比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

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まだシリアスです。そろそろ日常平和がほしいところですが……


それでもいいぞという方は……


本編どうぞ!




16話 死闘の始まり

 とある異次元空間で巨大な建物の中心に位置する場所……その周りでは大きな音がこの世界に響き渡っていた。

 

 

 冥界の庭師は刀を振るい何度も切りかかるが、それを防ぐ強靭な爪がぶつかり合う音、炎を生み出し鬼に向かって投げつける。しかし、それをもろともしない鬼、雷と雷同士がぶつかり、反発し合い、空からも雷が降り注ぐ影、ここは今まさに戦場と化していた。その戦場の中で二人だけは周りの音も衝撃も感じないようになっていた。

 

 

 ごっこ遊びではない戦い……命の駆け引きが始まろうとしているのだから……

 

 

 「……」

 

 

 神子からの敵意が殺気に変わった。私は予想もしていなかった。神子の受けた苦しみが彼女をここまで変えてしまうとは……だが、これもこの世界の歴史だ。ゲームなんかじゃない現実なんだ。彼女は豊聡耳神子であり他の何者でもない。私は神子を救いたい……否、救わなければならないのだ。だからこそ、あなたに嫌われたっていい。それでも、私は豊聡耳神子……あなたを救いたいんだ!

 

 

 「比那名居天子……行くぞ!」

 

 

 対峙する二人の硬直が解けたのは、すぐのことだった。最初に仕掛けたのは神子の方、神子の動きは思いのほか早く俊敏だった。しかし、天子は焦らない。目を神子だけに集中して彼女のみを見ることで、神子の動きを把握する。

 

 

 見えた!

 

 

 天子は神子の七星剣を緋想の剣で受け止める。神子が攻撃してきたのは丁度首の当たりだった。確実に命を狩り取られる場所だ。神子は命を奪うつもりだ……野望のために……

 

 

 「今ので死ねたなら苦しまなくても済みましたのに……」

 

 「すまないな。私はあなたを救い出すまで死ねないさ」

 

 「まだ言いますか!!」

 

 

 七星剣が再び振るわれる。天子はそれを何度も受け流していく。

 

 

 まずい!神子の動きが予想以上に速い。目で何とか追えているが、これほど優れた剣術を放ってくるとは思っていなかった。こんな形じゃなければ語り合いたかったのに……人々のために振るわれた剣が今、私の命を狩り取ろうと振るわれていた。ダメだ、神子に私が負けてしまったら、もう彼女は後戻りできなくなってしまう。神子の手はまだ血塗られていない……その手は殺めるために存在するのではない。誰かと手を取り合い、泣き笑い、喜び楽しむためにある。ほら、とても綺麗な手をしてるじゃない。あなたに血は似合わないし、笑っている姿がお似合いだ。あなたはまだ知らないと思うけれど、本来の神子はいろいろなことを仕出かしていた。希望の面を作ったり、絶対平等主義者のお人好しな僧侶との宗教バトルもあって幻想郷を賑やかにしていた。ゲームでしか見なかったけど、随分と楽しんでいたように私には見えた。だから、神子あなたは笑えるはずだ。過去は変えられないけど、未来は変えられる……私があなたを……笑っていられる神子の姿を取り戻してみせる!

 

 

 「はぁ!」

 

 「くっ!?」

 

 

 天子が今度は反撃に出た。その姿はまるで蝶のように舞い、蜂のように刺すと言った言葉が似合う。男なのに緋想の剣を振るう天子の姿に多くの者が心奪われるだろう……しかし、彼女は魅了されなかった。天子に向けるのは邪魔者を排除するただそれだけの意思だけだった。

 

 

 「舐めるな!!」

 

 

 七星剣が緋想の剣をはじき返し命を狩り取ろうとする刃が天子の肌に突き刺さる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……かと思われた。

 

 

 「なっ!?」

 

 

 刃は天子の肌に刺さらず、まるで岩に剣を突き立てようとしたように硬かった。天子は肉体を徹底的に鍛えたおかげで防御力を極限まで上げていた。今や天子の肌は人の身でありながら、筋肉の硬さと言うよりも岩のような硬さを誇っていた。これには神子も想定外だったため反応が遅れてしまう。

 

 

 天子が神子の腕を掴み勢いに任せて背負い、投げ飛ばす。神子は投げ飛ばされて硬い地面に体を打ち付ける。

 

 

 「がはっ!」

 

 

 咄嗟のことで受け身が取れずに衝撃は体全体に伝わる。無防備な状態での衝撃が意識を狩り取ろうとしたが、強固な魂がそれを許さない。神子には決して引けない覚悟がある、叶えたい野望がある、こんなところで負けることはできない……神子は己の体に鞭打って起き上がる。

 

 

 「ゆ、ゆだん……しました……しかし、私はまだ戦える……ここで終わりになんかさせません!私は人々を導くためにここにいる!導けなければ私の存在意義などないのだ!!」

 

 「神子……」

 

 

 あなたの覚悟は伝わっている。この程度であなたを倒せるとは思っていない。本当は傷つけたくはない……だが、私も覚悟を決めている。私も手加減などするわけにはいかない……行くわよ!!

 

 

 天子と神子の激闘が続く……

 

 

 ------------------

 

 

 「ふ……見事でした……あなた達をここで食い止められないとは……」

 

 

 虎の体色のような金と黒の混ざった髪をした娘はそのまま気を失った。その娘を倒して大喜びしている一人の娘は当然……

 

 

 「やりました!これでラスボスに挑めるんですよ霊夢さん!」

 

 「はいはい、わかったから……ってか、らすぼすってなによ?」

 

 「ラスボスですよ!ラスボス!ラストボスの略称でして詳しく話せば……」

 

 

 東風谷早苗だった。彼女はここに来るまでほとんど一人で敵を片づけてしまった。そして、船は見慣れない場所に到達し、如何にも最後の決戦と言った場所へと向かう途中だった。

 そんな中で早苗は霊夢の問いに長々と説明しようとしていたが、そんなものに興味などない霊夢が効く耳を持つわけがなく……

 

 

 「詳しく話さなんでいい!」

 

 「そ、そんな~!今から数々のゲームや漫画で登場したラスボス達の素晴らしさを解説しようと思いましたのに……」

 

 

 ションボリする早苗に魔理沙はため息がでる。

 

 

 「全く早苗は早苗だな。ここに来ても緊張感なんてまるでないじゃないか」

 

 「そんなことないですよ魔理沙さん。私だって、これから先に待ち受ける悪の大魔王と戦うのですから緊張もしていますよ。それに興奮が抑えきれません!こんな最後の決戦みたいな場所に来ているんですよ?誰だって興奮を抑えられないじゃないですか!」

 

 「お、おう……」

 

 

 相変わらず早苗のテンションについていけてない霊夢と魔理沙だった。そんな時にふとした疑問を早苗は口にした。

 

 

 「そういえば天子さん今頃どうしているでしょうか?天子さんなら異変なんてチャラヘッチャラのはずなんですがね?」

 

 「天子ってそんなに強いのか?」

 

 「魔理沙さんは新聞読んでないのですか?」

 

 「読んだぜ。でも、あの文のことだからでっち上げが入っているかと思うのだが……それに弾幕勝負できるのか不安になってな」

 

 

 魔理沙の言うことは確かにそうだと思う。魔理沙は天子は信用できる相手だった。だが、どれぐらいの実力化は知らない。鬼の萃香を倒したと新聞に載っていたが直接見たわけではない。それに異変と言えば弾幕勝負が基本だ。男の天子に弾幕勝負ができるのかと今更ながら疑問に思ったのだ。

 

 

 「魔理沙、心配することなんてないわ。萃香が夜通し話してくれたわよ」

 

 

 霊夢は聞かされていた。博麗神社に帰って来た萃香の様子がおかしかった。気になった霊夢はそのことを聞いてしまったことを後悔した。酒を飲んでいないにも関わらず何かに酔ったように遠い何かを見つめている萃香は霊夢に語った。自分を打ち負かした天子のことを……霊夢は新聞を読んで少なからず経緯は知ったが、酔いしれた萃香は事細かに語った……霊夢が何度も寝ようと布団にもぐり込んでも、わざわざ霊夢を起こしてまで最後まで語ろうとした。そのおかげで霊夢はその夜ぶちぎれたことがあった。その嫌な記憶のおかげで天子の実力を霊夢は知っていたのだ。

 

 

 「なるほどな、その……霊夢はドンマイだったな」

 

 「あの夜は最悪だったわよ……萃香がうるさくてかなわなかったわ……」

 

 「ちなみに霊夢さん、萃香さんはどうなったのですか?」

 

 「ん?大丈夫だったわよ。封魔針で脳天ぶち抜いても朝には元気に蘇っていたから」

 

 「「わぁお……」」

 

 

 魔理沙と早苗は流石霊夢と思った。容赦しないところがやっぱり博麗霊夢という存在だと改めて感じた。

 

 

 「まぁ……後なんて言えばいいのかしら……」

 

 「どうしたんだ霊夢?」

 

 

 珍しく歯切れの悪い霊夢の様子をおかしく思う魔理沙。

 

 

 「何となくだけれど、天子は向こうの異変に行かなきゃいけない気がしたのよ」

 

 「それって博麗の巫女の勘ってやつか?」

 

 「そうね。私達は邪魔しちゃいけないと思ったのよ」

 

 「巫女の勘って便利ですね……私もほしいです!」

 

 

 早苗がプリーズ言った形で手を前に出す。霊夢の持っている博麗の巫女の勘をくれと言っている態度だ。そんな手を霊夢はお祓い棒で叩く。

 

 

 「いたっ!」

 

 「あんた図々しいわよ!それに早苗は巫女じゃないでしょ?」

 

 「かぜ……なんとかだったな?」

 

 「風祝(かぜはふり)です!それでも霊夢さんはずるいです。ニュータイプみたいな能力を持っているなんて汚いです!脇巫女汚い!脇汚い!!」

 

 「にゅーたいぷって何のことよ……それに脇巫女言うな!それとその言い方だと私の脇が汚いと思われてしまうでしょうが!」

 

 

 魔理沙の目の前でコントか何かと間違えるような光景が広がっていた。

 

 

 「おいおい、それぐらいにしておこうぜ。そろそろ先に進まないと私達ここで野宿することになるぜ?」

 

 「このこの!ったく……それもそうね。結局宝はなかったし……」

 

 

 早苗をお祓い棒で叩いていた手が止まり、思い出したのか霊夢は沈んでしまった。博麗の巫女としての勘もあったのだが、紫が言った「宝船」と言う言葉に惹かれてしまってこちらを選んだのは間違いない。しかし、結果は金目の物など何もなかった。途中で帰ろうかと思ったが、ここまで来て手ぶらで帰るなど霊夢にはできなかった。もういっそのこと、早苗が言うラスボスをぶっ飛ばして気晴らしするのがいいと考えた。

 

 

 「こうなったら最後は私直々に相手をしてやるわ!魔理沙!早苗!ついてきなさい!!」

 

 「ああ!霊夢さんラスボスはパーティー戦で戦わないといけませんよ!一人では無謀というもので……!」

 

 「早苗の言うこと意味不明よ。それより早く来なさい!」

 

 「霊夢さ~ん!待ってください~!」

 

 「やれやれだぜ……」

 

 

 霊夢達は最終戦へと向け奥地へと進んで行った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方の守矢神社では……

 

 

 「紫様!橙との連絡が途絶えてしまいました!橙は一体どこに……!?」

 

 「落ち着きなさい藍、それで現状はどうなっているの?」

 

 「そ、それが前の通信を最後に……」

 

 

 藍は取り乱していた。溺愛する橙からの連絡が途絶えてしまい行方知れずになってしまったことに焦りが生じていた。

 

 

 「緊急事態のようだな」

 

 「紫、例の洞窟はどこに?」

 

 

 神奈子と幽々子も只ならぬ様子に真剣だった。

 

 

 「ここより南の方角よ。その洞窟の先は異次元に通じているらしいけど、通信が途絶えたということはその入り口も既に……」

 

 「無くなっているはずだよねぇ」

 

 

 紫の言葉に諏訪子はそうだろうなと頷く。連絡が途絶えたのはおそらく相手側の妨害によるものだろう。わざわざ妨害する相手が入り口を残しておくわけはない。きっと霊達が集まっていた洞窟の入り口は既に閉ざされてしまったいるのが妥当だろう。それをわかっている紫達は頭を悩ます。

 

 

 「あやや、どうにかできませんか?あなたのスキマで?」

 

 「相手がどこにいるかもわからないんじゃどうすることもできないわ。それに異次元に相手がいるなら、広大な草原の中から米粒を探し当てるようなものよ。いくら私でも場所がわからなければスキマをそこへ繋げるには一苦労するわ」

 

 「そうですよね」

 

 

 文もこれにはどうすることもできなかった。有能なスキマの能力を持つ紫でも相手の場所がわからないことでは手が打てない。紫は考えた……どうするべきかと……だが、その沈黙を破った人物がいた。

 

 

 「みんな大丈夫だ。心配することはない」

 

 

 慧音だった。こんな状況でもスヤスヤと眠っている妹紅を膝枕をする形で座っている。その慧音は自信を持った表情だった。

 

 

 「幽々子殿もわかっているのではないか?」

 

 「あら、あなたにもわかっちゃう?」

 

 「ああ、幽々子殿が彼を向かわせたのだからな」

 

 

 彼という言葉でここにいる全員がその人物を理解した。紫も例外ではなかった。

 

 

 「彼ならやってくれるさ」

 

 

 慧音は自信満々に言った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「比那名居天子なら……!」

 

 

 ------------------

 

 

 ガキンッ!

 

 

 緋想の剣と七星剣がぶつかり合う音が響く。両者一歩も引かない死闘が激しさを更に増していた。

 

 

 神子が攻撃を繰り出せばそれを天子は受け流す。天子が攻撃を繰り出せばそれを今度は神子が受け流す。神子も剣術の身のみならず天子に蹴り技を繰り出すが、それも天子は体術を持って受け流す。互いに五分と五分の戦いでもあった。しかし、防御力は天子の方が上であるために攻撃に決めてがない神子は押され始めていた。

 

 

 「はぁ!」

 

 

 天子が神子に対して再び攻撃を繰り出す。緋想の剣が神子に狙いを定めて振り下ろされる。当然神子はそれを七星剣で受け止めようとする……が、それは囮で天子はすかさず前に飛び出し体当たりをくらわせた。咄嗟に防御するも男の肉体である天子の体から繰り出される衝撃を受け流すことができずに後方に吹き飛ばされる。だが、神子もこれぐらいで倒れはしない。両足で地面を踏みしめて堪えることに成功した。

 

 

 「……比那名居天子、君がここまで強いとは予想外でした。この幻想郷にはまだまだ見ぬ強敵が多そうですね」

 

 「ああ、私よりも強い者なんていくらでもいる世界だぞ?」

 

 「ふふ、その者達から心を奪うのは難しそうですね……ですが、私は諦めません。例えこの身が砕けて、醜く朽ち果てようとも私の野望だけは叶えてみせます。未来のために……人々のために!」

 

 「(神子……)」

 

 

 神子は決して倒れるつもりはなかった。倒れればそこで全てが終わるから……そのために一度死を体験し、再びこの世に蘇った。そこまでして叶えたい野望だった。この世を変えたい、人々を救いたい、醜い心を無くしたい一心でこの場にいる。だからこそ決して負けられない戦いなのだ。

 

 

 「ですが、君の肉体は私の想像を超えて強靭な強度を誇っているようです。ならば私も奥の手を使わせてもらいますよ!」

 

 

 そう言うと神子は周りに浮かんでいる霊達に手をかざした。天子はこの行動が何を示しているのかわからなかったが、それを理解するのに時間はかからなかった。

 

 

 霊達は神子に吸い寄せられるように飛んでいき、やがて霊達は神子の肉体へと吸収されていった。

 神子は仙人である。仙術を駆使して、霊体から力を吸収していると考えられた。その証拠に神子の気質が先ほどよりも大きくなっていたことがわかる。疑問に思っていた、神子達は何故霊達をここに集めていたのか……天子はそれを理解することになる。

 

 

 「神子……霊達を集めたのは力を得るためだったのか?」

 

 「そうですね。こんなことはしたくありませんでしたが、私は蘇ったばかりです。この幻想郷のことも青娥が調べてくれなければわかりませんでしたし、幻想郷にいる強者の実力も判断できませんでした。私の力はまだ戻っていません。もし今の状態で戦えばこちらが不利……だから保険としてこの霊達を呼び寄せたのです」

 

 

 霊達は欲を叶えてもらうためにこの場所を目指していた。だが、それは神子による罠であり力を得るための保険として集められていたのだった。だが、欲を叶えてもらうために集まった霊達だ。神子は霊達を力と変えるべく取り込む際にその欲を聞いてしまう。

 【十人の話を同時に聞くことが出来る程度の能力】これは人間の話を10人同時に聞いて同時に理解するだけでなく、適切な助言まで与えられるし、人間のみならず霊の話も同時に聞くことができる。欲を同時に理解することによって、その欲の要因を瞬時に読み取り、その者の本質を把握できる。それによってその者の過去を調べることができるし、未来の予知まで行うことができる。とても便利な能力だが、今の神子にとっては辛い能力になっていた。欲は何しも綺麗なものばかりではない。邪な欲もある故、それを神子は取り込む際に聞いてしまうのだ。

 

 

 神子は気分が悪くなった。取り込んだ霊の中にも邪な欲を持っているものがいたのだろう。神子は気分の悪さを我慢してまで力を得ることを選んだ。そうしなければ、蘇った直後の今の自分では天子には勝てないと判断したのだ。卑怯と言われるかもしれないがそれでも神子は止めない。どんな自分が醜くなろうとも人々を救い出すのが最優先だから……

 

 

 「はぁ……はぁ……」

 

 

 天子が止める間もなく、神子は霊達を吸収し自分の力へと変換した。辺りにいた霊達は今や姿が存在しなくなった。そして、神子から溢れ出る気質が先ほどよりも更に異常に跳ね上がっていた。

 

 

 「はぁ……はぁ……お待たせしましたね……比那名居天子……第二ラウンド開始といきましょうか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おいおい、あいつあんなに無理して……そのうち死ぬぞ?」

 

 

 萃香は神子が霊達を取り込んで力に変える姿を見てそういった。確かに力を得ることができたが、その代償は大きいことを萃香にはわかっていた。あの体に溜めておけるほど欲と言うものは簡単なものではない。欲が我慢できないから過ちを犯したりするぐらいなのだから……

 

 

 「いいのか布都?お前の太子様死ぬぞ?」

 

 

 萃香が布都に問うが……

 

 

 「太子様が望んだことだ……それを支え、太子様が何不自由なく実行できるようにするのが我の役目。太子様は決して死なぬ!野望を叶えるまでは!そして太子様のために我はなんでもやってみせるのじゃ!」

 

 

 元気な小童はそこにはいない……いるのは豊聡耳神子に仕える一人の尸解仙(しかいせん)だけだ。

 

 

 「我々は負けぬ!妖怪共なんぞに負けるわけはない!人々のために尽くす太子様があんな天人なんぞに負けたりしないのじゃ!」

 

 

 心の底からの叫びのようだった。彼女がそう願っているように吐き出された言葉のように聞こえていた。

 

 

 「そうか……妖怪共なんぞに負けるわけはない!ねぇ……なぁ、もし野望が叶った後は布都はどうするんだ?」

 

 

 萃香の疑問だった。神子がもし野望を成し遂げた後はどうするつもりなのかと……返って来た答えは萃香が予想していた通りの答えだった。

 

 

 「我々も心を捨てるのじゃ!そうして太子様の野望は完璧なものになるのだ!そのために我々の犠牲など大したことではないのじゃ!」

 

 

 自己犠牲……何かの目的のためだったり、自分以外の誰かのために自分の時間や労力、体、場合によっては生命を捧げることを言う。まさしくそれだった。萃香は今まで散々多くの人間を見てきた。その中には汚い人間もいたが、自分を犠牲にする者もいた。その時に見た奴と同じだった。その者はどうなったか……言うまでもない。考えなくてもわかるから……萃香の目の前にいる布都の姿がその者と重なってしまった。嫌な思い出だ……鬼がまだ人間と仲良くお互いに酒を飲み交わしていた頃を思い出す。だから萃香は言った。

 

 

 「お前バカか?」

 

 「なに!?」

 

 

 布都は驚いた。自分の覚悟がバカと言われてしまったことに……

 

 

 「お前はバカだよ。とんでもない大馬鹿だ」

 

 「我の覚悟がバカだと!?いい加減にしろ!」

 

 「なら、アホだな。お前はアホだ」

 

 「貴様!!」

 

 

 萃香には布都の怒る気持ちを理解しなかった。理解したくなかった……己を犠牲にすることで、自分自身を蔑ろにし、他者の気持ちを理解しない人間が嫌いだ。鬼は人間が大好きだ、大好きだからこそ己を大切にしてほしかった。だが、目の前の布都は己の命も己の意思さえも神子に捧げて尽くすばかり……鬼である萃香にとってはバカなことだとしか映らない。それで、己の命を捨ててきた人間達を何度も小鬼は見ていたから……

 

 

 「お前のようなアホは言っても治らないとはよく言ったもんだよ。だから私はお前を叩きのめして、その頭の中を元通りにしてやる」

 

 「舐めるなよ鬼が!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そこです!」

 

 「芳香ちゃ~ん!守って~♪」

 

 「お~!」

 

 

 妖夢の刀は青娥には届かない。何度も刀を振るうが青娥を守る芳香に阻まれてしまう。例え芳香にダメージを与えたとしても意味がなかった。芳香には自身を回復する手段を持っていた。斬られた箇所も元通りに修復され、例え首を斬られたとしても操り主である青娥によって蘇ってしまう。だから、妖夢は必然的に青娥を狙うことになるのだが、それでも届かない。

 

 

 「くっ!」

 

 「あらあら?最初の威勢はどこに行っちゃったのでしょうか?もう興冷めなんですけど……?」

 

 

 わざと妖夢を揶揄うような態度をとる。妖夢は挑発だとわかっているにしても青娥の煽り方が妙にウザく感じてしまっていた。それと同時に疑問に思っていたことがある。

 

 

 「青娥さん、一つお聞きしてもいいですか?」

 

 「あらん?何かしら?」

 

 「……何故神子さんに加担したんですか?」

 

 「……」

 

 

 青娥は妖夢の問いに黙ってしまった。彼女には珍しい余裕の笑みは無く真剣な表情であった。妖夢は待った。戦いの途中であったとしても質問したのは自分であり、何より妖夢自身聞きたかった。何故邪仙であるはずの彼女が人々を助けるために自らを犠牲にする神子に仙術を教え、力を貸していることに疑問だったのだ。しばらく待っていると青娥は喋りだした。

 

 

 青娥は語る……初めは興味本位で近づいて、宗教対立する都で有名な豊聡耳神子に仙人としての術を教えることでどう面白い結果になるか試してみようと思ったのだ。表は仏教を、裏では道教を信仰するという皮肉な結果に面白さを感じていた。次第に神子の名は誰しもが知る名となり、人々は神子を慕う者が多かった。だが、そんな時に青娥は知った。表では神子の弟子として振舞い、裏では神子を恨み悪行を行う者達がいることに……青娥にとっては大したことではなく興味はなかった。万人から慕われるのなんて無理な話だ。必ずしも誰かがそれを良く思わない者がいることは当然。そろそろ面白さもなくなったので都から離れようとした時に見てしまったのだ……

 書庫から出てきた神子の瞳に涙が流れていた。そこにいたのは誰からも慕われ、尊敬される豊聡耳神子ではなかった。痛みと屈辱を堪えながらも何食わぬ顔で人々の前に現れて導く姿、脅されながらも民や弟子の前でも善人として振り舞う姿を陰から見ていたのだ。ずっと……

 

 

 見ていて面白くないと思っていた。それならばさっさと都から去ればよかったはずだった。そのはずだったのだが何故かできなかった。何度か青娥は都を去ろうとしたが足が動かなかった。いつも都を出ても足がそれ以上進まなくなり、引き返してしまっていた。初めはどうしたものかと思ったが神子を見ていて青娥は理解した……

 

 

 「わたくしは理解しましたのよ。その時……」

 

 「……」

 

 

 妖夢は黙って聞いていた。青娥の語る話を……そして青娥は言った。

 

 

 「豊聡耳様は……ああ見えてもわたくしの弟子ですわ。弟子を見放すなんて……わたくしにはできませんでしたもの……」

 

 

 彼女は悲しそうに見えた。表情は笑みを浮かべて妖夢を冷やかすような目をしていたが妖夢にはそう見えたのだ。彼女は自分を隠しているように思えた。そして、妖夢は感じた。師が弟子を思う心……それを消させてはならない。神子が野望を叶えてしまったら彼女も心を失うことになると思うから……この人のためにも妖夢の覚悟は更に強さを増した。

 

 

 「私も天子さんの弟子です。師が弟子を思う気持ち……少しわかる気がします。天子さんも私のことを気にかけてくれるから……だからこそ、青娥さんを悲しませないためにもあなた達を救うためにも、青娥さんを倒します!」

 

 「わたくしらしくない事を言ってしまいましたわね……でも、半人前の子が私に勝てるかしらね?」

 

 「勝たなくてはいけないのです!私に……救えぬものなどあんまりない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それぇ!」

 

 「うらぁ!」

 

 

 ここでは雷同士がぶつかり合っていた。雷を操るもの同士が対峙している。

 

 

 「屠自古さんやりますね!流石ですよ!」

 

 「そっちもやるじゃない!見直したよ!」

 

 

 衣玖と屠自古はお互いに称え合っていた。どちらもこの戦いは大きなものとなっていた。天子のため、神子のために戦うだけじゃなく、対峙している相手が己のためになりえる存在だとわかったから。

 

 

 「本当ならば引き分けにしたいくらいですけど……そうはいきませんものね」

 

 「ああ……悪いな」

 

 「いえいえ、お互いに引けぬものがありますから……でも、私が勝ったらその時は一緒に一杯飲みませんか?」

 

 

 意外な誘いだった。自分を誘うだなんて変わっていると思ったが屠自古は悪くない気分だった。もし、一緒に飲めたらどれほど仲良くなれただろうと想像したがそれを振り払った。自分が負けてしまえば神子が今まで抱いて来た野望が叶えられなくなってしまうことだろうから……彼女には負ける選択肢は存在しなかった。

 

 

 「ありがたい誘いだが断らせてもらう。私は負けないからな」

 

 「いいえ、必ず一緒に飲むんです。私も負けません!あなたに勝ってこの異変を負わさせて皆さんと一緒に飲み、一緒に笑うのですから!」

 

 

 衣玖はこんな悲しい異変など終わらせてしまいたかった。神子達の人々を想う優しさが引き起こした異変だ。辛い過去は消せないが、せめてこれからは楽しい未来を歩めるように願っている。だから、異変を終わらせて宴会の続きをしたかった。神子達も含めた宴会を……!

 

 

 「屠自古さん……私の雷の味を受けてください!」

 

 「来るか……なら私のも味わってみろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「紫様……藍様……橙は今、とんでもないものを見ています……!」

 

 

 橙はこの光景を目に焼き付けていた。誰もが引けない理由を持ち、執念同士の戦いは橙にとって今までで見たこともないものを見せていた。目が離せない程の戦い……どの戦いも手加減など存在しない死闘……橙はその迫力に息を呑むしかなかった。しかし、彼女も幻想郷の賢者に仕える式の式……自分のやるべきことをするべく作業に取り掛かる。

 

 

 「紫様、藍様、橙だってやれるだけやってみせます!」

 

 

 天子達はこの異変を解決できるのだろうか……?

 

 

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