比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

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神霊廟編も終わりに近づいてきました。


それでは……


本編どうぞ!




17話 死闘の果てに

 「比那名居天子……行きますよ!」

 

 

 神子が一歩を踏み出した……踏み出したように見えたが、それは間違いだった。踏み出していたと言った方が正解だ。神子が一歩踏み出したように見えたが既に天子との距離は目の前になっていた。

 

 

 はやっ!?

 

 

 天子はそう理解するよりも先に神子は既に一手を打っていた。神子の拳による一撃が天子の腹を捉えていた。

 

 

 「がはっ!」

 

 

 天子の体は吹き飛ばされ壁にぶち当たった。

 

 

 いたた……嘘でしょ!?先ほどまでこれほどの力はなかったはず……萃香のようなパワーキャラでない神子が萃香と同じような力を発揮するなんて……先ほど取り込んだ霊の数は多かった。そのおかげだろうけど神子の細い肉体にどこにそれを貯め込んでいるんだ?萃香も体小さいから気にしてはダメなのかな?しかし、萃香のように元々持っている力ではない、霊達から吸収した力であるため自分自身の力でない分、不安要素が多い。私にはわかる……神子は無理をして力を使っているようだ。平静を装っているようだが、私も平静を装おうことに慣れているためわかったのだ。なんだか自分自身を見ている気がする……天界で「天子様!天子様」と呼ばれて慕われていたり、上に立つ立場の者であるし、我慢することをいとわないところとか……もしかしたら私も知れずに誰かから恨まれたりしているのかな?それならば私は神子のように耐えることができるだろうか……?

 しかし、今はそんなことを考えているよりも優先すべきことがある。神子が優位に立ってしまったこの状況は非常にまずい。もし私が負けてしまって神子がここから外に出て野望を叶えようとしたら、それを紫さんが黙っているわけがない。紫さんは普段優しいけれど、幻想郷のためなら感情を露わにする。元天子ちゃんの時だって激怒したぐらいだったから……そう考えると神子や豪族組の命が危ない。何としても神子達をここから出さないようにしないと!

 

 

 「神子……やるな……今のは効いた」

 

 「万全の状態で力を取り込めたのならもっと良かったのですが仕方ありません。それでも君にはいい薬になったろ?私に逆らうとどうなるか……」

 

 「そうだな……でも、逆らおう……あなたを救うと決めたからには……な」

 

 「本当に飽きないですね。君のような方は初めてですよ」

 

 

 神子は笑った。私を見て……悲しそうに……そんな悲しい顔をさせるために私は神子に逆らうわけじゃない。笑ってほしいから逆らうんだ。神子を笑顔にするために!

 

 

 「比那名居天子……その名は一生忘れません。私に逆らった変わり者として心に刻み込みましょう」

 

 「はは……心を奪うんじゃなかったのか?」

 

 

 その天子の言葉に神子の体が一瞬反応した。

 

 

 「いけませんね……君には調子を狂わされるばかりですよ。心を奪うと誓った私自身が心に刻み込むなど……!」

 

 

 そう言うと神子は七星剣を握っていない左手で刃を握りしめた。

 

 

 そして、一気に手をスライドさせる。当然ながら手から血が噴出した。それには天子も驚いた。

 

 

 「何をしている!?」

 

 

 なんで自分を傷つけたの!?何か私はまずいことを言ったの!?どうしてそんなことするの!?

 

 

 「私には心なんていらないのですよ……心を奪うと誓った私が自分の心を残しておくことなどしません。全ての者から心を奪い去った後、最後に残った私は自身の心を無くします。どうせ最後になくなるのですから、今から心が失おうと平気なのです。」

 

 

 天子は神子の言葉を聞いているしかなかった。とても反論できるような言葉が出てこなかった。

 

 

 「だから私は体に痛みを与え、心を消していくのです。私に心など必要ないものですから……」

 

 

 私は見えてしまった。神子の瞳から光が消えかかっていることに……ダメだ!諦めさせやしない!痛みで心を消すなんてことさせやしない!心など必要ないなんて言わないで!

 

 

 「神子!それ以上苦しめはしない!私はあなたに勝つ!勝って救いだすのだ!」

 

 「無駄なことを……君はここで死ぬのです!」

 

 

 お互いの剣がぶつかり合う。しかし、先ほどまでとは違っていた。神子が優位に立っていたのだ。一撃が重くなり、素早く、天子の強固な肉体を切り裂いてしまった。復活直後の神子では天子の肉体に傷をつけることはできなかった。万全の状態なら天子の体に傷をつけることができていただろう。そして、今はその万全の状態を通り越して体に負担をかけてまで力を得た状態だ。天子は緋想の剣で受け流そうとするが、力を受け流せずに体に七星剣が刺さる。肉を切り裂いて体に傷をつけていき血を流させる。天子は一度神子との距離を離して態勢を整える。

 

 

 「はぁ……はぁ……」

 

 

 痛い……これが斬られる痛みか……生前の頃は紙とか指を切ったことがあったけど比較にならないほど痛い。それに体が麻痺するような感覚が襲ってくる。天界で修行していた頃は刃物で体を傷つけることまではしなかった。修行している最中に切り傷とか追うことがあったが、それも比較にならない。痛みで感覚が麻痺しているのかな……それに血が流れている……このままだと私は確実にやられてしまう。

 

 

 天子は呼吸を整えて態勢を立て直そうとした……だが、それを許すほど甘くはない。

 

 

 神子の追撃が天子を襲う。素早い動きと増したパワーによって更に追い詰められていく。体中の傷も多くなり、そこから大量の血が流れ出る。

 

 

 本当にまずい……緋想の剣で受け流せないのは厳しい……こうなったら戦法を変えるしかない。

 

 

 「む!」

 

 

 天子の微妙な体の動きの変化に気づいた神子はすぐに距離をとる。それにより天子が出現させた要石の攻撃に当たらずに済んだ。

 

 

 「そんな芸当も残していたとは……君には驚かされるばかりだ」

 

 「剣術には剣術、体術には体術でお返ししようかと思ったのだが……そうも言っていられなくなってしまった。ここからは私の戦い方を見せてあげますよ」

 

 「ふ、残念ながら見る暇はないです。私は君を早く亡き者にしないといけないですからね」

 

 

 すぐに攻めの体勢に戻り天子に接近した。だが、天子は要石を盾に使い防御する。そして天子は攻めることなく防御に徹した。

 

 

 「守りを固めたつもりですか?甘いですよ!」

 

 

 眼光『十七条のレーザー』!!!

 

 

 神子から放たれる17本のレーザーが天子に迫る。スペルカード……弾幕ごっこで必要になるカードであり、東方のキャラ達が持っているものである。だが……

 

 

 「チッ!」

 

 

 天子は舌打ちした。神子が放ったスペルカードは弾幕ごっこのようなお遊びのものではなかった。天子はそれらを避ける。ギリギリレーザーから逃れたが、(かす)った天子の服ごと肉体を焼き切る。天界でも珍しい素材で作られ耐久性に優れたものだったが、それでも耐えられずに焼き切られた。もし先ほどの攻撃が肉体に触れていたならばただでは済まなかっただろう。

 

 

 「このままだと折角のお気に入りがダメになってしまうな」

 

 「お気に入りの服ならば君の命と一緒に葬ってあげますよ!」

 

 

 再び打ち出される17本のレーザーを避けようとするが、神子がレーザーの軌道を変えた。急に軌道を変えられたことで要石で防ぐことを余儀なくされる。その一瞬の隙を付かれた。

 神子が天子の懐にまで距離を詰め、七星剣が薙ぎ払われた。

 

 

 鮮血が舞った。神子の七星剣が天子の腹を裂いたのだ。

 

 

 「ごぉふ!」

 

 

 口から血は吐き出し体勢が崩れる。それを見逃すほど神子ではなかった。今度はその命を確実に奪うべく心臓に刃を突き立てる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「がぁは!」

 

 

 後ろに体勢を崩した天子の足が神子の腹に直撃していた。体勢が崩れたのを利用してそのままの勢いで腹を蹴った。確実に命を奪うべく接近したためにその衝撃も大きい。神子はよろめき口から胃液が流れ出る。

 

 

 「うぐぅ……がぁ……ま、まだ抗いますか……君は!」

 

 「最後まで抗うさ……はぁ……はぁ……私は覚悟を決めたんだ……神子あなたを救うとね」

 

 「くっ!私には君という存在がわからない……何故そこまでして赤の他人を助けようとするのです!私はこの世界にとっては敵なのですよ!それを君は……!」

 

 

 天子を睨みつける。何故自分をそこまで助けようとするのか?赤の他人……神子は青娥からの情報で天子を知っていた。しかし、それだけだ。天子がここまで自分を救い出そうとする理由が思いつかない。初めて出会ったはずなのに、幻想郷の敵のはずなのに、命を奪おうとしているはずなのに……わからなかった。どうして自分を助ける意味があるのかを……

 

 

 「私はこの幻想郷が好きだ。この世界に生きる者、自然、人間も妖怪も関係なく笑って、時には残酷なこの世界が私は大好きだ。私だってこの世界の住人でもあり、一人の天人くずれ……自分のエゴで他者を殺めたこともある。気に入らないこともある。理不尽なことだって当然あるだろう。でも、それを含めて私はここが好きなんだ。それに神子、あなたのことも……」

 

 「……」

 

 「あなたは知らないだろうけど、私はあなたを知っている。正確には豊聡耳神子であって、あなたではない人物ですが……」

 

 「わけがわかりませんね」

 

 

 当然だ。天子が言っていることは神子には理解できない。ゲームの登場人物など本人に言っても誰も信じないのだから。天子はそれでも話を続ける。

 

 

 「そうですよね。でも、知っているのはあなた自身でないため別人と言った方がいいな。その方はね……笑ってましたよ」

 

 「……笑っていた……?」

 

 「ええ、笑って仲間に囲まれて人々を導こうとしていました。時には異変に関わって幻想郷の皆と戦っていました。その笑顔はとても素敵でしたよ」

 

 

 天子はゲームの中で見せる楽し気な少女たちの笑顔を思い出していた。その中に豊聡耳神子の姿も含まれていた。

 

 

 「変な話ですが、神子の笑顔を知っています。私はその笑顔が好きだ。だから笑ってほしいんだ。あなたには笑顔が似合っているのですから……」

 

 「……」

 

 

 二人の間に沈黙が流れる。お互いに目を逸らさず微動だにしない。時間の流れがそこだけ止まったように見えた。

 

 

 「ふ……ふふ……」

 

 

 神子が笑った。しかし、その笑いは笑顔とは程遠いものだった。

 

 

 「ふふふ……あははははははははは!!!」

 

 

 壊れたように、狂ったように笑い出した神子。そんな神子を天子は見ているしかできない。

 

 

 「おかしいですよ。私の笑顔?私は今笑顔ではありませんか!君のおかしな話を聞いて笑いが止まりませんよ!その笑顔が好き?なら見るといいですよ。私はこんなに笑っているのですから!!」

 

 

 とても冷たい表情だった。見下し、バカにしたように冷めた瞳……彼女にとってはこれが笑顔だと言っていた。その姿を見た天子はとても寂しい目をしていた……

 

 

 「あははは!君は本当に面白いですよ!決めましたよ、君を殺して落とした首を私の家宝としましょう。君はずっと私の笑顔を堪能できるのですよ!あはははははははは!!!」

 

 「神子……」

 

 「そうと決まれば善は急げです。体の方が傷ついても構いませんが顔は傷つけないようにしましょう。私も君の顔をずっと眺めているには綺麗な顔のままの方がいいですから!」

 

 

 そこには神子と呼べる人物はいない。狂ったように笑い、笑い、更に笑い、笑みを浮かべる者がいた。

 

 

 「なら時間が勿体ありませんね!君を殺した次はここにいる他の者達も見せしめに殺してあげますよ!」

 

 「衣玖達には手を出させるものか!」

 

 「口先だけなら何とでも言えるんですよ!力のない者は自分の死に方すら選べないのですよ!私には今、君を圧倒できる力があります。君に残されているのは死だけです!」

 

 

 神子はそう言うと天子に向かって駆けだそうとした……その時だった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鮮血が噴出した。天子ではなく神子の額から血が流れ出た。

 

 

 「なっ……なん……ですかこれ……!?」

 

 

 自分の額から流れる血を見て呟いた。普段の冷静な神子ならばこんなことにはならなかった。今の神子には冷静さも判断力も無くなっていたのだ。何事かわからない神子に天子は言った。

 

 

 「普段のあなたならこんなことにはならなかった。それは力を得た代償だ」

 

 「……代償……!?」

 

 「肉体が耐えられないほどの力を得たせいで体が徐々に崩壊しかかっているのだ」

 

 「な、なにを……!?」

 

 

 今度は鼻から血が流れ出た。そして、体中が軋むような音が聞こえて足に力が入らなくなっていた。神子はたまらず膝をつくことになった。手にも力が入らず七星剣が滑り落ちる。そして目から何かが流れ出た……涙というより血涙が流れ滴り落ちていた。

 

 

 「そ、そんな……この……わた……し……が……こ……んな……ミス……を……!?」

 

 「豊聡耳神子……」

 

 

 天子の言葉に神子は見上げる形で天子を見る。

 

 

 「終わりの時が来たのだ」

 

 

 ------------------

 

 

 炎符「太乙真火」!!!

 

 

 布都から放たれた火気は周囲へ広がり炎の柱がいくつも吹き上がる。そんな中で平然と佇む一匹の鬼……

 

 

 「これぐらいじゃ私は倒せないよ?」

 

 「おのれ!バケモノめ!」

 

 「バケモノ?違う、私は鬼だ」

 

 「くっ!」

 

 

  戦いは正直話になっていなかった。布都がいくら攻撃しても鬼の中でも頂点に立つ一人である山の四天王の一人である萃香にとってはスペルカードルール外の戦いでは強者の部類に入る。それに相性が悪かった。布都の操る炎は鬼である萃香には温かいちっぽけな火であった。布都は他にも試してみたが鬼との格の違いを見せつけられていた。鬼は打たれ強く、力は強い。布都は尸解仙(しかいせん)であって神子のために修行した身であったが、それでも力の差は歴然だった。それでも布都は諦めることなどしなかった。全ては神子のためだから……

 

 

 「くそっ!我では勝てないと言うのか!?」

 

 

 勝てない……布都は自分が無意識に勝てないと理解してしまったことが悔しかった。勝てないとわかってしまい唇を噛みしめる。勝てなければ神子の役に立つことなどできない……このままだと野望も叶えられずにまた神子は苦しい思いをしなければならない……

 

 

 「(そんなの……嫌じゃ!)」

 

 

 そんな現実は認めたくなかった。布都には神子の悲しい思いをしてほしくなかったから……

 

 

 「(嫌じゃ!嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌……嫌じゃ!)」

 

 

 目の前に炎に飲まれながらも平然としている鬼を睨みつけ……

 

 

 「(例え勝てないとわかっても……負けなければいい!)」

 

 

 布都は最後の手段に出た。布都は走り出し萃香の目前まで迫った。

 

 

 「(こいつなにを!?)」

 

 

 突然の予想もしていない動きに一瞬萃香が動揺する。そして、更なる動揺が萃香を襲う。布都が萃香に抱き着き逃れられないように術でお互いの体を拘束した。

 

 

 「お前なにをしている!?」

 

 

 これには萃香も動揺を隠せない。周りは炎で萃香は鬼、だが布都は違う。圧倒的に有利なのは萃香で不利なのは布都の方だ。それにお互い動けないなら萃香の方に軍配が上がるのは必然だった。だが……!

 

 「我は負けるつもりはない!勝てぬのなら負けなければいい!我の最大出力で我もお主ごと灰にしてくれようぞ!」

 

 「お前まさか……!?」

 

 「これが太子様に捧げる最後の……我の覚悟じゃ!」

 

 

 『大火の改新』!!!

 

 

 二人の周りを炎の渦が覆いつくす。炎弾を撃ち出され周りは火の海と変わった。それも今までとは比べ物にならないほどの熱さを宿しており、鬼の萃香の表情が変わった。

 熱いのだ。今まではただの火の粉にもならない程度だったが、これは本物の炎を体に浴びているようだった。萃香の表情が珍しく苦痛に変わった。そして、鬼の萃香でも耐えられない炎を生み出した本人がこれに耐えられるはずもない。

 

 

 耐えられるはずもないが、布都は苦しんでいなかった。全てをやり遂げた安らかな表情だった。

 

 

 「お前……自分ごと私を道連れにするつもりか!」

 

 「我は……太子様のために生きてきた……今までも……そして……これからも……そのために死ねるのなら……本望じゃ……」

 

 「(こいつ……似ている……!)」

 

 

 似ていた。自分の命を省みずに仲間のために命を捨てた人間達に……!あの時の名前も知らない人間達に……!その人間達は最後どうなったか……萃香の中で何かが弾けた。

 

 

 「この……馬鹿野郎!!」

 

 

 萃香は力任せに術を破ろうとする。だが、簡単には破れなかった。全てをかけた布都が出した最後の拘束……命を落としても萃香を道連れにしようとしたものだ。布都の全てが宿る術は萃香と布都を離さないように固く結ばれていた。

 

 

 「こんなもの!私は鬼だ!誰もが恐れる鬼だ!こんなもの壊せないわけがないだろ!!壊れろ!壊れろー!!」

 

 

 それでも術は完全には破れない。少しずつだが壊れ初めていたが、時間の問題だ。布都は衰弱し、萃香も体が耐えきれなくなってきた。

 

 

 「(壊れろ!なんで壊れないんだ!ちくしょう……こんなところで死なれたら天子になんて言ったらいいんだよ!)」

 

 

 萃香は天子なら相手を必ず助けると信じていた。あいつはそういう奴だと言うことを知っている。優しく、強く、カッコイイあいつならこの小童も助けるだろうと……

 萃香の瞳に炎が宿る。布都が生み出したものではなく、魂の炎が萃香を動かすように燃え上がる。

 

 

 「私は伊吹萃香だ!鬼の底力を舐めるんじゃねぇえええええええええ!!!」

 

 

 萃香と布都を繋いでいた術が弾け飛び、二人を飲み込もうとしていた炎の海も共に消え去った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……う、ううん……」

 

 

 布都は目を覚ました。体が重く、目を開けるので精一杯だった。

 

 

 「ったく、世話焼かせやがって」

 

 「お、お主は!?」

 

 

 傍に萃香がいたことに驚いて起き上がろうとするが痛みが体中を襲う。

 

 

 「あぐぅ!」

 

 「動くなよ。動くと痛いからここで大人しくしてろ」

 

 「お、お主……何故我を……?」

 

 

 萃香は少し火傷を負っていた。その内にすぐ元に戻るだろうが、それでも鬼の体に火傷を負わせたことだけでも誇れることだろう。

 

 

 「勝手に死なれちゃ困るんだよ。こっちが天子に怒られるからな」

 

 「我は……お主を道連れにしようと……」

 

 「ふーん……それで?」

 

 「……はっ?」

 

 

 萃香は興味なさげに言った。布都は当然ながら唖然とした表情になっていた。

 

 

 「私は鬼だぞ。退治されるのが普通だ。やられたらそこまでだよ。それに私を打つならそいつは誇ってもいい。まぁ、そう簡単にやられるつもりはないけどね。だから何にも気にしていない」

 

 

 鬼という種族はそうだ。戦って負ければ満足だし、勝っても満足する。戦闘狂である鬼の考えは布都には難しいだろう。

 

 

 「まぁ……その……お前の最後の覚悟……中々よかったよ」

 

 「……えっ?」

 

 

 布都の方を向かずに答える萃香は少し照れ臭そうにしていた。

 

 

 「ちびって言ったことは取り消そう。お前は中々いい女だったよ」

 

 「……我も……お主をバケモノと言ったこと……取り消そう」

 

 「これでお互いにちゃらだな」

 

 「……そうじゃな」

 

 

 お互いに自然と笑みがこぼれる。命をかけた戦った後なのに二人共清々しい表情をしていた。

 

 

 「私は動けないや……お前……いや、布都よ決着がつくまでここで大人しくしてようか?」

 

 「そうだな。鬼……じゃないや、萃香……我も動けないしな」

 

 「決まりだな」

 

 「そうじゃな」

 

 

 二人はここで見届けることにした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ!」

 

 「む~だ~だ~!」

 

 「芳香ちゃ~ん!頑張って~♪」

 

 「ま~か~せ~ろ~!」

 

 

 妖夢は苦戦していた。何度斬ってもすぐに回復する芳香、それをサポートする青娥を相手に分が悪かった。青娥を守る芳香に阻まれまだ一度も青娥に一太刀も入れていない。妖夢の体力も繰り返しの作業をしているようで尽きかけていた。

 

 

 「はぁ……はぁ……」

 

 「あらあら?もう息切れですか?やっぱり生きているって大変ですわね。それに比べてわたくしの芳香ちゃんはこ~んなに元気よ♪」

 

 「げ~ん~き~だぞ~!」

 

 

 妖夢はこのままでは勝てないことはわかっていた。しかし、どうすればいいのか悩んでいた。

 

 

 「(どうすればいい……芳香さんは回復持ち、青娥さんは芳香さんに守られ、芳香さんをすぐに蘇らしてしまう……このままではジリ貧だ。何か手はないか……)」

 

 「考え事ですか~?真面目子ちゃんは頑張りますわね。正攻法で突き進んで来るのはいいことですわね」

 

 「(正攻法……そう言えば早苗さんと戦ったとき……)」

 

 

 妖夢は思い出した。天子に連れられて森の中で稽古をつけてもらうときに早苗が乱入し、そのまま早苗との稽古試合があったことを……その時は妖夢は負けてしまった。しかし、早苗の戦い方を思い出した。妖夢には汚い戦い方に映ったが、戦いに卑怯もクソもないと早苗は言っていた。それを全て鵜呑みにするわけにはいかないが、早苗の戦い方も一つの形だった。今まで真っすぐに青娥の元までたどり着こうとしていた。だが、それだけでは届かない。ならば……!

 

 

 「(早苗さん、あなたとの戦い無駄ではなかったようです。そして、天子さんもありがとうございます。私は一歩前に進むときが来ました!)」

 

 

 妖夢の目に何かが宿るのを見た青娥は息を呑んだ。

 

 

 「(変わった……何かを見出したようね。ふふ♪どう来るか楽しみですわ♪)」

 

 

 妖夢は走り出した。青娥に向かって一直線に!

 

 

 「あらあらまた同じことの繰り返し?芳香ちゃ~ん!出番よ~!」

 

 「お~!」

 

 

 再び盾となるべく芳香は動きだし、妖夢の前に躍り出た。そのまま先ほどと同じく芳香を斬る……ことはせず、芳香を踏み台にして飛び上がる。

 

 

 「ふ~ま~れた~!けど~にがさないぞ~!」

 

 

 芳香は妖夢を逃がさんように妖夢の足を掴んだ。が、妖夢の足が芳香の手をすり抜けた。

 

 

 「お~?」

 

 「(あれは!?)」

 

 

 青娥は見た。妖夢の体が透けていることに……そして、妖夢の姿が白い丸い霊体になっていくのを!

 

 

 「(あれはあの子の半霊!あの子はどこに!?)」

 

 

 青娥の視界には妖夢だった半霊と芳香しか映っていなかった。では本物の妖夢はどこに?そう思った時には既に遅かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「終わりです」

 

 

 青娥の首元には刀が突き付けられていた。青娥の背後に居たのは本物の妖夢だった。

 

 

 「半霊を囮に使ったのですね。意外でしたわ。馬鹿正直のあなたが背後を取ろうとするなんて……」

 

 「囮と言うより入れ替わったんですよ。あなたの後ろに潜ませていた半霊と私は距離が近ければ入れ替わることができます。半霊も私自身ですから」

 

 「なるほど……あなたにしかできない芸当ね。わたくしの完敗だわ」

 

 

 青娥は負けを認めた。よってこの勝負は妖夢の勝ちだ。

 

 

 「それでわたくしをどうするつもりで?殺します?」

 

 「そんなことしませんよ。それに今天子さんが戦っている最中です。あなたは負けたんですからここで大人しくしていてくださいね」

 

 「あらあら、甘いのね。半人前さん」

 

 

 そう青娥は揶揄うが、妖夢の顔は笑顔だった。

 

 

 「私はまだまだ未熟者です。だからこそ、あなた達と戦えてよかったと思っています。とてもいい経験になりました。ありがとうございます青娥さん、芳香さん」

 

 

 頭を下げる妖夢に度肝を抜かれたような表情の青娥。だが、彼女も悪い気はしなかった。

 

 

 「うふふ♪どういたしまして♪」

 

 「お~!なんだか~わからない~けど~どういたし~ましてだ~!」

 

 

 死者を操る邪仙とキョンシーと半霊半人の奇妙な縁がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二つの雷が互いに火花を散らす。

 

 

 雷矢『ガゴウジサイクロン』!!!

 

 

 雷符『エレキテルの龍宮』!!!

 

 

 矢がまるで雷の如くジグザグに移動しながら衣玖を仕留めようと迫ってくる。それを自分の頭上に雷を落として、周囲にバリア状に放電することで全ての矢を無力化する。

 屠自古と衣玖の戦いは長きにわたっていた。それでも勝敗はつかずお互いの体力も限界に近付きつつある。

 

 

 「はぁ……はぁ……屠自古さん……あなたしつこい女だと言われません?」

 

 「はぁ……はぁ……私がしつこい女ならそっちはだらしない女とか言われてないのか?」

 

 「そ、そんなこと!で、でも……て、てんし様はそれでも私のこと見てくれてますし……」

 

 「……否定はしないんだな」

 

 「あっ」

 

 

 いつの間にかお互いに軽口を言えるようになっていた。この戦いで彼女達はお互いのことを知ることができたような気がした。似た者同士であったから、運命は残酷に二人を引き合わせ戦うことを迫ったのかもしれない。

 

 

 「ふん、衣玖とこうして出会えたことは嬉しいと思う反面悲しいと思う私がいる」

 

 「私もです。もう少し別の形で出会えていればよかったのに……」

 

 

 二人は出会ってしまった。こんな形でも感謝していないわけではない。しかし、もう少し平和的に出会えることを二人は望んでいたのに……

 

 

 「衣玖、私達の体力はもう底につきそうだ。ならば次で最後にしないか?」

 

 「最後……ですか。そうですね、私も空気を読んで見事勝ってみせます!」

 

 「ふん!それでいいんだ。だが、勝てると思うなよ!」

 

 

 二人の体に雷が集い始める。まるで落雷が人に宿っているように激しいものだった。

 衣玖と屠自古にとって一秒間がこれほど重いと感じたことはなかった。今の時間がどれほど長く辛いものかは当の二人しかわからない。そんな二人は動かない。否、動けないのだ。どちらにも隙がなく、一撃で決まってしまうのだから……

 

 

 その均衡はすぐに破られた。どこからともなく紛れ込んだ一枚の葉っぱが均衡を破らせるように二人の間に落ちようとする。下に重力に引き寄せられて落ちていく……下に、下に、もう地面につく……そして……

 

 

 葉っぱが地面についた瞬間に葉っぱは燃え散った。それが合図だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人の位置は変わらなかった。しかし、大きな違いがあった。倒れていたのだ……誰が?どっちが?その答えはすぐそこにあった。

 

 

 「屠自古さん……」

 

 

 倒れた者の傍にやってきたのは衣玖の方だった。そうなると倒れているのは屠自古だ。

 衣玖が勝ったのだ。屠自古の全身全霊の一撃を衣玖の雷が上回ったのだ。衣玖は屠自古を抱き起す。

 

 

 「見事だよ……私の……負け……だ」

 

 

 悔しさはなかった。寧ろ何もかも抜けてスッキリしていた。衣玖はそんな屠自古に謝る。

 

 

 「すみません……屠自古さん……」

 

 「何を謝る……衣玖が謝ることなど……ないじゃないか……」

 

 「それでも……屠自古さんの覚悟を無駄にしてしまった……」

 

 

 衣玖は謝った。衣玖の目から何かが落ちた。水?違う……涙だ。

 

 

 「屠自古さんは命をかけて神子さんを思っていたのに……」

 

 

 それ以上言おうとした衣玖を制す。

 

 

 「私は私の意思でやっただけだ。そこまで思ってくれるだけでも私は嬉しい……太子様のお役に立てなかったのが悔しいが負けは負け……とどめを刺してくれ……」

 

 

 衣玖にならとどめを刺されてもいいと思えた。衣玖にこそとどめを刺されたいと思っていたのかもしれなかったが、衣玖は首を横に振った。

 

 

 「駄目ですよ屠自古さん。命を粗末にしては……あなたは生きているのですから!」

 

 「私が……生きている?」

 

 

 亡霊なのに生きているとはどういうことか?屠自古はそう思った。

 

 

 「ここは幻想郷です。なんでも幻想郷は忘れ去られた者が集う最後の楽園だそうですよ。人間だけでなく、妖怪もあなたと同じ亡霊の方もいらっしゃいます。亡霊だから死んでいるわけではありませんよ。息をしているから生きているのではありません。心を失い、何も感じず、何も見いだせない方が死んでいると私は思います」

 

 

 衣玖は言った。まるで天子が考えていたことと同じように……それにここは幻想郷だ。忘れ去られた者達の楽園。屠自古達は長い歴史の中で人々から忘れ去られてしまっているだろう。彼女達にとってここは残された最後の土地であり、幻想郷は全てを受け入れる場所。きっと受け入れてくれるだろう……辛い過去を歩んできた屠自古達でもきっと……

 

 

 「ふふ……私も焼きが回ったかな……もう少し生きたくなっちまった……」

 

 「生きましょう!そして宴会でもなんでもしましょう!大丈夫です。あなた達の太子様は必ず救われます!」

 

 「……どうしてそんな自信があるんだ……?」

 

 

 衣玖は言い切った。どこにそんな自信があるのか……自分達でも神子を止めることなどできないと悟ったのに……

 衣玖は絶対的自信があった。いや、自信というより信頼だ。あの方なら救ってくれると!

 

 

 「あの方なら救ってくれます……天子様なら!」

 

 

 いつの間にか辺りは晴れ、空が二人を照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「終わりの時が来たのだ」

 

 

 この異変も終息の時が来たようだ……

 

 

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