせた相手だ。名は物部布都と言った。豊聡耳神子の同志であり、部下でもある彼女が屠自古を訪れたのだ。仏教と神道のどちらを信仰するかで国が割れていた時代であったため、表面上ではお互いに仲良く接しているが神道を信仰し廃仏派だった物部氏は蘇我氏とは仲が良くはなかった。屠自古と布都もそうであったが、二人には共通なモノがあった。それは豊聡耳神子という存在である。

 豊聡耳神子という存在は彼女達にとっては大きな存在であり、尊敬する人であった。多くの民から貴族からも慕われていた。彼女達も神子の魅力に触れいつしか傍に居たいと思うようになった。初めは偉大な太子様に自分などが傍に居ては失礼かと思っていたが、神子が優しくしてくれてお互いのことを語り合うと次第にのめり込むようになっていった。そして、共に時間がある時は一緒に食事をしたり、読書をしたり、温かい日々を送っていた。しかし、いつの間にかその日々はなくなっていた。神子が二人を避けるようになってから会いに行こうとするが中々踏み出せなくなっていた。神子から二人を避けるということは我々に何か問題があったのではないか……そう思うことだってあった。考えてみたがわからなかった。そんな時に屠自古が病にかかってしまったのだ。それを知った布都がこうして出向いて来た。神子のことなら話が合う二人であった。屠自古は相手が布都でも寝ながらは失礼だと思い起き上がろうとするが布都は手で制す。いつもならにこにこ笑っている元気な布都の姿はどこにもいない。

 

 

 「屠自古、どうじゃ体の方は……否、しゃべらずとも我にはわかる。病じゃな?」

 

 「ああ……不甲斐ない姿を晒して申し訳ない……本来ならばお茶の一つでも出すのだが……」

 

 

 布都は小さく笑みを浮かべると冗談交じりに言う。

 

 

 「いつもは太子様の傍にいる我を目の敵にしている屠自古の姿を置かむことができたのだ。それで満足じゃ」

 

 

 屠自古はその言葉に頬が膨れる。まさか布都にこんなことを言われるとは思わなかったので驚きと恥ずかしさを隠すかのようだった。そんな姿を見て布都が笑う。

 

 

 「お主も太子様のことが好きなんだの」

 

 「べ、べつに……そんなことは……」

 

 「よいぞよいぞ、我は太子様のことが好きじゃ。何も恥ずかしがることはない。我が白状したのじゃぞ?屠自古も白状せぬか」

 

 

 布都は「どうした?ほれ言ってみよ?白状して楽になってみよ」と繰り返し屠自古を煽る。屠自古はしばらくは抵抗したが観念したらしく「私も……お前と同じ思いだ……」と言うと布都は満足したように笑った。その笑顔につられて屠自古もつい笑ってしまう。

 

 

 物部氏と蘇我氏……対立する二人がこうして笑い合える光景は他にはないだろう。もしも二人が物部氏と蘇我氏の家系に生まれなければ、あるいは他の時代に生まれていたら最高の友になれただろうに……

 

 

 「あはは……はぁ~笑った。布都、一応礼は言っておこう……ありがとう」

 

 「いや、我も久々に楽しかった。最近では太子様が構ってくれなくての……」

 

 

 その言葉をきっかけに部屋の中には音が消え去ったように感じた。二人の間には言葉も交わされなくなり、視線は空を見つめるばかりだった。そんな沈黙の中でようやく口を開いたのは布都だった。

 

 

 「屠自古……最近妙な噂を聞いたことはないか?」

 

 「……噂?」

 

 

 最近神子のことばかりで周りの事は後回しにしていたせいで体調を崩すことになったわけだ。噂など屠自古が知っているはずもなかった。布都に何も知らないことを話すと、布都は何かを伝えようとしていた。伝えようとしていたが、それを言うか言わない方がいいか迷っているように見えた。嫌な予感がした。先ほどの話から噂は神子に関してだろうと感じた。それもいい噂じゃない様子だ。それでも屠自古は知りたかった。何故神子が最近我々を避けるようになったのか……少しでもその理由を知りたいが故に……

 

 

 「布都お願いだ。お前が知っている噂……私に聞かせてくれ!」

 

 

 知りたい……あの方のことを……少しでも……!屠自古は布団から起き上がり布都に対して頭を下げる。彼女の誠意を見た布都もいろいろと思うことがあるだろう。しかし、布都は屠自古に伝えることを選んだ。物部氏と蘇我氏という対立する関係でなく、お互いに神子の事を思い慕う友として……!

 

 

 布都が語ったのは神子が夜中に出て行く姿を目撃した人物がいた。そして、神子が夜中に男と密会しているのではないかという噂だった。しかし、これはあくまで噂だ。信憑性はない……しかし、屠自古と布都には気になって仕方なかった。実際、神子の様子が変だったことは知っている。それにただ男に会いに行くだけの様子ではなかった。ただ男に会いに行くだけならここまで心配などしない。しかし、妙な胸騒ぎがしてならなかった。そして神子に夜中に会いに行くことは絶対に許されなかった。何かの関連性が窺えた。例えそれがただの噂だったとしても二人はそれを放ってはおけなかった。

 

 

 「布都、太子様が出かける先を知っていないか?」

 

 「噂ではとある書庫に向かっていたと聞いたが……まさかお主!?」

 

 

 屠自古の心は既に決まっていた。病にかかった体でも一目だけでもその真意を見ることが出来れば心が落ち着くはず……布都に頼み込み、その書庫に連れて行ってもらうように説得した。初めは布都も拒んだが屠自古の決意に折れ了承した。後日、密かに神子の後をつけることを二人は決めた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初めはよかった。屠自古を支えながら歩くのは大変だった。布都は屠自古よりも小柄であったため病の体を支えるのは厳しかった。それでも神子の後を懸命に追う。噂の真意を確かめたかったから……

 徐々に引き離されて行く二人はそれでも追い付こうと足を歩ませていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『「……ありがとう……二人とも……」』

 

 

 昼に神子の姿を見かけた二人に言ったあの言葉が思い起こされる。屠自古もその日は体調が良く、布都といつ神子の後をつけるか相談しようとした時に会った。そして、二人は神子の言葉に胸騒ぎを感じ急遽今夜に決定したが、屠自古は再び体調を崩してしまった。それでも胸騒ぎがしたため無理についてきた。布都も今夜を逃すと二度と神子と会えなくなるような気がしていた。だから、歩みを止めない……そこに神子がいるから。

 

 

 そんな時二人の前に見知らぬ影が現れた。髪、目から服まで全身、青色で統一された謎の人物だ。屠自古も布都も知らない第三者は二人を品定めするように見ていた。そんな怪しい人物に布都が問う。

 

 

 「お主は何者じゃ!名を名乗れ!」

 

 

 明らかにこの夜中に異質な人物はそれでも反応しない。布都はもしものために屠自古を逃がせるように自分が囮になるつもりだった。病を患った者を放って一人だけ逃げる選択肢は彼女にはなかった。自分が逃げればあの人にも不評がかかる。こうしている今も夜中の道を歩むあの人には迷惑なんてかけたくなかったから……

 

 

 しばらく布都が睨んでいるとその人物は口を開いた。

 

 

 「今すぐに道を戻りなさいな。物部布都さん、蘇我屠自古さん」

 

 「ど、どうして……わたしたち……のことを……?」

 

 「と、とじこ大丈夫か!?」

 

 

 夜中に無理に動いたせいで体調が更に悪化したようだ。慌てて布都が屠自古を木陰に休ませる。息は荒く、熱が上がっていることがわかった。布都は医者ではないため、どうすることもできずあたふたしていた。そんなときに後ろから差し出される手の平に小瓶が載せられていた。その手の人物は先ほどの女だった。

 

 

 「これを飲ましてあげなさい。そうすれば体調が良くなることですわ」

 

 「……信用なんてできないぞ……」

 

 「なら、その娘が苦しむのを黙って見ていることですわ」

 

 

 布都は小瓶と女を見比べる。怪しさ満点の女から得体のしれない小瓶の中に入っているのは液体……毒か?布都は思考を凝らすがわからない。目の前の女の考えていることが全くわからなかったのだ。何を考えているかわからない瞳をジッと見つめても答えは変わらない。自分達のことを知っていたこの女の言うことを聞くべきか……悩んだが、屠自古の苦しそうな声に布都は選択した。

 

 

 「それを貸してくれぬか?」

 

 「貸すのではなく差し上げますわ。わたくしはそんな器の狭い人間ではありませんもの♪」

 

 「(人間なのか……もしかしたら妖怪が我らを騙そうと……)」

 

 

 そう布都は思ったが、それよりも今は屠自古が先だった。女から小瓶を奪い取るとすぐに屠自古の口へと運んだ。

 

 

 「うふふ♪飲みましたね……飲んでしまいましたね」

 

 「なっ!?ま、まさかお主!?」

 

 

 女がクスクスとおかしな笑みを浮かべた。最悪な事態を想像して血の気が引いた。この女に騙されたと!次第に引いた血が頭に上り女を睨みつける。

 

 

 「なんてね♪冗談ですわ。そんな怖い顔しないでください。ちゃんとした特効薬ですよ。()()を施した……ね」

 

 「何?今何と言った?」

 

 

 布都はこの女が言ったことが気になった。()()と……この女が言っていることが本当ならこの女は……!

 

 

 考え込んだ布都は顔を上げたがそこには既に女の姿はなかった。急いで辺りを見回してみたがどこにも確認できなかった。追うことはできなかった。このまま屠自古を放っておくこともできず、様子も見る必要があった。先ほどの女と屠自古の体調が悪くなったことで神子の姿は見えなくなっていた。

 

 

 「……太子様……」

 

 

 暗く明かりのない道の奥を見続けることしか彼女にはできなかった……

 

 

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 「う、ううん……」

 

 「おお!目が覚めたか?どこか具合の悪い所はないか?」

 

 

 布都か……?私は……そうだ、私は体調が悪くなってそのまま……布都に迷惑をかけてしまったようだ。太子様を追うために無理に連れて行ってもらうことを頼み込んだ。私は結局のところ足手まといになっていた。不甲斐ない姿を晒してしまったし、太子様も見失ってしまったのであろう。私はダメだな……泣けてくる。

 

 

 「と、とじこまだ具合が悪いのか!?もしかしたらさっき飲ませたのはまずかったか!?」

 

 

 飲ませた?お前は何か私に飲ませてくれたのか?ん?なんだか体が妙に楽な気がするぞ。病に()せてから体の調子が良くなかったが、今はとても楽な気分だ。どんなものを飲ませたんだ?

 

 

 私は布都に聞くと詳しく話してくれた。先ほどの女からもらったものだったらしい。一瞬得体の知れない液体を飲まされたと感じだ。私も毒だと思ったが、結果体はどうもない。寧ろ元気が湧いて来た。こんなことがあるのだろうか?不思議だった。そして、その女が言ったそうだ……()()、これがもし本当ならあの女はそれに関りがある人物もしくは……仙人とか。

 だが、今は相手の素性を推測するよりも大切なことがあった。太子様は既に書庫に向かわれたはず……今の体なら追いつける。すぐに追わないと!

 

 

 私達は駆けた。太子様の元へ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 例の書庫についた。もう夜中で更に暗い時間帯だ。手元にある明かりを頼りにたどり着けたことが幸いだった。街中から少し離れたここには夜中には人が来ることはない。それなのに太子様がやってくるということは何かある……気持ちを落ち着かせる。私の早とちりであればいいのにと思っている。私達は呼吸を整え、扉に手をかけた……

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 私は自分が見ている光景を疑った。

 先ほど私達の前に現れた女がいた。それも太子様を抱きしめるように……それだけではなかった。太子様の姿は布切れに隠れていたが、その隙間から見えていた肌は服は着ておらず、体には無数の打撲跡があることがわかった。そして周りにあった()()は最初何かがわからなかった。だが、次第にわかってきた。

 ()()は元々人間だったものだ。男……体つきから考えるとそうだ。数の量から何人も居たようだった。そして、所々に落ちている()()は見たことがあった。太子様の下で修行していた者にそっくりだった。一つだけじゃない……それも無数に……

 この状況を理解し、勝手に頭が答えを導き出した。太子様は暴力を振るわれていた。そして、それも自分の弟子達に……それも今夜限りではなく数日も前から……そして服を着ていない太子様はこいつらに……!

 

 

 一気に気分が悪くなった。口元を抑えて吐き出すのを我慢した。想像もしたくない光景が頭の中で湧き上がる……そんな屠自古に先ほどの女は声をかける。

 

 

 「屠自古さん、あなたが思っているまでにはなっていないわ。大丈夫よ。ケダモノはオスになる前にみんな肉に戻ってしまったのだからね」

 

 

 女が言う。信用できない奴だが、太子様を抱いている姿に自然と敵意を感じなかった。太子様は眠っているようだった。表情は女の胸に隠れてわからなかったが、今太子様の顔を見てしまうと私はきっと堪えられずに泣き出してしまったはずだ。太子様の受けた恥辱を知らずに生活していた自分が嫌になる。

 

 

 「貴様何者じゃ!太子様に何をしたのじゃ!!」

 

 

 布都は感情を露わにした。状況を理解できたようで瞳には怒りと憎しみが宿っていた。その怒りと憎しみは女に注がれていた。それでも女は平然としており、この女はまともな精神をしているのか疑う程だった。

 

 

 「静かになさってくれます?豊聡耳様が起きてしまいますので」

 

 

 布都は今にも女に襲い掛かりそうだったが、屠自古がそれを止めた。女から詳しいことを聞くのが先だと思ったからだ。女は神子を抱きかかえてどこかに向かおうとした。

 

 

 「おい!どこへ向かうんだ!?」

 

 「こんな汚らしい場所よりもっと清潔な場所で話をしましょ。芳香ちゃ~ん!後お願いね」

 

 

 女が誰かの名前を呼ぶと地面が盛り上がりそこから人間が現れた。否、人間と呼べばいいのかわからないが、その人物の肌は灰色がかっているように見えた。

 

 

 「うふふ♪わたくしのかわいいかわいい芳香ちゃん、ここのお肉全部任せたわよ」

 

 「お~お!いいのか~?ぜんぶまかせろ~!」

 

 「さ、行きましょうお二人さん」

 

 

 私達は女の後についていった。後ろで何かをかみ砕く音が聞こえたが……違う、音を聞こえないように自分を耳を塞いでいたのかもしれなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私と布都は彼女……青娥殿から事情を聴いた。

 

 

 【霍青娥

 髪、目から服まで全身、名の通り青で統一されたデザインで、髪は、ウェーブのかかった青髪。結い目にはかんざし代わりに(のみ)をつけている。袖が膨らんだ半袖のワンピースを着ていおり、半透明の羽衣を纏っている。仙人になるべく修業を重ねた人間だったが、邪仙へとなった。そしてキョンシーである宮古芳香の操り主であり、芳香をとても可愛がっている。

 

 

 【宮古芳香

 暗い藤色の髪に、星型のバッジが付いた紫色の帽子を被っている。 赤い中華風の半袖上着を身に着けている。邪仙の霍青娥によって蘇らせられ、青娥の手先となって働いている。青娥からかわいがられている。

 

 

 青娥殿に連れられてやってきたのは小さな屋敷だった。簡易に作られた外装が今にも崩れてきそうで躊躇ったが、太子様が最優先だ。それで私達は狭い空間に5人存在していることになる。ちゃんと太子様は布団に寝かされてスヤスヤと寝息を立てていた。話に聞いたが胸が締め付けられるような思いだ。今からでも先ほどの太子様の弟子だったものを踏みつぶしてやりたい衝動にも駆られたぐらいだ。だが、もう残っていないだろう……青娥殿の隣で腕を伸ばし、足も前に伸ばして座っている芳香殿によって綺麗に片づけられたのだろうから。

 青娥殿によれば芳香殿はキョンシーという存在らしい。私はそっち系には詳しくなかったが、布都は知っているようだった。なんでも死んだ人間が蘇ったのがキョンシーらしい……理解できなかったが、青娥殿が仙人だとわかったら理解できた。仙人ならこれぐらいのこと仕出かすのは容易だと私の中で解決した。それ以上のことは聞かないようにした。それよりも太子様の話が想像していた以上に辛いものだった。私が呑気に寝ている間、太子様は苦しんでいたのに……私っていう奴は!

 

 

 「屠自古さん、自分を責めてはいけませんよ?」

 

 「青娥殿……」

 

 「豊聡耳様は人から憎まれた。それは豊聡耳様がそれ程に魅力があるお方だということです。偉大な方ほど尊敬される分、陰で恨まれるのです。自然の摂理というものですよ。これは誰にもどうすることもできないのです。だから、自分を責めるなんて間違っているんじゃないかしらね」

 

 

 青娥殿は自らを邪仙だと名乗った。しかし、私が見た限りではそんな方には見えなかった。私達の前に現れた時も本当は太子様の姿を見せたくなかったのかもしれない、私に薬を与えてくれた、太子様を救ってくれた方だ。私には本当の仙人様に見えたのだ。この方は優しい方だと……

 

 

 屠自古は青娥の優しさに触れている中、隣で神子を見つめていた布都がいきなり頭を下げた。

 

 

 「青娥殿!我を仙人にしてくれ!」

 

 「布都なにを……!?」

 

 「我は太子様を尊敬し、同士であり部下でもあったのだ。しかし、我は太子様が苦しんでいることに気がつけん愚か者じゃ!太子様に辛い思いをさせてしまった!我は太子様がこれ以上傷つく姿を見たくない……そのために我も仙人になり、力をつけ、太子様の手となり足となって太子様をお守りするのだ!!」

 

 

 目には悔し涙を浮かべて心の悲痛を叫びだした。彼女の声だけが響き辺りは静まり返った。

 

 

 お前……私だって太子様が傷つくのを見たくない……布都、お前がそう覚悟するなら私も覚悟しよう……私の病を治し、太子様を救った青娥殿のように強く、太子様のために……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この命すら太子様のために捧げてみせよう!!

 

 

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 「比那名居天子、君には悪いが私の邪魔する者は排除させてもらう」

 

 

 神子が前に出た。広い空間に二人の存在……天子と神子が対峙する。周りの霊達が二人の邪魔をしないように辺りから遠ざかっていく。

 

 

 「天子様……」

 

 

 天子を心配する衣玖。しかし、彼女達もただ観戦しているだけではいられなかった。

 

 

 「お前たちもここで潰させてもらう」

 

 「へぇ、亡霊とちびが私達を潰すって?冗談もほどほどにしろよ?」

 

 「なに!?我をちびと申すか!お主だってちびであろうが!」

 

 「はぁ?鬼に喧嘩売ってるのか?」

 

 

 衣玖達の前には屠自古と布都が立ちはだかった。小さい者同士のにらみ合いが続いていたその時に新たな人物がこの場に現れる。

 

 

 「あらあら?豊聡耳様はお取込み中ですかぁ?」

 

 「たいし~!いわれたとおり~やってきたぞ~!」

 

 

 青娥には【壁をすり抜けられる程度の能力】を持っている。幽霊のように壁を通り抜ける能力ではなく、物理的に壁を切り抜いて穴を開けることができる。その能力を使って壁に丸型の穴が開いた中から青娥と芳香が現れたのだ。

 

 

 「青娥、この者達を出さぬよう結界は施したのですか?」

 

 「ええ、それはもう苦労しましたよ。複雑でわたくし自身も骨が折れそうになりましたもの♪」

 

 「結界!?」

 

 

 橙はすぐに懐に持っていた通信手段の符を確認する。何度やっても紫の元へ繋がらなかった。それはこの空間があの仙人によって結界が張られ封鎖空間へと変えられてしまっていた証拠だった。

 

 

 「うふふ♪無駄ですわよ小さな子猫さん♪あなた程度じゃびくともしませんわよ?」

 

 「にゃにゃぁぁ……」

 

 

 橙は困り果てていた。紫と藍からの指示がない今、自分はどうしたらいいかわからない。相手は確実に自分より上の存在であった。どうこの状況を打開する策を考えないといけないのだが、思いつかない。経験の未熟さが現れたようだ。次第に橙は後退り、妖夢の元まで逃げてしまっていた。

 

 

 「橙、しっかりしてください。何とかして外にいる紫様と藍さんに連絡を取れる手段を考えるのです」

 

 

 妖夢は橙に近づいて言った。天子は神子は対峙していて手が離せない。そして、妖夢達を取り囲むように屠自古、布都、青娥に芳香がにじり寄る。この場で戦うのは天子と神子だけではない。

 

 

 「衣玖さん、萃香さん、そちらはお任せします。私はあの仙人と死体を相手します」

 

 「お一人で大丈夫なんですか……?」

 

 

 衣玖が妖夢を心配するが、妖夢は笑った。

 

 

 「私は天子さんの弟子です。衣玖さんなら天子さんの強さを知っているはずです。私も天子さんのように強くなりたい。ならば、これも一つの壁です。この壁を乗り越えなければ天子さんに近づくことなどできませんから……」

 

 

 強い意志の表れだった。いつも自分より弱いものが相手ではない。自分より格上の存在が敵として立ち塞がることだってあるし、妖夢は壁を乗り越えなければならない。自分が目指した優しい天人のようになるために!

 

 

 「ほ~!いい度胸じゃないか。少し気に入ったよ。半分死んでいても闘志までは冷めていないようだね」

 

 「当然ですよ。半分は人間なのですから」

 

 「~♪天子の弟子だからどんな奴かと思ったけど、悪くないね。以前会った時よりもいい顔になっている……実力はボチボチだろうけどね」

 

 「一応誉め言葉として受け取っておきますよ」

 

 

 萃香と妖夢はお互いに何か思うことがあったのかそれ以上は何も語らず、自分の敵を見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あらあら♪半人前の子がわたくしを倒そうと?」

 

 

 あざ笑うように妖夢を見つめる青娥が言う。妖夢はその程度で怯むことはなかった。

 

 

 「あなただけではありませんよ。そこにいる死体も一緒に相手してもらいましょう!」

 

 「わた~し~は、したいじゃない~!キョンシーだぞ~!」

 

 

 曲がらない腕を上にあげて抗議する芳香。妖夢はその抗議をばっさり切り捨てる。

 

 

 「どちらも一緒ですよ!私は異変を解決しなければなりません!そのためにお二人に負けるわけにはいかないのです!」

 

 

 妖夢は刀を構える。

 

 

 「私は魂魄妖夢……お二人のお名前は?」

 

 「わたくしは霍青娥ですわ。そしてこっちが宮古芳香……わたくしの芳香ちゃんよ♪」

 

 「せいがのためにも~たたかうぞ~!」

 

 「青娥さんに芳香さん……お二人ともご覚悟を!!」

 

 

 妖夢VS青娥&芳香

 

 

 半人前の庭師と邪仙の戦いが幕を開ける……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「我と戦うつもりか?」

 

 「あん?鬼である私がお前のようなちびに負けるわけないだろ?」

 

 「また言うか!我もちびだが、お主もちびだろうが!」

 

 「なんだって?喧嘩なら喜んで買うぞ?」

 

 

 小さい者同士のいがみ合いがまた始まった。二人はお互いに一歩も譲らない。

 

 

 「我は物部布都なり!太子様のために手となり足となったのだ。お主如き妖怪に遅れなどとらぬわ!太子様の野望のために……鬼退治してやろうぞ!」

 

 「自己紹介されたならやるしかないね。私は伊吹萃香だ。そんじゃ、布都……やれるもんならやってみろ!」

 

 

 萃香VS布都

 

 

 鬼を退治することが果たしてできるのであろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どうしても私達は戦わないといけないのですか……?」

 

 「ああ、私は太子様のためにこの命を捧げた。そして、肉体は霊体となって蘇り、再び太子様のお役に立てる時が来たのだ」

 

 「それが……間違った道でもですか……?」

 

 「……それでも私は太子様のために尽くすだけだ。それが蘇我屠自古、私という存在だ」

 

 

 目に宿っているのは覚悟と決意だった。お互いに決して引くことができない。

 

 

 「屠自古さん……私も天子様を守ると誓いました。ですが、その前にあなたを倒す必要があるみたいですね!」

 

 「私を倒せるのか?」

 

 「倒します!私は比那名居天子様に尽くしてきました。あなたと同じ……私達は似た者同士なのかもしれませんね」

 

 「ふ、そうかもな」

 

 

 お互いに誰かに尽くしてきた。そしてこれからもその人物に尽くすだろう……似た者同士の戦いが今始まろうとしている。

 

 

 「私の名は永江衣玖です。屠自古さん……私はあなたを倒してみせます!!」

 

 「衣玖殿……私も太子様のために……やってやんよ!!」

 

 

 衣玖VS屠自古

 

 

 似た者同士が戦う姿がそこにあった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あちらは始まったようですね。そろそろこちらも始めましょうか」

 

 「神子……本当に戦うのだな?」

 

 「何を今更……私は蘇る前から決めていたんです。ごっこ遊びだと思っていると死ぬのはそちらですよ。私の邪魔をするのならば……残念ですがその命……散らせていただきます!」

 

 

 神子は腰の太陽を象った剣を引き抜いた。通称、七星剣と呼ばれる剣だ。

 

 

 「神子よ、あなたの思い全力で受け止めよう。そして救い出そう!あなたは救われなければならないのですから!」

 

 「必要ないと言ったはずだ。私は救う側……救われる必要などないのです!比那名居天子、私はあなたを殺します!あなたは私にとって危険な存在のようです……安心してください。安らかに逝けるよう……私の剣で切り裂いてあげますから!!」

 

 

 天子と神子の戦いが始まる……

 

 


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